第181話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その44)
「……王子が今この時、自分の脳みそを使って、龍王と闘い無残にも敗れて死にゆく様を、あたかも超高性能のコンピュータそのままに、何度も何度も演算処理しているですって⁉」
その時私こと、大陸最凶の『悪役令嬢』オードリー=ケイスキーは、同じ勇者パーティの仲間である、聖レーン転生教団から派遣されてきた『シスター』さんによる、あまりと言えばあまりの無慈悲なる言葉に、思わず我が耳を疑った。
「うん、つまりは現在の王子は、少しでも龍王打倒の策を考えようとするとその途端、自動的に『脳内死に戻り』が始まって、感覚的には『本物の死の苦痛』を何度も何度も味わうことになっているんだけど、まさに当の龍王を目の前にしての、この『最終決戦』においては、龍王打倒の策を考えないわけにはいかず、文字通り精神的な『自縄自縛』の状態に陥っているという次第なの」
──っ。そんな⁉
シスターによる、更なる追い打ちの言葉に、私は目がくらむ思いをした。
それはまさに、勇者に「ラスボスを退治することを考えるな」と、言っているようなものである。
そんなこと、できるものですか!
……しかし、王子が『魔王退治』について思い浮かべるだけで、頭の中で──つまりは、五感としては本当に、死ぬ苦しみを体験することになるのだ。
こんな、使命感のある勇者だけが陥らずを得ない、『地獄』そのものの責め苦が、あって堪るものですか!
「──龍王! 今すぐこんな、ふざけた真似はやめなさい!」
もはや堪忍袋の緒が切れて、分をわきまえず『ラスボス』へと食ってかかる『悪役令嬢』。
もちろん、あどけない幼女の姿をした、すべての魔物の総元締めのほうは、微塵も動じることなぞ無かった。
「……何が、ふざけた真似じゃ? 勇者殿には是非にも、『龍王と戦うこと』のみを考えていただかねばならぬし、そもそも龍王である我が、勇者を苦しめて、何が悪いと言うのじゃ?」
「くっ………だ、だったら、王子の代わりに、この私を苦しめなさい!」
「ふん、その手に乗るものか。そなたとそこのシスターは、別に絶対に我を倒す必要は無いゆえに、この『精神的死に戻り』に陥ることはあるまい。そなたはただ、自分の身を犠牲にするフリをして、王子のことを助けたいだけじゃろうが?」
「そ、それじゃ、こっちの人造人間の『マリオ・ツー』だったら、どうですの⁉ 彼女はまさしく、あなたを倒すためだけに生み出されたのだし。しかも王子の身代わりとなることについても、むしろ望むところでしょうよ!」
私のかなり一方的で横暴極まる言葉に対して、首が壊れるんじゃないかと思われるほど、「うんうん」と頷き続ける、当の人造人間の少女。
「おや、知らなかったのかえ? 彼女はすでに、我が与えた『死に戻り』のスキルの、完全版とも言える能力を有しておるのだぞ?」
「「「はあ?」」」
龍王の、あまりにも予想外な言葉に、何とマリオ嬢自身も含めて、驚きの声を上げる、勇者パーティの女性陣一同。
「……えーと、マリオネットさんは、『死に戻り』のスキルをお持ちでしたの?」
「ま、まさか、私にはそんな、『なろう系』だか『太郎系』だかの、チートスキルなんて、与えられていませんよ!」
そりゃあ、そうよねえ。
ただでさえ、『アンドロイド美少女』という、それこそチート級の属性を有していると言うのに、更によりによって『死に戻り』なんて、Web小説界における代表的なスキルまで持っていたりしたら、メインヒロインどころか主役にさえも抜擢されかねないですしね。
しかし当の龍王のほうは、こちらの戸惑いなぞ気にすることなく、私の腕の中でいまだ苦しみ続けている王子を、ただにやにやと見つめるばかりであった。
「──くっ、仕方ありません、だったら私たち三人で、あなたを倒すのみですわ!」
「おお、そこに気づくとは、さすがは大陸きっての、『悪役令嬢』殿」
「……おのれ、余裕綽々でいられるのも、今のうちですよ。一秒でも早く王子を助けるためにも、私は出し惜しみ無く最初から、第666形態で臨むつもりですし、マリオネットさんのほうも、内蔵原子力エンジンを暴走させての自爆も辞さないことでしょう!」
横目で仲間のほうをチラリと見やれば、シスターさんのほうはいかにも「……おいおい、よしてくれよ、勇者パーティ自らの手で、世界を滅ぼす気かよ?」といった表情をされているものの、マリオネットさんのほうは、すでに決意を固めた目つきで、龍王のほうを睨みつけていた。
「ほう、第666形態に核自爆攻撃か、相手にとって不足は無い──と、言いたいところだが、そなたらは少々、『脇役』としての心構えが、なっていないんじゃないかのう?」
「な、何ですってえ⁉ どういう意味ですの、それって!」
確かに私たちでは、龍王に一歩も二歩も及ばないかも知れないけれど、脇役扱いされる覚えはありませんことよ!
「──いやだから、『主人公の見せ場』を奪うなって、言っているのじゃよ」
え?
なぜだかいきなり、至極満足げな微笑みを浮かべながら、私の腕の中へと視線を送る、幼女形態の龍王。
──その刹那であった。
「……そうとも、やっとここまでたどり着いたんだ、僕抜きで、最終決戦を行ってもらっちゃ困るよ」
「ヒットシー…………様?」
多少よろめきながらも、己の足でしっかりと立ち上がる、冒険者用の軽鎧に包み込まれた、ほんの十歳ほどの矮躯。
──それは間違い無く、私の最愛の婚約者殿、その人であった。
すっかり憔悴しきって、いかにも満身創痍といった風情でありながら、その瞳だけを不敵に爛々と煌めかせて、『怨敵』へと向かって敢然と言い放つ、勇者王子。
「──さあ、龍王、最後の舞台を、共に踊ろうじゃないか?」




