第232話、これぞ最強の異世界転生だ!① いっそのこと、ラスボス自身を召喚⁉【中編】
「「こ、これが、異世界転生だって⁉」」
いきなり投下された、私の爆弾発言に、呆気にとられる魔王兄妹。
──ただし、より興奮していたのは、『兄』のほうであった。
「お、俺が、異世界転生したって、本当かよ⁉」
「落ち着いて、周りをようくご覧になってください。あなたの世界──すなわち、現代日本のWeb小説等でお馴染みの、『魔王城の玉座の間』、そのまんまとは思いませんか?」
「──おお、そういや、この総石造りの荘厳さといい、広大な割には窓一つ無い薄暗さといい、いわゆる『魔王様の謁見場』そのまんまじゃん!」
「ふふふ、どうやら、ご納得いただけたようですな」
「な、なあ、異世界転生をしたと言うことは、何かしらの『チート能力』の類いも、もらえるわけだよな?」
「ええ、もちろん。生憎と異能系やパワー系では無く知謀系ですが、文字通り『魔王クラス』のものをね」
「やたっ、魔王なんて、チート中のチートじゃん! ………………いや、ちょっと待てよ? この魔王城の玉座の間で、いかにも偉そうに背の高い椅子に座っている、現在の俺ってもしかして、『魔王』そのものになっているってことじゃないのか⁉」
「ご明察です。──さすがは、『勇者』殿」
「「は?」」
またしても唐突に飛び出した、私のとんでもない台詞に、揃って目をむくお二人さん。
「……ちょっと待って、現在の俺って、魔王と勇者の、一体どっちに転生したわけ?」
「勇者でもあり、魔王でもあるわけですけど、どちらかと言うと、勇者ですかな?」
「へ? どちらかと言うと、って……」
「実はこの私──聖レーン転生教団きっての召喚術士兼錬金術師である、サモナイト=ヨンデクールこそが、あなたを現代日本から異世界転生させた張本人なのですが、このように肉体はこの世界の魔王そのものであるものの、あくまでも中身である『あなた』は、勇者として召喚しているのですよ」
「なっ⁉ つまりは、魔王の身体の中に、現代日本人の魂を、勇者として召喚したというわけか? 一体どうして、そんなことを⁉」
「くふふ、だから言ったではないですか、『これぞ最強の召喚術』って」
「え? あ、いや、俺はそんなこと、聞いていないけど?」
──あ、いけね、あれって、『中身』の召喚前だったっけ。
「だからですね、本来敵である、それこそ魔王のようなラスボス級の相手に、いっそダイレクトに現代日本人の魂を、強制的に異世界転生させれば、最強の敵を消滅させると同時に、最強の味方を得ることができるわけではないですか?」
「──うおっ、つまりは、召喚術を使って、魔王を瞬時にして勇者に成り変わらせるってことか? すげえじゃん! これぞまさに、『異世界転生系Web小説の大革命』と言えるんじゃないのか⁉」
「そうでしょうそうでしょう、もっと誉めてくれても、いいのですよ?」
「──と、納得するとでも、思ったのか?」
え?
な、何だ、この現代日本人の勇者(の魂)ときたら、召喚主である私のことを、疑惑の瞳で睨みつけたりして。
「……ええと、何かご不審な点でも、あるのでしょうか?」
「何言っているんだ、むしろすべてが不審な点ばかりじゃねえか⁉ 俺をそこらの間抜けなWeb小説の主人公と、一緒にするんじゃねえ! いきなり異世界に転生させられて、勇者だか魔王だかにさせられたと言われて、何の疑問も持たずに『はいそうですか』と、納得するやつがいるものか!」
「──いや、それは言っちゃ、いけないやつでしょうが⁉」
…………………………うん、でも、「ごもっとも」としか、言えないけどね☆
誰だって、いきなり別の世界に転生させられたりした場合において、初対面の相手からいくら細々と説明を受けようとも、もしそれがすべて嘘だったら、その後の運命が大きく違ってくるので、むしろ細心の注意を払うべきだよね!
