第199話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その58)
ちょい悪巫女姫「──いえいえ実は、この思考実験を考案なされたシュレディンガーさんのご意見も、大体こんなものだったのですよ? 何せ彼こそは、こういった量子論の不確定さに対する、否定論者だったのですし」
ショタ王子「えっ、そうなんですか?」
ちょい悪巫女姫「それくらい、コペンハーゲン解釈とは、難解かつ非現実的だったのですよ」
ショタ王子「た、確かに、これでは量子論を一般の方々に理解していただこうと思っても、無理というものですよね」
ちょい悪巫女姫「──そこで登場するのが、多世界解釈なのです!」
ショタ王子「ふむ、何でもそちらのほうが、より具体的でわかりやすいそうですが、そもそも多世界解釈とは、いかなるものなのですか?」
ちょい悪巫女姫「基本的にはコペンハーゲン解釈と同じようなもので、『世界というものは、ミクロレベルにおいては無数に重なり合って存在しているものの、現実的空間であるマクロレベルにおいて観測された途端、一つの世界に収束して確定する』といったものです」
ショタ王子「……あれ? 肝心の『世界』という言葉以外は、ほぼコペンハーゲン解釈と、同じように聞こえたのですけど?」
ちょい悪巫女姫「多世界解釈と言っても、量子論に変わりありませんからね、基本的にはコペンハーゲン解釈と同じことを言っているに過ぎないのです。──ただし、『根本的な違い』というものも、当然存在しておりますけどね」
ショタ王子「根本的な違い、とは?」
ちょい悪巫女姫「先ほど例に挙げた『シュレディンガーの猫』の思考実験においては、コペンハーゲン解釈では、『生きた猫』を観測した途端『死んだ猫』は最初からいなかったものとして、永遠に消滅してしまいますが、多世界解釈では、猫が生きていた場合も、死んだ猫も可能性の上では存在し続けることになるのです」
ショタ王子「は? 死んだ猫が、存在し続ける? それに、『可能性の上』とは、一体……」
ちょい悪巫女姫「多世界解釈においては、生きた猫と死んだ猫とが重なり合って存在しているなどといった、珍妙な現象は起こらず、あくまでも『猫が生きている世界』と『猫が死んだ世界』とが、重なり合って存在していて、実際に猫が生きているのを観測して初めて、世界が一つに確定するのですが、『猫が死んでしまった世界』のほうも、完全に消滅するわけではなく、可能性の上では存在し続けるのですよ。──ここで思い出していただきたいのですが、『この目の前の唯一絶対の現実世界以外の、可能性としてのみ無限に存在し得る、別の世界』と言えば、一体何でしたっけ?」
ショタ王子「──! ……量子論で言うところの、『多世界』、すなわち、Web小説で言うところの『異世界』等で代表される、いわゆる『平行世界』の類い……ッ」
ちょい悪巫女姫「そうなのです、『異世界』とか『平行世界』などと言うから、何だか胡散臭く聞こえますが、要は二又の分かれ道を前にしての、『右に行くか、左に行くか』の場合分けにおいて、仮想的に『右に行った場合の世界』と『左に行った場合の世界』があるだけの話で、こんなもの誰もが考えつくごく普通なことに過ぎず、取り立てて不可思議な論理でもないのです。『シュレディンガーの猫』の思考実験の場合も、猫が二重に存在するといった馬鹿げたことを言っているのでは無く、まだ箱の中身を確認していない現時点においての未来には、『猫が生きている世界』と『猫が死んだ世界』の二つのパターンがあって、箱を開けて猫が生きていた場合は、そちらのほうに世界(=未来)が確定しただけのことで、極当たり前のことを言っているに過ぎないのですよ」
ショタ王子「でも、多世界解釈では、『猫が死んだ世界』も、可能性の上では存在し得るんでしょう? これは一体、どういう意味なんですか?」
ちょい悪巫女姫「簡単な話ですよ、何も二股の分かれ道を通るのは、一度きりとは限らず、前回右を通った場合、次には左を通るかも知れないし、『シュレディンガーの猫』の実験だって、一度ならず二度三度と繰り返して、前回は猫が生きていたけど、今回は猫が死んでしまうことだって、当然あり得るでしょう?」
ショタ王子「──ああ、そうか! まさしく『可能性の上では』、未来にはあらゆる世界があり得るわけなんだ!」
ちょい悪巫女姫「そうなのです、多世界解釈における、『無限に存在し得る別の可能性の世界』とは、コペンハーゲン解釈における、『無限の未来の可能性』を具象化したようなものなのであり、現在における世界は、まさに今『観測している』目の前の現実世界ただ一つに確定されているけど、未来においてはそれこそ、Web小説ならではの『異世界』等の非現実的な世界を含めて、あらゆるパターンの世界が存在し得て、万が一異世界転生なんかをしでかして、その世界を『観測』した途端、それこそが本人にとっての唯一絶対の現実世界として確定するというわけなのです」
ショタ王子「うおっ、確かに多世界解釈に基づけば、現在確固として存在しているのは、目の前の現実世界ただ一つだけど、未来においては現実として取って代わり得る、異世界等の『別の可能性の世界』の存在もけして否定できないわけで、ちゃんと現実性を守り通しながらも、異世界系Web小説を創作することを可能とする、すべてのWeb作家にとっての、唯一無二の最強理論ではありませんか!」
ちょい悪巫女姫「──と言うことで、すべてのWeb作家の皆さん、多世界解釈こそが、異世界系の作品を創り続ける上での、唯一の『福音』ですので、『多世界解釈』こそを他の何よりも、ひたすら崇め奉られることをお勧めいたしますわ♡」
ショタ王子「……それなのに、某超有名ベストセラーSFラノベ作家様が、某作品の中で、多世界解釈を全否定していたのには、ほんと、びっくりしましたよねえ」
ちょい悪巫女姫「そうですよねえ、ただでさえ、『永遠に空回りする八月』とか『隠れん坊してしまったヒロインちゃん』とか『驚愕が分裂する世界』とかいった、平行世界を舞台にした作品をたくさん作成しながら、その理論的基盤たる多世界解釈を否定するなんて、本末転倒以外の何物でもないと思うんですけどね」
ショタ王子「今回のお話を聞く限り、異世界やパラレルワールドといった、この現実世界以外の『別の可能性の世界』を創作物に登場させるための学術的根拠は、多世界解釈以外あり得ないはずなのになあ」
ちょい悪巫女姫「きっとあの方の頭の中には、ちゃんとした根拠が存在しているのですよ、あの方の頭の中だけにはね☆」
ショタ王子「──うわっ、最後の最後に、ものすんげえ毒舌で、話を締めやがった⁉」




