第229話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その22)
「……僕と軍艦擬人化少女であるおまえとの『絆』こそが、魔王の最終奥義である『全次元消去』を、無効化できるだと?」
何と言いますか、真面目な話をしている真っ最中に、突然いかにも小っ恥ずかしいことを言われて、照れを隠すように早口気味に問いただす、我ながら少々シャイすぎると思わなくもない、召喚術士兼錬金術師であり、今目の前にいる彼女こと、軍人擬人化少女『キヨ』の主たる『提督』でもある、僕ことアミール=アルハルであった。
しかし、そんな己の主のアオハるっぷりなど百も承知と、むしろ平然とあげつらってくる、年の頃十歳ほどの幼い少女。
「おや、どうなされたのですか、提督? 単に私の軍艦擬人化少女としての、『隠し設定』についてご説明申し上げているだけだと言うのに、そのように耳まで真っ赤になされたりして」
──ぐっ。
こ、こいつ、いかにもいつもの無表情を保っている振りをしながら、目だけが笑っていやがるっ!
「いいからさっさと、説明を続けろ! おまえ、今もなお、魔王との『最終決戦』を進行中であることを、忘れるんじゃないぞ⁉」
「……え、貴様が、それを言うの?」
何だか第三者さんがすかさず、突っ込んできたような気もするが、無視。
「まあ、そうですね、これ以上魔王さんをお待たせするのも気の毒ですから、早めに済ませることにいたしましょう。──実はですね、私の特殊性は、『軍艦擬人化少女でありながら、軍艦擬人化少女では無い』、ところにあるのですよ」
……………………………………は?
「な、何だよ、軍艦擬人化少女でありながら、軍艦擬人化少女では無いってのは?」
完全に、矛盾しているんじゃないのか? 禅問答かよ。
……それともまさか今更になって、実は自分は軍艦擬人化少女では無かったとか、衝撃の告白をするんじゃないだろうな?
そのように、どんどんと困惑を深めるばかりの主に対して、大きくため息をつきながら声をかけてくる、美幼女僕。
「……まったく、ご自分が行われたことなのに、覚えていないんですか? 私をどのように、召喚したかを」
「僕がおまえを、どのように、召喚したかって?」
「提督はあの時、『軍艦擬人化少女』を名指しで指定して、召喚なさったんでしたっけ?」
「あ、いや、それは無い。あの時点の僕は、『軍艦擬人化少女』なるものの、存在自体を知らなかったからな」
「では、一体『何』を、召喚なさろうとしたのですか?」
「それは当然、あの時点の僕自身の力で召喚可能な、『最強の存在』を、どこか別の世界から呼び寄せようと…………あっ、そう言うことか⁉」
「そうなのです、提督によって召喚されてここにこうして存在している私は、ただの軍艦擬人化少女では無く、あなたが望む『最強の存在』として、軍艦擬人化少女が持ち得るポテンシャルを最大限に発揮することを可能とする、文字通りに『特別あつらえの軍艦擬人化少女』なのですよ」
──特別あつらえの、最強の、軍艦擬人化少女だってえ⁉
「ああ、お断りしておきますが、『最強』と申しましても、提督ご自身の召喚能力に応じての『最強』に過ぎず、それこそ『全次元において最強』とかではありませんので、悪しからず」
……うん、まあ、そうだろうな。
召喚術さえ身に着けていれば、全宇宙で最強の存在を呼ぶことができるのなら、自分自身で最強になるための努力なんかせずに、誰もが召喚術のみをマスターしようとするはずだしな。
よって、召喚術士の力量によって、召喚される側の力量が左右されるという、『制限』が存在することは、非常に納得できるところである。
「とはいえ、提督はこの大陸において、知る人ぞ知る凄腕の召喚術士であられるので、提督に召喚された私自身も、『制限』なんぞはあって無きようなものであり、言うなれば、『軍艦擬人化少女として、成し得る可能性のあるものは、何でも実現できる』ようになっております。──よって、たとえ肉体を構成する量子をすべて『形なき波』の状態にされてしまっても、軍艦擬人化少女ならではの『集合的無意識とのアクセス』能力が自動的に発動されて、すべての量子が元の『形ある粒子』として復元されて、事無きを得るといった寸法なのです」
「いや、形なき波の状態って、つまりは『消滅』しているようなものだろ? それでいて集合的無意識にアクセスして、自分自身の肉体を取り戻せるなんて、どんだけチートなんだよ、軍艦擬人化少女って⁉」
「だから私が個人的に、特別あつらえの軍艦擬人化少女であるだけの話なのです。何せこれはあくまでも、召喚主のあなたのことを己の提督として認めて、主従関係を結んでいるからこそなのですし」
「──そうだよ、それそれ、おまえって僕を一目見た時からすぐに、『提督』呼ばわりを始めたけど、やっぱりこれにも、れっきとした『意味』があったわけか?」
