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第233話、これぞ最強の異世界転生だ!① いっそのこと、ラスボス自身を召喚⁉【後編】

 私こと、聖レーン転生教団きっての召喚術士であるサモナイト=ヨンデクールが、魔族の(ガチのクレイジーサイコブラコン)幼女から、非常に『アレ』なことを聞かされているうちに、またしても頭を抱えて悶絶し始める、勇者兼魔王様。




「──お、おい、誰だよ、おまえは? 『……駄目だ』 ──ちょっ、勝手にしゃべるなよ⁉ 『駄目だ、駄目だ』 ──ま、まさか、おまえは、()()()魔王の魂なのか⁉」




「『駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ』」







「『──────────────駄目だあああ!!!』」







 そして、悶えるだけ悶えて、全身汗だくになりながらも、しばらくすると落ち着きを取り戻し、力無く玉座へと座り込む。


「……ふう、どうにか身体を、()()()()()か」


 その一部始終を見守っていた幼女さんが、こちらへと勢いよく振り向いて、がなり立ててくる。


「──どういうことですの、これって⁉ せっかくもうすぐ、願いが叶いそうだったのに!」


「だから、その願いが成就するのは、いろいろな意味で無理だったから、予定調和な結果になっただけなんだってば!」


「……予定調和、ですって?」


「本作においても、何度も何度も述べているように、異世界転生と言っても実のところは、生粋の異世界人が僕のような召喚術士によって強制的に、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってくるとされている、いわゆる『集合的無意識』とアクセスさせられることによって、現代日本人の『記憶と知識』を脳みそに刷り込まれれて、あたかも日本人の精神に憑依されたようにして、事実上の異世界転生を実現しているわけだよね?」


「……あーまあ、現実的に考えれば、異なる世界の間で、物体はもちろん、精神が移動するなどといったことが、本当に起こり得るはずは無く、量子論の『重ね合わせ現象』を利用して、その実態は俗に言う『閃きの境地』に過ぎない集合的無意識にアクセスすることによって、異世界人が現代日本人の『記憶と知識』を獲得する以外には、あり得ませんわよねえ。──それで、あなたの召喚術と言う名の、『他者の強制的な集合的無意識とのアクセス術式』によって、完全に現代日本人の勇者になり切っていたはずのお兄様が、どうして急に転生状態が解除されてしまったのですの?」


「今言った通りだよ、異世界転生と言ったところで、ただ単に生粋の異世界人に、あたかも『前世の記憶』そのままの現代日本人としての記憶を植え付けて、()()()()自分のことを現代日本からの転生者だと()()()()()()()()()()だから、その後あからさまに本人の意に添わない状況になったりするだけで、簡単に解除されてしまうんだ」


「転生者の意に添わなくなったら、転生状態が解除されるなんて、そんなWeb小説なんか、これまでありましたっけ?」




「ほとんどがそうじゃん。だって極論すれば、『あくまでも異世界人側の意に添わなければ、そもそも現代日本からの転生なんて起こりはしない』んだからね。例えば、生粋の異世界生まれの女の子が、ふとしたことから読書の楽しみに目覚めたものの、現時点の異世界では平民が簡単に書物に触れる環境が整っていなかったので、何とかして読書の習慣を異世界に広めようと、印刷技術や製紙技術や流通技術等を獲得しようと、なりふり構わず全力でもって努力を重ねていたところ、運命の女神様──すなわち、我が聖レーン転生教団の御本尊である、ありとあらゆる世界の異世界転生を司る『なろうの女神』様が微笑んで、『努力した者だけがたどり着くことのできる、天才の閃きという名の集合的無意識』とのアクセスを成し遂げて、現代日本レベルの異世界の様々な技術的知識を脳みそにインストールして、晴れて異世界に読書の習慣を広めることを叶えたってわけなんだよ。──そう、『異世界転生=集合的無意識とのアクセス』とは、本人が心から望まなければけして実現しないのだから、ほとんど異能の力を有さず、己が魔王であることに悩んでいた君の兄上に対して、つけ込む形で強制的に集団的無意識とのアクセスさせて、現代日本人の記憶をインストールして、『にわか勇者』に仕立て上げることはできたものの、何度も言うように、あくまでもそれは『一時的な妄想』のようなものに過ぎず、『彼』が君のお兄さんであることには変わりなく、君から言葉巧みに迫られた際に、近親者としての絶対的な忌避感を覚えることによって、本来の自分に立ち戻ってしまったという次第なんだよ」




