第134話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その5)
「……将棋界最強の『竜王』であるからこそ、将来自分を倒すべき者を育てるために、前世のファンタジー異世界において、『龍王』であった自分を倒した勇者の生まれ変わりである僕を、あえて弟子にしたって、一体どういうことなんですか、師匠⁉」
一応自分が異世界の王子様、ヒットシー=マツモンド=ヨシュモンドであった前世の記憶はあるものの、それはあくまでも、いわゆる『王侯貴族物語』──流行りのWeb小説で言えば、『悪役令嬢物語』といった世界観であったはずなのだが、なぜだか突然RPGそのままな、『龍王退治物語』について語りだされて、しかも前世のファンタジーワールドのみならず、この現在の日本においても、自分と師匠との師弟関係に深く関わっていると聞いては、もはや傍観者を装うことなぞできず、これまでの主な糾弾者であった、自称『悪役令嬢』の大人気女流棋士、扶桑桜花に成り代わって、自称『龍王』の師匠へと食ってかかっていった。
しかしそんな血気逸る内弟子に対して、泰然とした物腰を微塵も揺るがすこと無く、更に重々しく言葉を続ける、棋界最高位の実力者。
「小太、君は、『最強』とは何かを、正しく理解しているかね?」
………………………………はあ?
さ、最強って。
何いきなり、中二男子みたいなこと言い出しちゃってんの、うちの師匠ってば? もしかして『ノ○ラ厨』?
「……ええと、師匠、それって、将棋界において実力的に押しも押されぬ最高位である、『竜王』についての話ですか? それとも──」
「もちろん、ファンタジーワールド最強種と目されている、『龍王』についてだよ」
……うわあ、最強について語り出す『龍王』とか、完全に『例のアレ』じゃん。大丈夫なのか、このまま続けても?
「最強って、『概念』的な話ですか? それとも具体的な『格差』とか『階位』の話ですか? 『概念』のほうは、どこかの龍王とか軍神あたりにでも任せるとして、具体的な『階位』について言うなら、それこそ将棋界の最強は『竜王』や『名人』が、剣と魔法のファンタジー異世界では、『龍王』や『魔王』あたりが、該当するんじゃないですかねえ?」
つまりどっちにしろ、師匠は該当するわけだ。……もしかして、自慢話でもしたいわけか?
だが、そんな弟子の邪推をあざ笑うかのように、想像の斜め上を遙か宇宙の果てまで突き抜けていく、師匠の禁断のお言葉。
「私はね、『最強』とは、文字通り最強の、『負けフラグ』だと思っているのだよ」
──いやいやいやいやいやいやいやいやいや!
駄目! それを言っちゃ駄目!
それを言っちゃったら、ラノベやWeb小説的に、すべてがおしまいでしょうが⁉
確かに、Web小説にしろ少年漫画にしろファンタジーRPGにしろ、龍王とか魔王とかいった、『序盤』で最強を名乗っていたラスボスキャラは、必ず最後には主人公から、倒されることになっていますけどね!
だけど、それをあからさまに明言してしまったために、今この瞬間に、何千何万のラノベやWeb小説が、『無価値』になってしまったか、わかっているのですか⁉
──そのように、自称『妹弟子』の扶桑桜花とともに、師匠のほうへ言外に責めるような視線を向けていれば、ようやく自説がまったく受け入れられていないことに気づく、お師匠様。
「……うん、何か疑問でも? 私はあくまでも、この現実世界における『史実』に則って、話したつもりなのだが?」
「へ? 史実って……」
つうか、Web小説とかゲームの話ではなくて、現実世界の話だったのかよ⁉
「簡単に言うと、歴史上、『永遠に勝ち続ける軍隊』なぞ、けして存在しないということなんだ。ナポレオンのフランス軍しかり、ヒトラーのドイツ軍しかりね。彼らは味方から『英雄』視されるとともに、敵国からは『魔王』と目されていたのではないかな? 更に言えば、御多分に漏れず、自分たちの軍隊こそを、『最強』だと自負していたろうし」
あー、なるほど。
ざくっと言っちゃうと、ファンタジーの魔王そのままに、『世界征服』を目指す勢いで他国を侵略し続けると、それこそ地球上のすべての国を倒さなければならなくなるけど、そんなことたとえ自他共に認める『最強』の軍隊であろうとも、絶対に不可能ということか。
「あ、でも、師匠、その論法からすると、『最後に勝つ者』がいなくなっちゃって、戦争が永遠に続くか、勝利者不在で共倒れエンドになってしまうかの、二つになってしまうのではありませんか?」
「そんなことはないぞ? けして勝とうとは思わず、負けないようにすればいいのだからな」
「はあ?」
何その、『とんち』か『禅問答』みたいなお言葉は?
「例えば、調子に乗ってどんどん進軍してくる敵を、あえて領土の奥深くまで引き込んで、補給線が伸びきって物資が滞り始めたところを、全力でぶったたくとか、あるいは攻撃一本槍の敵に対しては、慌てて反撃したりせず、敵の兵器や戦術を徹底的に研究して、レーダー網を完備したり新型の高性能の戦闘機を開発したりしてから、『最強』を自認する敵が、敗北することなぞわずかにも考えもせずに、防御を疎かにしたまま主力の大軍団を投入したところで、一挙に叩き潰して、そのまま終戦まで戦いの主導権を奪い取るとかね」
──っ。
それってまさに、第二次世界大戦当時に、ソビエト軍やアメリカ軍が、ドイツ軍や日本軍に対して使った戦法じゃないか⁉
た、確かに、ドイツや日本のような国力がそんなに潤沢ではない枢軸側は、『短期決戦』以外やりようが無いから、後先考えずに『突撃に次ぐ突撃』を繰り返さざるを得なかったけど、ソビエトやアメリカのような大国のほうは、少々負けが込んでも少しも焦ること無く、じっくりと巻き返しの準備をしつつ、無駄に突進してくる敵の力を少しずつ削いでいき、いざという時になって一気呵成に反撃したものだから、元々継戦能力の乏しいドイツと日本のほうがそこでへたばってしまい、その後は基本的に一方的な展開になってしまったんだよな。
──いや、違う!
こんなスレチそのままの『軍事評論』なんて、どこかネット上の別サイトでやればいいのだ。
そんなことよりも──
「……師匠、これってもしかして、将棋で言えば、『受け将棋』に当たるのではないですか?」
恐る恐るそう問いかけるや、パッと表情を明るくする、竜王様。
「──おおっ、さすがは我が弟子、よくぞ気がついた! ……いやあ、この作品、連載開始から5話にもなるというのに、まったく将棋ネタが出てこないから、どうしたものかと思っていたぞ?」
……だから、あなたはキャラ的にふさわしくありませんから、そういうメタ的な発言は、厳に謹んでくださいってば⁉




