第180話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その43)
「──『永遠の八月』なぞ、けして存在しない」
「なぜなら、九月が永遠に来ないなんてことは、絶対にあり得ないからだ」
「つまり、九月の時点からすれば、永遠に続くと思われた夏休みも、単なる『過去の記憶』として、脳みその中だけに存在することになるのだ──と言えば、おわかりだろうか?」
「まさしくこれこそが、『ループ』なぞといったものの、正体なのだ」
「──それでは、記憶の中だけとはいえ、なぜに八月が、何度も何度も繰り返されたように思えるのだろうか?」
「実はそれは何と、無限に存在し得る『別の可能性の自分の八月の記憶』を、与えられていたからなのだ」
「『別の可能性の自分』とは、わかりやすく言えば、『パラレルワールドの自分』のようなものであり、すでに述べたように、パラレルワールなどといったものは、『ゴキブリ』みたいなものなのであって、一匹でもその存在が認識されれば、無数に存在することになるのであり、当然『パラレルワールの八月の記憶』についてもも、与えられるとしたらけして一つとは限らず、一挙に無数に与えられようとも、別に不思議ではなかろう」
「──そうなのである、九月の時点において、脳内に無数の八月の記憶があるからこそ、あたかも自分が永遠と思えるまでに、八月を繰り返したように錯覚しているだけなのだ」
「ぶっちゃけると、その記憶が与えられたのは、別に八月中でなくても、夏休みが終わった後の、新学期が始まってからでも構わなかった」
「要は、現時点において、『永遠に八月を繰り返した記憶』だけが、あればいいのだ」
「……考えてみれば、至極当然なことに過ぎず、実際に時間や世界そのものが、何度も同じ日時を繰り返すことなんて、あり得るはずが無いのである」
「現実的に、『永遠の八月』を体験する唯一の方法と言えば、すでにご存じの通り、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶や知識』が集まってくるとされている、いわゆる『集合的無意識』と、何らかの形でアクセスすることによって、『別の可能性の自分の八月の記憶』を脳みそに刷り込むことだけであろう」
「『ループ』なんて、常識的に考えて、現実にあり得ないのはもちろん、現に八月の期間内にいる段階で、どうして世界が繰り返しているなんていう埒外の状況を、認識できると言うのだ?」
「残念ながら、人間には、『ループ』とか『タイムトラベル』とか『前世(=異世界転生)』とかを、認識することなんて、絶対に不可能なのだ」
「なぜなら、ものすっごく当たり前の話なのであるが、人間には目の前にある『現実』あるいは『現在』しか認識できないのであって、たとえたった一秒でも過去の出来事は、もはや単なる『脳みその中の記憶』でしか存在し得ないのである」
「例えば、『幼稚園当時の記憶』なんてものになれば、ほとんど『前世の記憶』そのままに、おぼろげなものでしかなく、本当にあったことなのかすらも、確信が持てなくなってしまっているであろう」
「それが、『ループ』とか『タイムトラベル』とか『異世界転生』だって? わはははははははは! ──寝言は寝てから言え」
「こちとら、目の前の現実を生きていくだけで、精一杯なのだ!」
「Web小説やラノベ等において、馬鹿の一つ覚えのようにして登場してくる、『ループ』や『タイムトラベル』や『前世』等の、超常現象──中でも特に、『異世界転生』する前の、『現代日本における記憶』なんぞを、いつまでもはっきり明瞭に覚え続けるなんていう、絶対にあり得ない非現実的な御都合主義現象が起こり得るのは、それこそ文字通りに、Web小説やラノベ等の創作物の中だけなのだ!」
「例えば、Web小説においてはもはや掃いて捨てるほどありふれている、『戦国転生』について言えば、主人公はけして現代日本人なんかではなく、生粋の戦国時代の人間に他ならず、自分が『21世紀の日本から転生してきた』というのは、単なる『妄想』や『夢』のようなものに過ぎず、『なろう系』の諸作品みたいに、『現代日本における記憶』をいつまでも鮮明に覚えていて、『NAISEI(w)』なんかで大活躍したりなぞは不可能なまま、そのうちすっかり忘れ果ててしまうだけであろう」
