第145話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その13)
……この現在我々の目の前に存在している世界が、夢であるかも知れない可能性は、けして否定できないだってえ⁉
「いやいや、確かにほとんど確率0%であろうと、この世界が夢である可能性はけして否定できないというのは、百億歩ほど譲って納得できなくはないですけど、だからって、この世界を夢として見ながら眠り続ける『神様みたいな存在』がいるのを、実証することになるわけでは無いでしょうが⁉」
次々とお見舞いされる己のお師匠様である現役竜王のトンデモ理論の連発に、たじたじとなりながらも、とてもそのすべてに対して無条件で頷くわけにはいかず、僕こと奨励会三段のDS金大中小太は、果敢に反駁した。
「ほう、そうすると君は、『自分自身の存在』を、否定するわけなのかな?」
「へ? 僕自身の存在、って……」
「もしも、まさにこの世界が夢だったとして、目覚めた時、そこにいるのは、一体誰なんだろうね?」
………………あ。
「そうか、もしもこの世界が夢だとしたら、普通それを見ているのは僕自身であるはずで、もしそうでなかったら、夢が覚めるとともに、僕は消えてしまうことになるんだ! ──いやいやいや、そんなのごめんですよ! お師匠様や他のみんなには悪いけど、この世界を夢見ているのは、このぼく自身でないと、絶対に困りますよ⁉」
「そうだろうそうだろう、誰だって、そう思うに違いないよな?」
「で、でも、僕は断じて、『この世界を夢見て眠り続けている』とかいう、とんでもない神様なんかでは無いんですけど⁉」
「何で、そんなことが、断言できるんだい?」
「そりゃあできますよ、師匠もご存じの通り、僕は単なる奨励会三段の、プロ棋士の卵の小学生でしかないんだし」
「おやおや、では君は、まったくの他人に──例えば、自分の身の回りの知人の誰かとか、現在お気に入りのラノベやアニメの主人公とかになった夢を、見たことが無いとでも言うつもりなのかね?」
「い、いえ、確かに友人とかアニメの主人公とかの、自分以外の人物になった夢くらい、何度か見たことがありますけど?」
「とすると、もしも現在のこの現実世界が、万が一夢だった場合、君は目覚めるとともに、『自分とはまったくの別人』となる可能性だってあるわけで、それが『ありとあらゆる世界を夢見ている、神様的な存在』だったとしても、別におかしくは無いだろう?」
──‼
「そ、そうか、『僕が別人になる』夢を見る可能性があるのなら、『別人が僕になる』夢を見る可能性だってあるわけで、しかも現在のこの世界こそが、まさにその夢かも知れないんだ!」
……いや、ちょっと待てよ?
「うおっ、危ねえ、もう少しで、詭弁に騙されるところだった! 確かにこの世界が、僕とは別の『僕』が見ている夢である可能性もあり得ますが、それは別に普通の人間で構わず、『世界を夢として眠り続けている神様』などといった、超常的存在であるとは決まってはいないじゃないですか⁉」
「うんだから、その普通の人間こそが、『世界を夢として眠り続けている神様』そのものであっても、構わないではないか?」
「はあ⁉ いやだって、『ありとあらゆる世界を夢として眠り続けている』んですよ? そんな文字通り神様そのままのことを、普通の人間ができるわけないでしょうが⁉」
「これって、『世界を夢見ている神様』に対する、あまりにも『常套句的な疑問』なんだけど、その神様って、本当に夢から覚めたら、自分自身はどうなるんだろうね?」
「ど、どうなるって……」
「神様って言うくらいだから、天国みたいなところで寝ているのかな?」
「……あー、そういえば、天国そのものってわけじゃないけど、そういった神様とか女神様っぽいキャラって、何か異次元とか豪華な神殿の中とか、特別な場所で寝ているってのが、ラノベやWeb小説等の創作物の中では多いですよね?」
「──そういった創作物によってこそ、誤ったイメージが定着してしまったわけで、本当にゆゆしきことだと思うよ。別にこの世界を夢見ている神様的存在であろうが、何も特別の環境で眠っている必要は無いんじゃないのか?」
………………………………は?
