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第178話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その41)

「──いやいやいや、貴様ら、一体何をやっておるのじゃ? 『関西弁』がどうしたとか、どうでもいいことじゃろうが? 現にこうしてさっきから()()が、地べたに這いつくばって、もがき苦しんでおるというのに⁉」




 わたくしこと、大陸最凶の『悪役令嬢』オードリー=ケースキーが、同じ勇者パーティの仲間であり、聖レーン転生教団から派遣されてきた、何かと凄腕の『シスター』さんと、さっきからずっと『死に戻り』というチートスキルについて、パーティとしての本来の使命そっちのけで、あれこれと討論し続けていて、いよいよ佳境に差しかかったところ、ついに見るに見かねたのか、まさしく『討伐対象』であるはずの龍王ナーガラージャ様ご自身が、至極もっともなツッコミを入れてきたのであった。




 ──そ、そういえば、すっかり忘れておりましたわ!


「お、王子、大丈夫ですか⁉ しっかりしてください!」


 さっきまでこの腕で抱きしめて看護していたはずが、ついシスターとの討論に熱中してしまい、いつの間にか龍王ナーガラージャ城の広大なる玉座の間の床の上に放置してしまっていた、弱冠十歳にして当代の勇者であり、わたくしの婚約者でもある、ヒットシー=マツモンド=ヨシュモンド王子の許へと駆け寄って、再びひしと抱き上げる。


「……う、ううっ、くっ、くそっ、僕は……勇者だ……龍王ナーガラージャなんかに……負けるものか……ッ」


 相変わらず両目を閉じての半覚醒状態ゆめみごこちのまま、脂汗をだらだらと流しながらの苦悶の表情で、うわごとのようにつぶやき続ける愛しき人。


 それは確かに、弱々しくか細い声音だったものの、いまだ勝負を諦めていない、『勇者』にふさわしき言葉であった。


「──ああ、ごめんなさい! ごめんなさい! わたくしったら、王子ばかりに無理をさせて!」


 そんなわたくしたちの有り様を、さもあきれ果てたかのような表情で見下ろしている、ネオゴシック調のドレスからストレートのロングヘアに両の瞳まで、いかにも闇の一族の盟主らしく全身漆黒でありながら、外見年齢的にはいまだ一桁台にしか見えず、どうしてもどこか愛らしくも感じさせる、『ロリBBA』龍王ナーガラージャ様。


「……いや、ごめんなさいって、謝れば済む問題じゃないだろうが? 忘れてもらっては困るが、現在も絶賛『最終決戦』継続中なのじゃぞ? 我が空気を読んで手を出さなかったからいいものの、おぬしらが言い合いに熱中している最中に、もはや身動き一つとれない勇者を始末してしまっていたら、どうするつもりだったのじゃ?」


「──うぐっ」


 こ、こいつ、自分こそが諸悪の根源のくせに、何という『ド正論』を⁉


 本来なら何も言い返せずに、ぐうの音も出ないところですわ。


 ……とはいえ、こちらだって、言いたいことは、山ほどありますのよ⁉




「──何という言い草ですの! そもそもすべては、あなたが悪いのではないですか⁉ いよいよこれから『最終決戦』というところで、いきなり王子に対して、『自分との戦力差を埋めるために、死に戻りのチートスキルを与えてやる』とか言って、勝手に変なスキルを押し付けたかと思えば、王子のこの苦しみよう。何でも『真に理想的で現実的な死に戻りスキル』とは、Web小説あたりにありがちな『御都合主義的なセーブシステム』とかではなく、『何度も勝負に負けては死に続ける記憶』を強制的に与えることと言うではありませんか⁉ つまりあなたは便利なスキルを与えるつもりなんて端から無く、ただ単に王子に精神的に耐えきれないほどの苦痛を与えることによって、無力化しようと謀っただけでしょうが⁉」




 広大なる玉座の間に響き渡る、わたくしの渾身の弾劾の声。


 しかし、当の龍王ナーガラージャ様のほうはと言えば、むしろこちらへと哀れみの表情を向けるばかりであった。


「……確かに我が与えた記憶によって、その者の心が折れてしまうことは十分あり得るし、我自身、それを狙っていなかったと言えば、嘘になろう」


 ──っ。やはり!




