第211話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その7)
「戦争は戦争でも、大規模制海戦闘かよ⁉ そんなもの、少々防御魔術が得意なだけの一個人が、太刀打ちできるわけがないだろうが⁉ ──しかも、何その子? そんな小さな身体でありながら、弾薬がまったく尽きずに砲撃し放題なのは、一体どういった仕組みなの⁉」
「──うっ」
やっぱり、そこを突いてきたか。
……そりゃあ、気になるよなあ。
「い、嫌だなあ、シスターさん。軍艦擬人化美少女は、ある意味『魔法的存在』なんだから、そこら辺のところを追及しちゃあ、無粋ってもんでしょうが?」
「──そんな、雑なごまかし方が、あるか⁉ 魔法的存在と言うのなら、魔術師である私も同様ですよ! しかしそれでも、個人が使える魔力には限界があって、防御障壁もいつまでも万全に張り続けられるわけではなく、だからこそ降参したのではないですか⁉」
くっ、すんなり、言いくるめられなかったか……ッ。
……仕方ない、面倒だが、一応説明してみるか。
「まあ、簡単に言ってみれば、錬金術と召喚術の応用なんだよ」
「……ふむ、いまだ文字通りの、『何でもアリの魔法ワード』に頼っている感ビンビンですが、まあ、ファンタジーワールド的には、ギリギリ許容範囲ですかねえ。つまり、名うての錬金術及び召喚術の使い手であられるあなたが、密かに弾薬や、彼女の魔導力自体を、補給してあげているわけで?」
「あ、いや、補充する弾薬の、形態整形等の物理的な錬金術も、性質や使用方法等の情報の召喚術も、この子──『キヨ』自身が、行っているんだよ」
「は?…………………って、何ですか、それって⁉ あなたは、その子の『召喚主』なんでしょう? だったらあなた自身は、何の役に立っているわけなのですか!」
「ま、まあ一応、彼女自身の魔導力の補充や、集合的無意識との接続の、『お膳立て』なんかについては、やっているんだけど……」
「それっぽっちなの? それじゃあ『あちらの世界』でよく言う、『イキリ○太郎』に毛が生えた程度じゃないの⁉」
たとえ正しくても、そういう世間に波風立てるようなことを言うのは、いけないと思います!
「……貴様、いい加減にしろよ、これ以上我が提督を愚弄すると、分子レベルで消し飛ばすぞ?」
「「ひいっ⁉」」
こちらへと、いまだ煙がただよい出ている、真っ赤な砲門を突きつけながら、その可憐なる容姿とは不似合いな、ドスのきいた声音を放ってくる、駆逐艦少女の眼光に、つい抱き合っておののいてしまう、敵同士のはずの召喚術士と結界術士。
「し、シスターさん、早くバリアを張って、バリアを!」
「駄目ですう、こんなに精神が不安定では、術が発動いたしませえん! それにバリアではなく、防御障壁ですう!」
「……いいか、そこの小娘」
「こ、小娘え⁉(ポッ)」
「……何で、若干、嬉しそうなんだよ?」
「いや、新人のシスターが、次々に入ってきて、すっかり『お局さん』扱いされていたから、妙に新鮮で♫ ──ていうか、自分のほうこそ十歳くらいにしか見えないのに、どうして私のことを、『小娘』なんて呼ぶのでしょう?」
「……ああ、彼女はオリジナルの艦艇自体──すなわち、『ハード』としては、集合的無意識を介してインストールされた『ソフト面』である、『軍艦擬人化美少女』が大流行している、いわゆる『ゲンダイニッポン』からすれば、建造からすでに七十年以上が過ぎているんだよ」
「つまり、マジモンの『ロリBBA』であり、しかも『合法ロリ』でもあるわけですな! どんだけ『属性』の宝庫なんですか、この子って⁉」
「ほんとねー、軍艦擬人化美少女って、活躍する舞台を『異世界』や『現代』に移すだけで、俄然と応用範囲が広がるというのに、何でオリジナルの各ゲームの運営さんは、気がつかないんだろうなあ?」
「……提督、滅多なことを言うものではありません、そのうちマジに消されますよ?」
「「あ、はいっ! 余計なことを言い過ぎました、すみません!」」
