第192話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その53)
「……たとえ、すべてが夢だったとしても、目覚めた後でも、夢で見た異世界のほうも、ちゃんと本物の世界として存在し続けているし、黄龍やその力を譲り受けている者なら、時間の前後関係にかかわらず、いつでもそれを観測できる、だってえ⁉」
明石月詠嬢による、あまりに予想外の言葉を聞くや、僕は堪らずに食ってかかった。
──だってこれって、異世界での最終決戦において僕に勝利をもたらした、秘策中の秘策の、全否定そのものだしな。
「あら、いいの? あなたの言い分をこれ以上強情に押し通せば、まさしく『夢オチ』そのものということで、出版界における最大のタブーを犯すことになるんですけど?」
「──そうですね、我ながら、ちょっとまずかったですね! それでは、お話のほうを詳しくお聞かせください、お願いいたします!」
返しましたよ、手のひらを。もうね、速攻ですよ!
……いけね、何が「黄龍の力を借り受けて、それまで自分がいた世界を夢ということにして、真の現実世界へと目覚めた」だ。
それって完全に、『夢オチ』じゃん⁉
──まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい、
本作においてはこれまで散々、異世界転生系Web小説におけるテンプレを批判し続けてきたというのに、これでは面目丸つぶれじゃないか⁉
「……そんなに、内心で無駄に葛藤して、わざとらしく字数を稼いだり、いかにもメタ的なことを言い出さなくても、よろしくてよ? あなたが行ったことは、厳密に言えば夢オチでは無いし、またたとえ夢オチであったとしても、別に構わないのですから」
………………………………は?
「僕がしでかした、すべてを夢ということにして、元いた異世界を消滅させたことが、夢オチなんかでは無く、あまつさえ、そのような出版最大級のタブーを犯しながら、別に構わないですってえ⁉」
「ええ、だって出版界ではすでに、ある一定のパターンにおいては、夢オチが認められているのですもの」
「えっ、そうなんですか? その一定のパターンてのは、一体、何なのです⁉」
「もちろんそれこそが、『たとえ夢オチであっても、元の世界が消えたりしない」パターンですよ」
「──だから、そんなあまりに御都合主義で完全に矛盾したことが、本当にあり得るのかと、聞いているのですよ⁉」
「あら、現在ラノベ界における、最大のヒット作においても、極当たり前に行われていることなのですよ?」
「へ?」
「だから、『VRMMO』のことですよ、この手の作品で当たり前に登場してくる『ログアウト』って、ゲームという仮想現実世界から真の現実世界へと帰還する、『夢オチ』のようなものとは思いません?」
「──‼」
そ、そうだ、そうだった。
夢オチのことなんかよりも、むしろこっちを忘れていたことのほうが、よほど『大ポカ』じゃん⁉
これって、本作を始めとして、作者の諸作品の中で、これまで散々述べてきたことだしな。
「夢オチそのものでありながら、VRMMOにおけるログアウトが、どうして問題視されないかと言うと、いくらログアウトを重ねようが、ゲームの世界が文字通り夢幻のように消え去ったりはせず、いつでも何度でもログインし直すことができるからなのです。確かにあなたは今回、『それまで自分が存在していた世界を、夢だということにしてしまいました』けれど、それは厳密には夢オチ──『単なる夢からの目覚め』では無く、むしろ『異世界から現実世界への帰還』であり、しかも当の異世界もけして消滅したわけではないので、『出版界最大のタブーとしての夢オチ』を犯してしまったことにはならないのです」
「た、確かに、言われてみれば、これって夢オチと言うよりも、異世界転生のようなものですよね⁉」
「異世界転生であるのならば、いくらこの現代日本へと『帰還』したところで、VRMMO同様に異世界のほうも消えて無くなるわけではありませんから、たとえ『夢オチ』同然とはいえ、何ら問題無いのですよ
「……そこのところが、良くわからないですけど、今回のように、黄龍の力を借りて、異世界そのものを夢ということにして、現代日本に帰還するといったやり方で、本当に異世界のほうが消えて無くなったりはしないのですか?」
「というか、そもそも現実世界以外の世界はすべて夢のようなものであり、しかもどのような世界であっても、それこそ夢のように消えてしまうことは、けしてあり得ないのですよ」
………………………………は?
「な、何ですか、夢であるのに、消えてしまうことは無いという、完全に矛盾した、あたかも『禅問答』のようなお言葉は?」
「うん、ごめんなさい、『消えてはしまうけど、失うことは無い』、と言ったほうが、より正確かしら?」
……うん、ごめんなさい、余計わからなくなったんですけど?
「だったら、『夢』では無く、『過去』だったら、どうかしら? 『この目の前の現実世界を含めて、すべての世界は過去になる』んだと」
「夢じゃなくて、過去になるって、ますますわけがわからなくなったんですけど?」
「過去って、現在存在しないでしょう?」
「ええ、それはもちろん」
「でも、確かに存在していたわよね」
「……はい」
「では、どうして現在影も形も存在していないものを、『かつては存在していた』と断言できるわけ?」
「えっ………い、いや、それは、今は存在していなくても、記憶に残っているからに、決まっているでしょうが?」
「そう、『記憶』なのです。過去の世界はもちろん、異世界も、並行世界も、その他この現実世界以外の、『世界』と名の付くものすべてが、人の記憶の中にのみ存在しており、だからこそ、未来永劫けして無くなったりはしないのです」
「えっ、異世界なんかの、現実世界以外のすべての世界が、『記憶』として存在し続けているですって? しかも、過去の世界──すなわち、かつてのこの現実世界と同等に?」
そんな馬鹿な。
異世界転生系Web小説の登場人物として、こういったことを断言するのはどうかとは思うけど、いくら同じように記憶の中にしか無かろうとも、普通の過去の記憶と、前世的な異世界人としての記憶とは、全然別物だし、現実性の度合からして、まったく異なるだろうが⁉
「……あら、ご納得いかないようですわねえ? それじゃあ、例え話をいたしましょうか?」
「例え話?」
「昔々、関西のほうのある高校で、夏休み中の8月後半が、何度も何度も繰り返されるという、珍現象が起こったの」
「……また、わざわざ危険な例えを、挙げてからに」
「ああ言うのって、ループの最後の『周回』だけが本物の世界で、他の『周回』は、9月に繋がること無く、『偽物』として消えていくだけじゃない?」
「まあ、そうですね」
「でも、それって、10年後に思い返した時においては、最後の『周回』とその他の『周回』とでは、単なる『10年前の8月の記憶』として、どれ程の違いがあるんでしょうね?」
──‼
「そうなのです、あくまでも『記憶の中だけの世界』の話であれば、本物の8月も、単なるループの中だけの偽物の8月も、何ら違いは無く、両方共本物の『8月の記憶』だと言えるのですよ」




