第144話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その12)
「神様とは、人智を超えた超常現象を起こせる存在であり、人智を超えた超常現象とは、自分や他人を集合的無意識とアクセスさせることによってこそ、実現できるのだ。──つまり、神様とは、自分や他人を集合的無意識にアクセスさせる能力を、有する存在ということになるのだよ」
「えっ、集合的無意識って、いわゆる『閃き』のようなもので、偶然アクセスするしか、接触する方法は無かったんじゃないのですか⁉」
現役の竜王であるお師匠様のあまりに意外なる言葉に、僕こと内弟子の奨励会三段金大中小太は、思わず問い返した。
それに対して当の師匠のほうは、泰然とした表情を揺るがすことなく、あっけなく答えを返す。
「平々凡々とした普通の人間にとっては、超常現象なんて、偶然に拠る以外は無いだろうが、そのような超常現象を、偶然なぞではなく自覚的に実現してこそ、『神』とも呼び得るのではないのか?」
「……あ」
──そ、そうか、それもそうだよな。
「とはいえ、このように他者を集合的無意識にアクセスさせることによって、超常現象を実現させる存在──例えば、現代日本人に異世界人の『記憶と知識』をインストールすることで『異世界転生』を実現している、『なろうの女神』なぞといった輩は、別に本人自身に先天的に集合的無意識へのアクセス能力があったわけではなく、『本物の神様』によって与えられたものに過ぎないのだよ」
………………………………は。
「ちょっと待ってください、それってつまりは、『なろうの女神』って本物の神様ではなく、彼女に『他人を異世界転生させる力』を与えた者が、別に存在しているというわけなんですか⁉」
「いいか、小太、たとえどのように超常的な人物や人外や物質であろうと、論理的説明ができなければ、その存在を否定しなければならないのだ。ほとんどすべての異能が、『集合的無意識とのアクセス』によって実現可能となるようにね。──だったらそもそも、『集合的無意識などといった、ユング心理学で言うところの「超自我的領域」とアクセスするなんて、どうすればいいのか?』についても、論理的に説明できなければならないのだよ」
「えっ、それはもちろん、『なろうの女神』なんかが、文字通りに『神様的な存在』だからじゃないんですか?」
「その『神様なんだから、「何でもアリ☆」で、いいではありませんか?』という理念こそが、間違いだと言っているのよ。しかもさっきも言った通り、『なろうの女神』は真の意味では神様じゃなく、ただ単に『集合的無意識とのアクセス能力』を与えられているだけに過ぎないのだ」
「……それでは、『なろうの女神』なんかに、『神様としての力』を与えたという、『本物の神様』とは、一体何者なんですか? これまでの神話や伝承で語られてきた、通俗的な神様とは、まったく異なる異質な存在なんですか?」
「いや、むしろ神話や伝承においては、定番とも言える神様じゃないかな?」
「え、そうなんですか?」
「──もし仮に、『真の神様』と呼び得るモノを、既存の神話や伝承の中から選ぶとすれば、まさしくそれは、『あらゆる世界を夢見ながら眠り続けている神様』以外は無いだろうしな」
………………………………へ?
「世界を夢見ながら眠り続けている神様、って?」
また何か、『ベタ』なやつを挙げてきたな⁉
「ほら、中国神話で、『黄龍』とかと、呼ばれているやつさ」
「いや、そんな固有名詞なんて、どうでもいいから。そもそもこの世界が、何物かが見ている夢なんてことが、あるわけがないではありませんか⁉」
「そうかな? 荘子の『胡蝶の夢』を始めとして、洋の東西を問わず、古来から何度も繰り返し、提唱されてきたことなんだがね」
「『胡蝶の夢』って、アレでしょう? 『もしかしたら、この自分を始めとして世界そのものは、一匹のちっぽけな蝶が見ている夢ではないのか?』とかいうやつでしょう? それってただ単に、荘子が『中二病』だっただけでは?」
「では君個人としては、この世界はけして夢ではないと、断言するつもりなのか?」
「もちろんですとも! この世界は間違いなく、現実ですよ!」
「ふ〜ん、そうかい? 高名な女流タイトルホルダーが、突然自分の『妹弟子』を名乗り始めて、無理やり同棲しようと迫ってきて、しかも事もあろうに、『私とあなたは前世で婚約者同士だったの♡』などと言い出したり、将棋ソフトを擬人化したアンドロイド幼女と予知能力者の巫女少女がやって来て、なぜだか将棋の対局をし始めたりしているというのに、これが夢である可能性がまったく無いと、言い張るつもりなのか?」
──‼
「そうだ! まさにおっしゃる通りじゃん! こんなのって、それこそ夢であるか、さもなくば、三流Web作家の手による『なんちゃって将棋ラノベ』以外の、何物でも無いじゃないか⁉」
「そうだろうそうだろう、これだけ荒唐無稽なシチュエーションにいながら、『この世界が夢である確率なぞ皆無だ!』と言うほうが、よほど無理があるだろう?」
「……いや、これはあまりにも『例外的なケース』に過ぎず、こんな文字通り荒唐無稽なシチュエーションではなく、ごく普通の日常的シチュエーションを過ごしている人たちの『現実世界』が、夢である可能性なんて、ほとんどあり得ないんじゃないですか?」
「そんなことは無いだろう、君だってこれまで、現実そのままの極日常的な夢なんて、それこそ腐るほど見てきたんじゃないのかい?」
──っ。
「ようやくわかったようだね、つまりは、たとえこの現在我々の目の前に存在している世界が、ごく普通な日常的シチュエーションであろうが、まるでラノベやWeb小説そのままの荒唐無稽なシチュエーションであろうが、夢であるかも知れない可能性は、けして誰にも否定できないのだよ」
※本日はこの後もう一本、連続して投稿する予定でございます!




