第131話、将棋ラノベで、ロリときたら、次はおねショタかヤンデレだよね♡(その2)
「……は? 『ヒットシー王子』とか『オードリー』とか『ヨシュモンド王国』とか『筆頭公爵家令嬢』とか『婚約者』とかって、一体何のことですか? しかもよりによって『異世界』って、もしかして零条扶桑桜花ったら、最近流行りのWeb小説の『なろう系』とやらの、愛読者だったりするのですか?」
そのように、突然乱心なされてしまった、女流棋士の重鎮に向かって、僕はあくまでも落ち着き払って言い放った。
たとえ齢10歳のDSといえど、現在『地獄の三段リーグ』とも呼ばれている、プロ棋士への登竜門『奨励会』の最終段階に身を置いている僕は、文字通りに『常在戦場』を旨としており、少々の予測外の事態にも慌てふためいて我を失ったりはしないのだ。
──しかし、目の前の自称『異世界からの転生者』は、そんな僕の虚勢なぞ見透かすようにして、追撃の台詞を容赦なく突き付けてくる。
「ぐふふふふ、無駄無駄無駄無駄ああああああああっ! この私が──悪役令嬢にして、ヤンデレの極みであるオードリー=ケイスキーが、『魂の片割れ』であられるヒットシー王子のことを、たとえ別の世界に転生しようが、しかもそのせいで、まったく外見が変わり果てようが、見抜けなくなるとでもお思いか⁉」
──うぐっ⁉
は、反論、できねえ。
確かに、彼女が本当に、僕の知る『オードリー=ケイスキー公爵令嬢』であったなら、たとえ自分の婚約者が異世界転生しようが、姿形が変わり果てようが、執念だけで探し当ててしまうことであろう。
……とはいえ、いくら何でも、すでに僕自身も『前世の記憶』に目覚めていることまでは、確信していないはずだ、ここはあくまでもしらばっくれるのみ!
「い、いやあ、残念だなあ。もしも万が一百億歩ほど譲って、あなたのお話が事実だったとしても、僕にはその『前世の記憶』とやらが、これっぽっちもございませんので、扶桑桜花のご期待には添えられそうにはありませんなあ、あ〜あ、残念だなあ(棒)」
「──別にそれでも、構いませんよ?」
え。
「いやむしろ、そちらのほうが、好都合というものですわ」
「な、何だって?」
「あなたが前世のことを──何よりも『私』のことを、忘れているとおっしゃるのなら、この私自身によって、思い出させて差し上げるだけの話です。それこそ、これから24時間四六時中つきっきりになって、あなたのすべてを私で埋め尽くすことによってね。そうよ、今度こそあなたには、私のことしか見えず、聞こえず、考えられなくなるようになるのですわ。そして、この現世においても、私たち二人だけの世界で生きていきましょう♡」
──うわっ、何このこじれきった、ショタコン版『若紫育成計画』⁉
い、いかん、何とか思いとどまらせなければ!
「あなたがおっしゃる、ファンタジー異世界はともかく、この法治国家における昨今の風潮では、JKが年端もいかないDKを、監禁養育するような真似をすれば、通報一直線ですよ⁉」
「うふふ、さあてねえ、あなたがここで騒いだところで、おそらくは連盟のほうで、もみ消してしまうのではないですかあ?」
「……連盟って、将棋連盟のこと? 何で連盟が、そんなことを」
「お忘れですか? この私が、今や将棋界にとって無くてはならないほどの、人気女流棋士であることを」
「はあ? だったら僕だって、棋界の期待を一身に担っている、将来の『史上初の小学生プロ棋士』ではないですか⁉」
「だからこそ、なのですわ」
「へ?」
「超人気タイトルホルダーの女流棋士と、史上初の小学生プロ棋士との、熱愛カップル爆誕! これほどまでに連盟にとって、将棋界を世間一般の方々にアピールできる、インパクトのあるトピックスは無いでしょう」
──‼ 何と、まさしくその通りやんけ⁉
「で、でも、そもそも僕たちは、特に住居等の私生活の場なんかを、まったく別々にしているんだから、常に一緒にいるなんて、ほとんど不可能ではないですか⁉」
「いいえ、そんなことはありませんわ? だってそのためにこそ、本日はこちらに伺ったのですから」
「え、それって、一体……」
いかにも思わせぶりな台詞に訝る僕に対して、目の前のファンタジー異世界の公爵令嬢を名乗る、和風美人さんは、満を持してとどめの一言を突き付けてきた。
「私はこのマンションの家主であり、あなたのお師匠様でもあられる、現竜王『黒縄戯』先生に『内弟子』として弟子入りするためにこそ、まかり越したのですから。──うふふふふ、これで晴れて私は、同じ『内弟子』であるあなたの『妹弟子』となって、ずっと一緒にいられるようになりましたね♡」
「……え、これって、連載続けるの?」
「そりゃあ、もちろんでございます。むしろ本番は、これからではないですか? ──そう、私と王子との『本番』は♡」
「何で『本番』だけを、強調して、二度も言ったし⁉」
「それはともかくとして、次回はいよいよ、『竜王』の御登場です!」
「? そりゃあ、今回のラストからの流れだと、次回に僕のお師匠様が登場するのは、至極当然のことでは?」
「ふっふっふっ、実はその方、単にプロ棋士の最高位の一翼というだけではなく、ファンタジー的に、ガチの『竜王』でもあられるのです!」
「……え、マジで?」
「何と言ってもこの作品は、『異世界転生』モノでもあるのですからね」
「『異世界転生』モノだからって、何でこの現代日本に、竜王なんかが登場するんだよ⁉」
「それは次回のお楽しみということで♡ 何せ本作は、例のやつみたいに、『タイトル詐欺』まがいな真似を、するつもりはございませんからねえ」
「──おい、まさにその作品に便乗しているくせに、悪口を言うなよな⁉」
「いえいえ、便乗作品と言うならば、押しかけてくる弟子希望者が、JSロリから単なるゴスロリへとパワーダウンしてしまい、しかも売り出すタイミングを完全に見誤って、本家の現時点における最高傑作の第11巻とほぼ同時に刊行するという、『泣きっ面に蜂』的に惨憺たる有り様となってしまった、某作品のほうではないでしょうか?」
「だから、全方面にケンカを売るのは、やめろって言っているんだよ⁉」
「……こんな素人作家ですら、異世界転生を本格的に絡めることによって、既存の将棋ラノベの枠組みを打破して、新たなる可能性を模索しているというのにねえ」
「いや、だからってこの作品が、既存の諸作品よりも、確実に面白くなるとは限らないだろうが⁉」
「面白いかどうかは、読者様それぞれの主観によるものですから、どうとも言えませんが、本作の強みは何よりも、他には絶対に無い、オンリーワンの『独創性』を追い求めていることこそにあるのです」
「オンリーワンの独創性、って?」
「実は、次回の竜王陛下に引き続いて、美少女アンドロイド棋士や、未来予知の巫女姫棋士等の、これまでに無い将棋指しキャラが、順次登場してくることになっておりますの」
「何それ、完全に方向性がフィクションに偏りすぎていて、もはや将棋ラノベと言うよりも、SFかファンタジーそのものじゃん⁉」
「昨今の、『完全に現実に負けている将棋ラノベ』において、これ以上リアリティを追求して、何の意味があるとでも?」
「──うっ、こ、こいつ、悪役令嬢のくせに、何というド正論を?」
「これぞまさに、『何でもアリ』こそを旨とする、本作の本領発揮と申せましょう! 読者様もどうぞ、これからの怒濤の展開を、心ゆくまでお楽しみくださいませ♡」




