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第127話、あたし、メリーさん、今……。【夏のホラー・NOT病院編】(その10)

 ──それは、私とカスミちゃんが、中学校に入学してから初めての、夏休みのことであった。




 といっても、この『事件』に関しては、何も初めから、いつもの幼なじみ三人で、行動していたわけではない。


 私だって、キリヤやカスミちゃん以外との人付き合いだって、ちゃんとこなしているのだ。


 ……というか、たとえ中学生といえども、教室内の友人関係の良好なる構築は、特に女の子にとっては死活問題であった。




 特に私のように、クラス内カーストにおいて、押しも押されぬ頂点の『女王様』として、君臨している場合には、『配下』──もとい、友人たちからの『忠誠度』──もとい、好感度の管理には、細心の注意を払う必要があったのだ。




 その日も夏休みを利用して、クラス内カースト女子グループトップの友人たちを率いて、メンバーの一人のご両親が所有している避暑地の別荘へと、勉強会の名を借りた親睦旅行に訪れていたのだが、そこでちょっとしたアクシデントが起こってしまったのである。


 事の起こりは、何も特別なことでは無く、むしろ極ありきたりなものに過ぎなかった。


 何せ女子だけによるお泊まり会に付き物と言えば、夜を徹しての『恋バナ』に決まりなのだ。


 たとえローティーンとはいえ、中学生にもなれば、女の子にとって一番の興味の対象は、何と言っても『恋愛関係』に尽きるでしょう。


 そこで私たちも、それぞれパジャマに着替えてベッドに入り明かりを消しながらも、自然と『クラス内における恋愛相関図談義』や、自分自身の『気になる相手の名前告白』なんかで、盛り上がっていったのだ。


 やはり夏休みならではの開放感も手伝ったのか、普段は固い口もすっかりと緩み、友人たちが次々に意中の男の子の名前を告白するのを聞かされているうちに、私自身も徐々に決意が固まっていった。


 ……そうだ、これもいい機会かも知れない。私がキリヤに思いを寄せていることを明言して、間違っても他の子が粉をかけないように、牽制しておこう。




「実は私が幼い頃から気になっているのは、現在高校一年生の、キリヤって人なの」




 ……あ、あれ?


 友人たちの告白がすべて終わって、いよいよ私の番となり、満を持して思いの丈を高らかに明かしてみたところ、その反応は非常に微妙なものであった。


 けして私とは目を合わそうとはせず、中には隣の者同士でひそひそと内緒話を始める始末で、とても感じが悪かった。


「ど、どうしたのよ、みんな? 私の告白って、そんなに変だった?」


「……ねえ、そのキリヤさんて、うちのクラスのカスミさんのお兄さんのことでしょう?」


「あ、うん、実は二人共、私の幼なじみなんだ」


「ああ、そうだったっの?」


「それにしては、ってば、クラス内でカスミさんとは、あまり話さないよね」


「あはは、私とカスミちゃんって、ずっと一緒に育ってきたにしては、あまり仲が良くないんだよ」


「それで、彼女のお兄さんのほうには、気があると?」


「……う、うん、まだ本人には言ったことは無いけど、私のほうは、子供の頃からずっと、意識していたの」




「「「やっぱりねえ……」」」




 ………………………は?


「な、何よ、『やっぱり』って?」


「キリヤさんて、うちの中学に在校中はバスケット部所属で、しかもクラブ内で一番のポイントゲッターで、三年生の時分には部長にも就任するという、自他共に認めるエース選手だったじゃない?」


「しかも後輩の面倒見も良くて、今でもOBとして、うちの部にちょくちょく指導に来ているから、生徒の間でも知っている子が多くてねえ」


「何せ、バスケがうまいだけでなく、かなりのイケメンでもあることだし、結構アプローチをかけている、女子たちも多いそうよ?」


「──なっ、何ですってえ⁉ 誰よ、その泥棒猫どもは⁉ 今から文句を言いに行くから、名前と学年を教えなさいよ!」


「み、美登理、落ち着いて!」


「今はもう夜中だから、電車はすでに止まっているわよ!」


「──ていうか、粉をかけた子は、みんな玉砕したから、大丈夫だってば!」


「そ、そうなの? えへへ、さすがはキリヤ、そこら辺の尻軽女風情には、なびいたりしないんだから♫」


「「「…………」」」


「な、何よその、生温かい視線は⁉」


「……確かに、キリヤさんも、女の子のモーションに対して、まったく心を動かされたりはしなかったんだけど」


「そうでしょう、そうでしょう」




「──むしろ、主な原因は、カスミさんのほうにあったの」




 ……へ?


