第182話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その45)
──まさしく最終決戦にふさわしい、ヒットシー王子の裂帛の啖呵を叩きつけられた、ラスボスたる龍王様。
しかしその、見かけ上はいまだあどけない幼女であるところの、ありとあらゆる魔物の総元締めは、微塵も動ずることなく、むしろ歓喜の笑みすら浮かべながら、鋭い牙をむき出しに言い放つ。
「おやおや、勇者殿におかれては、相変わらずお元気なようで。もしかして、我がくれてやった『死に戻り』が、ちゃんと作用しなかったのかや?」
「……大丈夫だ、しっかりと効いているよ。お陰様で、死ぬような目に──否、実際に死というものを、たっぷりと味わわせていただいたさ」
「ほう、それにしてはいまだしっかりと、正気を保っておるようじゃな? これまで『死に戻り』のスキルを与えてやった者は、一人の例外も無く、脳内で繰り返される、ある意味精神的には本物の、凄絶なる『敗北と死』の繰り返しに、実際に我と闘う前に耐えきれず、心が折れてしまったものじゃがのう?」
まるで数多の勇敢なる人間たちを廃人にしたのを勝ち誇るようにして、邪悪極まるほくそ笑みを浮かべる、龍の王者。
しかしそれに対して、毅然と言ってのける、弱冠十歳の勇者。
「ああ、そりゃあ僕だって、何度も何度も、心が折れそうになったよ。今でも、これから始まるおまえとの対決の行方を、ほんのちょっとだけ思い浮かべただけで、勝手に脳内で『死に戻り』スキルが発動して、自分の敗北と無残な死に様を、明瞭に実感させられてしまうしね。──だけど僕は、そんなことぐらいでは、けして負けはしない! だって僕には、世界中の人から、勇者としての期待を寄せられているのだから。この世界からすべての闇を払拭して、みんなが明るい光の下で、笑顔で暮らせていけるようにと!」
そのような、現下の絶体絶命の大ピンチにあって、いかにも勇者らしい前向きな言葉に、揃って言葉を失う、その他の一同。
そんな私たちを尻目に、高々と右手を掲げ上げる、自他共に認める勇者の少年。
「──来い!」
その呼び声に応じるように、厳かに響き渡る、獣の声。
『ケ──ン‼』
どこからともなく現れた、九本もの尻尾を有する、全身が銀毛に覆われた巨大な狐が、空中に大きく飛び上がったかと思えば、見る間に身体が収縮していって、気がつけばそこには、一本の銀白色の剣が浮かんでいた。
それを至極当然にように、右手でつかみ取って、龍王へと突き付ける、ヒットシー王子。
「──さあ、龍王、いざ尋常に、勝負しろ!」
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!
待って、
ちょっと、待って、ちょうだい!
……今の大狐って、間違いなく、タマモ=クミホ=メツボシ陛下の、『獣化形態』だったわよね?
極東の超軍事大国、ヤマトン王国の、現女王様の!
それが何で、このクライマックスシーンに何の脈略もなく現れて、いきなり剣になんかに変身するわけ⁉
もしかして、あの人ってこれまでずっと、私たち勇者パティーと付かず離れず、こっそりと後をつけていたとでも言うの?
おいおい、とても大国の女王様にして、神獣九尾の狐の化身が行うべき、振る舞いとは思えないんですけど?
しかも、ここぞという時に、いきなり登場してモードチェンジを行って、剣になんかになっちゃって、一人だけカッコいい真似をしたりして。
あまりにもずるいじゃん、反則だろ、それって⁉
──とはいえ、確かに王子にとっては、これ以上望むべくもない、力強い『援軍』であるのは、間違いなかった。
残念ながら、同じ神獣とはいえ格上であり、しかも『王クラス』である龍王には、いかに九尾の狐とはいえ、単体では太刀打ちできないものの、あくまでも武器として──すなわち『聖剣』として、己の絶大なる力を凝縮して、神に認められた勇者である王子のサポートに徹して、全力を尽くすとなると、一気に勝率が跳ね上がるであろう。
これにはさすがの龍王も、余裕の笑みを揺るがすものと、思いきや──
「……くくく」
「……くくく、くくくくくく、くくくくくくくくくくくく」
「……くはは、ははははは、ははははははははははははは」
「──わははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
龍王城の広大なる玉座の間にて響き渡る、龍王自身の哄笑。
その表情はむしろ、これまで見せたことも無い、『狂喜』に満ちあふれていた。
「よいぞ、よいぞ、九尾の狐を化身させた、聖剣とはな! そう来なくては! なるほど、そういった隠し球を温存していたからこそ、戦意を喪失しなかったわけか? ──面白い、その聖剣を存分に使って、我に挑んでくるがいい!」
──っ。
九尾の狐が転じた聖剣すらも、龍王にとっては、恐れるに足りぬというのか⁉
これではもう、王子には、『勝機』なんて………………。
「……ふふふ」
あ、あれえ?
「……ふふふ、ふふふふふふ、ふふふふふふふふふふふふ」
「……ふはは、ははははは、ははははははははははははは」
「──あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
……ええーっ?
──ちょ、ちょっと、ヒットシー王子サマ⁉
龍王城の広大なる玉座の間にて響き渡る、勇者の哄笑。
その表情はあまりにも、『神に選ばれた者』にはそぐわない、『狂喜』に満ちあふれていた。
「礼を言いたいのは、こっちのほうだよ、龍王。せっかく生まれ持った力を使わずじまいでいたところを、こんな大チャンスをくれたんだからな」
「ふむ、世界をも破壊し得るとも言われる、『マツモンドの奇跡』とやらか? それにしては、我の『死に戻り』のスキル同等の未来予測能力では、そなたの勝率はさっぱりなんじゃがなあ?」
「この力は、使いどころが限定されているから、初見の相手にはぶつけにくいんだよ。──でも、あんたが『死に戻り』のスキルを与えてくれたお陰で、前もって十分に自己鍛錬できたってわけさ」
「……くくく、これまで数多の猛者たちの心を折ってきた、『死に戻り』のスキルを、『イメージトレーニング』扱いするとは、豪儀なものよのう」
「おや、後悔しているのかな?」
「とんでもない、むしろそれでこそ、わざわざスキルを与えた甲斐があったというもの。そのお陰でようやく、見つけることができたようじゃ」
「──見つけたって、何をだよ?」
「決まっておろう、我が闘うに値する、真の好敵手よ!」
「違いない、それこそ、お互い様というものだ」
「うむ、まさしくこの一戦だけで、決着をつけるのが、惜しいくらいにな」
「だったらさ、生まれ変わっても、何度も闘おうじゃないか?」
「……いいのか? 龍王の我なら、『呪い』の力によって、何度生まれ変わろうとも、闘い続けるようにすることができるのじゃぞ?」
「『呪い』だって? 『祝福』の間違いだろ?」
「違いない、ふふふ。──それでは、そろそろ始めるとするか?」
「「──我らの、永遠なる、闘争を‼」」
「……ええー、王子って、こんなにも『バトルジャンキー』で、あられたのですの?」




