第137話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その8)
「……あ、あの、師匠? 何で、将棋ソフトと棋界の超トッププロとの対局を行うのに、ソフトのほうが単なるパソコン用のアプリケーションとかではなくて、アンドロイドみたいな自律的存在でないと駄目なんですか?」
何かもう、将棋の話なのか、異世界人としての前世の話なのか、悪役令嬢と王子様のおねショタものなのか、本家(?)同様にロリ路線へと舵を切るのか、『竜王』である師匠に対する下克上物語なのか、RPGそのままな『龍王退治』の物語なのか、昨今の棋界における『将棋ソフト偏重』の風潮に対して警鐘を鳴らしたいのか、それとも結局のところアンドロイド美少女を出したかっただけなのか、すでにストーリーがあっちこっちにとっ散らかってしまい、収拾がつかなくなったので、藁にもすがる思いで、一応は全体像を掴んでいると思われる(というかむしろ『諸悪の根源』の?)お師匠様にお伺いを立てる、他称王子様な奨励会三段の弟子であった。
「うむ、その疑問に対しては、今から詳しく述べていきたいと思っているのだが………いいか、これはあくまでもフィクションの話だからな? 実際の将棋連盟における、将棋ソフト振興策とは、微塵も関係無いんだぞ?」
「えっ、あっ、はいっ!」
やけに師匠が必死の形相で念を押してくるものだから、「これはけして拒んではならぬ!」と本能で察して、無条件で何度も頷いておいた。
「それこそ、将棋ソフトとかAIを扱った、小説や漫画なんかでありがちなパターンなんだが、『将棋界の超トッププロと将棋ソフトとの、ガチの一対一での真剣勝負』とか銘打っておいて、将棋ソフトのほうが勝とうものなら、まさしく鬼の首を取ったようにして、『これで日本の将棋界はおしまいだ!』と言わんばかりに、負けたトッププロを悪し様に蔑む作品が多いけど、これって全然『ガチの一対一での真剣勝負』では無いじゃん。何せ将棋ソフトが自分で対局会場にやって来て、自分の意思で勝負を始めて、それから後のすべての過程においても自力のみで済ませるわけではなく、ソフトメーカーだかどこぞの大学の研究室だかのスタッフが大挙して、ソフトやコンピュータを運び込んできて、スイッチを入れて、いろいろとセッティングをして、対局中においても、ソフトやコンピュータの動作をモニターするのはもちろん、必要があればそのつど微調整等を加えたりもするわけで、別にソフトが自律的に独力のみで闘っているわけではなく、たった一人のプロ棋士に対して、ソフトのスタッフ全員による団体戦で挑んでいるようなものじゃないか? これのどこが公平な勝負だというのだ。その場にいる連盟職員を始めとして、棋界関係者全員が団結してプロ棋士の味方についても、おつりが来るほどじゃないのか?」
──はあああああああああああああああああああああ⁉
「いやでも、ソフトやコンピュータは、自分で移動したり起動したり勝負に臨んだりできないんだから、仕方ないじゃないですか?」
「仕方ないで済むか! なぜかフィクションにおいては信じられないことに、そんな出来損ないでアンフェな将棋ソフトに負けると、日本の将棋界の威信が損なわれることになっているんだぞ⁉」
……あ、そういえば、そうでした。
「そ、そうですよね、特に下手に敗北してしまえば、当のトッププロの棋士生命が失われかねないのだから、ソフト側の設定がそのようにゆるゆるじゃ、とても許せませんよね」
「それだけじゃないぞ、もっと決定的な欠陥が存在しているのだ」
「……決定的な、欠陥ですか?」
「おいおい、何を言っているんだ、現在の君自身にも関わる話なんだぞ?」
「えっ、現在の僕にも、関わっているって……」
「もちろん、『奨励会制度』だよ」
「しょ、奨励会制度お?」
「──さてここで問題です、我が国の棋界において、プロ棋士になるための、原則的には唯一と言っていい、『資格条件』とは何かな?」
「……そりゃあ、奨励会の三段リーグを勝ち上がって、半年にたった二人しか達成できない、『四段』の資格を手に入れることであって───って、まさか⁉」
「そうだ、将棋界というシステムに、何らかの影響を与える対局を実行したいのなら、少なくとも『プロ棋士』の資格も有していなければならないのだ。なぜなら、対局する双方共がプロの資格──すなわち、四段以上の資格を持っていなければ、公式の対局とは認められず、いわゆる現役の『名人』が、『アマチュア名人』とか『女流のタイトルホルダー』とか『学生チャンピオン』とかと対戦する、『記念対局』や『イベント対局』に過ぎず、どちらが勝とうがプロとしての公式の記録として残されることは無いからして、たとえ将棋ソフトが圧倒的な実力差で将棋界の頂点である名人や竜王を下したとことで、小説や漫画等のフィクションにおける、ソフト開発メーカーや大学あたりの研究室のスタッフみたいに、イキリ倒すことなぞけしてあり得ないのだよ。だからこそ現実の『叡○戦』においては、思い切って予選において、『四段以上のプロ棋士であること』という資格条件を取っ払って、女流棋士どころかアマチュアすらも参加できるようにして、あくまでも将棋ソフトの棋界への浸透の促進と、世間一般における理解を深めることを目的としていて、どこぞの三流フィクションみたいに、プロ棋士や将棋連盟の威信を揺るがそうなどと言う、『時代遅れの悪役』的な意図なぞ無いのであり、逆に言えば、たとえフィクションであろうとも、将棋ソフトをプロ棋士と対局させて、棋界の威信を損ねようと思うのなら、自分の作品の将棋ソフトを擬人化させて、ちゃんと奨励会に入門させた後、『四段』の資格を取らせるべきであろうよ」
──将棋ソフトを擬人化させて、奨励会に入門させるだってえ⁉
思わず『彼女』のほうへと振り向けば、こちらが会話に熱中している間に、どうやら零条扶桑桜花と派手なキャットファイトに興じていたようで、両者共あたかも某艦隊ゲームにおける、『中破』から『大破』レベルのあられもない姿となっており、非常に目の毒であった。
「……師匠、まさか、『彼女』って──」
自分の考えに戦慄しながらも、確信を伴って師匠へと問いかければ、案に違わず深々と頷く、棋界の『竜王』にして異世界の『龍王』様。
「──うむ、『彼女』こそは、真の意味で将棋界の頂点を極めるために、将棋連盟の監修の下、某将棋ソフトメーカーにおいて開発された、人類以外初の『奨励会員』にして、自律型将棋専用アンドロイド、JSA歩ノ001号──通称、『アユミちゃん』なのだ」




