第234話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その23)
──世界宗教聖レーン転生教団、聖都『ユニセクス』教皇庁最上階、最高幹部用大会議室。
「ラトウィッジ司教、これは一体、どういうことかね⁉」
「いまだ、例の『軍艦擬人化少女』は、野放しのままではないか?」
「確かに、『彼女』と、その主である召喚術士は、『サンプル』として重要だが、このまま好き勝手やらせておくわけには行くまい」
「左様、これではまるで、我ら教団が、彼女たちのことをコントロールできていないどころか、一方的に翻弄されているだけで、信者たちからの信用失墜に繋がりかねないぞ⁉」
「少なくとも、軍艦擬人化少女を危機的状況に陥らせるくらい、有力な『敵』を見繕うべきではないのかね⁉」
「そこら辺は、一体どうなっているのだ?」
「何のために君を、『異端転生者取り締まり専任司教』に抜擢したと、思っているのだ⁉」
「きちんと答えたまえ、ラトウィッジ君!」
まさしく非難囂々そのままにわめき立てる、中心が空洞となったドーナツ状の大円卓の外周に座っている、教団最高幹部の枢機卿の面々。
それに対して、まさにその中央部のいかにも『被告人席』といった感じの空間で、さらし者同然に直立しながらも、むしろ余裕の笑みを浮かべ続けている、漆黒の聖衣を長身にまとった一人の青年。
しかも、満を持して、開口一番に発したのは、
「──あはは、相変わらず皆々様は、手厳しいことで」
とても一介の司教ごときが、最高首脳のお歴々に対するものとは思えない、いかにも気安い口調の言葉であったのだ。
「──うぬうっ⁉」
「何だ、その言い草は⁉」
「アグネスたん──もとい、畏くも、アグネス=チャネラー=サングリア教皇聖下の、お気に入りだからと、図に乗りおって!」
「特務の青二才が、いい加減にしないと、異端認定するぞ⁉」
……何かもう、枢機卿の皆さんときたら、ハゲ頭に青筋を立てて、どこかのアニメで聞いたことがあるような台詞まで宣い始めたのですが、もしかしてこれって、シナリオなんかが用意されている、『茶番劇』の類いじゃなかと、思えてきたんですけど?
そしてそれは、お偉方に糾弾されっぱなしの下っ端司教が、まったく意に介していないことが、更に信憑性を高めていた。
「皆様、ご安心を。すでに、手は打ってありますので。今度の刺客こそ、軍艦擬人化少女とはいえ、相当に苦杯をなめることとなるでしょう」
「……君、前も同じようなことを、言っていなかったか?」
「確か、『全次元消去』スキルだったっけ? そのようなチート中のチートの力を誇るラスボスキャラを、君たち異端審問第二部お得意の『誘導』行為によって、目標と敵対させておいて、あっさりとやられてしまったではないか?」
「もはや『彼女』は、この世界において、名実共に『最強』の存在になっているのではないのかね?」
「今一度、今回の『計画』を、見直す必要があるのではないか?」
自信満々な青年司教に対して、もはや不満や不安を隠そうともしない老人たち。
それを見て、もはや堪えきれなくなったのか、不遜にも深々とため息をつく、他称『青二才』。
「……やれやれ、仕方ありませんねえ。それでは、『論より証拠』と言うことで、──皆さん、どうぞ、お出ましを!」
そう言って司教殿が、虚空へと両腕を突き上げた途端、
──大会議室の空気が、一変した。
『ウフフフフフフフ』
『アハハハハハハハ』
『クスクスクスクス』
唐突に、響き渡る、女たちの笑声。
「な、何だ、おまえたちは⁉」
「一体いつ、入り込んだんだ?」
「ここは我が教団の中枢中の中枢である、教皇庁最上階の、最高幹部専用の会議場なんだぞ⁉」
全員咄嗟に立ち上がり、口々に怒号を発する、お歴々。
それも、無理は無かろう。
何せその、十数名の女性たちときたら、着ている服はボロボロで、女の命である髪の毛のほうもボサボサで、おまけに長い前髪で表情が一切窺えなくて、そしてとどめとして、全身ずぶ濡れの有り様だったのである。
「──ああ、皆さん、落ち着いてください。実は彼女たちこそが、今回の『作戦』の切り札なのですよ」
一方、相も変わらず落ち着き払っているのは、どうやらこの異常事態の仕掛け人と思われる、若き異端審問官であった。
「……切り札だと?」
「この、テレビの中から這い出て来たような、『ジャパニーズホラーの代名詞的キャラ』そのままの、やつらがか?」
「確かに不気味だが、それほど強い魔力等は、感じられないのだが?」
「まさか、『全次元消去』のスキルよりも、強大なる必殺技でも持っているわけなのかね⁉」
「あはははは、確かに『全次元消去』のような大技は持っていませんが、彼女たちならば、十分勝算はありますよ」
「……何だと?」
「『全次元消去』を超える力を持たずに、どうやって『全次元消去』を無効化した相手を、倒そうというのかね?」
「ふん、たとえどのようなチートスキルを持っていようが、どうせ今度もお約束的に、『とんだ見かけ倒し』で、終わるんだろうが?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。──なぜなら、まさしく彼女たちこそは、軍艦擬人化少女にとっては、唯一絶対の『天敵』とも呼び得る存在なのですからね」
「「「………………はあ?」」」




