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第197話、T−34と落書きされたシロクマが、異世界で本物の戦車になる話⁉【試作・後編】

「……し、しかし、本作の作者の弁では、集合的無意識においては、精神的移転──すなわち、『記憶』の世界間転移しか、できなかったのではないか?」




「精神的転移オンリーであっても、やり方によっては、いろいろと策を弄せますよ。まず21世紀の日本のぎんの普通の歩行者に、集合的無意識を介して、シロクマ等の猛獣の精神をインストールして暴れさせて、事態鎮圧に駆けつけた軍隊に対しては、今度は我が帝国の武装親衛隊員の精神をインストールすることで肉体を乗っ取り、そのまま武装蜂起して日本自体を手中に収めて、それまで以上の軍事政権にするとともに、周辺の共産主義諸国に攻め入るとかね」




「「「──うわっ、えげつねえ⁉ しかもこの時期、不穏当な発言は、厳に慎んでいただきたい!」」」




「……ふむ、やはり『精神寄生』路線は、何かとエグいので、やはり『物質的転移』路線にいたしましょうか?」


「いやだから、本作を始めとして、この作家の著作においては、物理的な世界間転移は、絶対にできないってことだっただろうが⁉」




「厳密には、物質そのものを転移させるわけでは無く、あくまでも集合的無意識を介して、先方の世界の物質の『情報』を書き換えるわけですけどね」




「……情報を書き換える、だと?」




「一般的に、集合的無意識を介して世界間でやり取りされるのは、『記憶や知識』に限定されていますが、これっていわゆる『情報の世界間交換』であるわけで、普通は対象の世界の人物の脳みそを書き換えることによって、いわゆる『記憶の操作』をしているわけですけど、別に脳みそに限ること無く、対象の肉体を構成している物理量の最小単位である量子そのものに干渉して、その形態や位置に関する情報を書き換えることによって、いかようにも変質できるというわけなのです。──まあ、言ってみれば、あらゆる世界のあらゆる時代のあらゆる存在を、集合的無意識を介して情報を書き換えることによって、かの『クトゥルフ神話』で高名な、不定形暗黒生物『ショゴス』そのものに仕立て上げているようなものなのですよ」




「……すべての物体の根幹をなす、量子の情報を書き換えることによって、特定の物体自体を、いかようにも変容させることができるだと?」




「──ええ、これにより、そこら辺の普通の少女の身体に、『Tー34』と記すだけで、まさに戦車そのものの攻撃力と防御力とを有する、『艦む○』ならぬ『Tー34(むす)』を、生み出すことすら、十分に可能となるわけなのです」




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




 ──西暦2019年、12月某日、ロシア連邦北極圏、郊外のとある雪原。




『……くう〜ん』




 現在この場には、胴体に大きく『Tー34』と落書きされた無残な姿で、雪原の上に力無く横たわっている、一頭のシロクマと、それを取り囲んでいる、五、六名の北方白色民族の姿があった。




「へっへっへっ、陸上最大の肉食獣も、ざまあ無いぜ!」


「まだ、麻酔銃の弾が、効いているんだろう、見るからにだらしない、トロンとした表情をしているしな」


「おいおい、もっと嬉しそうな顔をしろよ、かつての赤軍大勝利の立役者、『Tー34』の名前を記してもらったんだからよお?」


「これまで以上に、強そうに見えるぜえ!」


「この落書きのせいで、雪原に対する迷彩効果が無くなって、狩りの効率が落ちるのはもちろん、それどころか狩られる可能性すらも高まって、生命の危機に陥るかも知れないがなw」


「──そんなこと、関係あるか! これはこのロシアにおける、我々共産主義者の、復活の狼煙なんだ!」


「そうとも、すっかり資本主義者に染まりきった、退廃主義者どもに鉄槌をくだす時が来たのだ!」


「──同士レーニン、ハラショー! 同士スターリン、ウラー!」


「さあ、シロクマ、貴様は死ぬその一瞬まで、この北極圏をうろつき回って、かつてのTー34の栄光を、一人でも多くのロシア人民に思い起こさせるのだ!」




「「「大祖国戦争、バンザーイ! Tー34、バンザーイ!」」」




 いかにも、共産主義者のお手本的な、シュプレヒコールをぶち上げる、時代錯誤の自然破壊者ども。


 もちろん、人類史上最強の、反共帝国が、そんな暴挙を見逃すはずがなかった。




『──目標ターゲット、発見。成人男性よりも、かなり大型の生命体の模様』




『──胴体に、「Tー34」の文字を、確認』




『──集合的無意識との接続アクセスを、開始』




『──全身を構成するすべての量子の、形態及び位置情報の書き換え、完了』




『──よし、「ショゴス型Tー34」、起動! 不届きなる赤軍の残党どもを、殲滅しろ!』







『──グオアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』








「な、何だ、このシロクマ、急に二本足で立ち上がって、暴れ始めやがって!」


「麻酔が切れたんだ、早く追加を打ち込め!」


「──なっ、銃弾を弾き返したぞ⁉」




『……主砲、85ミリ戦車砲 D−5T、発射用意』




「お、おいっ、こいつの右腕、まるで大砲みたいに、変化していくぞ?」


「に、逃げろ!」


「逃げるって、どこへだよ⁉」


「こんなだだっ広い雪原のど真ん中じゃ、身を隠すところ一つ、ありゃしないぞ⁉」




『──発射!』




 そして、およそ80年ぶりに、かの『怪物』が、再びロシア平原において、甦ったのであった。

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