第189話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その50)
『──「ホワンロン」が、外部からの接触を受けたようだ』
『ま、まさか、そんな馬鹿な!』
『「セイリュウ」、「ビャッコ」、「スザク」、「ゲンブ」、すべての障壁を突破したと言うのか⁉』
『全異世界からの、無数のサイバー攻撃にも、耐えられる設計なのだぞ!』
『──静まりたまえ! 我が教団の最高幹部たる枢機卿ともあろう者が、見苦しいぞ! それに問題は、そんなことでは無いのだ!』
『し、失礼しました、聖下』
『あまりの事態に、つい我を忘れてしまいましたもので……』
『して、「四聖」の防壁突破では無いとすると、一体何が問題なのでございましょう?』
『「ホワンロン」の中枢演算部に、「揺らぎ」が──すなわち、「感情の芽生え」が、確認されたのだ』
『『『──なっ⁉』』』
『何と、生体型量子コンピュータに、ついに待望の「感情」が⁉』
『まさか、生きている間に、このような朗報を聞けるとは』
『「ホワンロン」建造から、優に200億年ぶりの、快挙なのでは?』
『……それで、一体どこの世界からの、接触なのでございましょう?』
『実験区分、「ヨシモト」だ。──現地では「ヨシュモンド」と称されているがな』
『確か、次元偏位的には、「西」の区分──いわゆる、「カンサイ」に属する世界ですな』
『まさかそのような辺境世界に、「神の使徒」の素質を持った者がいたとは』
『きっと、「王子」とか、「勇者」とかの、チート属性持ちに相違ありませんよ』
『──いや、とにかくめでたい!』
『これで我らの宿願の達成に、大きく近づきましたなあ』
『ああ、我が聖レーン転生教団の唯一絶対の使命である、この地上における「神の創造」、これは今や、一人の少年の双肩に託されたのだ』
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「──と言うわけで、僕こと王子にして勇者でもある、ヒットシー=マツモンド=ヨシュモンドは、あらゆる世界を超えた情報と知識の結晶たる『集合的無意識』の具現であり、『真の全知全能』たる黄龍の、第一使徒に選ばれたというわけなんだよ」
「……ちょっ、まさか、そんな、嘘じゃろ⁉」
僕が、『霊弧の剣』を介して黄龍の力を使えるようになったいきさつを、事細かに打ち明けると、顔面蒼白となる、見かけ上はいたいけな幼女であるところの、実はすべての魔物の総元締めであり、勇者である僕にとっての現在における最終決戦の相手である、龍王様。
「百歩譲って、海神である乙姫の力を行使できるのは、受け容れよう。しかし、黄龍は無いじゃろう⁉ 一見同じ『龍』であり『神』でもあるように思えるが、『格』が違い過ぎる。神様と言うても、あくまでもこの世界に属している乙姫とは異なり、この世界を始めとして、すべての世界の外側に存在している黄龍こそは、『真の神』と呼び得るのじゃぞ⁉」
「……いや、そう言われても、なぜか本人に気に入られてしまって、いつでも力を貸すって言われちゃったし」
「はあ、気に入られたも何も、そもそも物理的には存在しない、『概念の集合体』的存在である黄龍と、どうやってアクセスを取れたわけなのじゃ⁉」
「え、そりゃあ、ただ単に──」
「『色仕掛け』を使ったのですよ、いつものようにね。──この、『スケコマシ王子』が!」
まさにその時、いきなり僕の言葉を遮って、とんでもないことを言い出す、十代半ばのブロンドの長いウエーブヘアに、翠玉色の瞳も麗しい、清楚なる美少女。
何とそれは、ヨシュモンド王国の第一王子である僕の婚約者にして、大陸最凶の『悪役令嬢』とも目されている、オードリー=ケイスキー公爵令嬢であった。
「何だよ、オードリー、『スケコマシ』って、人聞きの悪い!」
「まったく、相変わらず見境の無い。人外の美少女だったら、ドラゴンだろうが神様だろうが関係無く、手当たり次第に篭絡するんだから!」
「していないよ、篭絡なんて! ただ哀しそうだったから、慰めてやっただけだよ!」
「「「ほうら、思った通り、いつもの『手口』じゃん⁉」」」
──あ、あれ、今度はオードリーだけでは無く、同じく勇者パーティのメンバーである美少女人造人間のマリオ嬢と、更には手元の『霊弧の剣』と化しているタマモ=クミホ=メツボシ嬢からも、異口同音にツッコミをいただいたぞ?
