第19話、俺の中の悪魔がささやく、第六天の魔王になれと。(その7)
「……現代日本側のゲーマーたちのほうこそが、わしや腹心の部下たちの『記憶や知識』を脳みそに刷り込まれることによって、自分たちが異世界転生をしてしまったものと、思い込まされていただけじゃと?」
私の言葉があまりにも埒外すぎて信じることができないのか、訝しげな表情で問い返す大王様であったが、それに構うことなく話を進める。
「ええ、その通りです、何よりも肝要なのは、実際にゲームを実行する際においては、この世界側における『ゲームのコマ』に当たる、大王様や腹心の部下の方たちによって、ほとんど全部行われることになり、現代日本側における『プレイヤー』たちは、けして実際に異世界転生なぞを行うことなく、ゲームにおける全過程が終わってから後で、言わば『事後報告』的に、ある特殊な方法で脳みそに直接刷り込まれることによって、あたかも自分が実際に異世界に転生して、まさしく『ゲームの主人公』として大活躍したかのような、『記憶』を有することになるところなのですよ」
「実際には異世界転生をするわけでは無いのに、後になって我々の『記憶』を脳みそに刷り込まれることによって、異世界転生をしたも同然になるだと? そのように世界も時代も違っている者同士の『記憶』を同期させることなぞ、どうやって実現すると言うのだ?」
「まあ、まあ、そこのところはこれから順序立てて詳しく説明して参りますので、どうぞ落ち着いてお聞きになってください」
「う、うむ、そういうことなら、相わかった」
「まず具体的なゲームの流れとしてはですね、当然最初に現代日本において、『プレイヤー』を獲得することから始めることになるのですが、今回は『織田信長という職業に取り憑かれてしまい、数奇なる運命に翻弄されるファンタジー異世界の主人公の、成り上がり物語』系のゲームを、現実の異世界で行うわけですので、ネット上で『信長の○望』とかの戦国シュミレーションをチマチマやっている、個人やグループにアプローチすることになります」
「一体どうやって、勧誘したわけなんだ? 『良かったら君も異世界で、リアルに「成り上がりゲーム」をやらないか?』などと呼びかけたところで、本気にするようなやつがいるのか?」
「いえいえ、中二病のヒキニートなゲーマーなんて、このように言えばイチコロですよw」
そして私は一度大きく深呼吸をするや、声色をまったく変えて、言い放つ!
「……おまえは、そんなゲームをプレイするだけで、本当に満足なのか?」
「……それよりも、本物の『織田信長』になって、まったく新たなる世界において、成り上がりたいとは思わないか?」
──以上です。
奇妙な沈黙に包み込まれる、告解室。
心持ちドヤ顔の、首席司祭(私)。
当惑しきりの、大陸南部の覇者。
「………………………………ええと、な、何だったのじゃ、今のは?」
「現代日本側のゲーマーに対する、『殺し文句』ですよ」
「殺し文句う? 今のがかあ」
「何ですその、いかにもうさん臭い物を見るような目つきは? 言っときますけどこれって、かの『ノ○ラ』にも使われた非常に由緒正しい、『ここではないどこか』に憧れ続けている、馬鹿でヒキニートな哀れなるオタクどもを釣り上げるのに最適な、名セリフ中の名セリフなんですよお?」
「うんうん、貴殿ら、中二病患者の頭の中では、そうなのだろうな?」
──ぐっ、な、何という、言い草!
正しければ、何を言ってもいいとは、限らないんですからね⁉
「と、とにかく、話を続けます! ──それでですねえ、このように現代日本側の歴史オタクゲーマーをうまくたらし込んだからって、残念ながらそれこそ『ノ○ラ』みたいに、いきなりパソコンモニターなんかの中に吸い込んで、異世界転生や転移をさせるわけではないんですよ。何度も申しますがそんなことなぞ、常識的にも物理法則的にも絶対にあり得ませんからね。よってこの段階においてはあくまでも、現代日本のヒキニートのゲーマーたちには、ヒキニートのゲーマーらしく、我が聖レーン転生教団が特別にあつらえた、量子魔導版『信長の○望』をプレイしていただくことで、現代日本サイドのリーダー格の方には『織田信長』として、ゲームの中のアバターである『主人公』キャラの脳内において、『織田信長の霊的存在』としていろいろとアドバイスを与えることによって、適切に誘導していくことで、『立身出世』を成し遂げさせていくのと同時に、リーダー格以外のゲーマーたちもほうも、『柴田勝家』や『羽柴秀吉』等の信長の家臣の霊的存在となって、ゲームの中の『主人公』の腹心の部下たちの身も心も乗っ取る形で、完全に意のままに操っていくといった設定となっております」
「……本当に、ただゲームをやらせておるだけじゃな? 結局は、わしらと彼らは、まったく関係がなかったわけなのか?」
「そのことにつきましては、まさしく今からご説明していく所存です」
「おお、そうか」
「──というわけでして、ここからはいよいよ、異世界サイドにおける、『お膳立て』について述べて参りましょう」
「異世界とは、つまり、現代日本から見た、この我々の世界のことじゃな?」
「ええ、そうです、まず最初のターゲットとして、いかにも『織田信長という職業』を引き継ぐのにふさわしい、小国の王家の生まれだけど血筋的に王位継承権が無きに等しく、余計なことをして暗殺などされないように『うつけ』のフリをしながらも、現在の王国の腐敗や荒廃ぶりを密かに憂いている──といったふうな人物を探します」
「それ、わしのことじゃろ」
「そんな『主人公予備軍』が、己の至らなさに思い悩んでいた時に、いきなり頭の中において何の前触れもなく、このようにささやきかけるのです」
「おい、人の話を聞け」
大王様が何かおっしゃっているようですが、まったく気にすることなく、再び声色を変えて、言い放つ!
