表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/352

第132話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その3)

「──いやいやいやいや、ちょっと待って! 将棋界の規則だか慣例だかでは、すでにタイトルホルダーともなっている女流棋士が、いわゆる『後見人』的存在である自分の師匠を、そんなふうにコロコロと変えたりできるのですか⁉」




 そうなのである。




 現役のJK(女子高生)でありながら、『扶桑アンラッキー桜花・ロケット』の敬称タイトルを保持する、女流棋士界のスーパーアイドルれいじょう嬢から突然、同じ師匠に弟子入りしたので、何と僕の『妹弟子イモウト』になったのだと告げられて、驚きのあまり一瞬我を忘れてしまったが、そんなことが常識的にあり得るはずが無いのだ。


 しかし、そのような僕の至極当然な疑問の言葉に対しても、目の前の十代半ばの目が覚めるような美少女は、妙に大人びた妖艶なる笑みを、微塵も揺るがすことは無かった。




「規則? 慣例? 後見人? 師匠? そんなものがどうしたと言うのです? わたくしと王子との愛を邪魔立てする障害は、すべてこの世から排除するだけのことではありませんか?」




 ……そういえば、そうでした。


 こええ、ヤンデレ無双、こえええええええ。


 そもそも、ヤンデレでメンヘラな、自称『前世の恋人』に敵うものなぞ、ありはしなかったのだ。




「どうやら、おわかりいただけたようですね? ──さあ、それでは、わたくしが晴れて王子の『妹弟子イモウト』となった記念の、『初対戦(VS)』と参りましょう!」


「──何で、将棋の対戦をするのに、サマードレスの背中のファスナーを下げようとしているの⁉ それよりも、将棋盤や駒を用意しようよ!」


「それには及びませんわ、どうぞわたくしの身体を将棋盤に見立てて、王子の駒を存分に挿してくださいな♡」


「何その、間違った『変態将棋』は⁉ それに『さす』という字も、間違っているし!」


「さあさあさあさあ、試合形式は、『本番』通りに行いましょう。──ところで王子は、『攻め将棋』と『受け将棋』では、どちらがお好みですか?」


「──それって仮に、僕が『受け将棋』って答えると、どうなるわけ⁉」


「具体的に申せば、この『さぶ』な方たち専用の、器具を用いることになります」


 ブィイイイイイイイイイイイイイ………………ンンンン!!!(絶望的な音)


「何でそんなものを、持参しているの⁉」


「それはもちろん、いざという時に、あらゆる状況に対応できるようにと」


「あらゆるって、一体どういった状況を、想定しているんだよ⁉」


「でもこうして、『いざという時』が訪れたことですし、まさに『備えあれば憂い無し』ですわ」


「──ちょっ、そんなこと言いながら、当然のように、人のことを押し倒すんじゃありません!」


「……ああ、ついに王子と、一つになることができるのですね」


「ならないから! ──つうか、一応『将棋ラノベ』を名乗るつもりなら、ちゃんと将棋をしろ!」


「あ、それ、無理。何せ、作者自身が、将棋に関しては、まったくのエアp──」


 まさに僕が、絶体絶命の状況に追いつめられている中で、自称『妹弟子イモウト』が、更に別の意味で致命的な台詞を、うっかり口にしかけた、


 まさに、その刹那であった。




「……何を騒いでいるんだ? 応接用のリビングとはいえ、一度勝負の場と決めたからには、神聖なる対局場に違い無いのだぞ?」




 突然響き渡る、威厳に満ちあふれた、三十がらみの男性の声。


 いつしか部屋の入り口には、まさしく現在の大ピンチの僕にとっては、救世主に等しきお方がたたずんでいた。


「──し、師匠、いつお帰りで⁉」


「たった今だが、玄関口から何度も声をかけても、まったく応答がなかったから、何事かと思ったら、一体何をやっているのだ?」


「……うっ」


 師匠としての当然なる嗜めの言葉を、至らない内弟子へと突き付けてくる、棋界きっての実力者の、りゅうおう様。


一見細身だが十分に鍛え上げられた長身を、ポールスミスのサマースーツに包み込み、短い茶髪に縁取られた表情に乏しい白皙のかんばせの中で、焦げ茶色の瞳を眼光鋭く煌めかせているその様は、棋士と言うよりもむしろ、更にストイックさを極めた、『騎士』であるかのようにも見えた。


 ……うう、いつまでたっても、この師匠の目って、苦手なんだよなあ。


 別に悪い事も隠し事もしていないはずなのに、心の奥底まで丸裸にされているような気がしたりして。


 しかし、その神懸かりな洞察力こそ、この人の最大の魅力なのであり、天才的な将棋の腕前テクニックとともに、僕自身これからの将棋人生のすべてを託すに足る、唯一の師匠として認めるまでに、絶大なる信頼を置いていた。




 ──とはいえ、唯一(のはずの)弟子として、はたまた、同居人として、正すところは正す必要があった。




「し、師匠、これは一体、どういうことなんですか? 零条扶桑(アンラッキー)桜花・ロケットが、師匠の新たなる内弟子になって、この家で暮らすようになるなんて、何かの間違いですよね⁉」


「む、何だと? そちらの半裸の女性が、扶桑アンラッキー桜花・ロケットだって? いやてっきり、おまえがデリヘルのお姉さんでも、連れ込んでいたのかと思ったぞ」


「──小学生の棋士の卵が、内弟子としてお世話になっている師匠のお宅で、大人アダルトなお姉さんをデリバリーしたりするもんですか!」


 前言撤回。


 確かに師匠は、トップ棋士としても、指導者としても、この上なく理想的な人だけど、なぜか世間的な常識に欠けたところが、少なからずあるんだよなあ。




「……ふむ、これはむしろ、()()()()()()()手間が省けたと、言うべきかな」




 え。


 自称『前世の僕の婚約者』の、女流タイトルホルダーのほうを見ながら、何だか意味深なことをぼそっとつぶやく、我が師匠。


 ……何だろ、『別々』って。


 そういえば、今日は連盟からの突然の呼び出しを受けて、出かけられていたはずだけど、もう御用事のほうは済んだのだろうか?


 突然のアイドル女流棋士の訪問と、予想外に早くの師匠の帰宅によって、次々とハプニングに見舞われて、もはや対応が追いつかなくなってしまう、未来の小学生プロ棋士。




 ──だから、まったく、気がつかなかったのである。




 あれだけ世迷い言ばかり口走っていた、自称『異世界の公爵令嬢』が、さっきからずっと沈黙を守りながら、師匠のほうをただひたすら睨みつけていたことを。




「……まさか、こんなところで、再び相まみえるとはね」




「うん、どうしたのかな、扶桑アンラッキー桜花・ロケット?」


 突然自分に向かって、どこか含みのある呼びかけをしてきた女流棋士に対して、訝しげな視線を向ける、棋界の若き重鎮。


「あら、私のことがわからないなんて、すっかりこの世界に馴染んでしまって、平和ボケでもなさっているのではなくって、『竜王』陛下?」


「──っ。()()()()まさか、悪役令嬢オードリー⁉」




 ……は?


 ちょ、ちょっと、師匠、今何と、おっしゃいました?


 そのように、あまりに予想外な事態の急展開に、完全に呆然となってしまう僕を尻目に、とても自分の新たなる師匠に対して言うようなことでは無い台詞を、平気で突き付ける、他称『悪役令嬢』。




「ようやく、気がつかれましたか、近い将来、あなたを殺す者の正体を。──まさしく、前の世界と同様にね。──『竜王ドラゲキン』さん?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