第168話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その33)
「……私たち人間は実のところは、この世の森羅万象を、目や耳や鼻や舌や肌で感じ取っているのではなく、それらによって取り入れられた無数の情報を、脳みそにおいて計算処理して始めて、『五感』として認識しているゆえに、たとえそれが『偽りの記憶』であろうとも、例えば龍王の超常の力を用いて、直接脳みそに刷り込んでしまえば、『本当に体験したこと』になってしまうですって?」
龍王城の玉座の間にて、ついに我々人類側の最強パーティが、龍王との最終対決に臨まんとした矢先に、肝心要の勇者である、私こと大陸最強の『悪役令嬢』オードリー=ケイスキーの(かなり年下のショタ)婚約者、ヒットシー=マツモンド=ヨシュモンド王子が、敵の龍王から戯れに、チートスキルの代表格である『死に戻り』の力を与えられた途端、七転八倒の苦しみようになってしまい、対決どころではなくなったところ、勇者パーティの一員である、実は龍王よりも更に狡猾にこの世界を密かに支配している、世界宗教聖レーン転生教団から派遣されたシスターが、とんでもないことを言い出したのであった。
「ええ、これって『現代日本』においては、自明の理なんですけど? いわゆる『脳科学』というやつです」
「──っ」
このように何でもかんでも『現代日本』を引き合いに出されるのは、純然たるこの世界の人間としては業腹だが、たとえ教団からの『監視者』とはいえ、あえてここで嘘をつくメリットなぞ無いであろう。
「……それじゃ、今の王子は」
「そうよ、あくまでも彼の主観においては実際に、現代日本のWeb小説そのままの『死に戻り』現象が行われていて、何度も何度も龍王と戦って、何度も何度も敗れ去って、何度も何度も死ぬ苦しみを味わっているの」
──‼
「……どうして、ただ単に『偽りの記憶』を与えられただけで、王子がそんな目に遭わなければならいのです⁉」
具体的な攻防は行われてはいないものの、事実上『戦闘』に突入している状況にありながら、もはやとても見てはおられず堪りかねて、いまだ苦しみ続けている王子のもとへと駆け寄り、その勇者にしては小柄すぎる肢体をひしと抱きしめながら、悲痛に叫んだ。
「──どうしても何も、その『偽りの記憶を脳みそに刷り込む』ことこそが、真に現実的かつ理想的な、『本物の死に戻り』だからよ」
………………………………は?
「『偽りの記憶』を与えることこそが、『本物の死に戻り』ですって⁉ そんな馬鹿な!」
そりゃあ、ある一つの『案』として、いわゆる『仮想現実システム』的に、『架空の死に戻り』を現実のものと錯覚させるというやり方も、いかにも(ゼロ年代w)SFチックで、十分に『アリ』かと思うが、『これぞ真に現実的かつ理想的な本物の死に戻り』と断言してしまうのは、いかがなものか。
「おや、何だかご不満のようですけど、それではオードリーさん、あなたにとっての『本物の死に戻り』とは、一体どういうものを言うのですか?」
「……それはやはり、そんな『記憶の改竄』や『仮想現実』みたいものではなくて、実際に世界がやり直されて、間違いなく一度死んだ者が、ちゃんと生き返るやつだと思いますけど?」
「つまり、ゲームにおける『セーブシステム』や、SF小説やラノベ等における『ループ』みたいなものだと、おっしゃりたいわけで?」
「え、ええ、少なくとも現代日本のWeb小説における『死に戻り』のほとんどは、『セーブシステム』や『ループ』の亜流みたいなものですしね」
「……まったくもう、筆頭公爵家の御令嬢ともあろうお方が、完全に現代日本の文化に毒されて、『ゲーム脳』だか『ラノベ脳』だかに成り下がっているんだから」
「な、何ですってえ⁉」
「あのねえ、確かにこの世界は現代日本に比べれば、十分に『剣と魔法のファンタジーワールド』と呼び得るかも知れませんが、たとえそうであったとしても、『セーブシステム』とか『ループ』なんかが、現実に起こり得ると思うんですかあ? (すべてのWeb作家の皆様へ)『ファンタジー』と言っても、別に『何でもアリ☆』というわけではないんですよお?」
「──うぐっ。………い、いや、でも、『例のオリジナル作品』はともかくとして、現代日本のWebサイトにおける、二番煎じ作品以降については、どう見ても『セーブ』や『ループ』としか思えない『死に戻り』を普通に行っているし、第一『セーブ』や『ループ』でなければ、どうやって『死に戻り』を実現するというのです? それに、この作者が大好きなご存じ『量子論』の言うところの、『未来には無限の可能性があり得る』という大原則の下で、どうして『セーブ』や『ループ』だけが実現し得ないと、断言することができるわけですの?」
