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第150話、『姉弟子』なるもの♡(前編)

 僕の名前は、きんだいちゅうショウ


 いまだよわい十歳でありながら、プロ棋士の登竜門である奨励会における最高位である三段リーグ所属の、将棋界きっての期待のホープだ。


 今日も今日とて現在内弟子としてお世話になっている、プロ棋士屈指の実力者で現(りゅう)おうであられるお師匠様のお宅で、詰め将棋の修練に精を出していた。


 そのように、すべてが順風満帆であるかのように見える僕であったが、当然人並みに悩みがあった。




「……はあ、淋しいなあ」




 そうなのである。


 実は僕は今よりももっと幼い時分に、両親を事故で亡くしてしまい、他に兄弟も近しい親戚もおらず、文字通りの天涯孤独の身だったのだ。


 幸い父のプロ棋士時代の親友であったお師匠様が、内弟子として引き取ってくださったし、同じ奨励会員として切磋琢磨している仲間ライバルたちも大勢いるしで、今やある意味将棋界そのものが一つの大きな家族みたいなものとなっており、日々の生活や将来の展望に関して、困ることは何も無かった。




 ──しかしそれでも、まだ小学生の身空にあっては、肉親の情を求める余りに、孤独感を覚えてしまうのは、致し方ないところであろう。




 特に今日のように、お師匠様が二日間にわたるタイトル戦のために出かけていて、一人広い家の中で、留守番をしている夜なんかは。




 ……しかし、それも、今夜までの話だ。


 そう、この詰め将棋さえ、解くことができれば!


『魔方陣』。


 何とも禍々しい名称であるが、それにふさわしく、いわゆる『いわくつき』の詰め将棋であった。


 魔方陣と言うだけであって、見るからに複雑怪奇な駒並びとなっており、高位のプロ棋士でも解くのに難儀するほどであったが、もしも最後の詰みまで読み解くことができれば、『将棋の神様』──あるいは、魔方陣の中に棲み着く『悪魔』が、何でも願いを一つだけ叶えてくれると、まことしやかに噂されていたのだ。


 ……もちろん、僕としても、そんな眉唾話を、本気で信じているわけではなかった。




 それでも、親兄弟に対する本源的欲求というものは、どうしても抑えきれなかったのだ。




「──よし、解けたぞ!」


 気の遠くなるような試行錯誤の末に、ようやくたどり着いた、一筋の『』。


 それは間違いなく、ほとんど到達した者のいない、難攻不落の砦を開放するための鍵を、手に入れた瞬間であった。




 ──まさにその刹那、目映い閃光に包み込まれて、視界を完全に奪われてしまう。




「うわっ⁉」


 気がつけば、将棋盤のすぐ上の宙空には、一人の少女が浮かんでいた。


 年の頃は十五、六歳といったところであろうが、その洗練された所作と威厳に満ちた顔つきは、いまだ小学生の僕から見れば十分に大人びて見えた。


 長い髪の毛は、つやめく烏の濡れ羽色だし、端整な小顔の中の瞳は、黒水晶そのものだし、漆黒のサマードレスに包み込まれた華奢な肢体は、初雪のごとき色白さだし、まさしく『絶世の美少女』とは、このことを言うのであろう。




「──いやいや、れいじょう扶桑アンラッキー桜花・ロケット! あなた、人気女流棋士でタイトルホルダーの、零条()さんですよねえ? それが何でこんな真夜中に突然、師匠のお宅に現れるのですか⁉」


「何をおっしゃられるのやら、わたくしは異世界ヨシュモンド王国の筆頭公爵令嬢にして、『悪役令嬢』の称号を誇る、希代の大魔王、オードリー=ケイスキーですわ!」


「……なんか、『悪役令嬢って、称号だったのかよ⁉』とか、ツッコミどころがいっぱいの台詞だけど、それはさておいて、あんたのどこが、異世界のお姫様だか大魔王なんだよ⁉ 確かオードリーって、金髪碧眼だったじゃないか! つうか、その外見は間違いなく、零条扶桑(アンラッキー)桜花・ロケット以外の何物でもないだろうが⁉」


わたくしがこの外見なのは、他ならぬあなた様の、『望み』を叶えるためなのです」


「へ? 僕の望みって……」




「お喜びください、今日からこのわたくしがあなたの『姉弟子』として、こくじょう竜王の内弟子となり、ずっとお側に侍って差し上げますわ♡」




 ………………………………は?