「……いや、これは別に、既存のWeb作品に、難癖つけているわけではないですよ? 単に『極常識的意見』を述べているだけなのです。例えば、あなたがある日突然、戦国時代にタイムスリップしたとして、『俺様は実は21世紀の人間なんだ! 最先端の科学技術の知識で、無双してやるぜ!』なんて『たわ言』を、いつまでも言っておられますか? ほんの一瞬でも気を抜くと物言わぬ屍になりかねない、戦国時代なんですよ? きっと一秒でも長く生き延びるために、『自分は最初から生粋の異世界人だったのだ! 現代日本なんて、悪い夢に過ぎないのだ!』と思い直して、必死に目の前の現実だけを見据えて、あがき続けていくのではないでしょうか?」
「これは、21世紀の高校生における、ごく平凡かつ平和な夏休みだって同様で、確かに戦国時代に比べれば生ぬるいかも知れないけど、高校生だって、その瞬間その瞬間を必死に生きているのだ、目の前の現実かつ現在の八月以外の、『ループし続ける八月』などと言う『世迷い言』なぞ、単なる『妄想』や『夢の記憶』と見なして、現在の本物の八月だけに全力を尽くして生き抜いて、九月になって始めて、『……おかしいなあ、なぜか記憶の中だけは、八月が無限に繰り返していたような気もするけど、あまりの暑さにボケてしまったのかなあ?』などと回想するのが関の山であろう」
「──そしてこれは当然のごとく、『死に戻り』についても、同じことなのだ」
「まず、『ループ』等と同じように、常識的に考えれば、実際に世界が何度も繰り返したりはしないし、一度死んだ人間が甦ったりはしないであろう」
「仮に世界や時間そのものが繰り返していたとしても、人間には『現在』しか認識できないので、『死に戻り』なんてものは、結局のところ、『過去の記憶』の中にしか存在し得ないのだ」
「──そう、真に現実的に『死に戻り』を実現しようと思えば、『ループ』等の際と同様に、無限に存在し得る『別の可能性の自分の記憶』を、集合的無意識を介して、脳みそにインストールすればいいのである」
「……とはいえ、本当に『無限の死に戻りの記憶』を、丸ごと全部、脳みそに刷り込む必要は無かった」
「そもそもそんなこと、人間の脳みそのキャパシティ的にも、一個人の認識力の限界的にも、絶対に不可能だろうし」
「よって、『記憶』そのもの自体は、必要最小限のものだけとして、後は『コツ』的なもの──いわゆる、『死に戻りのテンプレ』こそを、インストールすることが望ましいであろう」
「『死に戻りのテンプレ』とは、例えばその死に戻りの舞台が、『なろう系』作品にありがちな、『ラスボスとの最終対決』であれば、ラスボスとの対決の仕方を、ほんの幾つかピックアップしたもので十分と思われた」
「これを参考することによって、後は量子コンピュータ並みの演算処理能力を有する人間の頭脳であれば、ラスボスや死に戻りを行う本人の個人情報や、対決イベントを取り巻く舞台設定情報等の、基本的データを材料にして計算処理すれば、死に戻りの無限のパターンをすべて算出することが可能となろう」
「どのような死に戻りのパターンでも、無数に脳内に算出することができると言うことは、ありとあらゆるパターンの死に戻りの記憶をすべて有しているも同様で、すべての死に戻りの記憶を有していると言うことは、実際に過去に無数の死に戻りを経験したも同様となるのだ」
「つまり、真に現実的かつ理想的に、『死に戻り』を実現するためには、いっそのこと大前提として、『死に戻りなんて絵空事は現実に実現できない』と見なすことからスタートして、むしろあやふやな『夢』や『妄想』に過ぎないと決めつけて、『それだったら、自分の頭の中だけで、死に戻りが起こったことにしよう』という方向で、集合的無意識との最低限のアクセスを拠り所にしつつ、自分と対戦相手の力量や、周囲を取り巻く環境について、完全に見極めた後に、己の脳みそをフル回転させて、実際に起こり得る未来の無限の可能性を予測計算すべきってことなのである」
「──そうなのだ、龍王はヒットシー王子に、(Web小説にあるような)本当に世界を繰り返させる死に戻りをさせているわけでは無く、無理やりに集合的無意識とのアクセス回路を開いて、現在の状況下において自分と王子が対決した際には、ほぼ100%確実に、王子が無残に敗北して殺されてしまうという『事実』を、必要な分のデータを嘘偽り無く与えて、王子自身の脳みそで計算させることによって、無限の『己の死』を、脳内で体験させているわけなのだ」
「……まあ、そうは言っても、一体どのようにして、ただの人間である王子を、集合的無意識とアクセスさせて、初対面の龍王の個人データを与えればいいのかといった、至極現実的な問題もあるわけなのだが、今回これについては、何と言ってもまさにその当の龍王が、ヒットシー王子に『死に戻り』を体験させているのだからして、集合的無意識とのアクセスも個人情報の提供についても、十分可能だと言うことで、どうぞよろしくお願いいたします♡」