「何ですって⁉ お兄様ったら、そこまでこの私のことを、拒絶するおつもりですの⁉」


「……いや、実の兄妹だったら、普通拒絶するよね?」




「──その通り。つまりは、あんたの『とっておきの召喚術』は、見事に敗れ去ったというわけなのさ」




 私の長々と続いた解説が終わるのを待ち構えていたようにして、どうやら完全に冷静さを取り戻した魔王様が、真冬の氷雪を思わせる冷ややかな瞳を向けながら、そう言った。


「──くっ、た、確かに!」


「だったら、早く逃げないと、まずいんじゃないの? それともまだ何か、奥の手でも残っているのかな?」


 まるで、こちらにもはや対抗手段が皆無であることを見透かしているかのように、嘲笑まじりに言い放つ、目の前の青年。


 な、何て、残虐な目つきをしていやがるんだ?


 これがこいつの、魔王としての、本性ってわけか⁉


 今度こそまさしく、絶体絶命の大ピンチかと思われた、その刹那。




「──お待ちになって、お兄様」




 何と意外な人物が、止め立てしてきたのだ。


「……ヤミ?」


「お願いです、今日のところは、その者を見逃してはくれませんか?」


なに?」


 え? ほんと、何でなの?




「偶然転生状態が解かれたとはいえ、私たちが為す術も無く、彼の召喚術に後れを取ったのは、紛う方なき事実です。つまり、今回の勝利は、あくまでも幸運によるものであり、私たちの実力ではございません。それなのに、もはや打つ手の無い相手をなぶり殺しにしてしまっては、魔王の名折れと言うものでしょう」




「むっ、一理あるな」


「それに、これほどの妙技を見せてくれたのです、ここで逃がしてやれば、次回はもっと素晴らしい技を披露して、私たちのことを楽しませてくれるかも知れませんよ?」


「ふむ、そうだな。何の見込みも無い雑魚を、これ以上生かしておいても無駄だが、今回のことを考えると、その者にはこれからも期待できそうだな。──相わかった、魔王の名に懸けて、おまえをこの魔王城から無事に逃がしてやる。こちらの気が変わらぬうちに、さっさと出て行くがいい」




「──ああ、そう、ラッキ〜。そんじゃ、お言葉に甘えて、退散させていただきますわ」




 そう言って、敵からの屈辱的な『お情け』をあっさりと受け容れ、とっとと尻尾を巻いて退散する、聖レーン転生教団の精鋭司教。


「へ?……………………ちょ、ちょっと、あんたには、プライドはないのか⁉」


「──お兄様、よろしいではありませんか? 約束は約束です、ここは余裕を持って、お見送りいたしましょう」


「そ、そうだな、しょせんたかが人間に、我ら魔族を脅かすことなぞ、できようはずが無かったのだ」


「うふふふふ、仰せの通りでございます」


 背後で、自分のことを嘲る声が聞こえてきたが、完全に無視して、歩を進め続ける。




 ──なぜなら、かの『幼い悪魔』の本心に、気づいてしまったのだから。




 彼女は、今回の一件で、私の召喚術を利用することによって、実の兄を自分だけのものにできる可能性があり得ることを知り、あくまでも損得勘定でもって、私を見逃したのだ。




 ……狂っている、みんなみんな、狂っていやがる。




 ──しかし、誰よりも狂っているのは、そのことを十分承知して、歪ではあるものの、ある意味この上も無く『純真なる乙女心』につけ込んで、どうにかあの魔物の兄妹を殺すことができないかと、早速算段をし始めた、聖職者の皮を被った魔導士である、この私であろう。

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