第223話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その16)
世界的宗教組織『聖レーン転生教団』総本山、聖都『ユニセクス』教皇庁、最上階の大会議室。
──現在ここには、教団における最高幹部である、すべての枢機卿が集まっていた。
「……まさか、こんなに早く、かの『娘』に『心』が生まれるとはな」
「そもそも、『人の形を持つ軍艦』のデータを基に創られた召喚物ゆえに、イレギュラーな跳躍をしたものと思われるが」
「まっこと、『ゲンダイニッポン人』たちは、面白いことを考えるものだ」
「軍艦と少女を融合するなぞ、まともな神経の持ち主だったら、あり得ないよな」
「いやいや、皆さん、彼らのそのような常識外れの思考形態こそが、我々に『福音』を与えてくれたのですから、ここは素直に感謝しましょうぞ」
「そうですよ、異世界転生の受け皿としては、『頭脳系』の場合であれば、普通の人間の身体に他の世界の存在の『記憶と知識』を、集合的無意識よりインストールすれば、『NAISEI』から『読書の習慣の伝播』に『マヨネーズ作り』に至るまでを実現し、この世界の科学技術や生活文化の発展に寄与することができますが、いわゆる『あちらの世界』のWeb小説的な『チート転生』の場合は、本来ゲンダイニッポンからすればファンタジーワールドと見なされているこの世界においても、原則的に実現不可能な『魔法』を使用可能としなければならず、いわゆる不定形暗黒生物『ショゴス』を転生者の受け皿とする必要性が生じるので、そのためには当然、己の肉体として『ショゴス』を使いこなし、『魔法』を現実のものとして実行できる、ゲンダイニッポン人の『記憶と知識』が必要となるのですからな」
「──それ、それですよ、最大の『ネック』は!」
「それがあるからこそ、異世界転生というものは、いつまでたっても『駄目』なままなのだ!」
「左様、転生者の奴らは、二言目には『転生させるのなら、チートをくれ』と言うが、普通人間は『魔法』なんか使えないっつうの!」
「そもそもゲンダイニッポンには、魔法なんか存在しないだろうが?」
「それはこのファンタジー世界においてもほとんど同様で、古きクトゥルフの血を受け継ぐ魔族以外では、超熟練の魔導士や、我が教皇聖下のような『夢の主体の代理人』くらいのレベルで無いと、魔導呪文──すなわち、集合的無意識からの『インストール・コード』を使用できないというのに」
「確かにショゴスは自分自身どころか周囲の物体すらも、その構成する量子を『形なき波』の状態にすることで変形させることができるが、恣意的に『特定の形』に変化させるためには、あらゆる存在の『形態情報』が存在している集合的無意識から、その情報を引き出さなければならず、まさしくこれこそが『インストール・コード』──俗に言う、『魔法の呪文』の正体なのだからな」
「それを、『ゲンダイニッポン人』がマスターしているわけがないんだし、せっかくショゴスの身体に転生したところで、文字通りの宝の持ち腐れなのだ」
「そんなこともわからずに、『異世界でチートスキルで無双して、ハーレムつくって俺様モテモテ♡』とか、馬鹿しかいないのか、『ゲンダイニッポン』人は?」
「──ていうか、何で『あちらの世界』のWeb小説は、『非モテでコミュ障のオタク』ばかりを、異世界に転生させようとするのだ?」
「……ほんと、やめてくれよ、こっちは国家存亡の危機的レベルで困っているから、科学技術等が格段に進んだ『ゲンダイニッポン』からの知識や技術を導入したいと思っているのに、よりによって何の役にも立たない『引きこもり』や『陰キャ』ばかりに転生してこられても、迷惑千万なだけなのだが?」
「たぶんそういった作品ばかりを創るほうが、Web小説を読んでいる者どもにとっては、『親近感』が湧いて、好評を得ることができるんだろう」
「……まったく、そんな役立たずを問答無用で受け入れなければならない、こっちの身にもなってもらいたいものだよ」
「……まったくねえ」
「「「…………」」」
「「「──などと、生意気にも思っていた時期が、我々にもありました!!!」」」
「……いやあ、びっくりしましたよ」
「ほんとにねえ……」
「「「──まさか、異世界転生者が、『あちらの世界』においては、社会不適合者で妄想癖の引きこもりばかりであることに、ちゃんと意味があったなんて⁉」」」
「……これってもしかして、『あちらの世界』のWeb小説界における、革命的大ニュースじゃないのか?」
「うん、今まで真面目に考察されたことなんて、まったく無かったからな」
「何ともはや、『NAISEI』等を担う『頭脳系』転生者はともかくとして、主に魔王退治や戦争等を担う『チート系』転生者にとって、何よりも必要なのは、まさしく『あちらの世界』で言うところの、『中二病的妄想力』だったとはね……」