「ど、どうしてそこで、カスミちゃんの名前が出てくるのよ?」


「──だからさあ、キリヤさんに女の子が近づいていった途端、必ずどこからともなくカスミさんが現れて、邪魔立てしちゃうのよ」


「しかもこれ見よがしに、キリヤさんに抱きついてさあ」


「涙すら浮かべて、相手の女の子を罵倒したりして」


「そりゃあ、アタックしたほうも、立つ瀬がないわ」


 ……あちゃあ〜。


 確かにカスミちゃんなら、やりそうだわ。




「──それに輪をかけておかしいのは、キリヤさんのほうなんだよねえ」




 え。


「ちょ、ちょっと、カスミちゃんが勝手に暴走しただけなのに、どうしてキリヤまで、おかしくなるわけよ⁉」


 想い人に対する、あまりに予想外の言われように、つい気色張る『女王様』である私に対して、若干申し訳なさそうにしながらも、話を続ける友人たち。


「だってさあ」


「あの人、妹さんが、いくら失礼極まりない態度をとろうが」


「軽く口先だけで、咎めはするものの」


「むしろ機嫌を損なった妹さんを、なだめることにばかり躍起になって」


「自分にアタックしてきた子のことなんて、もはや眼中に無いって有り様なの」


「──つうか、妹と二人だけの世界に、どっぷりと入り込んでさあ」


「みんなが見ているまえで、あからさまにスキンシップなんか、し始めるんだよお?」


 ……あー。


 あの二人のことだ、いかにも目に浮かぶようだ。


「ほんと、昔っから、そうだったんだけど、一体いつまで、あんな『ブラコン×シスコン』的な関係をし続ける気かねえ、あの二人って」





「「「ええー⁉ 何よ、そのうっすい、反応は!」」」




「な、何なの、みんな? あの二人の過度なじゃれあいって、昔からのことなのよ?」


「子供の時は、どうだか知らないけど、高校生と中学生の兄妹で、あれはおかしいよ!」


「美登理ったら、むしろずっとあの二人の側にいたもんで、感覚が麻痺しているんじゃないの⁉」


「いいの、このままで? あんた、キリヤさんのことが、好きなんでしょう⁉」


「もちろんそうだけど、ほんとみんな、どうしたの? あの二人の間柄って、そんなにおかしいかなあ?」


「おかしいというか、もう、ほとんど『ヤバい』よ、あれは⁉」


「あんた本当に、ずっと二人の側にいて、あの異常性を、まったく感じなかったの⁉」


「そ、そういえば、何回か、ちょっと危ない場面に、出くわしたこともあるような……」


「……危ない場面、て?」


「つい最近も、あの二人が、一緒にお風呂に入ったり、同じ布団で寝ていたのを、見かけたことがあったの」




「「「いやもうそれ、イエローカードではなくて、レッドカードの段階だろうが⁉」」」




「だ、だって、二人は実の兄妹なんだよ?」


「実の兄妹だからこそ、おかしいって言っているのよ⁉」


「小学五、六年生でもおかしいのに、中学生にもなった妹が、実の兄とお風呂やベッドに一緒に入ったりするものか⁉」


「あんたうかうかしていると、憧れの相手を、妹にとられるわよ⁉」


「何で、こんなところに、のんきに旅行に来ているのよ!」


「何でって、みんなと親睦を、深めようと……」


「あんたが、私たちと親睦を深めている間に、カスミさんたちが、男と女の絆を深めていたら、どうするつもりよ⁉」


「お、男と女の絆って……」


「特に今は夏休みなんだから、そういったチャンスも多いだろうし」


「カスミさんのご両親だって、子供たちを残して、留守にすることだってあるでしょうしね」


 ──あ、そういえば。




「丁度この旅行中に、カスミちゃんのご両親も、二人揃って数日ほど、家に留守にするって言っていたけど?」




「「「…………」」」




「あ、あの、皆さん、どうして急に黙りこくって、勝手に私旅行鞄を開いて、荷造りなんか始めているの?」


「──いいからあなたは、今すぐ寝なさい!」


「はあ⁉」




「そして明日朝の始発の特急列車で、とうきょうに帰りなさい。──あなたの恋が、『手遅れ』にならないうちにね!」

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