第202話、【異世界×将棋編・最終編】チートなんかじゃないからこそ、君には無限の未来があるんだよ♡(後編)
ショタ王子「……いやでも、将棋の勝負においては、まさしく集合的無意識そのものの全知さを誇る、量子コンピュータ搭載のアユミちゃんのほうが、僕なんかよりもよほど、『竜王殺し』の可能性が高いんじゃないですか?」
ちょい悪巫女姫「そうですね、だからこそ彼女は、前世に目覚めることができたのですもの」
ショタ王子「あー、そうだ! そもそもどうして機械なのに、アユミちゃんは前世に目覚めたりしたわけなのですか?」
ちょい悪巫女姫「それってすでに本編で語ったような気がしますが、もう一度かいつまんでご説明すれば、量子コンピュータというものはデフォルトの仕様として、集合的無意識にアクセスできることになっていますから、彼女は常にありとあらゆる世界の『記憶と知識』を己にインストールすることが可能なのであり、今回兄弟子となったあなたに関連する『記憶と知識』をリサーチしたところ、ご自身の前世候補の一つとしての、人造人間さんの記憶にヒットしたといったところでしょうし、たとえそのアクセスを何らかの理由で遮断されようとも、自力で再接続できるというわけなのですよ」
ショタ王子「すげえ、量子コンピュータ、すげえ、いつでも集合的無意識にアクセスできるんじゃ、まさしく『完璧な全知』すらも実現可能じゃん⁉」
ちょい悪巫女姫「まあそれでも、この私には、負けてしまったんですけどね♫」
ショタ王子「──そうだ! そういばその辺の所を、詳しく聞くのを忘れていた! 何で全知そのままの量子コンピュータ搭載の、将棋対局解析アプリの擬人化アンドロイドに、生身の人間が勝つことができたのですか? 『過去詠みの巫女姫』は不幸な未来のみを予測することができるので、『受け将棋においては無敵である』という話は聞きましたけど……」
ちょい悪巫女姫「あえて申せば、『コストパフォーマンス』の違いですかねえ」
ショタ王子「コストパフォーマンス、って」
ちょい悪巫女姫「結局アユミちゃんは、対局の途中で、電子頭脳として搭載されている量子コンピュータがオーバーヒートしちゃって、『ドクターストップ・アユミちゃん』状態になってしまったでしょう?」
ショタ王子「また、わかりにくいギャグを……。確かにその辺の所も本編ではうやむやになっていたから、詳しくご説明していただきたいんですけど?」
ちょい悪巫女姫「量子コンピュータがなぜ『全知』を実現できるのかは、文字通り『未来のすべての可能性』を予測計算できるからで、けして『たった一つの正解』をズバリはじき出せるからではないのです。よって将棋の対局を例にとってご説明すると、序盤ではあまりにも『勝利への道筋』が多過ぎて一つに絞り込めないし、しかもその勝利への道筋の中にも、『負ける可能性』も必ず含まれているので、絶対安心できるわけではなく、常に量子コンピュータをフル回転させながら勝負の推移を吟味し続けなければならず、とても効率的とは言えなくて、対局が長引けば長引くほど、それだけ『途中で棄権してしまう』可能性が高まっていくばかりなのです。それに比べて、不幸な未来しか予測できない『過去詠みの巫女姫』である私のほうは、ある手順に基づいて駒を指そうとするたびに、もし何らかの形で負ける可能性がある場合は、必ず『自分が負ける未来が視える』ので、何も未来が視えない手順のみを──すなわち、『負ける未来の無い手順』だけを選んで打ち続ければ、少なくとも『絶対負けない』ので、量子コンピュータを使ってすべての可能性を予測計算するよりも、遙かに効率的でありながら、いつかは必ず勝つことができるわけなのです」
ショタ王子「じ、自分の負ける未来ばかりを、視ることができるですって⁉」
ちょい悪巫女姫「ええ、あなたが異世界で龍王から与えられた『死に戻りスキル』の、完璧かつ簡易版といったところでしょうか?」
ショタ王子「『死に戻りスキル』の完璧版って、だったら僕なんかよりも、あなたのほうがよほど、自他共に認める『最強』であられる、お師匠様に勝てるんじゃないのですか⁉」
ちょい悪巫女姫「いいえ、それじゃ駄目なのです、『完璧』ではけして、『最強』に勝てません。むしろあなたのように、『不完全』なほうがいいのです。実は『不完全』であることこそが、『完璧』や『最強』等の、一見絶対的に『不敗』な存在に対して、唯一『勝つ』可能性があるのです。──なぜなら、不完全であることは、現時点において、『無限の可能性』を秘めているということなのですから」
