第120話、あたし、メリーさん、今……。【夏のホラー・NOT病院編】(その3)
「『憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い』」
「『殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる』」
「『お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん』」
「『淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ、淋しいよ』」
「『──だから、お兄ちゃん』」
「『……私と一緒に、地獄に逝こう?』」
──このように、本人の唇と、スマホのスピーカーとの、両方から同時に聞こえてくる、
聞くに堪えない、『呪詛』の声。
そう、それは間違いなく、今は亡き妹から、実の兄への、『呪いの言葉』であった。
肩口から回された両手の黒ずんだ爪は、キリヤの胸元に鋭く食い込み、血の涙を流しながら彼をにらみつけている双眸は、まさしく隠しようのない憎しみに燃えていた。
──あたかも、人形である自分を捨てた主に復讐しにきた、『メリーさん』の都市伝説、そのままに。
しかし当のキリヤ自身は、呪いの人形でも、自分を憎んでいる亡霊でも無く、あくまでも『自分の愛する妹』が、普通に後ろからじゃれついているだけであるかのように、穏やかな笑顔のままで、幼なじみである私のほうを見つめるばかりであった。
──こんな異常極まる状況の中で、唯一正気を保ち続けていた私であるが、もはやとても耐えきれなくなり、悲鳴のような大声を上げた。
「……キリヤ、これって一体、どういうことなの⁉」
「うん、どういうことって、何の話だい?」
「とぼけないで! 何で死んだはずのカスミちゃんがそこにいて、しかも自分のことを『メリーさん』だなんて言い出して、それに何よりも、あなた自身がその子のことを、当たり前のようにして受け容れているの?」
「そりゃあ、当然だろう? カスミはボクの妹なんだ、兄が妹を受け容れて、一体何がおかしいんだよ?」
「いやでも、その子はもはや、あなたの妹とか、私の幼なじみなどといった存在ではなく、それこそ幽霊や都市伝説なんかの、人外そのままな存在なのよ⁉」
「──もちろん、知っているよ。何せこの僕こそが、カスミのことを、ただの幽霊では無く、都市伝説として、甦らせたんだからね」
………………………………え。
「この子は、優しすぎたんだよ、幽霊として、化けて出るにはね」
………………………………ちょ、ちょっと、
「そもそも、自分をいじめていた君たちに、復讐するつもりすら無かったんだよ」
………………………………何を、
「だけど、僕は許せなかったんだ」
………………………………一体、何を、
「だから僕が彼女を、都市伝説として甦らせて、君たちに復讐させようと思ったのさ」
………………………………あなたは、一体何を、言っているの⁉
「死者を都市伝説として甦らせるって、そんなことができるものですか!」
「できるよ? ──ていうか、実際僕のすぐ後ろに、『ご本人』がいるじゃないか?」
「──うっ」
「いやあ、最愛の妹を都市伝説として甦らせるには、僕自身も『憎まれなければならない』のが、辛いところだけどね」
「憎まれなければ、って?」
「ほら、カスミのいじめのリーダーである君の手下で、いじめの実行犯だったクラスメイトのJCたちってば、みんな揃いも揃って発狂してしまって、現在絶賛入院中じゃないか? くくくくく、何かよほど怖い物にでも、夜道で追いかけられたんじゃないかなあw」
「──っ。ま、まさか⁉」
「ご想像通り、『メリーさん』と化したカスミに、追い回されたのさ。──そりゃあ、生きた心地もしなかったろうねえ、自分がいじめ殺した相手が、都市伝説として甦ってきたんだから」
「──だからどうして、ただの高校生に過ぎないあなたに、そんなことができるのよ⁉」
「それは何よりも、メリーさんのような都市伝説は、『概念的存在』だからだよ」
………………………………………は?
「な、何よ、概念的存在って?」
「『メリーさん』に限らず、都市伝説の類いって、人の妄想から生み出されたものだから、そもそもその『概念』を知らない者の前には、現れることなんてあり得ないよね?」
「ああ、うん、それはそうだよね」
「つまり、頭から『都市伝説』や『幽霊』なんて信じていない者の前には、『都市伝説』も『幽霊』も現れっこないのさ」
「……う〜ん、確かにねえ。オカルト否定派の人の前に、幽霊が現れたなんて、ほとんど聞いたことが無いし、それに対して、オカルトの実在性を殊更声高に訴えるのは、オカルトマニアばかりだよねえ」
「そういった、狂信的に都市伝説等の実在を信じている者には、いつしか本当に都市伝説が見えるようになってもおかしくはないし、下手すると取り殺されてしまうまでに、物理的接触も可能となってしまいかねないんだよ」
「──いやいや、それって、少々論理が飛躍しているんじゃないの? いくら心から信じ込んでいるからって、都市伝説を実際に見たり触ったりできるわけが無いじゃないの⁉」
「そんなことは無いさ、例えば、都市伝説や死者に対して、自分がかつて行った仕打ちに対する『罪悪感』や、もしかしたら復讐されるかも知れないといった『恐怖心』が、あまりにも強すぎれば、都市伝説や死者なんていう、あくまでも『概念的存在』であっても、目に見えたり触れたりできるようになるんだよ。──まさしく、現在の君のようにね」
──‼
……何……です……って……。