「なあ、そこの美幼女さん、あんたはこの身体の持ち主と、そんなにも至近距離にいるくらいだから、間違いなく『味方』と思われるんだけど、あいつの言っていることが、本当に嘘で無いのか、教えてくれないか?」
──ちょっ。
よりによって、誰に確認をとるつもりなんだよ⁉
勇者(仮)の唐突なる、あまりに突拍子も無い言動に、私が手をこまねいているうちに、事もあろうに魔王の妹に向かって、お伺いを立てようとする、現代日本からの転生者。
──い、いかん、このままでは、あの現代日本のキモオタ共がいかにも好きそうな、妙にエロ腹黒いに美幼女にあること無いこと言いくるめられて、せっかく召喚した勇者を、魔王陣営に奪われてしまう!
「ま、待ってくれ! その子は、実は、魔王のいもうt──」
「ええ、そうですわ! あなたは現代日本から、たった今この世界を救うために召喚された、勇者様なのです!」
……………………………………はい?
とてつもなく予想外過ぎる、魔王陛下の妹さんのお言葉に、私が面食らっているうちに、さっさと話を進めていく、外見上は仲良し兄妹のお二人さん。
「え、やっぱり、そうなんだ。──ところで、君は?」
「……実は私は、悪い魔王にさらわれて、この城に囚われている、人間の国の姫君なのです」
「お姫様って、君が?」
「はい! ──でも、こうして勇者様が、世界の垣根を越えて転生してきて、魔王の身体を乗っ取ってくださいましたから、もう安心です!」
そう言って、外見上は実の兄の胸へと飛び込む、自称『人間のお姫様』。
「ちょ、ちょっと、君⁉」
「……ああ、嬉しい。きっと国元の両親であられる国王陛下御夫妻も、勇者様にはご褒美として、娘である私を与えて、跡継ぎに据えられるに違いありません! どうぞ末永く、よろしくお願いいたしますわ♡」
「ええっ、君を褒美だって⁉ でも君ってまだ、十歳くらいなんでしょう?」
「──このくらいの歳での結婚や婚約なぞ、現代日本人のあなた様から見れば、中世ヨーロッパ風ファンタジーワールドに他ならないこの世界においては、十分許容範囲でございます!(キッパリ)」
「いや、それってむしろ、Web小説のお約束でしょう? ──ていうか、君ってさっき僕のことを、『お兄様』とか呼んでいなかった? あっちの漆黒の聖衣をまとった僧侶さんも、『魔王の妹』とか何とか、言っていたような……」
「──単なる、聞き違いでしょう(キッパリ×2)」
……え? え? 一体何なの、この『猿芝居』は?
「おい、ヤミとやら、あんたさっきから、一体何を言っているんだ?」
ついに堪りかねて、くちばしを突っ込めば、あたかも瞬間移動のようにして僕のところに迫りきて、魔法で人の頭を無理やり下げさせるや、耳元にささやきかけてくる、魔王の妹さん。
「……いいからここは、話を合わせるのです、腐れ人間」
「何だと?」
「言う通りにすれば、我が魔族国は、全面的に教団と協定を結び、以降教団側に有利な交易等を行うことを約束しましょう。──場合によっては、国民全員に、『転生教』を信仰することを、義務づけても構いませんよ?」
「魔族や魔物に、神様を信仰させるって、本気かよ⁉ 何で、実の兄の身体を乗っ取られたというのに、突然教団に協力的になったんだ?」
「むしろ、兄の身体を乗っ取られたから、ですよ」
「はあ?」
「──私は以前より、兄と心身共に『一体化(意味深)』したいと思っておりましたが、魔王のくせに人一倍常識的な兄は、けして本気にしてくれず、何か奇跡的なチャンスが訪れるのを、虎視眈々と待ち構えていたところ、この文字通り千載一遇の好機に恵まれたというわけですの♡」
ぎゃあああああああああああああああああああっ⁉
ガチの、『クレイジーサイコブラコン幼女』、来たああああああああ!
「もちろん、協力してくれますわよね、人間?」
「あ、うん、さっきの協定の申し出は、十分魅力的だったから、協力するのはやぶさかでは無いけど、そううまくはいかないんじゃないかなあ?」
「……それは一体、どういうことですの?」
「ほら、見てごらん」
私のいかにも意味深なる言葉に、怪訝なる表情をしながらも、指し示された己の兄のほうへと視線を向ける幼女。
その瞬間、彼女の表情が、激変した。
「──っ。お、お兄様、今度は一体、どうなされたのですか⁉」
なぜならそこには、この大陸一の『妖女』である彼女にとっても、あまりにも予想外の光景が広がっていたのだから。