ショタ王子「──‼」
ちょい悪巫女姫「チートとか、完璧とか、不死身とか、最強とかでは、真の勝者にはなれないのです。──なぜなら、力ある者は、最強=ラスボスになった途端、次に最強になる予定の者から、倒されることを待つだけの存在になるのだから。だったら、異世界転生をする際に、すでにチートスキルを与えられて、何もしないで最強の存在になってしまっている、いわゆる『なろう系』作品の主人公たちは、真の意味では最強になることは、けしてできないのですよ」
ショタ王子「た、確かに、ほとんどの『なろう系』の主人公は、最初から『最強』であることが、約束されていますよね⁉」
ちょい悪巫女姫「でも、あなたは違います。あなたは龍王や私とは違って、いまだ完璧ではありません。この前のように黄龍から授けられた、文字通りの『反則技』を使わなければ、龍王に勝つことなんかできないでしょう。──しかし、それでもあなたは、仮想現実的出来事だったとはいえ、無限に龍王との闘いに敗れ殺され続けても、けして諦めることなく、何度も何度も挑み続けた。それこそが、『真の勝者』へと至る、唯一の道なのです! ………唯一の道なのですが、けしてそこにゴールすることはできないでしょう。だけど、それでいいのです! もしも龍王を倒せたとしても、また新たなるチートスキルを有する『最強』の存在が、現代日本からやって来るに違いありません。その場合、今度はあなた自身が、『ラスボス』として、倒されることになるでしょうか? いいえ、そんなことは断じてありません。なぜなら、あなたはけして、いつまでたっても、『最強』にはなれないのだから。常に挑戦する立場なのだから。あなたは、新たなるチート転生者との闘いにおいて、苦戦の連続を強いられるでしょう。だがそれでも、実際に死んでしまうことだけはありません。なぜなら、勝負については龍王に与えられた『死に戻りスキル』で、実際に対戦する前に、すべて体験済みなのだから。本来なら心が折れて当たり前のループ地獄においても、あなたはけして諦めずに、チート転生者を倒すための『何か』を掴み、それを利用することで、実際の対戦で勝つこともあり得るでしょう。──このような繰り返しの中で、あなたはけして『最強』になることはできませんが、無間地獄のような『死に戻りスキル』のお陰で、すべての勝負に勝ち続けることによって、永遠に最強への道を、歩き続けることができるのです!」
ショタ王子「なっ、僕がチートじゃないからこそ、最強じゃないからこそ、むしろすべての勝負に勝ち続けることができるですって⁉」
ちょい悪巫女姫「龍王に感謝することですね。あの地獄のループと、あなた自身のけして折れない心があってこそ、最終的には、すべての敵を倒すことができるのですから」
ショタ王子「……つまり、最強を相手に勝ち続けるには、自分が最強にならずに、『挑戦者であり続けるべき』ってことですか」
ちょい悪巫女姫「そうそう、断じて容易いことではありませんが、けして折れない心を持っていれば、必ず道が開かれるのは、『死に戻りスキル』によって、約束されていますからね」
ショタ王子「……いや、スキルなんて、関係無いのではありませんか? 要は自分が諦めなければ、それでいいのではないかと」
ちょい悪巫女姫「おお、最後の最後で、まさに主人公らしい台詞が出て来ましたねえ! まさにその通りなのです。これぞ何度も何度も述べてきた、自分の望みをけして諦めずに努力を重ねていったその果てに、たどり着ける奇跡の領域『集合的無意識』そのものなのであって、最初からチートスキルなんて、必要無かったのです。諦めない心さえ持っていれば、必ず『運命の女神様』が微笑んで、真に必要な『知識』が、いわゆる『天才的閃き』という形で、脳内にインストールされて、どのような状況においても、すべてを覆して、自分が真に目指すものを手に入れることができるのですからね」
※この【異世界転生×将棋編】は、一応今回で終了いたします。
同時に公開いたしまた次話のほうは、あくまでも『捕捉説明回』に過ぎませんので、ご興味のお有りの方以外は、読み飛ばされても構いません。
──引き続いて次回からはいよいよ、旧大日本帝国海軍駆逐艦の『清霜』が、幼い女の子に転生して、異世界で大活躍する新シリーズが始まるので、どうぞよろしくお願いいたします。




