第169話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その34)
「──『死に戻り系の作品の主人公』は当然のごとく、自分を殺し得る『難敵』に対して、勝利を獲得するまで『死に戻り』を繰り返すことになるけど、『死に戻り』の事実を認識しているのが『主人公』のみとなると、他の人たちからは『主人公』は、『本来なら何度も「死に戻り」という反則技を使わなければ勝てない相手に、たった一度挑戦しただけで勝った』ように見えることになるわけであって、これってどう考えても、おかしいよねえ?」
龍王城の玉座の間にて、ついに我々人類側の最強パーティが、龍王との最終対決に臨まんとした矢先に、肝心要の勇者である、私こと大陸最強の『悪役令嬢』オードリー=ケイスキーの(かなり年下のショタ)婚約者、ヒットシー=マツモンド=ヨシュモンド王子が、敵の龍王から戯れに、チートスキルの代表格である『死に戻り』の力を与えられた途端、七転八倒の苦しみようになってしまい、対決どころではなくなったところ、勇者パーティの一員である、実は龍王よりも更に狡猾にこの世界を密かに支配している、世界宗教聖レーン転生教団から派遣されたシスターが、とんでもないことを言い出したのであった。
曰く、現在Web小説界を席巻している、『ゲームのセーブシステムそのままの死に戻り』系の作品が、論理的に完全に矛盾しているなどと言う、文字通りの『爆弾発言』を。
「い、いや、でも、どんなに力の差があろうと、たまたま偶然に、それこそ奇跡的な幸運によって、一発の勝負で勝てることだって、一度くらいならあるのでは?」
「そうねえ、一度くらいなら、あるかもねえ? でも、これがすでに三度の『死に戻り』を経験した後の話だったら、この『主人公』は、本当は文字通り『人生を何度もやり直さなければ』勝てないような相手に、四回も連続して一発で勝利を獲得したことになるんですけど?」
「──あああああああっ、もうとても擁護できねえ!」
「結局は、『ゲーム脳で小説を書くな!』ということよ。そりゃあ『セーブシステム』は、素晴らしいアイディアと思いますけど? いくら小説の中の話とはいえ、現実に適用したら無理があることくらい、どうしてわからないかねえ……」
「──わかりました! わかりましたから! もう、『セーブ』に関しては十分ですから! そろそろ『ループ』の話に参りましょう!」
「うん? 『ループ』についても、基本的には同じことよ? 最大の矛盾点が、『以前の世界を無かったことにするところ』に尽きるの。──もっとも、『セーブ』とは、若干方向性を異にしているけどね」
「……方向性を異にする、と申しますと?(怖々)」
「そこでお聞きしますけど、あなたって、SF小説とかラノベとかWeb小説において、今やすっかり『夏(特に八月)の風物詩』としてお馴染みの、『ループ』イベントが行われた際に、いわゆる『正規ルート』以外の世界は、どのように『つくられた』とお思いですかな?」
「ループにおいて、『つくられた世界』って……」
「ほら、『何度も何度も繰り返す八月』とか『ヒロインが消失してしまった世界』とかで、最終的な『正規ルートの世界』以外で、結局は作者自身からも『無かったことにされてしまった』、哀れな『その他の世界』のことよ」
「──いやそれ、例えが具体的すぎるだろうが?」
「いえ、そんなことはないわよ? これらのパターンについては、今やパク……げふんげふん、模倣作品が山盛り存在するからね。特に毎年八月になったら、ラノベ界隈は『ループ作品』の花盛りなんだから、もううんざりよ」
「しれっと、業界批判をするな! 消されるぞ⁉」
「とにかく、ラノベやWeb上の『ループ』作品において、掃いて捨てるように登場してくる、正規ルート以外の『その他の世界』は、どのようにして生み出されているかって、聞いているんですけど?」
「……うう〜ん、例の超有名作家さんの作品では、神様同様の力を有するキャラクターが、八月を無限に繰り返したり、そのキャラから力を奪った他のキャラが、メインヒロインや不思議現象等々の、いろいろなものが『消失』した世界を生み出したりしておりましたから、やはり世界を新たに生み出すような文字通り『神懸かりなこと』は、神様クラスの力が必要なのではないでしょうか?」
