第184話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その47)
「──ところで、みんな、龍やドラゴンなどと呼ばれているモンスターには、いろいろな体色をしたやつがいるけど、その中で『最強の龍』って、何色をしていると思う?」
「「「は?」」」
龍王との最終決戦の真っ最中に、僕こと神託の勇者である、ヒットシー=マツモンド=ヨシュモンドが発した問いかけの──ていうか、むしろ『謎かけ』とも言うべき、あまりにも意味深なる言葉に、目を点にして面食らう、勇者パーティの三名のお姉様方。
──そんな中で、当の対戦相手の幼女龍王ただ一人が、いかにも訝しげに眉根を寄せる姿が、やけに印象的に目に映った。
「……王子、勇者としては最も大切な使命である、ラスボスとの最終決戦中に、何をまったく関係の無いことを、いきなり言い出しているのですか?」
「いや、オードリー、これってまさにその『勇者としての使命』に、大いに関わり合いがあったりするんだよ」
「は? 龍の体色が、ですの?」
「何せ、今から僕がこの『霊弧の剣』に宿して使おうとしている、『最終奥義』こそは、真に最強の龍神の力をお借りするものなんだからね」
「「「「──っ」」」」
今度こそ龍王も含めて、僕以外の全員が、驚愕を隠せずに息を呑んだ。
「え、でも、最強の龍は、そこにおられる龍王さんなのでは?」
「確かに龍王は、龍の中では最強だろう。──でも僕は、こう言ったんだよ、オードリー? 『真に最強の龍神』って」
「……その言い方やと、神様の中でも『最強の神様』とか、言い出す気じゃないやろうな?」
「うん、そのつもりだけど? ……ていうか、別にこれは【蘊蓄解説コーナー】では無いんだから、無理して『関西弁』を使わなくてもいいんやで? シスターはん」
「で、でも、御主人様自身も先程から、あえて神様とは断定されずに、『最強の龍の体色とはいかに?』といった、言い方をされているではございませんか?」
「それは、究極の神様でありながらも、あくまでも外見上は、普通の龍の姿をしていることになっているからだよ」
「……何です、その、やけに含みのある、おっしゃりようは?」
「外見上は単なる龍として意匠されているものの、実のところは他の龍どころか、神様の類いさえも比較にならず、ありとあらゆる世界の森羅万象どころか、ありとあらゆる世界そのものすらも、遙かに凌駕している存在なんだよ」
「「「へ?」」」
「──‼」
僕のあまりにも埒外な言葉に、一瞬何を言われたのか理解できずに呆けた表情となるパーティメンバーたちに対して、ここに来てようやく確信に至ったのか、一気に顔面を蒼白に染め上げる、龍王様。
「……そなた、まさか、その龍神とは、『黄色い龍』のことを、言っているのではあるまいな?」
あたかもなけなしの勇気を振り絞るかのようにして、恐る恐る尋ねてくる、ありとあらゆる魔物の総元締めである幼女。
「……黄色って、最強の龍神がですの?」
「普通、上位の龍って、それこそあなたみたいな漆黒とか、さもなければ純白とかじゃ、なかったっけ?」
「さもなければ、『あちらの世界』基準だと、東洋の『四聖』のうちの青龍とか、西洋における悪魔の象徴のレッドドラゴンとか、オタク向け創作物やカードゲームで大人気の、金色や銀色をしているやつとかでは?」
「それがよりによって、黄色なんて」
「何か、いかにも、弱そう〜」
「そうですよね、テレビの戦隊モノで言えば、メンバー随一のギャグ要員で、ぶくぶく太っていて、カレーが大好物といった、お約束のイメージばかりですよね」
「言いたい放題言ってるんじゃないよ? あんたら、『黄色いキャラクター』に、何か恨みでもあるのか⁉ いいか、『あちらの世界』の中国における神話では、とにかく黄色い龍こそが、最強なんだよ! ──何せ、今例に挙がった四聖たちが守護している対象こそが、まさにこの最強の龍神たる、『黄龍』なんだからね!」
「「「黄龍って、ちょっと待って、まさかそれって──」」」
「そう、ありとあらゆる世界を夢見ながら眠り続けていると言う、まさしくすべての世界にとっての創造主のことだよ」
「「「──!」」」
僕のとどめの言葉に、今度こそ完全に言葉を失ってしまう、三人娘たち。
──しかし当然のごとく、最も衝撃が大きかったのは、当の決戦相手の、この方であった。
「黄龍じゃと、馬鹿を申すな! あやつはあくまでも『概念的存在』であり、人間であるそなたが、どうこうできる相手では無いわ!」
とても、すべての魔物の王とも思えない、必死の形相でまくし立てる、見かけ上は年端もいかない幼女。
それに対して微塵も動揺せずに、答えを返す、勇者の少年。
「まあ、そりゃあそうだよね。仮に『すべての世界を夢見ている』者が、本当にいたとしたら、一体どこに存在しているのかって、問題が生じるしね。『そいつが存在している世界も、そいつが夢見ているわけなのか?』といったふうに、『論理的矛盾』を突かれたら、ぐうの音も出ないし」
「そ、そうじゃ! そもそも黄龍なぞという輩は、『並行世界』や『集合的無意識』等々の、現実世界以外の『別の可能性の世界』が存在し得るか否かについて検証するための、『思考実験的存在』に過ぎず、かの有名な『シュレディンガーの猫』や『ラプラスの悪魔』のように、実際に存在し得るものではないしのう!」
「そうだよね、並行世界等の『別の可能性としての世界』が仮に存在する場合、どのような論理的『思考実験』が可能かを模索する場合等にのみ、黄龍等の超常的存在が必要になってくるだけであって、あくまでも現実的には、『世界と言うものは、今目の前にある現実世界ただ一つしか存在し得ない』という大原則を、侵すものではないよね」
「おお、そうじゃ、その通りじゃ! ちゃんとわかっておるではないか?」
「──ただし、もう一つの『大原則』によって、何と黄龍は、その存在可能性を、ちゃんと認められることになるんだよ」
「……もう一つの、大原則じゃと? 何だ、そりゃ」
僕のいかにも意味深な言葉に、龍王を始めとして、この場の誰もが、訝しげな表情となってしまう。
だから、たたみかけるようにして、決定的な台詞をお見舞いすることにしたのだ。
「ああ、大原則も大原則さ、もしもこれが無かったら、この場の誰もが、存在し得なくなるんだからね」
「「「「──なっ⁉」」」」




