第195話、T−34と落書きされたシロクマが、異世界で本物の戦車になる話⁉【試作・前編】
──西暦1945年、4月某日、ドイツ第三帝国帝都ベルリン、総統官邸。
「総統、赤軍です! ソビエト赤軍がついに、帝都間近に接近! もはやベルリンの周囲は、無数のTー34戦車によって取り囲まれて、完全に孤立状態となっております!」
帝国最高指令室へと飛び込んできた、連絡将校による急報──否、『凶報』に、一斉にざわめくドイツ軍最高首脳陣。
もちろん誰よりも無様に取り乱したのは、他ならぬこの男であった。
「Tー34! Tー34! Tー34! Tー34! Tー34! Tー34! Tー34! ……おのれ、野蛮な『熊野郎』どものクソ戦車めが! スラブ民族を殲滅して、ヨーロッパロシア全体に、我が栄光なるアーリア民族の大生存圏を確立するという、わしの『千年帝国計画』を台無しにしおって! ──シュペーア軍需相!」
「はっ、総統!」
「この絶望的戦況を逆転し得る、各種『報復兵器』の開発進捗状況は、どうなっておる⁉」
「……そ、それが、アメリカ本土爆撃用の超長距離爆撃機につきましては、主発動機のJumo 022ターボプロップエンジンの開発責任者の、親衛隊大佐フェルディナント=ブランドナー博士が、すでに赤軍に捕えらえており、原子爆弾の『チビ』と『太っちょ』につきましても、長距離大陸間弾道弾A10ロケット『アメーリカ・ラケーテ』の開発責任者の、親衛隊少佐フォン=ブラウン博士もろとも、アメリカ軍に拘束された模様であります!」
「何だと、我が最後の希望である原爆が、その運搬手段である、超長距離亜音速爆撃機と、大陸間弾道弾もろとも、敵に奪われてしまっただと⁉」
「……これらはすべて、いまだ試作段階にあり、すぐさま我が国に使用するとは思えず、おそらくは同盟国の大日本帝国に対して、戦後の連合国内における優位性を確保するために、活用されるものと思われます!」
「──日本や戦後のことなど、どうでもよい! 問題は、現在のこの帝都における絶体絶命の状況だ! まだ何か、打開策は残っていないのか⁉」
「お、恐れながら……」
もはや狂乱状態と言っても過言では無い、最高権力者の剣幕に誰もが恐れおののいて、目を反らすようにしてうつむき、口をつぐんだかに思われた、その刹那。
「──ひっ、ひっ、ひっ、『現在』の戦況を覆すことはできませんが、『未来』において報復することは、十分に可能ですよ?」
唐突に、広大なる司令室中に響き渡る、不気味な笑声。
思わずその場の全員が揃って振り向けば、そこには薄汚れた白衣を痩せぎすの長身にまとった、彫りが深く頬のこけた青白い顔に多重レンズ付きの眼鏡をかけた、いかにも「マッドサイエンティストでございます☆」と言わんばかりの男性がたたずんでいた。
「き、貴様は、スイスが生んだ、高名なるオカルト心理学者の、カール──」
「おっと、いろいろ差し障りがございますので、私のことはどうぞ、『博士』とお呼びください、伍長殿。ひっ、ひっ、ひっ」
そう言うや、なぜだか『ズパッ』とかいった擬音が聞こえそうになるほど、勢いよく胸元に手を当てる、自称『博士』。
「──いや、ちゃんとナチス式敬礼をしろよ! それに何が、伍長だ! 総統であるわしに対して、無礼であろうが、このヒ○コー型エセ心理学者めが!」
「まあまあ、どうせこの第三帝国も、残りあとわずかの命、今更堅いことは、言いっこなしにしましょうや」
「どこまでも言いたい放題だな? 大体わしと貴様が顔を合わせたなどといった史実自体が無いんだから、貴様のオリジナルの関係者から、怒られても知らんぞ⁉」
「オリジナル? はて、何のことでございましょう。それよりも、さっさと話を進めないと、じきにTー34が怒濤のごとく、ベルリン市内に侵攻してくるかも知れませんよ?」
「──ぐっ、確かにそうだが、まさしくこれぞ、『おまゆう』だよな⁉ ……それで、『未来においてなら、報復することはできる』とは、一体どういうことなんだ?」
「実はですね、たとえこの第三帝国が滅びようとも、未来の赤軍関係者──特にTー34信奉者に対して、『呪い』をかけることができるんですよ」
「「「はあ?」」」
まさしく『オカルト心理学者』の面目躍如といった感じに飛び出してきた、『呪い』などといったいかにも面妖な言葉に、一斉に怪訝な表情となる、ヒトラーを始めとする最高首脳陣。
「……未来のTー34信奉者に、呪いをかけるだと?」
「そうです総統、例えばこんなふうなのは、どうでしょう? ──近い将来、明らかに欠陥のある政治形態である共産主義を、懸命なる人類が放棄した後も、ロシア国内に潜伏し地下活動を続けて、赤軍のシンボルであるTー34を崇め奉り、その狂的信奉ゆえに、戦車以外の物質や生命までもTー34と言うことにして、いたずらにその名を明記したりする、迷惑極まる輩が現れた場合、被害者である落書きをされた物体または生命体が、本当にTー34へと変化して、加害者である共産主義者の残党に復讐をするとか」
「何か、いかにもピンポイントな呪いだな? 貴様ひょっとして、西暦2019年12月頃の、未来が見えているのではないのか⁉」
「はい、やろうと思えば、見えなくもないですよ? 何せ『未来との精神的かつ物理的交流』こそが、私にとっての、最大の研究テーマなのですからね」
「な、何だ、『未来との精神的かつ物理的交流』って?」
「空想科学小説風に言えば、『時間跳躍』とか『世界間移動』などと呼ばれるものですよ」
「……何、だと? タイムトラベルに、異世界転移、だと?」
「おい、そこの伍長総統、何でわざわざ、未来の創作物に基づいた言葉に言い換えた? 特に後半の! あんた、21世紀の『ネット民』か?」
「──いくら何でも、暴言に過ぎるだろう⁉ ……まあ、それはともかく、Web上の『なろう系』小説でもあるまいし、そんなことが実現できるはずがないだろうが?」
「いや、メタ的に言えば、このエピソード自体がれっきとした、『なろう系』なんですけどね。まあ、そういうことを抜きにしても、十分可能なんですよ? 私の編み出した、『集合的無意識論』に則ればね!」
「「「──結局、それかよ⁉」」」
……敗戦を目前にして、今まさに最高首脳陣の心が、一つとなったのであった。
※後編については、できるだけ早く、『将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その56)』と共に、投稿する予定です。