「ちょ、ちょっと、何をいきなり爆弾発言をぶちかましてるんですか⁉ 何か既存のラノベとかWeb小説とかが、全部間違っているようにおっしゃったりして! そもそも『神様』なんて人によって『解釈』自体が異なるんだから、その『描写』に絶対的正解があるわけ無いじゃないですか⁉」
「特にひどいのは、自分が見ているはずの夢の中に、『世界を夢見ている神様』自身も存在しているという、完全に矛盾している作品すらも、けして少なくないといった体たらくだしな。神様を自分の作品内に登場させるのなら、もうちょっと考えてから、登場させろって言うんだよ?」
「おい、やめろ! あんたこそ、もっとちゃんと考えてから、発言しろよ⁉」
「ははは、いや、悪い悪い。しかし、別にデタラメを言っているわけでも無いぞ? 何せ『世界を夢見ている神様』と言っても、別に特別な環境に存在する特別の存在ではなく、ただの人間そのものだって構わないんだしな」
「だから何で、どう感考えても、そのように人並み外れた『神様』が、ただの人間ってことになるんですか⁉」
「うん、ここは極力わかりやすく説明するために、あえてただの人間ではなくて、先ほども話に出てきた中国神話等で高名な、『世界を夢見ながら眠り続けている黄色い龍』を例に取り上げてようと思うのだが、君さあ、このような人間にとって神様そのものの龍が眠っているとしたら、どんな環境で眠っていると思う?」
「そ、そりゃあ、龍と言ったら、それこそ中国の深い山奥の中で、ひっそりと一匹で眠りについているんじゃないですか?」
「うん、黄龍は海底で眠っているという説もあるが、その一方で、山奥というのも一般的だよな? ──まあ、そこら辺のところはどっちでもいいとして、ちなみにその龍は広い世界の中で、たった一匹で孤独に暮らしているわけなのかね?」
「えーと、龍って縄張り意識が強くて、しかも孤高を愛するイメージがあるから、普段は一匹ずつ離れ離れで暮らしていると思うけど、完全に『概念的な神様』ではなく、神様のような力を持っているけど、あくまでも『生き物』である場合は、たった一匹しかいないなんてことは無く、子孫を作る場合には別の龍とつがいになったりすることもあるんじゃないでしょうか?」
「そうだよな? その龍が神様みたいなのは、あくまでも(自分の夢の中の)人間に対してだけで、他のすべての竜が、黄龍と同じ超常の力を持っていても別におかしくも無く、その龍はあくまでも龍の基準では、神様なんかでは無く、『普通の龍』であっても構わないよな?」
「うっ、そ、そうですね、竜がデフォルトで超常の力を持っていても当然だし、むしろ何の力を持っていない龍なんて龍じゃ無いだろうし、人間にとって神様であろうと、他の龍との関係では、単なる『平凡な個体』であっても、別に不思議ではありませんよね」
「おお、ようやく納得してくれたかね、後は『龍』と『人間』を置き換えるだけで、すべては解決するではないか♫」
「……龍と人間を、置き換えろって?」
「何度も何度も言っているが、このように『誤解』が広まってしまっているのは、ただ単に小説や漫画等の創作物が間違っているだけなんだ。別に『世界を夢見ている』と言っても、特別な存在である必要は無く、ただの人間で構わないんだ。──だって、確かに夢として見られている者たちからしたら、神様そのものと見なされているかも知れないが、本人してみれば、先ほど例に挙げた黄龍同様に、ただ単に夢を見ているだけなのだからね。──なあ? 『夢を見る』ことって、別に特別なことなんかでは無く、それこそ我々『平凡なる人間』をも含む、誰にでもできることだよな?」
──っ。