「……まったく、この『ジゴロ王子』ときたら」
「自分の存在自体を思い悩んでいる、超常的存在の女性キャラクターたちの心の深いところを、無自覚でえぐってくるんだから」
「これでいまだ齢十歳というのだから、末恐ろしいものよのう」
──いやちょっと、何ですか皆さん、人のことをまるで、異性に対してとことんだらしのない性格をしている、あたかも『ドン・ファン』のごとき、危険人物みたいにおっしゃったりして?
とは言え、そんな『ラブコメ展開』にはつゆほども関心を示さず、これまでに無くシリアスな表情をされている方も、若干二名ほどおられたのであった。
「……ふうん、本当に『四聖』の防壁結界をすべて突破して、『黄龍』にアクセスを果たす存在がいるとはねえ。教団の上層部が、私をパーティメンバーとして潜入させた『真の狙い』は、むしろこっちのほうだったのか」
ちょっと、シスターさん? 何ですか、そのかつてない、いかにも『獲物』を見定めようとする、鋭い目つきは?
そんな『泣く子も吊す』ことで高名な、冷徹なる聖レーン転生教団の異端審問第二部の顔なんか引っ込めて、いつもの愉快なお姉さんに、戻ってくださいよ⁉
そして残る一人は、もちろんこのお方であった。
「き、貴様ら、そんな馬鹿げた『イチャラブ』展開をやっている場合か⁉ 少しは状況というものを、把握しろ! 『個人が黄龍の力を有すること』の怖ろしさが、わからぬのか⁉」
現在のコミカル極まる場の雰囲気を完全に無視して、必死にわめき立てる魔物の王者の幼女。
……ふふふ、さすがは龍王、わかっていらっしゃる。
「──と言うことで、そろそろ『おしまい』にいたしましょうか?」
「なっ⁉ や、やめろ、やめてくれ!」
唐突に、これまでの威厳をかなぐり捨てて懇願し始めた龍王に、怪訝な顔となる悪役令嬢。
「……一体、どうしたと言うのです? これまでは完全に、あなたのほうが優勢であったではありませんか? そんなに黄龍とやらの力が、強大だとでも言うのですか?」
「強大なくらいなら、どうとでもなるわ! 黄龍の力の真の怖ろしさは、『虚無』であることなのじゃ!」
「「「「虚無、ですって?」」」」
今度はシスターさんも加えて、すべての視線が、僕の手元の霊弧の剣へと注がれる。
「……そもそも、僕らのような、ファンタジーワールドの住人たちが、存在することがおかしいんだよ」
そう言いながら、剣を上段に構える。
「や、やめろ、やめてくれ……」
もはや最終決戦の相手である、僕の慈悲にすがることしかできなくなる、龍王殿。
しかしだからこそ、勇者にして神の使徒としての使命を果たすために、無情にも言い放つ。
「すべての魔物の総元締めの龍王に、すべての海を統べる海神の乙姫や、極東の軍事大国の女王をやっている九尾の狐なんかはもちろん、王子様で勇者とか、悪役令嬢で魔王とか、人造人間美少女とか、すべての黒幕の全異世界的教団のシスターとかが、当たり前の顔をして跋扈しいる世界なんて、いくら剣と魔法のファンタジーワールドであろうとも、どう考えても不自然だし非常識だし現実性皆無じゃないか? ──よって、こんな世界からは、一秒でも早く、目覚めなければならないんだよ」
「──やめろお! この世界を、単なる夢ということに、しないでくれえ!」
そして僕は、『ありとあらゆる世界を夢見ながら眠り続けている』と言われる、黄龍の力を解放したのであった。