「おお、なかなか良い質問ですね、確かにいくら『ゲーム脳』や『ラノベ脳』そのものとはいえ、頭ごなしに『セーブ』や『ループ』を否定してしまうのも、フェアではないでしょう。わかりました、どうして『セーブ』や『ループ』が、現実にはけして起こり得ないかについて、これから微に入り細に入り詳細に述べていくことにいたしましょう」
「……ということは、またこの作者お得意の、量子論と集合無意識論に基づいて、くどくど述べていったりするわけですの?」
「いえ、あまりそればかりだとウザいし、読者の皆様も辟易しておられるでしょうから、今回は『違った角度』から攻めてみようと思います」
「違った角度、って?」
「むしろ逆に、『セーブ』や『ループ』が実現したとしたら、どれ程リアリティ的に『おかしい』かを明らかにすることによって、情け容赦なく『論理的矛盾点』を突いて、『もう二度とWeb小説やラノベの中に、登場できなくさせてやるぜ!』…………じゃなかった。ええと、何だっけ? ──ああ、そうそう、『あくまでも客観的な立場に立って、そして何よりも現実問題として、けして実際には起こり得ないことを、論理的に証明したい』かと思いま〜す♡」
「──漏れてる漏れてる、本音がダダ漏れではございませんか⁉」
「コホン……では、まず『セーブ』について、語っていきましょう。──ていうか、これはむしろ、語るまでも無いですね。このようなゲームならではのギミックが、現実に実現できるわけがないでしょうが? ほんと、これぞ『ゲーム脳』の極みでしょうw しかし大変嘆かわしいことながら、Web小説における『死に戻り』の二番煎じ作品のほとんどが、この『セーブシステム』に基づいて作成されているんですよねえ…………はあ〜(ため息)」
「だからそうやって、むやみやたらとケンカを売ろうとするスタンスは、やめてくださらないこと⁉」
「──それでは、真面目な話をいたしましょう。実はこれは、『ループ』も似たようなものだけど、『セーブ』の一番駄目なところは、『以前の世界』を無かったことにするところなのよ」
「え、世界を無かったことにする、ですって?」
「だってそうでしょう? 『セーブシステム』と言うことは、『主人公』が自分が死んだことを無かったことにするために、世界をやり直すんだから、当然それ以前の世界は、無かったことになるでしょうが?」
「ああ、うん、それはそうでございますわね」
「もはやここからは、語るのも馬鹿馬鹿しいんだけど……」
「いや、もうちょっと頑張って! あなたが馬鹿馬鹿しいと思っている手法で、実際にご自分の作品を創っておられる、二番煎じ『死に戻り』作家さんたちが、ごまんと存在しているのですから!」
「いやもう、結論は出ているんだけど、『世界をやり直す』なんてむちゃくちゃなことをしておいて、たとえファンタジー異世界を舞台にしていようが、そもそも単なる小説に過ぎなかろうが、致命的な欠陥が生じてしまうのは、自明の理なんだよねえ……」
「だからその、致命的な欠陥とは、何でございますの⁉ ちゃんと説明をなさってくださいまし!(必死)」
「つまりさあ、『ゲームのセーブシステム』のようなやり方をしているってことは、『死に戻り』が行われている事実は、『主人公』だけしか知らないわけじゃん」
「……それはそうでしょうねえ、世界そのものがやり直されるということは、『主人公』以外の人々の記憶も、すべてリセットされると考えるべきでしょうね」
「それが『主人公』の周囲にいる人たちだけだったら、『……また「二番煎じのチートスキル野郎」が、「死に戻り」をしやがった』って、納得してくれるだろうけど、ずっと遠くに住んでいるまったく関係の無い人たちにとっては、世界が何度も何度もやり直されてしまったりしたら、わけがわからないよね」
「そうですわね、『セーブ型死に戻り』については、『主人公』だけしか認識できないほうが妥当だということは、十分納得いたしましたわ」
「──となると、絶対的矛盾が生じることになるのさ。『主人公』は当然、自分を殺し得る『難敵』に対して、勝つまで『死に戻り』を繰り返すことになるけど、『死に戻り』の事実を認識しているのが『主人公』のみとなると、他の人たちからは『主人公』が、『本来なら何度も「死に戻り」という反則技を使わなければ勝てない相手に、たった一度挑戦しただけで勝った』ように見えることになるわけなのよ」