「何だよ、『姉弟子』って? 異世界の悪役令嬢だか大魔王だかが、姉弟子になることが、どうして僕の望みを叶えることになるんだよ⁉」


「ほら、この作品の元ネタで、ロリコン竜王が天涯孤独の美少女JS(女子小学生)を弟子にすることで、師匠や兄弟弟子という家族を与えてやるという、例のアレですよ」


「別に元ネタなんかじゃ無いよ! 誤解を招くようなことを言うなよな⁉ 今回のネタはどちらかと言うと、例の『おねショタ』作品だろうが!」




「──そうなのです! 問題は何よりも、それなのですよ!」




「おわっ⁉ ──ちょっ、近い近い近すぎる! もっと離れろよ⁉」


 なぜか僕の台詞を聞くや血相を変えて、空中を滑るようにして迫ってきた、自称悪役令嬢。




「この作品、『将棋×おねショタ』をキャッチフレーズにして連載を始めたくせに、最近の内容ときたら何ですか⁉ やれ『量子論』がどうの、『集合的無意識』がどうの、『全知』がどうの、『未来予測』がどうのと、読者様を置き去りにして、難解極まるSFワードの羅列ばかり。そんなもの、誰も望んでないんだよ⁉ 完全に、作者の自己満足だろうが⁉ ──というわけで、公約通りに、今回は【連載150回記念】にかこつけて、全編『おねショタ』テイストでお送りすることにいたしましたの♡♡♡」




「──あのアホ作者、本編の流れをいきなりぶった切るなと、あれ程何度も言われている癖に、まだわからないのかよ⁉」




「さあさあ、幸い今夜はわたくしたち二人っきりでございますので、心ゆくまで『淋しい独り寝のショタ美少年をお慰み申し上げます』わ♡ ──何せそのための、『姉弟子』なのですからね」


「言い方! 『天涯孤独の幼い少年の淋しさを慰める』という清らか極まる感動巨編が、何か異様に淫猥に聞こえるんですけど⁉ それにどうしてそこまで、『姉弟子』であることにこだわるわけ?」


 ……いや、確かにあの『11巻』は、超名作だったけど、あれでぎん()ちゃんが『最終的勝利者』として確定したとは、まだ決まってないだろうが?




「うふふふふ、大魔王は何でもお見通しなのですよ? あなたは単に肉親に恋い焦がれているだけではなく、特に『姉なるもの』を欲しておられるでしょう♡」




「──ぎくっ」


「しかし、世のことわりからすれば、いくらお父様とお母様が頑張ろうが、姉や兄を弟や妹よりも後に生み出すことなぞ、『ジ○ムおじさん』でも無ければ、わたくしのような大魔王にでも願わなければ、到底叶うことは無いでしょう」


「……またツッコミどころいっぱいの台詞を。何だよその、『ジ○ムおじさん』ってのは?」


「その昔、潜在的にガチレズの気のあったメロン○ンナちゃんが、ジ○ムおじさんに頼んで、『お姉ちゃん』であるロール○ンナちゃんを作らせたことがあったのです。こういった場合新たに作るのは、普通『妹』ですよねえ? 果たしてメロン○ンナちゃんは、文字通りに赤子同然に世の中のことを何も知らない、純真無垢なる『お姉ちゃん』を手に入れて、ナニをするつもりだったのでしょうね♡」


「──やめろ! 健全なお子様向け作品を、変態の視点で歪曲するんじゃない!」


「実はたけ○元総理のお孫さんも、かつて同人誌において──」


「それ以上言ったら、ガチでこの世から消されるので、本気で止めなさい」


「あ、はい」


「……まったく、それで何だって? 結局あんたが、僕の『姉弟子』になるってことなのかよ?」


「ぐふふふふ、その通りでございます。そしていったん大魔王を受け容れてしまったあなたは、もはや逃れようが無く、これからはずっと時と場合を選ばずに、わたくしと存分に愛し合っていくことになるのですわ♡♡♡」


「──完全に、『姉なる○の』じゃん! しかも、18禁版の! そこはせめて全年齢対象の、『G'sコ○ック』版にしようよ!」


「そんなぬるい内容で、大魔王であるこのわたくしが、満足するとでも?」


 そのように、僕らが馬鹿話に花を咲かせていた、まさにその時。




「──こらあ、貴様ら、こんな夜中に、何をやっておるのじゃ⁉」




 突然、将棋の修練用に使われている、十二畳の広々とした和室にて響き渡る、幼い声音。


 思わず二人して振り向けば、部屋の入り口の手前に、一人の少女──否、幼女が立ちはだかっていた。


 髪の毛から瞳の色に、まとっている衣服まで、全身禍々しき漆黒で統一されているのは、大魔王様と同様であったが、人形そのままに異様に整っているかんばせのためか、どこか神秘的にも感じられた。


「……何この、『のじゃロリ』幼女は? 何でこうも唐突に、おかしなキャラばかり登場してくるわけ? この子も、扶桑アンラッキー桜花・ロケットの仲間だったりするの?」


「そんなやつと一緒にするでない! 貴様、自分の師匠の顔も、見忘れたのか⁉」


「はあ? 何を言っているんだよ? 僕の師匠の黒縄竜王は、若いながらも苦み走った、美丈夫の三十代だぞ?」


 そのように、僕が至極当然の見解を示せば、なぜか大魔王様が、いかにも言いにくそうに、口を挟んできた。




「……あー、実は王子、そやつこそは、黒縄竜王の前世の姿──つまりは、異世界ヨシュモンド王国における、『龍王』スネグーロチカの、真の姿なのですわ」




 ──何ですとー⁉














「……ていうか、そんな重大なネタばらしを、本編では無く、番外編で行ってしまって、いいのかよ⁉」


「おそらくは、本編においてはまた、『無かったこと』にするつもりなのでは?」


「ホント、性懲りもないよな、この作者ときたら⁉」

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