第214話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その10)
「──と言うわけで、このダンジョンの攻略は、すべて完了したってことでいいんだよな?」
意気揚々と、『己の部下となったラスボス』へと問いかける、大陸東部きっての召喚術士兼錬金術師である、僕ことアミール=アルハル。
しかしそれに対して、いかにも申し訳なさそうな表情を浮かべる、即席下僕。
『そのことですが、我が主。実は私めは「副ボス」に過ぎず、真のラスボスは、他にいるのでございます』
……………………………………は?
「何だと⁉ くそおっ、最後の最後にきて、『ボスの二段構え』だったってわけか!」
『とはいえ、ご心配には及びません。こうして私が我が主に降ると同時に、この偽のボス部屋の最奥の秘密の扉が開いて、真のボス部屋へ通じることになっておりますし、主のパーティの皆様と、私めが力を合わせれば、真のボスなど物の数ではございませんよ』
そんな自称『偽ボス』の言葉を証明するように、いきなり壁の一部が轟音を立てながら開き始めた──かに見えた、
まさに、その刹那。
「さあて、それは、どうですかねえ?」
「「「「『うわっ⁉』」」」」
わずかに開いた隙間から、漆黒の闇に包まれた真のボス部屋より投げ込まれる、人間の頭大の何か。
「──いやこれって、『何か』とかじゃなく、『頭』そのものじゃん⁉」
そうそれは、男性型の魔物の、血まみれの生首、そのものであった。
『そ、そんな! これは間違い無く、真のラスボスの首ではありませんか⁉』
それを一目見て、驚愕の絶叫を上げる、偽のラスボス。
……ちなみに、どうして彼女にいまだボスとしての知識があるのかと言うと、何度も何度も言うように、『異世界転生』とは実のところは、本当に別の世界の人間が生まれ変わるわけではなく、生粋の異世界人があくまでも異世界人のままで、別の世界の存在の『記憶と知識』のみを、集合的無意識を介してインストールされるだけなのであって、異世界人としての記憶や知識もちゃんと存在しているのだ。
そのように、一体誰に対してのものなのかも定かではない解説を、僕が脳内で行っているうちにも、魔素に分解されて周囲の空気に溶け込むように消え去っていく、ラスボスの首。
「ま、まさか、真のラスボスが、こんなにもあっさりと、やられてしまうなんて⁉」
「一体、何者の仕業なの⁉」
「──っ。静かに! 誰か来るぞ!」
今や大混乱となる、パーティメンバーたち。
……いや、さっきの何だか聞き覚えのある声といい、非常に嫌な予感がするんですけど。
「……提督、どうして、どうしてですか? どうして私を置いて、勝手にダンジョンを攻略したりして、私以外の者を、僕なんかにするのですか?」
そのように、いかにも哀しげな声を漏らしながら現れたのは、とても強大なる真のラスボスを倒したとは思えない、見かけ十歳ほどの幼い少女であった。
──ほうら、思った通りじゃん!
「き、キヨ、どうしてお前が、ここに⁉」
「おやおや、提督によって召喚された私は、常にあなたの魔導力を供給されているのですから、それを逆探知することによって居場所を特定することくらい、造作も無いんですけど?」
そういえば、そうでした!
「だって、仕方ないじゃん! せっかくダンジョンに初挑戦するというのに、この世界最強クラスのお前を連れてきたんじゃ、おもしろくも何とも無いじゃないか?」
「……いや、この世界最高クラスの錬金術師兼召喚術士にして、お尋ね者の提督が、そもそもダンジョンなんかに潜る必要なぞ無いのでは?」
──正論です! ド正論です! あちらの世界の、インド大陸のすぐ近くの島です!
だって、男だったら一度くらい、ダンジョン攻略に挑んでみたいじゃないの? 一応僕も、異世界系Web小説の登場人物なんだしさあ。
『き、貴様、我が主に馴れ馴れしいぞ! 私と主とは、数年来の主従なのであって──』
「──あっ、飛燕、やめろ!」
突然この場に現れると同時に、主である僕を面罵するキヨに対して、とうとう堪忍袋の緒が切れた飛燕が、飛びかかっていったものの、
「集合的無意識との緊急アクセスを申請。──主砲、発射」
『──ぶぼおっ⁉』
キヨの右腕がどでかい砲身へと変化するや、大轟音とともに飛燕が吹っ飛ばされて、たちまちのうちに魔素に分解されて消滅してしまう。
後に残るは、ボスキャラにふさわしく山のような、ドロップアイテムのみであった。
「──いやおまえ、僕たちが散々苦労していたボスキャラを二体共、あっさりと瞬殺するなよ⁉」
だから連れてきたくなかったんだよ、こいつときたら!
「馬鹿なこと言っていないで、さっさとアイテムを拾ってください。軍資金を確保次第、旅を続けますよ?」
「まあた、何を勝手なことを言っちゃってるの? これはパーティの全員にとっての、共有の戦利品でしょうが?」
「……まさか、異論のある方が、おられるとか?」
そう言って、パーティメンバーたちに向かって、鬼でも殺すような目つきで、ガンをつける幼女。
「「「いいえ、滅相もない! どうぞすべて、お持ちくださいっ!!!」」」
「欲の無い方ばかりですね、感心なことです。さあ、提督、遠慮なくもらっていきましょう」
「そりゃあ、ボスモンスターを立て続けに二体も倒したやつから恫喝されれば、誰だって遠慮するだろうよ⁉ 一体どうしてくれるんだ? せっかくこんなお尋ね者の僕に、やっと仲間が見つかったというのに!」
そのように怒鳴りつけた途端、ずずいっと顔を近づけてきて、密かにささやきかける、旧大日本帝国海軍一等駆逐艦夕雲型19番艦、『清霜』の転生体の少女。
「……提督には、私だけがいればいいのです。他の僕や仲間なぞ、必要ありません。あなたを害する者はすべて、この私が排除して差し上げます!」
──ひえええええええええええっ!
この駆逐艦娘、ヤンデレ化しおったあああああ⁉
しかも相手は、人間など及びもつかない、かつての軍艦の化身なのである。
もちろん抵抗なぞできようはずもなく、その時の僕はただ、為すがままに首根っこをつかまれて、引きずられていくしかなかったのだ。