「とにかくですねえ、私の弾薬補充はもとより、こんな少女の姿をしていながら、軍艦としてのエネルギーや性能を、どうやって捻出しているのかなんて、いちいち細かい仕組みまで、召喚主の提督にだって、わかるわけが無いのです。──何せ、私自身すら、正確なところはわからないのだから。要は、私の周囲の空気や土くれを含む、あらゆる物質──特に、ファンタジーワールドならではの、『魔法要素』と呼ばれるものを中心として、錬金術によって『ショゴス』や『形なき波の状態の量子』同様の、いわゆる『不定形状態』にした後で、召喚術によって集合的無意識より、軍艦として駆動するためのエネルギーや武装等の仕組みの、『情報』をインストールすることによって、事実上『無限の攻撃能力』を実現しているのです」
「えっ、そうだったの⁉」
「どうして、召喚主のあなたが、驚いているのですか⁉」
「いや、キヨの言っていた通り、僕だって、細かいところまで、知ったこっちゃないし」
「ということは、今言ったことのすべてを、『召喚物』である、彼女自身が行っているわけで?」
「──まあ、私自身も、自覚して行っているわけではないんですけどね。私はあくまでも自分のことを『軍艦』だと思っておりますし、こういった『魔法的な仕組み』は、文字通り魔法的存在である、『軍艦擬人化少女』ならば当然あってしかるべき、自律的システムであるのでしょう」
「何つう、御都合主義! もう『軍艦擬人化美少女』と言うだけで、何でもアリだな⁉」
「御都合主義、言うな! ちゃんと論理的に、筋が通っているだろうが⁉」
「それって、ほとんど、『屁理屈』レベルじゃない⁉」
「何だと、だったら、このまま闘い続けて、自分の正しさを、自ら証明してみせるか?」
「──いえ、謹んで、全面降伏させていただきます!」
「口ばっかりだな、この教団から派遣された、自称『処刑人』は⁉」
恥も外聞も無く土下座して、命乞いをするシスターさんを見下ろしながら、ほとほとあきれ果ててため息をつく、お尋ね者の召喚術士。
……まあ、半ば以上、予想していたけどな。
実は、教団からの追っ手が、かなり凄腕の術者でありながら、ちょっとキヨに追い込まれただけで、あっさりと降参するのは、別にこれが初めてでは無かったのだ。
確かに、少女の身体に駆逐艦の攻撃力と防御力とを有するキヨは、この剣と魔法のファンタジーワールドにおいても、最強レベルの存在と言えよう。
これまでの刺客たちが、彼女に心底圧倒されていたのは、間違いなく事実であった。
──しかし、絶対に失敗の許されない、『鉄の掟』の異端審問第二部の刺客にしては、あまりにも諦めが早いように思われた。
僕の勝手な予想だが、なりふり構わず、彼らのポテンシャルをすべてさらけ出して、共倒れ覚悟で挑んでくれば、キヨを抹殺できないまでも、『大破』──すなわち、重症レベルのダメージを与えることは、十分可能なはずだ。
それなのに、あまりにもあっさりと負けを認めて、おめおめと教団に帰還しているところを見ると、どうも上層部のほうでは、俺たちの捕縛──特に、キヨを完全に破壊することを、今のところ見合わせているような節があるのだ。
……奴等の狙いはおそらくは、このファンタジーワールドにあってもなお、特異な存在と言い得るキヨに対する、実戦そのままの『テスト』を繰り返すことで、その秘められた全性能を引き出そうといったところか。
まあ確かに、召喚術の総本山である聖レーン転生教団においても、まさか野良召喚術士である僕ごときが、軍艦擬人化少女なんていう『化物』を、召喚するとは思っちゃいなかったろうしな。
──つまり、これからもどんどんと、教団きっての手練れの術士たちが、差し向けられてくるってことか。
……まあ、キヨに勝てる相手が、そうそう存在するとは思われないが、油断は禁物だ。
これからのバトルにおいては、彼女の『力押し』だけに頼りっきりにせずに、僕自身もいろいろと手助けをしていくことにいたしますか。
──そのように、決意を新たにする、召喚術士の青年であったが、
その時はまだ、まったく気がつかなかったのである。
教団本部が、自ら放った刺客たちによって収集した、キヨのデータを使って、どのような『怪物』どもを、この世に生み出そうとしていたかを。