「何せ、『魔法の実現』を科学的に──例えば、物理学の中核をなす量子論に則って説明すると、不定形暗黒生物であるショゴスが、自分自身の身体のみならず、周囲の大気さえ含めた物質における量子を、『形のない波の状態』にすることによって、いかような形にすらも変化させることができることを利用しているのであり、例えば周囲の空気を炎に変換すれば、当然のごとく『炎系の魔術』の実現というわけなのだからな。しかし、ショゴス自体には意思が無いので、自発的に魔法を使うことはできず、ゲンダイニッポン人をショゴスの肉体に転生させてみたところで、この世界の魔族や高位の魔術師でもあるまいし、日本人が魔法を使えるわけがないはずだったのだが、何と社会的落伍者である引きこもりのWeb小説愛好家たちは、『異世界転生すればチート能力を与えられて魔法が使えるようになる』などといった御都合主義極まることを、当たり前のようにして『信じ込んでいる』ために、ショゴスの身体を得た瞬間に、極当然のようにして、魔法を使えるようになったってわけなのだ」
「……うん、思い込みって、すごいんだね」
「しかも、馬鹿であるほど、思い込みが激しいからな」
「そうかそうか、異世界転生者が、ヒキオタニートばかりであったのには、ちゃんと理由があったんだ」
「……いやでも、何かこれって、あまりにも非科学的に感じるんだけど?」
「まあ、いいではありませんか、そのお陰で我々教団もこうして、チート転生者を大いに利用できているのですから」
「──そうですよ、しかも『状況』は、第二フェーズに移行しようとしているのですし」
「……第二フェーズか」
「確かに、めでたいことではあるが、事は慎重を要すべきであろう」
「ええ、我ら転生教団、最大の『悲願』なのですからね」
「「「──それこそはまさしく、『神の創造』そのままの、『完全なる人類』の実現、人呼んで、『人類雛型計画』!」」」
「……確かに、Web小説マニアの妄想力は凄まじいが、それには当然限界がありますからねえ」
「それに対して、ショゴスの潜在能力は無限大であり、あまりにも『過ぎたる力』にのめり込むと、いつしかコントロールできなくなってしまうであろう」
「そうなれば、ショゴスに取り込まれて、『あちらの世界』で言うところの、歴史的傑作エ○ゲ、『沙○の唄』状態一直線だ」
「……どうせ『虚○作品』なら、せめて『まど○ギ』だったら、良かったのになあ」
「そもそも人間ごときに、古き神の奉仕種族であるショゴスの肉体を制御することなぞ、どだい無理だったのだ」
「……だったら、人間以上の存在ならいいかと言うと、例えばこの世界で言うところの『魔族』などに、文字通り万能そのもののショゴスの肉体なんかを与えようものなら、今度は我々教団自身がきゃつらをコントロールできなくなり、この世界を乗っ取られてしまいかねないしな」
「しかしまさか、この上も無き理想的な存在がいたなんて。──それも他ならぬ、ゲンダイニッポンに!」
「「「そう、『軍艦擬人化美少女』──これぞまさに、我らにとっての、最後の希望なのだ!」」」
「人間では駄目ならいっそのこと、『兵器の情報』をショゴスにインストールしようじゃないかという、このぶっ飛んだ発想!」
「最初から己自身が強大な力を有する機械だったら、ショゴスに取り込まれること無しに、単なる妄想なんかよりも具体的かつ効率的な攻撃及び防御を実行できて、ほぼ完璧にショゴスの能力を使いこなせるからな」
「しかも同時に、『少女』でもあるので当然のごとく、『対話可能なインターフェース』まで備わっているので、この世界に召喚した当の召喚術士と意思疎通がはかれて、しっかりと制御することも可能ですしね」
「それに何と、実際に召喚された『清霜』という個体は、自ら集合的無意識にアクセスすることができるようで、必要な情報を適宜追加インストールすることによって、よりフレキシブルな運用が可能なところなんて、まさしく至れり尽くせりと言えましょう」
「いやあ、彼女を召喚してくれたハグレ召喚術士殿には、『よくぞやってくれた』と、褒め讃えたいところですな」
「駄目ですよ、彼にはまさに今にも、我々教団から討伐されそうになっていると、思い込ませることによって、今後更に新たなる性能を発揮してもらわなければならないのですから」
「そうそう、人間にしろ機械にしろ、追いつめられれば追いつめられるほど、秘められた真の力を発揮するものですからなあ」
「──そこのところは、大丈夫なのかね、ラトウィッジ司教?」
「はっ、このルイス=ラトウィッジ、『異端転生者取り締まり専任官』の名に賭けて、与えられた任務を必ずや果たして見せましょう」
「もう、次の手は、打っているのかね?」
「はい、次こそはまさに真打ちたる、『北の魔王』と当たらせるつもりです」
「──なっ⁉」
「北の魔王だと⁉」
「それって、まさか⁉」
「──ええ、狙った対象は、この世界だけではなく、全次元において、その存在を消し去ることが可能な、『全消去の魔王』のことですよ」