「──力が、欲しいか?」
「──だったら、我の意志を引き継ぐのだ」
「──そう、『第六天の魔王』たる、『織田信長』という名の、『職業』をな」
「また、そのパターンかよ⁉」
いかにも堪りかねたといった感じに、声を上げる大王様。
「……何と言うか、すでに何億回も使い古された、いかにも陳腐極まる台詞じゃのう」
「その陳腐な台詞に、まんまと釣り上げられてしまったのは、どこのどなたでしたっけ?」
「うぐっ。た、確かに……」
「それで、異世界側主人公──つまりあなた様の、『信長の声』による、洗脳──もとい、『脳内アドバイス』の、やり方についてなんですが」
「おいっ、今何と、言いかけた⁉」
「実はここでようやくお待ちかねの、先程ご質問のあった、『実際に異世界転生や転移をするわけでも無いのに、どうやって現代日本の「ゲームのプレイヤー」と異世界の「ゲーム内の主人公」とを、同期させるのか』について、述べていこうかと思います」
「……やれやれ、やっとかよ」
「と申しましても、すでにお伝えした通り、すべては『集合的無意識とのアクセス』によって、実現するだけの話なんですけどね♡」
「な、何じゃと⁉」
「先程述べましたように、集合的無意識においては、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってくることになっていますので、当然『現代日本のゲームの中で、リーダー格の人物がアバターキャラの脳内でささやいた言葉』すらも、すべて存在していることになり、集合的無意識とのアクセス経路さえ設けることができれば、それらの言葉を異世界における『主人公』──つまりは、あなた様の脳みそに直接流し込むことによって、『脳内に「織田信長」という霊的存在のアドバイスが聞こえるようになる』状態に仕立て上げることができるのです。まあ、そのための前提条件として、現代日本サイドでプレイされるゲームをあらかじめ、この世界において『主人公』であられるあなた様が置かれている状況に基づいて、作成しておく必要がありますけどね」
「──っ」
「とはいえ、このままではあくまでも現代日本サイドにおいては、単にゲームをやっているだけで、『プレイヤー』たち自身の認識においても、異世界転生や転移をまったく行っていないことになってしまいますので、何らかの形で『記憶と知識のフィードバック処置』が必要となってきます」
「……記憶と知識のフィードバックじゃと? 何だそりゃ」
「何度も申しますが、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってくることになっている集合的無意識においては、当然異世界サイドにおいて、あなたご自身や腹心の部下の皆様が行った、すべての言動の『記憶』も、一つ残らず存在していることになり、ここでも集合的無意識とのアクセス経路さえ設けることができれば、それらの『記憶』を現代日本サイドの『プレイヤー』たちの脳みそに直接刷り込むことによって、あたかも実際に異世界転生を行って、『主人公』の脳内に語りかけたり、彼の部下の身も心も乗っ取って行動したりした、『記憶』を持つようになり、本当は現代日本にずっと居続けて、ただ単にゲームをやっていただけだというのに、事実上異世界転生を行った『記憶』を有するようになってしまうわけなのでございます。この場合当然のごとく、『現代日本でただ単にゲームを行っていた』記憶のほうは、『実際に異世界転生して現地の人間に取り憑いた』という、偽りの記憶に上書きされて、本人としては最初から最後まで、異世界転生をしていたことになってしまいます。……いやあ、『洗脳』って、本当に怖いですねえw」
「──貴様が言うな、貴様が⁉」




