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第112話、本当は怖い、異世界転生⁉(その1)

『──あきひこ、久し振り♡』




「……その声は、まさか、あけ⁉」




『うふっ、私が今、どこにいるか、わかる?』


「何で、おまえが⁉ ──いや、これは何かの、間違いだ!」


『……もうっ、私の話、聞いているの?』




「──やめてくれっ! 何なんだ、一体これは? おまえは確かに、()()()()()じゃないか⁉」




『うん、私は確かに、死んだわ。──だから、()()()いるんじゃないの?」




「……へ? 死んだからいるって、そこっていわゆる、『天国』かどこか? つまりこれって、いわゆる『霊界通信』なわけなの?」


『──あきれた、それでもクラス一の、『なろう系』マニアなの? 『なろう系』のWeb小説で、死んでから『生まれ変わる』世界といえば、一つじゃない?』


「──っ。ま、まさか⁉」




『──そう、私は今、()()()にいるの。それも、あなたがあんなに憧れていた、魔王を倒すために結成された、勇者パーティの一員としてね』




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「……ほう、異世界から、電話がかかって来たって?」




 僕の、「異世界から自分のスマホに、ほんのこの間亡くなったばかりの、幼なじみの女の子から、音声通話が着信した」という、とても信じられない言い分を聞くや否や、その上級生の超美形の女生徒は、あっけらかんとそう言った。




 肩口で切りそろえられたつやめく黒髪に縁取られた、彫りの深く整った小顔と、すでに出るところが出ていてメリハリがきいているものの、女子にしては高い身長のお陰でスマートさを損なってはいない、我が学園の高等部の夏制服に包み込まれた白磁の肢体。


 そして、窓際の机の上に頬杖をつき、いかにも興味津々といったふうに笑みを浮かべながら、僕のほうを見つめている、深遠なる黒檀の瞳。




 旧校舎の文化系部室等の最奥にひっそりと存在している、『異世界転生SF的考証クラブ』なる怪しげな部の主宰者、たつエリカ先輩。




 昨夜突然、今は亡き幼なじみのじりあけから電話がかかってきたのだが、それだけでも驚きなのに、何と現在異世界にいるなどと、あまりにも途方もないことを告げられて、それから一睡もできずに悩み続けたものの、自分が明美の声を聞き違えることがあるはずがなく、これはどう考えても『超常現象』が起こったものと認めざるを得ず、本日の放課後になって、さる知人から紹介された、以前よりこの学園において数々の不思議な出来事を解決してきたという、『異世界転生SF的考証クラブ』の部室へと、相談に訪れたのであった。


「……あ、あの、こんな話、とても信じられませんよね? 僕も電話がかかってきた時には、とても信じられなくて、それで」




「──いや、信じるけど?」




 ………………………は?


「そんな⁉ 僕からちょっとばかり話を聞いただけで、何でそんなに簡単に、信じることができるのです? 死者が電話をかけてきたんですよ? それも異世界から! まず、異世界にスマホがあることからおかしいし、もし存在していたとしても、どうやって現代日本との通話を実現させていると言うのですか⁉」


「あはは、他ならぬ君自身がムキになって、反論ばかりしてどうする? ここへ来たのも、まずは自分が実際に体験したことを、ちゃんと信じてもらって、それから何らかのアドバイスをしてもらいたいと思ったからこそ、尋ねてきたわけなんだろう?」


 ──うっ。


「そ、それは、そうですけど、先輩があまりにあっさりと、こんなトンデモ話を、受け容れてしまわれるものだから……」


「そりゃそうさ、何せ、これぞ私の最大の、ポリシーなのだからな」


「へ? ポリシーって……」




「現代物理学の中核をなす、量子論に則れば、実はこの現実世界には、無限の可能性があり得るのだ。──だとしたら、どんなに摩訶不思議な出来事であっても、けして頭ごなしに否定したりせずに、まずは柔軟に受け容れようとする、頭の柔らかさこそが必要なんだよ」




 ──‼


 な、何と、そう言うことか⁉


「つまり先輩は、僕の言うことを完全に信じたわけでは無いけど、嘘やたわ言とは断定されていないと言うことですね?」


「もちろんだとも! むしろ、そのような知的好奇心を激しく刺激してくれる、相談事を持ち込んでくれて、感謝しているくらいだよ!」


 あたかも純真無垢な幼子みたいに、瞳を輝かせる美人部長。


 その瞬間、僕の彼女に対する、『美少女だけど、何だか胡散臭い』という印象は霧散し、すっかり共感してしまった。


「──わかります! 僕自身当事者だから、戸惑いも大きいけど、異世界転生系のWeb小説マニアとしては、この上も無い貴重な体験ですよね⁉」


「ほう、君もWeb小説愛好家かね、気が合うな!」


「こちらこそ、光栄ですよ、こんなところで、『同志』と会えるなんて!」


「うんうん、昨今Web小説マニアは、ラノベマニアやアニメマニアよりも、よほど肩身が狭いからなあ」


「……人のことを、『現実逃避者』や『社会不適合者』とかと、勝手にレッテルを貼りやがって! それはあくまでも小説の中の主人公のことであって、読者や作者自身がそうとは決まってないだろうが⁉」


「まったく、現実と創作物フィクションとを混同させている、中二病的妄想癖は、一体どっちなんだよ?」


「でも、僕は信じてましたよ、あくまでも前向きに! こうしていつか、異世界と何らかの形で、接触することができるって!」


「ああ、さっきも言ったが、この世界には無限の可能性があるのだ。本気で願っていたら、夢はいつかは叶うさ!」


「……ええと、それで、部長さん?」


「うん、何だい」


「さっきも伺いましたが、確かにすでに亡くなった者が、よりによって異世界からスマホで電話をかけてきたのって、一体どういった『からくり』によるものなんでしょうか?」


「おお、そうだな、ここは君にもちゃんと理解できるように、一つ一つ詳しく説明してやるか」


「はい、お願いいたします!」


「まず、すでに亡くなられた幼なじみの子についてだが、彼女は『死者の復活』と言うよりも、『異世界転生』を果たした──と言ったほうが正しいかな」


「……まあ、そうでしょうね、そもそも異世界転生の『転生』って、世界をまたいでいるとは言え、『生まれ変わる』ってことなんだし」




「いや、違うんだ、厳密に言えば、『異世界転生』という現象は、けして『生まれ変わり』と同義では無いんだよ」




 ………………………は?


「ちょ、ちょっと、異世界転生が、『生まれ変わり』では無いって、一体どういうことなんですか⁉」


 突然、異世界系Web小説のセオリーを、大きく逸脱するようなことを言い出されて、僕が我が耳を疑っていれば、




 更にとんでもないことを言い放つ、とんでもクラブの、美少女主宰者。




「実は異世界転生とかタイムトラベルというものは、その現象を受け入れる側──今回の場合は、死者である現代日本人では無く、あくまでも異世界人を基準に考えるべきなんだ。──つまり、君の幼なじみさんが、異世界人の身体を借りて、甦ったわけではなく、単に異世界人のほうにおいて、ある意味『前世の記憶』そのままに、幼なじみさんの『記憶や知識』が、脳みその中で余計な雑念ノイズ的に、芽生えただけの話なのだよ」

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