「もちろんです、そもそも私たち軍艦擬人化少女は、当然のように『指揮や命令』を必要とする『兵隊』どころか、『使用』していただける方を必要とする『兵器』なのですよ? 何せ強力な兵器が勝手に自律的に行動することなんて、当の開発した張本人すら望まないでしょうし、すべての『操作』を他者に委ねるからこそ、その担い手が優秀であればあるほど、秘められた潜在能力を最大限に発揮させてもらえるわけなのですよ」
……………………………………おおう。
要約すれば、「軍艦には、提督や艦長等の、指揮者が必要です」って、ことだよな。
うん、今更人に聞いたりしたら、馬鹿にされかねない、超初歩的な質問でした、面目ない。
……あいつが僕のことをいきなり『提督』呼ばわりしたのは、別にどこかの『艦隊ゲーム』の、悪影響なんかでは無かったわけだ。
「──という次第でして、私は提督ご自身の召喚物としての『絆』が有る限り、あなたにとっての『最強の存在』であり得るのですよ。……提督だって、まさか今更私との関係を白紙に戻すなんて、おっしゃらないでしょうしねえ?」
「え、うん、別にそんなつもりは無いけど、仮におまえとの関係を切ると、どうなるの?」
「提督が、死にます」
「ひっ⁉」
「冗談です」
「いやお前、今目だけ、笑っていなかったろうが⁉」
「……まあ、まったくのデタラメというわけではないのですけどね。何せ提督は、別の世界から『最強の存在』を召喚しなければならないほど、常に大ピンチの状態におられるのですから、現在における唯一の戦力である私を手放してしまっては、この先ご自身の身を守るのが、かなり難しくなるのではないでしょうか?」
──ああ、うん、確かにな。
「……ったく、心配するなよ、事ここに至って、おまえを手放そうなんて、思うわけないだろうが?」
「それを聞いて、安堵いたしました。──それでは、まさしく現時点における『危険』を、排除することにいたしますか」
「へ? 危険て……」
「──我だ、我のことだ! 貴様たち、いい加減にしろ!」
その時唐突に、この魔王城の最奥に存在する広大なる玉座の間にて鳴り響く、怒りに満ちた男性の大声。
……うん、魔王城って?
「ああ、そうそう、魔王さんもこの場にいたんだっけ、すっかり忘れていたよ!」
「忘れるな! ──つうか、貴様はさっきまでちゃんと、現在も『勇者と魔王の最終決戦』が継続中であることを、覚えておっただろうが⁉」
「そうはおっしゃっても、ご発言がほとんど無かったものだから、魔王様の存在そのものを忘れてしまっておりまして……」
「き、貴様、どこまでも我を愚弄するつもりか⁉ もう許せん! 別に『全次元消去』なんかを使う必要も無い! 貴様のような脆弱な人間なぞ、我が拳一つで、物理的に消し飛ばしてくれるわ!」
「提督、危ない! ──主砲127ミリ砲、緊急発射!」
「──ぐわあああああああああああっ⁉」
かつての大ニッポン帝国海軍の駆逐艦の艦砲射撃を至近距離でもろに食らって、魔王城の四分の一ほどを道連れにして、自分のほうが物理的に消し飛ばされてしまう魔王さん。
「……いやいや、こっちだって、別に『全次元消去』を無効化するだけが能ではなくて、むしろ物理攻撃のほうがメインなのにねえ」
何せ、文字通りに、『軍艦』擬人化少女なんだしな。
さすがの魔王様だって、モノホンの軍艦の物理攻撃には、敵いっこないだろうよ。
「どうです、提督、今回の『魔王退治』は、ご堪能なされましたか?」
「──おいっ、たった今し方魔王さんを屠りながらも、汗一つかいていない満面の笑みで、ぬけぬけと言うんじゃないよ⁉ そもそも魔王退治をしたのは、おまえだけの力じゃないか!」
「そうですか、それでは仕方ありません。このまま己の主が満足できないままでおられるのは、僕の名折れ。だったら今度は、『魔神』あたりを退治いたすことにしましょうか?」
「うん、堪能したよ! 大満足だよ! もうおまえの強さはちゃんと理解したから、これ以上は必要ないかなあ。あはははは」
「──うふふ、おわかりになられれば、よろしいのですよ」
そう言って、僕の右腕に華奢な肢体を押しつけるようにして絡みついてくる、この世界最強クラスの少女。
「……提督には、私がいればいいのです、この世界で私だけが、提督をお守りすることができるのです、わかりましたね?」
「──はい! 肝に銘じておきます!」
……怖ーよ、僕って一体いつの間に、僕教育に失敗したんだ?
そのように、いろいろと後悔の念を痛感するものの、まさしく彼女が言った通りに、これから先もこの世界の中で生きていくためには、二人一緒に居続けなければならないことも、歴然とした事実であったのだ。……とほほほほ。
──とはいえ、もちろん僕自身も、キヨと一緒にいることが、それほど嫌なわけじゃないんだけどね!




