第177話、【文化の日記念】「異世界で関西弁を使って、何が悪いんや?」(後編)
これまで数回にわたって、なぜか唐突にも『関西弁』ばかりを使ってきた、別に現代日本の関西地方に縁もゆかりも無い異世界のエリートシスターさんに対して、その理由をお伺いしたところ、「すべては読者様が、単調な文章に退屈せずに済むように、関西弁によって起伏を付けるためよ☆」などといった、あまりにも『メタ』的なふざけたことを言い出したので、思わず非難のツッコミを入れたものの、むしろいかにも心外だと言わんばかりの表情を浮かべたのであった。
「……え、でも、読者様に対する配慮以上に、大切なことは無いのでは?」
「うっ──い、いやでも、前々回までが、そういった『読者様への配慮』だったとしても、前回と今回については、どうなのですの?」
「ほう、どうなの、とは?」
「──すっとぼけないでください! せっかくついに話題の焦点が『死に戻り』という、この【将棋×おねショタ編】における最大のテーマに差しかかったというのに、前回と今回ときたら、まるまる『関西弁談義』だけで、終始しようとしているではありませんか⁉ こんなんでは読者様にとっては、『サービス』どころか、むしろ『大損失』じゃないですか!」
「いや、そんなことはないよ? 何せ『関西弁』は、現在進行中のこの作中作シリーズにとってはもちろん、『なろうの女神が支配する』本編全体にとっても、是非とも語るべき『最重要テーマ』の一つなのですからね」
………………………………は?
「関西弁が本作における、最重要テーマですって⁉」
「おやおや、本シリーズにおける『メインヒロイン』とも目されている御仁が、まさか本編における『根本原理』というものを、お忘れではないでしょうね?」
「……本作における『根本原理』って、そりゃあ何よりも、『真に理想的かつ現実的な、異世界転生の在り方』では──って、ああ、そう言うことですか⁉」
「ようやく、気づいたようね。──確かに、関西弁を異世界系Web作品の中に登場させること自体を、今更止め立てすることは不可能でしょう。しかし、現代日本ならではの『現実的風習』を、ファンタジーワールドの中にあえて登場させるのなら、それなりの現実的理由付けを行うべきなのであって、馬鹿の一つ覚えみたいに何も考えずに、『他の作品でもやっているから、別に構わないじゃないか?』で済ませていては、創作者たる小説家としては、『失格』の誹りを免れないでしょうよ」
「──相変わらず、全方面にケンカを売るような、きっつい言い方をするよな⁉」
……とはいえ、言いたいことは、わからないでもなかった。
先ほども述べたように、かつてファンタジー作品においては、そもそも『関西弁のキャラを登場させること』自体を、出版界そのものから禁止されていたのである。
よって個々の作家においては、関西弁を使うことに、それなりの『覚悟』を必要とされたのだ。
それなのに、「いちいちうるさいことを言うな、今や関西弁を使うことは、公然と認められているのだし、使えるものを使って何が悪い!」などといった、『思考停止』そのものなことを言っていたんじゃ、間違いなく『作家失格』と言わざるを得ないだろう。
例えば、前回と今回にわたるこの前後編シリーズをご覧になっていて、特に関西ご出身の読者様や作家様等におかれましては、ご不快になられたりはしませんでした?
──それでいいのです、その感情こそが、大切なのです!
……もしかして、もしかしてですよ?
実は何と、我が国の出版界において、最初にファンタジー作品に関西弁を登場させたのが、関西ご出身の作家様だったりして、
「何や、クソ出版界が! 何で異世界で関西弁を使ったらアカンのや! 『異』世界と言うくらいなんやから、この現実の日本とは別の世界なんやろ? だったら現実のクソ出版界で使われている、小賢しくてお上品な『東京弁』だか『江戸弁』だかばっかりを使わずに、関西弁こそを『公用語』としている異世界があっても、別に構わんやんか! ──つうか、わてが創ってやるわ、登場人物全員が関西弁をしゃべっている、超革新的な異世界ファンタジー作品をな! 見てろよ、頭の固い馬鹿の一つ覚えで事なかれ主義の出版界に、大革命を起こしたるからなあ!」
──と言った決意に基づいて作成していたとしたら、作家として十分筋が通っているし、しかも己の意地を通すことで、業界全体を激変させてしまったわけだから、関西の方のみに限らずクリエーター全体としても、すっごく理想的な創作姿勢とは思いません?
「……そうか、シスターさんは、そのことを異世界系のWeb作家の皆さんに、わかってもらおうと、あえて前々回までにおいては、関西弁を使われていたのですね?」
さすがは、世界宗教聖レーン転生教団、生え抜きのシスター様。
その深謀遠慮っぷりは、常人の私では、考え及びもつきませんでしたわ。
そんなふうに手放しで感慨にふける私に対して、案に相違してあっさりと『その幻想をぶち殺す』、当の『シスター様』。
「いいえ、違うわよ? これは言ってみれば、『当てつけ』みたいなものなのよ」
……へ?
「あ、当てつけって、一体、何に、対してのですの?」
「そりゃあ、お馴染みの『原典』だよ? あれって、微妙に『タイトル詐欺』であるだけでは無く、舞台がれっきとした関西なのに、主人公はもとより、掃いて捨てるほど登場してくるヒロイン勢のほとんど全員が、基本的に関西弁をしゃべろうとはしないでしょ? だからこっちのほうで、お手本を示してやったわけ」
「──何その、文字通り余計なお世話的な、強引な理由付けは⁉」
そもそも、こっちこそお手本にしている分際で、原典に対して、無用なケンカを売ろうとするんじゃないよ⁉




