第155話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その20)
「──さて、このままアユミちゃんにつき合って、アンドロイドVS予知能力者の、ガチの勝負を行っても構わないのですが、その前にちょっと『腕ならし』的に、私の巫女姫としての力というものを、今日ここにお集まりの皆様にお見せしておきましょうかねえ」
………………………………は?
未来予測の巫女姫とアンドロイド美少女との、異形の将棋バトルが、定跡から離れていよいよ先の見えない展開へと突入したかと思えば、銀髪金目のエキゾチック巫女さんが、何かおかしなことを言い出したぞ?
「ちょっと何ですか、詠さん、勝負の途中でいきなり、『腕ならし』とか『巫女姫としての力』などと、おっしゃったりして?」
対局中に外野が声をかけるのは、本来なら御法度なのだが、これは真剣勝負というよりも模擬戦のようなものだし、そもそも対局者本人が、あえて意味ありげなことを口にしたのだから、突っ込まないほうが無粋と言えよう。
……ほら、巫女姫さんのほうも、いかにも「待ってました♡」といった感じで、
──更にとんでもないことを、言い出したりして。
「あら、巫女といえば当然、『神降ろし』ではないですか? つまり私の巫女としてのデフォルトの力を使えば、未来予知なぞする必要も無く、ダイレクトに過去の偉大なる棋士たちに成り切って、その天性の勝負師としての力を使うことができるのですよ」
なっ⁉ 巫女ならではの神降ろし──つまりは、『憑依能力』によって、過去の伝説的棋士たちの力を、使えるようになるだって⁉
そんな、馬鹿な!
……それってむしろ、こんな短編連作なんかで使わずに、まるまる一本、長編シリーズが創れるんじゃないの? 何てもったいない!
「──と言うことで、黒縄竜王、何かお茶請けになるものを、山ほど持ってきていただけませんか?」
「うむ、承知した」
へ? お茶請け? それも山盛りって……。
対局中だというのに、やりたい放題だな、この巫女姫さんときたら。
しかも師匠ってば、何らとがめ立てすること無く、キッチンに引っ込んだかと思ったら、ケーキとかクッキーとかチョコレートとかシュークリームとか、何か甘ったらしいのを、本当に山ほど持ってきやがったぞ?
「おおっ、サンキュー・ベリー・マッチ!」
「いえ、どういたしまして」
「いただきまーす♫」
……おいおい、本当に食べ始めたぞ、対局中だというのに⁉
「し、師匠、これって一体?」
零条扶桑桜花とともに盤側に座している、僕こと金大中小太奨励会三段のもとへと戻ってきて、不必要に密着して座ろうとしている、己のお師匠様にして現竜王へと、お伺いを立てれば、いかにも当然のようにして答えを返してきた。
「どうした、小太、何を慌てふためいているのだ? 勝負はすでに始まっているのだぞ?」
「勝負は始まっているって…………ま、まさか⁉」
「そう、彼女は今や身も心も、伝説の勝負師そのものとなっているのだよ」
い、いつの間に?
「──いやいや、そういう『神降ろし』とかいうやつって、いかにもこれぞ見せ所の『儀式』的に、派手に行わないでいいんですかあ⁉」
何かこう、目を閉じて瞑想しつつ、天に向かって両手を広げるといった、文字通りに『神に祈る』ような、お約束的なアクションなんかしてさあ!
師匠師匠で、何を唯々諾々と、お茶菓子なんか用意してやっているの⁉
「……おい、小太、そんないかにも不満そうな顔をして、一体どうしたんだ? これまで何度も何度も言ってきたではないか? 神降ろしとか憑依現象とか言ったところで、実際上は、集合的無意識とアクセスをして、特定の他人の『記憶と知識』を、己の脳みそにインストールするだけのことであり、別に巫女姫だからって、大仰な儀式なぞする必要は無いのだと」
あ、そういえば、そうでした。
「モグ……そうですよ……ムグ……王子様……ムシャムシャ……今の私は……ガツガツ……ただのお茶目なJK巫女ではなくて……ゴクゴク……我が国の歴史に名を刻んだ……ゴックン……古強者なのですからね!」
「──あんたは、食べるかしゃべるか、どちらかにしろよ⁉」
ていうか、何はさておき、対局に集中するべきだろうが!
そのように、僕が心からあきれ果てながら抗議しているのをよそに、山のようだったスイーツが、見る間に彼女の細身の胃袋へと消えていった。
「──歴史に名を刻んだ古強者って、もしかして、『一航戦の、赤いやつのほう』とか⁉」
「……小太、何で『艦む○』なんだ? 将棋の対局のために神降ろしをしているのだから、憑依しているのは当然、古今東西の名棋士に決まっているだろうが?」
(伝説の雀士では無いほうの)『ア○ギ』みたいな大食らいで、かつての名棋士………………っていうことは、もしかして⁉
「『ひふ○ん』か、今彼女の身には、『ひふ○ん』が乗り移っているわけなのですか⁉」
「そうだ、集合的無意識を介しての神降ろしであれば、現在もなお存命中の人物の、『記憶や知識』をインストールすることすらもできるからな」
確かに『ひふ○ん』だったら、あれ程たくさんのスイーツを、対局中にすべて平らげてしまっても、別におかしくはないか。
そのように、僕が心底驚愕に打ち震えているうちにも、お茶請けをすべて食べ終えた巫女姫様は、次々とかつて一世を風靡した、伝説の棋士たちをその身に降ろして、量子コンピュータ仕込みのアンドロイド美少女との対局を、自ら主導的に押し進めていったのであったのだ。
そして、いよいよ中盤戦も佳境を迎えようとしている、現在の状況はと言うと。
「あ、あれ、何だかアンドロイドのアユミちゃんのほうが、一方的に優勢な盤面となっているような気がするんですけど?」
「そりゃあそうだろう、かつての名棋士ということは、活躍していた時代的にも、そのほとんどの方たちが、『コンピュータ対局』というものに不慣れなんだから、まさにコンピュータ技術の結晶とも言える、将棋専用アンドロイドのアユミちゃんに、敵いっこないだろうが?」
そのように、あっけなくもあっさりと、今更ながらなことを言い出す、お師匠様。
──駄目じゃん!