「うん? その言い方だと、『神様』と言っても、それらの『作品の中にいる神様』のことのようだけど、それで間違いないよね?」
「そうですね、いわゆる『神様少女』と、その力を奪った『宇宙人少女』が、該当しますからね」
「そんなわけあるか、たとえ神様であろうが、『その作品の中に存在している者』が、世界を新たに生み出すことはもちろん、ループさせたり消失させたりできるもんか!」
「──ちょっ、何ですの、その恐れ知らずの、『全否定主義』は⁉」
「いい? 世界とは『ゴキ○リ』みたいなものなの、一匹いたら、何十匹もいるのよ?」
「いきなり新解釈⁉ 斬新すぎて、とてもついていけないんですけど⁉」
「それから、いくら生命力が強い『ゴキ○リ』だからと言って、上半身しか無かったり、下半身しか無かったり、羽だけしか無かったり、脚しか無かったり、することなんて無く、ちゃんと全身が存在しているの」
「何を当たり前のことをおっしゃっているのです、そんなこと、当然でしょう⁉」
「その当然では無いことをやってきたのが、これまで作成されてきた、『ループ』作品と言うことなのよ」
………………………………え。
『ループ』作品が、当然ではないことをやってきた、ですって?
「だって、業界で最も代表的な『ループ』作品をご覧になれば、明解でしょう?」
「そ、それって⁉」
「完全に矛盾しているのよ、『八月をエンドレスに繰り返させたり』、『ある特定の人物を消失させたり』するためには、『正規ルート』以外の、いわゆる『かませの世界』が必要になるの。──そう、自ら作品の必要に応じて『世界をでっち上げて』おきながら、ストーリー的に『正規ルート』以外は必要なくなった途端、『その他の世界』のほうの扱いに困り果ててしまい、そこら辺のところを突っ込まれると、『その他の八月の日々は、正規ルートを導くために犠牲なってくれたんだ』とか、『宇宙人少女が文学少女だった世界は、正規ルートによって上書きされて、もはや存在しないんだ』とか、何の根拠もない苦し紛れの言い訳を弄するばかり。アホか、一度生み出された世界が、『消失』してしまうことがあるものですか!」
「え? そもそも『正規ルート』以外の世界は、その作品の都合のために生み出された『つくられた世界』なんだから、ぶっちゃければ、その作品の作者さんであれば、消去することができるのではありませんの?」
「ところがどっこい、一度生み出された──いえ、一度『その存在可能性を認識された』世界は、たとえ作者といえど、けして消し去ることはできないの」
「世界の、『存在可能性』の、認識って……」
「そろそろ解答編と参りましょう、『ループ』はもちろん、『セーブ』についてもそうなんだけど、『正規ルート以外のその他の世界』というものはすべて、別に個別の作家が考え出したものなんかではなく、『存在可能性』自体は最初から存在していた、いわゆる『並行世界』のことなの」
「ぱ、並行世界って、『ループ』や『セーブ』における、正規ルート以外の、『その他の世界』がですの⁉」
「だって、『八月をエンドレスに繰り返させたり』、『ある特定の人物を消失させたり』する、『ループ作品』に出てくる、正規ルートと似たり寄ったりの世界なんて、並行世界以外の何物でもないじゃない?」
「で、でも、それらの『ループ』作品において、正規ルート以外の世界は、『八月終わりの二週間』とか『クリスマス直前の数日間』とかいったふうに、非常に限定されていて、とても俗に言う並行世界のようには思えなかったのですけど?」
「それは、その作者さんが、勝手に限定しているだけの話なの」
「何言っているの⁉ 作者さんご本人が限定していると言っているのなら、御著作内の世界は、限定されているに決まっているでしょうが⁉」
「いいえ、極論してしまうと、『その作家さんご自身の著作の世界』そのものですら、その作者さんが考えつく以前から、存在しているとも言い得るの。──なぜなら、あくまでも可能性の上の話とはいえ、世界というものは、最初からすべて存在しているのだから」