「しかし、その者自身がその気にさえなれば、十分に役に立つ『武器スキル』を与えたのもまた、厳然たる事実なのじゃぞ?」




 ………………………………え。


「こ、このように、王子のことを苦しめるばかりの状態が、『役に立つ武器スキル』によるものですって⁉ そんな馬鹿な! 龍王ナーガラージャたる者が、何を戯れ言を⁉」




「──いいえ、本当よ、その龍王ナーガラージャさんは、嘘は言っていないわ」




 わたくしの血を吐くような反駁の声に対して答えを返したのは、目の前の黒衣の龍の王者────ではなく、


 何とさっきまでわたくしと熱烈なる討論を行っていた、同じパーティの仲間であった。


「……シスター、さん?」


 聖職者でありながら、あたかも魔の総元締めと同様に、全身を漆黒の聖衣に包み込んだ、一見清楚極まる『年上のお姉さん』といったイメージだが、もはやこの人が一癖も二癖もある『いい性格』をしているのは、我々の仲間内では周知の事実となっていた。


 そんな彼女がここに来て、敵の総大将と同調したことを言い出したものだから、つい身構えてしまうのも、無理は無いであろう。


「……ええと、龍王ナーガラージャさんが嘘を言っていないのなら、現在の王子のこの惨憺たる有り様は、一体どういうことですの?」


「もちろん、今の彼は、絶賛『死に戻り』中に、決まっているでしょう?」


「えっ、これって、『死に戻り』をやっているのですか⁉」


「……何を、今更。だったら、何だと思っていたのよ?」


「いえ、普通Web小説なんかでの『死に戻り』って、主人公だけが体験する『別の世界での出来事』みたいなもので、わたくしたちのような第三者がまったく気がつかないうちに、終わってしまうものだとばかり思っておりましたので」


「だからそれだと、『ループ』とか『セーブシステム』そのまんまになってしまうんだけど、これについてはさっき全否定したばかりでしょうが?」


 あ、そういえば、そうでした。


「……ということは、現在の王子って、集合的無意識とのアクセスによってもたらされた、『何度も何度も龍王ナーガラージャと戦って、何度も何度も敗れて、何度も何度も殺され続ける記憶』──すなわち、『無限の死に戻りの記憶』を、リアルタイムに再生し続けているから、このように『精神的に』苦しんでいるわけですの?」


 ここに来て、ようやくわたくしが『正解』にたどり着いた…………かと、思いきや。




「そこら辺が、ちょっとばかし、『違う』んだよねえ……」




 ………………………………は?


「ちょ、ちょっと、そちらこそ、今更何をおっしゃっているのです⁉ あなたは先程までの、この作品をご覧になっている読者の皆様のほぼ全員が、うんざりとするほど長々と続いた『蘊蓄解説コーナー』において、『死に戻りを始めとするほぼすべての異能スキルは、集合的無意識とのアクセスのよって実現できる』とおっしゃいましたし、集合的無意識とは『ありとあらゆる世界の人々の記憶の集合体』なのですから、『真に理想的かつ現実的な死に戻り』とは、Web小説に良くあるような『ループやセーブシステム』のようなものではなく、いわゆる『無限に存在し得る別の可能性(パラレルワールド)の自分によって行われた、無限の死に戻りの記憶』を、己の脳みそにインストールされることによって、あたかも自分自身が『死に戻り』を無限に経験したような状態になることだったはずではございませんか⁉」


「うん、ごめん、あの時あえて『記憶』と言ったのは、あくまでもわかりやすく説明するためであって、本当は違うんだ」


「なっ⁉ ──そんな文字通りの『前言撤回』が、今更許されると思っているのですか⁉ 『記憶』でないのなら、一体何だとおっしゃるのです⁉」




「──それこそ、解説コーナーで、散々言っていたように、『コツ』さ」




 え。


「こ、コツ、って……」




 あまりの思わぬ展開(どんでんがえし)の連続に、もはや何が何やらわからなくなってしまったわたくしを尻目に、いかにも満を持したかのようにして言い放つ、誰もが認める『曲者シスター』殿。




「──そう、龍王ナーガラージャが王子様に与えた『死に戻り』のスキルは、『ループやセーブ』では無いのはもちろん、単なる『記憶』でも無く、『真に理想的かつ現実的な死に戻り』を実現するための、Web小説の主人公にとっては無くてはならない、いわゆる『必勝のテンプレ』とでも呼ぶべきものなの」

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