第139話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その10)
「……この作品の作者って、将棋ラノベのことを、舐めくさっているでしょう?」
「「「「──ちょっ⁉」」」」
僕がふと漏らした一言に、一斉に顔を色を変える、今この場にいる四名の猛者たち。
確かに、本編開始早々開口一番に、作者をガチで批判するなんて、『主人公失格』かも知れないが、まさにこれこそが現在の僕の、偽らざる本心であった。
「……いや、金大中君、いくら何でも、それは無いだろう?」
「そ、そうですわ、ようやくこれから対局シーンに突入という、やっと将棋ラノベらしくなってきたのに、水を差すようなことを言い出して」
「──黙れ、そもそも今時『内弟子』をとるプロ棋士がいること自体が不自然なのに、現役の『竜王』が、すでにタイトルホルダーに叙されている女流棋士を、他のお師匠さんから奪い取ってまで、自分の内弟子にするとかあり得るか⁉」
「「うっ」」
「……あ、あの、部外者の私が言うのも何ですが、ご自分のお師匠様の竜王さんと、タイトルホルダーの女流棋士さんに対して、そういうおっしゃりようはいかがなものでしょうか?」
「そうね、少なくとも『龍王』のほうは、この世界における私の有用性を認めてくれたことだし、勇者様もこの世界においては彼の弟子ならば、彼の方針に従うべきでは?」
「──やかましい、そもそも存在すること自体がおかしい、金髪銀目の巫女娘にアンドロイド美幼女が⁉ 百万歩譲って将棋ソフトの自律歩行化は認めるとしても、予知能力者に対局させるとか阿呆か? 稚拙な素人Web作家が! いいか? 将棋というものは、少々未来予測ができるからって勝てるほど、甘いもんじゃねえんだぞ⁉」
「「ぐうっ⁉」」
この期に及んで見苦しくも言い訳を弄する、非常識四人組に対して、ド正論を叩きつければ、当然のごとく完封勝利を果たす、この場で唯一の常識的存在という、本作の『最後の良心』とも言える僕こと、金大中小太奨励会三段。
「──いやいや、ちょっと待ってくれ! この対局はむしろ、『安易な未来予測等に対するカウンターパンチ』的な意味合いで行うつもりなのであり、それを君自身の目で確かめてもらおうという主旨なのだぞ?」
そのように必死に反駁してくるのは、他ならぬお師匠様であった。
「はあ、ご自分で予知能力者とかを、将棋の真剣勝負の場に、引っ張り出してきておいてですか?」
「……う、うむ、実は彼女は予知能力者と言っても、ひと味違うのだよ」
「それで、将棋専用ソフトを擬人化した、自律思考型アンドロイドに勝てるとでも?」
「ああ、疑うのなら、君自身の目で、確かめるがいい」
「ふうん、どうせ、正攻法ではまともな対局シーンを描写することなんてできやしない作者が、予知能力者なんて『クセ玉』を投入することによって、インチキ異能バトル風演出で読者様の目をごまかして、いい加減なストーリー展開に持ち込もうとしたとばかり思っていましたが、どうもそういうわけではないようですね?」
「「「「──だからどうしておまえは、自分の作品の作者を全否定するかのような、危険球的発言ばかりするんだよ⁉」」」」
……また、全員から、『総ツッコミ』を受けてしまった。
──とまあそういうわけで、早速対局をすることになったのだけど、勝負の場として選ばれた十二畳もある広めの和室においては、その中央に設置された将棋盤を挟んで明石月詠嬢とアユミちゃんが相対し、部屋の上座にはお師匠様が、下座には僕と零条安久谷扶桑桜花とが、なぜか不必要なまでに密着して座っているという、どことなく歪な配置となっていた。
「……ちょっと、扶桑桜花、何でそんなに、僕にひっつくのですか⁉」
「そりゃあ私たちは、『前世の婚約者』同士なのですから、常に共にあるのは当然ではございませんか♡」
「……え、その電波的メンヘラ設定は、まだ生きていたの?」
「誰が、電波で、メンヘラですか⁉ 私はあくまでも、ヤンデレで、ショタコンです!」
「メンヘラは駄目でも、ヤンデレはいいのかよ⁉」
「何せ本シリーズは、『将棋×ヤンデレ×異世界転生』と、銘打っているくらいですからね!」
「あの作者、どこまでも余計なことを! 本編においては全然、活かせてはいないくせに……ッ」
「だからこれから、イカそうというのですよ♡」
「何か、イントネーションが、おかしくはありませんか⁉ それにそんな裸同然の『大破』状態で、僕の腕に抱きついてこないでください! 当たっている当たっている、何か大きなマシュマロみたいなのが、二つも⁉」
「──ふっ、当てているのよ」
そのように、前世の異世界においては、王子様と悪役令嬢であった僕らが、本編そっちのけでいちゃこらしていたその時、なぜか普段よりもどこかいらついた声で、釘を刺してくるお師匠様。
「──こらっ、神聖なる勝負の場で、何を騒いでおる! いい加減にしないと、つまみ出すぞ⁉」
「「──失礼をばいたしました、竜王様!」」
こうして全員が真剣さを取り戻したところで、いよいよ予知能力の巫女姫と、将棋ソフトの擬人化美幼女との、異種格闘技的対局が始まったのであった‼(以下次回!)
「「──おおっ、何か本当に、将棋ラノベみたいな、次回への引きですね⁉」」
「……一応、本当に、将棋ラノベのつもりなんだがな」




