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第236話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その25)

「……は? 『さまよえるオランダ人』、だと?」




 僕こと、この魔導大陸においては結構名うての召喚術士兼錬金術師である、アミール=アルハルは、すっかり呆気にとられながら、あまりにも珍妙な自己紹介をした男のほうを見上げた。




 見るからに時代がかった海軍将校風の衣裳に包み込まれた、恰幅のいい長身に、短めのブロンドヘアに縁取られた彫りの深い顔の中でサファイアのごとく煌めいている、青の瞳。


 そのような威風堂々とした人物が、このファンタジーワールドにおいても何の役にも立ちそうにない、時代がかった『幽霊船』そのもののボロボロの帆船の舳先に、一人たたずんでいる有り様は、あまりにも異様な光景に見えた。


 しかも、僕とその召喚物でありしもべでもある、軍艦擬人化少女のキヨとの、足下を浸している水面が、元々単なる草原であったことも踏まえると、もはやすべてが尋常ならざる状況であるのは明白であった。


 ……こいつ、おそらくは、新たなる『教団の追っ手』なんだろうなあ。


 相手するのが、非常に面倒くさそうだけど、仕方がない。


 現在の異常なる有り様は、間違いなくこいつの仕業だろうから、いくら逃げたところで意味は無いであろう。


 結局いつものように、チャッチャと倒してしまうが吉か。


 ──まあ、それでも、一応はコミュニケーションを、とってみるか。


「……ええと、その『オランダ』というのは、国名か民族名なのでしょうか?」


「うん? ──ああ、君のほうは、この世界の人間だったな。私の祖国については、そちらのお嬢さんに聞いてみたまえ。何せオランダと日本とは、古くから関係の深い国だからな」


 へ?


 思わぬ言葉に、咄嗟に連れの幼女のほうへと振り向けば、常に泰然自若としている軍艦擬人化少女が、珍しくも苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


「……ええ、大昔に日本が、国外との交渉を排して『鎖国状態』になっていた折には、唯一の交易相手として、大変()()()()()()()国です」


 へ? 世話になったって……。


「ふふふ、そうだったよな? まさに当時──『時代』における日本へと、国内では入手できない資源や工芸品等の『物資』はもちろん、更に重要な学問や技術等の『情報』を、唯一もたらしてやったのは、間違いなく我々オランダだったよな」


 ほう、そうだったのか?


 ……まあ、鎖国政策と言っても、別に外国との交渉を一切断って、自国の文化や政治体制を守ろうというのが、趣旨()()()()、『真の目的』は、お互いの支配層やその癒着商人たちが、貿易を独占して、お互いの『希少な産物』をわざと少数限定で独占販売することで、巨利を得ることなんだけどね。


 いやあ、権力者や金持ちどもときたら、どの世界のいつの時代においても、汚いものですなあ。


 ……あれ、一応国同士の関係としては、表向き良好であったろうに、どうしてキヨのほうは相手のことを睨み続けていて、自称『さまよえる(ry』さんのほうは笑顔でありながらも、目だけが笑っていないのだろう?


 そのように、僕が不審げに思っていると、


 まさに『答え合わせ』をするようにして、目の前の男性がさも憎々しげな口調で口を開いた。




「そこの異世界人──おっと、むしろこの世界においては、私やその小娘のほうが、異世界人だったな。とにかくそこの御仁、貴殿は信じられるか? 何と日本は、そのように大いに恩義があった我が国を、かつての太平洋戦争時において、こっぴどく裏切ったのだぞ?」




 ──なっ⁉


「日本がオランダを裏切ったって、どういうことだ、一体⁉」




「『あちらの世界』の第二次世界大戦の折、下等な黄色人種であるくせに大日本帝国は不遜にも、『大東亜共栄圏』などと言った小賢しいお題目を掲げて、我ら優秀なる白人種が支配していた東南アジアへと乗り込んできて、欧州戦線でドイツ第三帝国相手に苦戦していた我々欧州諸国の、戦力に乏しいアジア方面派遣軍をこれ幸いと追い払って、これまた下劣な褐色人種が暮らしていた植民地を奪い取り、結局大戦に敗北し東南アジア全域から撤退した後も、密かに原住民どもの独立運動を助けて、その結果ついに我が国を始めとする白人種の国々が、広大なる植民地をほとんどすべて失ってしまうことになったのだ!」




 ……………………………………。


「いやそれって、オランダが悪くね? 完全にオランダのほうが『悪の侵略者』で、大日本帝国のほうが『正義の解放者』じゃん?」


「そのような、単純な話では無いのだ! もしもオランダが侵略者と言うのなら、大日本帝国も侵略者と言うことになるだろうが⁉」


「え、そうなの? キヨ」




「そうです、彼の言う通りです。──皆さん誤解しているようですが、実は『侵略戦争』なぞといったものは、本当は存在しないのです」




 ……………………………………は。


「いやいやいやいや、それは言っては駄目なやつだろう⁉ 下手したらこの作品、全世界的に非難囂々となって、書籍化もコミカライズもアニメ化も、絶対に不可能になってしまうぞ⁉」


 そもそも内容自体が、まったくの実力不足だけどね!




「確かにこれはかなり過激な発言ですが、論理的には一切間違っていないのです。──なぜなら、『実は歴史というものは、常に正しく、その時点の世界情勢というものは、歴史によって求められた、唯一の正解』なのですから」




「へ? 歴史は常に正しく、その時点の世界情勢こそが、唯一の正解、って……」




「例えば、そもそもかつて一定の期間において、大日本帝国が東アジアの一部を支配できていたのは、他の列強諸国がその必要性を認めていたからであり、その後しばらくたった後で大東亜戦争を起こした時に、支持する国家がほぼ皆無だったのは、その必要性が認められなかったからなのです。このように世界と言うものは、それぞれの民族の人権や利益よりも、それぞれの地域や世界そのものが『安定している』ことこそが、より優先されるのですよ。東アジアを日本が支配したほうが、東アジアが安定するのなら、欧米諸国も喜んで支持していたことでしょう」




 ──‼

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