第159話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その24)
「──ところで、ヒットシー王子さん、私のこの髪や瞳の色って、どう思われます?」
………………………へ?
完全に、傍観的解説キャラを気取っていたら、渦中の巫女姫少女に面と向かって声をかけられてしまい、ついキョドってしまう僕こと、奨励会三段のDS、金大中小太であった。
「──いやだから、僕は『ヒットシー』とかいう人の、生まれ変わりじゃないですってば⁉」
それに『王子』に付ける尊称は、『さん』ではなく、『様』あたりのほうがいいのでは?
「……まあ、そちらさんのほうはそちらさんの作品において、異世界の『巫女姫兼悪役令嬢』の転生体として、公称しておられるのだから、そういった神秘的な髪や瞳の色も、十分お似合いかと思いますよ?」
「まあ、さすがは『王子様』、そのお年で何の気負いも無くさらっと、女の子の容姿を褒め讃えることができるとは♡」
だ・か・ら、僕は王子様なんかでは、ないと────って、ひいいいいいっ⁉
「……ふうん、王子ってば、そのようないかにも異世界チックな色合いをした、髪や瞳がお好みだったのですの?」
ふと気がつけば、僕の隣で密着して座っていた、女流タイトルの扶桑桜花のJK美少女棋士、零条安久谷嬢が、鬼の形相で睨みつけていた。
「──痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い、お願い、鋭く伸びた爪で、人のお尻をつねらないで⁉」
「……前世では、私の金髪碧眼に、それほどご興味を示さなかったくせに、まさか現代日本へと転生した途端、そのように他の女性の御容姿なぞに、現を抜かされるようになられるとは」
「だから僕には、あなたたちの言っている『前世の記憶』なんて、これっぽっちも無いんですってば⁉ それに詠嬢の銀髪金目が殊更目を惹くのは、顔の造作自体が和風なのはもちろん、まとっている衣装が伝統的な巫女装束なもんで、ギャップ萌えの威力がマシマシになっているだけですよ!」
「──くっ、確かに。だったら私も、扶桑桜花らしく、振り袖でも着てくれば良かったですわ……ッ」
「振り袖って、公式の対局でも無いのに⁉」
「……何だったら、王子様と二人っきりの時でも、構いませんことよ♡」
「──ファンタジーワールドの悪役令嬢が、王子様に振り袖姿で迫るってのも、すごく斬新だとは思うけど、お願いだからそれは、他のエピソードでやってください!」
そのように僕らが、いつものごとく(?)、馬鹿げたやりとりを行っていると、
「うふふふふ、相変わらず(?)、仲がおよろしいこと、少々やけますわあ〜w」
だからあんたも、『前世(=別エピソード)』を前提にして、語るんじゃないよ⁉
一応僕たちは(本エピソードにおいては)、今日が初対面みたいなものなんだぞ?
「……何を他人事みたいにおっしゃっているんですか? そもそもあなたが、変なことを言い出すから、悪いんでしょうが?」
「あら、ごめんなさいねえ、何せ、この髪と瞳の色は、私のご自慢なのですもの♡」
こ、この、言うに事欠いて、自画自賛かよ? まさかそのための、巧妙な『フリ』だったのか?
「──だって、最愛の双子の姉から、命と同時に、奪い取ったのですからね」
………………………………は?
「髪の毛や瞳を、奪い取ったって……」
しかも、命と同時に、だって?
「そもそもこの銀髪と金目こそはまさしく、『過去詠みの巫女姫』である証しなのであり、たとえ明石月家において同じ双子の姉妹として生まれようとも、巫女姫の力を持たなかったら、普通の黒髪黒目でしかないわけ。──この私のようにね」
「えっ、でも、あなたって現に、銀髪金目ではないですか?」
「だから言っているでしょう、『奪った』って」
……その『奪った』という意味がわからないから、聞いているんだよ⁉
「そもそもこの髪と瞳の色は、個人に属するものではなく、あくまでもかつての『初代の過去詠みの巫女姫』の魂を受け継いでいるという、証しでしかないの。──ところで、必ず双子として生まれる明石月の本家の娘のうちの、巫女姫として生まれなかったほうは、実は『巫女姫のスペア』としての役目を果たす運命にあるのよ」
「……え、スペアとしての、役目って?」
「もし仮に、巫女姫のほうの娘が不幸にも亡くなった場合、『初代の過去詠みの巫女姫の魂の憑坐』としての役目は、双子の片割れのほうへと委譲され、その証しとして、髪の毛と瞳の色が銀色と金色になるわけなの。──双子の姉を死へと追いやった私が、こうして巫女姫に成り代われたようにね」
「なっ⁉」
自分の双子の姉から、巫女姫としての魂を奪うために、自ら死へと追い込んだだと⁉
「……何で……そんな……ことを……」
「どうしても欲しかったのよ、『あの人』のことを。──そう、いつも私の目の前で、姉の髪の毛と瞳の色ばかりを褒め讃えて続けて、誰よりも愛していた『あの人』を」
──っ。
「そして私は、姉の『不幸な未来を予知する力』を手に入れることになり、その結果当然のこととして、自分自身の不幸な未来を知ることになったわ。──けして私が、愛する『あの人』とは、結ばれることのあり得ない、『絶望の未来』をね」




