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第125話、あたし、メリーさん、今……。【夏のホラー・NOT病院編】(その8)

「──まず何よりも最初に、確実にカスミが幽霊として化けて出て、僕に取り憑いて、ずっと一緒にいられるようにするために、生きている間に僕に対して、()()()()()()()ことにしたんだ」


「何せ、死にゆく者にこの世に未練を残させるには、プラス的な感情よりも、恨み辛みや憎しみのような、マイナス的な感情を、極限までに高めさせるべきだからね」


「ほら、昔から『怪談』等において化けて出てくる幽霊の類いは、文字通り『うらめしや』という台詞が示すように、生者への恨み辛みを晴らすために、『悪霊』になって甦るのがお約束(デフォルト)じゃない?」


「だったら、死者とずっと一緒にいたいと思えば、生きている間に自分のことをとことんまで憎ませて、悪霊として甦らせればいいのさ」


「……そりゃあ、せっかく愛する妹を甦らせるのなら、自分にプラス的な感情を持つようにするのがベストだろうけど、それはまさにいわゆる『守護霊』とも呼び得る者に他ならず、そんなものを身に憑けるためには、それこそ世界レベルの『聖人』になれるほどの、功徳を積まなければならないだろう」


「だったら手っ取り早く、『悪霊』として甦らせたほうが、より確実ということなのさ」


「……もちろん、すでに余命幾ばくもない最愛の妹に、自分を恨みながら死なせるなんて、僕自身身も心も引き裂かれる想いがしたよ」


「だけど、君たちへの復讐の遂行のためにも、カスミは何としても悪霊として甦らせなければならないので、心を鬼にして、彼女に辛く当たったんだ」


「もはや病状が末期状態になってからは、どんなにカスミが希おうが、頑として会おうとはしなかったのを始め、彼女に残された唯一のコミュニケーション手段ツールであるスマホを使って、僕に通話やメールでコンタクトをとってきた場合においても、『未練たらしく連絡してくるな』とか、『実はおまえが死んでくれて清々しているんだ』とか、『そう、僕は昔からおまえの存在が邪魔だったんだ』とか、『悔しいか、だったら死んだ後で化けて出て、僕を取り殺せばいいだろう?』とか、心ない悪口雑言ばかりを、メールで返信したんだ」




「──そして彼女は、失意のどん底に陥ったまま、死んでしまったんだよ」




「……もちろん、僕としては、身を切られる思いだった」


「だけどカスミを何としても甦らせるには、こうするしかなかったんだ」




「悪霊として甦るまでに、実の兄である僕に、憎悪を抱かせるためにはね」




「──それは、君たち、カスミをいじめてこの世に絶望させて病床につかせた、クラスメイトたちに対しても、同様だった」


「僕は何としても、カスミを悪霊的存在として甦らせて、君たちに復讐させようとしたんだ」


「しかし、僕自身を憎悪させることは簡単だったが、君たちに対して、復讐するために化けて出てくるほど憎ませるのは、ほとんど不可能だった」


「それというのも、カスミはとことん優しい子だったから、自分をいじめた君たちに対してさえも、心の底から悪感情なぞ持ち得なかったのだ」


「だったら諦めるかというと、そんなつもりは毛頭なかった」




「なぜなら僕は、悪霊などという()()()()存在を、()()()甦らせる方法を、すでに知っていたのだから」




 何度も何度も言うように、幽霊が化けて出ると言っても、何も本当に死者が甦るわけではない。




「あくまでも、『生者』の『死者』に対する『強い感情』──例えば『罪悪感』のよって、脳みそが(すでに亡くなった者をも含む、現在過去未来の人間の記憶と知識がすべて集まってくる、いわゆる『集合的無意識』とアクセスすることによって)錯覚を起こすことで、個人的な認識として、死者を知覚できるようになるだけなのだ」


「つまり、僕がこうして死んだカスミを知覚できているような、()()()になっているのも、あくまでも彼女に対する罪悪感による錯覚に過ぎないのさ」




「──だったら、君たちいじめの実行者たちの、『カスミに対する罪悪感』につけ込めば、君たちの前にもカスミが化けて出て、復讐を果たすことも、十分に可能となるって寸法なんだよ」




「そこで利用したのが、『メリーさんの都市伝説』なんだ」


「何せ君たちはカスミの生前に、彼女の大切な『メリー』という名の人形を使って、陰湿ないじめを行ったことがあるので、もし仮に『メリーさん』のような都市伝説的現象が、我が身に及ぶことがあったとしたら、カスミに対する罪悪感ゆえに、彼女との関連を疑わざるにはおられないだろう」




「──もしかしたら、カスミが都市伝説のメリーさんとして甦って、自分たちに復讐をしているのではないのかと」




「だから僕は彼女の生前において、まだ比較的病状が軽い時期に、あくまでも気分転換のお遊びとして、『メリーさんごっこ』をすると偽って、カスミにここら辺一帯のほとんどの地名や場所を網羅する形で、『あたし、メリーさん、今××にいるの』というセリフを言わせて、ボイスレコーダーに録音しておいたんだよ」


「うん、そうさ、君の仲間のいじめの実行犯の生徒たちを、恐怖のどん底に陥らせて、発狂に至らせた時に使った、度重なる『メリーさんからの電話』は、このカスミの録音済みの台詞を使って、僕が君たちの中学の人事データにハッキングして得た、アドレスやGPS情報に基づいて、君たちのスマホへと音声通話として送ったというわけなのさ」


「何と言っても、自分たちのいじめが原因となって、カスミを死なせてしまったんだ。これでまったく罪悪感を抱かない中学生なんか、存在しやしないだろう」


「そこに、明らかに『メリーさん』らしき相手から、突然電話がかかってきたら、どう思うだろうね」


「きっと罪悪感の強い子ほど、こう思い込んでしまうんじゃないのかな? 『カスミがメリーさんとなって、自分たちに復讐するために、甦ってきたんじゃないのか⁉』って」


「わざとエフェクトをかけて聞きづらくしているとはいえ、どことなくカスミの声であることには、十分気づけると思うしね」


「そんな、死者からとも都市伝説からともつかない、不気味な電話が、まるで自分を追いかけてくるかのように、次々とかかってくるんだ、とても生きた心地なぞせず、しまいには発狂してしまい、本当にカスミの姿が見えてしまったように錯覚を起こしても、不思議は無いんじゃないかな?」




「──そう、僕は、君たちに復讐するためにこそ、最愛の妹を、メリーさんという化物として、甦らせたんだよ」

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