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第16話、俺の中の悪魔がささやく、第六天の魔王になれと。(その4)

「──それから後のことは、まあ、皆さんよくご存じの通りですよ」


 そのご老人はとても年齢を感じさせないかくしゃくたる物腰で、長い長い内訳話を終えられるや、私に向かってそうおっしゃった。




 大陸南部の覇者、アレク=サンダース大王陛下。




 本来ならこの、聖レーン転生教団大陸中央部統括教会の告解室には、他国の方はお迎えしないはずなのであるが、何せ相手は教団そのものの黎明期の大恩人なのである。彼の王国による格別の庇護がなければ、今日の教団の興隆はあり得なかったであろう。

 そんな大恩のあるお方が、名指しで是非ともうちの教会で告解をされたいとおっしゃったと伺った際には、身の引き締まる思いでした。

 何せ、王侯貴族であるだけではなく、『生きた伝説』とも呼び得る、正真正銘の『英雄』であらせられるのです。

 これまで語られた半生記のすべてが、こちらの想像を絶するほどの波瀾万丈のものばかりで、ここが『告解』の場であることも忘れて、ただただ聞き入るばかりでした。


 中でも興味を惹かれたのは、大王様が決起される切っ掛けとなったのが、『転生者』に憑依されたからと言うことでした。


 我ら転生教団の者としても、その運命的(えにし)に、感じ入るばかりです。




 ──しかし実は、『転生者』が切っ掛けだったからこそ、今この時陛下が、深き悔恨と懊悩に苛まれているのは、何という皮肉な話なのでしょうか。




「……最近になって、疑問に思うようになったのですよ。これまで『織田信長』を名乗る、『心の声』に従い続けてきたことが、本当に正しかったのかと。確かに『信長』のお陰で、本来王族であること自体を剥奪されるはずだったわしが、今や大陸南部一帯を版図とする、この世界有数の一大勢力の旗頭となれたことには、感謝の念に堪えませんが、それを達成するために、自国他国を問わず、数多くの人々の命を奪ってしまいました。本当はそんなことはしたくなかったのですが、『信長の声』に従う限りは、けして避けることができなかったのです。──のう、司祭様、今までずっと『信長』に従い続けてきたわしは、本当に間違っていなかったのでしょうか? 『彼』は本当は、わしをこの世の災厄の具現たる、『魔王』に仕立て上げてしまったのではないのだろうか?」


 心の底から、不安そうに訴えかけてくる、不幸にも『織田信長という職業に無理やり就かされてしまった』大王様。

 だから私は、彼を安心させるために、

 ──とんでもない、驚天動地の『真実』を開陳した。




「ご心配には及びません、あなたは魔王どころか、『織田信長という職業』を引き継いだわけでもなく、ただ単に、現代日本で言うところの、『信○の野望』というゲームにおける、ゲームのコマのような存在でしかないのですから」




「…………………………………………は?」




 何を言われたのかわからなかったのだろう、あの英雄が、口をあんぐりと開け放って硬直してしまうという、滅多に見られない醜態をさらしていた。

 だがそこは海千山千の、いくさびとであり、政治家であり、支配者といったところか。

 すぐさま我へと返り、顔を紅潮させ、烈火のごとき怒りをあらわにする。


「貴様! 言うに事欠いて、このアレク=サンダース大王のことを、ゲームのコマ呼ばわりとは、何たる侮辱! よもや、ただで済むと思うなよ? それに大体が、わしが大陸の南部一帯を支配するには、持てる武力や知力を最大限に駆使しても数十年もかかったのだぞ? その一部始終をゲームとして仕組むなぞという、大それたことをできる者なぞ、この世にいるわけがなかろう!」


 その怒鳴り声は、大地を振るわすかのような錯覚を覚えるほどの、裂帛の一喝であったが、

 私は微塵も動ぜずに、あっさりと真相を開陳する。




「──ああ、今回の『ゲーム』をお膳立てしたのは、他でもない、我々聖レーン転生教団でありますので、何ら間違いはございませんよ」




「な、何?」

 またしても、予想外すぎる言葉を突き付けられて、一気に怒りの炎を鎮火してしまう、ご老体。

「貴様ら転生教団が、言わばわしの『半生』を、ゲームとして仕組んだと? そ、そんな馬鹿な! そもそも『織田信長』が、わしの頭の中に現れたのは、今から何十年も昔の話だぞ? その時分の教団は、今ほどの力を持たない、単なるいち弱小宗教団体だったではないか?」

「そうですね、当時の教団では、とても無理でしょう」

「だったら──」




「お間違えにならないでください、今回のゲームを仕組んだのは、()()()教団なのですよ」




「あう…………?」

『もはや言葉にもならない』とは、まさに現在の大王様の心境であろう。

 ──それでも一縷の望みをかけて、彼は問い返す。

「なぜだ! なぜ現在の教団が、数十年前のわしに干渉することができるのだ⁉」

「ええ、そんなこと、できやしませんよ。それってまさしく、『過去への干渉や改変』に当たりますからね。たとえ今や異世界転生の実現が、全異世界的に公然と認められていようと、『過去への干渉』がタブーであり、『過去の改変』なぞけして不可能であるのは、揺るがしようのない、『世界における真理』なのです」

「だったら、数十年前のわしをゲームのコマにすることなんて、誰にもできないはずだろうが⁉」




「確かに、この世界の者であれば、我々転生教団も含めて、絶対に不可能でしょう。──しかし、現代日本におられる方なら、十分可能なのですよ」




「え、何それ……」

 何かもう、反応が薄くなってしまって、もはや『大王』としてのアイデンティティが崩壊しそうですが、無理からぬことでしょう。

「現代の日本の方が、この世界を含む、()()()()異世界に転生できるとします。この『すべて』には、『すべての時代』という意味すらも含まれているのです。何せある時点の異世界に転生できるとしたら、他の時点の異世界には転生できないなんて、制限を設ける必要なぞどこにもありませんからね。──ここが重要な点ですが、異世界人が自分の異世界で同じことをやれば『タイムトラベル』になってしまいますが、現代日本人においては、ある異世界の10年前に転生しようが10年後に転生しようが、あくまでもただの『異世界転生』なのであり、『タイムトラベル』ではあり得ないのです。だって現代日本人は異世界人ではありませんので、あくまでも世界の外側から転生してくることはあろうとも、世界の内側で時間を行ったり来たりはしていませんからね。──つまり、異世界にとってはあくまでも『外側の存在』である現代日本人であれば、異世界の過去に干渉して、まさしくその過去を改変することだって、十分可能なのですよ」

「な、何だと? では、今回の数十年にわたる『ゲーム』も──」

「ええ、我々教団はあくまでも『お膳立て』をしただけであって、実際の『過去への干渉』的行為はすべて、()()()()()()()()『織田信長』や『柴田勝家』等の、『転生者』の皆さんのほうでやっていただいたのです」

「──ちょっと待て! 貴様、今何と言った⁉ 織田信長やその腹心の戦国武将たちが、現代日本人だと⁉」

 何と、ここまで話が進んでいて、まだ気がつかれていなかったのですか?

 ……やれやれ仕方ない、ここは懇切丁寧に、一から説明いたしますか。




「──そうなのです、実は彼らは『織田信長』等の戦国武将本人なぞではなく、現代日本の、単なる歴史マニアのゲーマーでしかなかったのですよ」

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