第176話、【文化の日記念】「異世界で関西弁を使って、何が悪いんや?」(前編)
こうして、聖レーン転生教団特務機関から、龍王討伐のために、弱冠十歳にして神託により勇者と認められたヒットシー=マツモンド=ヨシュモンド王子を中心とする、我らが人類最強のパーティに派遣された、蘊蓄大好きシスターが長々と続けてきた『一人解説コーナー』が、ついに肝心な『死に戻り』についての話へと差しかかった頃合いを見て、私ことヒットシー王子の婚約者にして、大陸最凶の『悪役令嬢』と目されるオードリー=ケイスキーは、堪りかねて声を上げた。
「……シスターさん」
「うん、何でしょう、オードリー公爵令嬢?」
「あなた、どうして、『一人語り』の時だけ、『関西弁』でしゃべっておられましたの?」
「──最初に突っ込むところが、よりによって、そこかなのよ⁉」
愕然とした表情となる、シスターさん。
……だって私、非常に気になりますもの。(氷○並み)
この方きたら、パーティに参加して以来ずっと、普通にこの世界の『標準語』で話されていたのに、『一人語りコーナー』になった途端、いきなり関西弁ONLYで話し始めたりして。
そりゃあ、突っ込みたくも、なるっちゅうねん。(あ、感染ってしまった)
いやもちろん、シスターさんが『関西ご出身』なら、別に問題はありませんよ?
その場合はむしろ、突っ込みを入れた私のほうが、生粋の関西人の皆様に、「関西弁で、何が悪いんや⁉」と、総ツッコミを受けてしまうことでしょう。
しかし皆様、ようく考えてみてください、ここはあくまでも現代日本の皆様からしたら、『異世界』なのですよ?
異世界で、関西弁て、どうなんでしょうねえ?
若い世代の方はほとんどご存じではなく、下手すると嘘や冗談かと思われるでしょうが、ほんのちょっと昔までは、『ファンタジー異世界系の作品の中では、関西弁は厳禁!』だったのですよ?
もちろん、今でこそ『関西弁キャラ』は、異世界ファンタジーにおいて、さほど珍しくはありませんが、『関西が存在しないはずの異世界で、関西弁をしゃべるキャラが存在する理由』について、明確な説明を行っている作品は、いまだ『皆無』といった状況であると、言わざるを得ないでしょう。
「それでは、そこのところは一体どうなっているのか、深〜く掘り下げるために、ご本人に伺うことにいたしましょう♡」
「──掘り下げるな! そんな細かいことくらい、あっさりと流せば、それでいいでしょう⁉」
「おっ、そういった勢いのあるツッコミは、いかにも『関西人』らしくて、いいですね!」
「いや、関西人でなくても、突っ込むよ! 何で本筋とはまったく関係ないことに、そこまで執着するの⁉」
「だって、私、気にな──」
「もう、『氷○』は、いいから!」
「……う〜ん、私が愚行するところ、異世界人が関西弁をしゃべる合理的な理由としては、本人あるいは親御さんなんかが、現代日本の関西地方からの、『転生者や転移者』だったとかではないでしょうか?」
「いやいや、そんなに真面目に考えなくてもいいんじゃないの? たぶん異世界系のWeb小説を書いている作家さんたちにとっては、単なる『ノリ』みたいなものだと思うし」
「ノリ、とは?」
「文字媒体である小説って、どの台詞をどのキャラクターがしゃべっているかについては、ぱっと見だけではわかりづらいじゃない? そのため語尾に『オタク作品のお約束』的に個性を付けて、『ニャアニャア』うるさいネコミミキャラなんか登場させたりする作品も、少なくは無いでしょう? 『関西弁』についても、同じことよ。『ツッコミ役』とか『女商人』とか『ギャグ要員』とかいった、『いかにもステレオタイプな関西人ふうなキャラ』に、関西弁をしゃべらせているだけのことなのよ」
「……ああ、そういう感じの作品て、Webか商業かにかかわらず、確かに多いですわよね」
「それで、その『理由付け』として、あなたが例に取り上げたの以外では、異世界においても何と、『関西弁をその地方の方言として使っている』地域が存在しているとか、(それこそ関西人タイプの人間ばかりが所属している)商人ギルドの公用語として指定されているとか言った、これまたもっともらしい設定を付けている作品も、結構目につくしね」
「まあ、おおむね理解いたしまたけれど、それでは、普段は関西弁を使われていないあなたが、『一人語り』においてのみ関西弁を使われたのは、一体どのような理由によるものなのでしょうか?」
「うん?………ああ、あんな風にくどくどと、解説文をびっしりと書きつづっていくばかりでは、読者の皆様が読みづらいかと思って、少しでもとっつきやすくするために、配慮しただけのことですけど?」
「──結局は、そんな理由かい⁉」




