第103話、おまえが(私の)パパになるんだよ⁉(その29)
「……その、『なろうの女神』こそが、部長ご自身で、今回の『未来の娘』騒動のすべてを仕組んだと、おっしゃるわけですか?」
「あ、厳密に言うと、今回の事件だけでは無いよ?」
「は? 今回だけで無いって……」
「まったく、君らしくもないなあ? あまりに驚きの事実の発覚の連続に、すっかり血の巡りが鈍ってしまっているようだね。いいかい? 何度も言うように、人を強制的に集合的無意識にアクセスさせて、別人の『記憶や知識』を脳みそにインストールさせることのできる、『なろうの女神』である私なら、例えばある人物におけるある事柄を体験した記憶を、いわゆる『別の可能性の世界』においてその事柄を体験していない同一人物の記憶でもって、上書きすることによって、その事柄を体験した記憶を消すことができるのであり、君にこれまで体験させてきた、現在の君がまったく覚えていない、私の『なろうの女神』としての異能の力を使って実行した各種の超常的イベントの記憶を、君の脳みそから消し去ることなんて、朝飯前ってわけなのさ」
──‼
「では、僕がこのような、SF小説やWeb小説そのままなことを、体験したのは──」
「ああ、別に今回が、初めてというわけじゃないよ」
「……しかも、そのことをあっさりと、僕に告げると言うことは」
「むろん今回も、君やここにいる彼女たちの記憶を、きれいさっぱり消させてもらうつもりだよ」
「──どうして、どうしてそんなことが、できるんですか⁉ 僕自身はもちろん、僕の身の回りの女性たちにまで、いわゆる『記憶操作』のような真似をして、まるで『ゲームの駒』か何かのように、好きなように操って、ふざけたSF小説もどきのお芝居を演じさせて、用が済んだらその間の記憶をすべて奪って、まるで使い捨てにするかのように扱って。一体あなたは、何がやりたいわけなのですか⁉」
もはや堪忍袋の緒が切れて、怒鳴りつけるかのようにまくし立てれば、目の前の自称『女神様』が、なぜだか一瞬だけ、哀しそうな切なそうな表情を浮かべた。
「……だから、言っているではないか、まだわからないのかい? すべては私が、君を愛しているからこそだよ」
………………………え。
そしてその少女はほんの目と鼻の先で、狂気すら感じさせるまでに真摯な表情となって、滔々と語り始めた。
──それに伴いなぜだか、あたかも催眠術にでもかかったかのように、僕の意識がじわじわと、おぼろげになっていくのを感じたのであった。
「君が思っている以上に、女子高生の身空でありながら、ガチのSFマニアであることは、一般的な学生諸君からしたら、よほど奇異に見えるらしく、私はすっかり『変人』のレッテルを貼られて、学園内においてはこの自分で立ち上げた『異世界転生SF的考証クラブ』の部室以外には、素の自分に返ることのできる安寧の場所は無かったのだ。とはいえ、『好きなことを行っているのだから、他人の目なんて気にする必要なぞ無い』などと達観するには、私はまだまだ子供に過ぎず、それゆえに孤独感や劣等感や自己嫌悪等様々の負の感情に苛まれていたところ、新年度になるや否や君が突然入部してきて、最初は単なる『上級生の女生徒との二人っきりのドキドキ♡クラブ活動を狙ってのこと』と警戒していたところ、私のガチのマニアックさや男っぽい言動なぞ少しも気にかけることなく、常に自然体で『オタク丸出しのSF論議』にも快く応じてくれたことに、どんなに感激したかわかるかい? そのうちこれでも一応女性であるからして、いわゆる『女の勘』によって、君が私のことを憎からず思っていることを察知するや、君を絶対に自分だけのものにして、自分が最も愛する世界の中に──まさしくSF小説やWeb小説そのままの世界の中に、永遠に閉じ込めたいという熱望に取り憑かれるようになり、気がつけばいわゆる『なろうの女神』そのままの、他者を集合的無意識に強制的にアクセスさせて、擬似的なタイムトラベルや異世界転生等を実現できる力を身につけていて、君自身や、君に何かとまとわりついてくる、君に気にあるメス豚どもを、私が仕組んだSF小説やWebそのままの各種イベントにおいて、小説の登場人物そのままに演じさせてきたわけなのさ。
──そう、何よりも、君を、私自身が創り出した、この『なろうの女神が支配する物語世界』の中に閉じ込めて、永遠に私だけのものにするためにね。
……こんな、『女神様』と言うよりも、『悪魔』や『化物』のような力を持った、私のことが怖いかい?
もしそうであっても、もはや君は、私から逃れることなんて、けしてできやしないよ。
だって、そんな素振りを少しでも見せれば、すぐさま君の記憶を消し去って、また私のことが好きになるように、仕向ければいいだけなのだから。
それに、今回の騒動によって、さぞかし山王会長や泉水先生たちのことが、苦手になったんじゃないかい?
もちろん『今回の物語』の記憶は、この後すべて消してあげる予定だけど、今回のみならず、これまでのすべての物語の記憶は、君の深層意識の中でずっと残り続けて、我知らずに彼女たちを遠ざけることになるだろう。
そうなんだよ、このようなSF小説やWeb小説そのままの『ヤンデレイベント』を繰り返しているのも、彼女たちにこれ見よがしにヤンデレぶりを発揮させて、君に彼女たちへの苦手意識を植え付けさせるとともに、相対的に私への好感度だけを、爆アゲさせるためなのさ。
えっ、こんな神をも恐れぬ所業を行っている私こそ、救いようもない真のヤンデレだって?
嬉しいなあ、『ヤンデレ』は私にとって、むしろ褒め言葉だよ?
……あっ、ヤンデレやメンヘラである前に、おつむが狂っているって? それはちょっとひどいなあ、一応私だって、傷つきやすい花の乙女なんだよ?
まあ、君に狂っているのは、確かだけどね♡(テレッ)
それに私自身、仮にも『女神』なんだから、神をも恐れぬ所業というのは、言葉のチョイス的にミステイクなんじゃないのか?
とにかく私は、君がのことが、好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで、堪らないのだから、
これからだって、この『なろうの女神』ならではの異能の力を使って、君や君の周りの女性たちに、SF小説やWeb小説そのままの、超常的イベントを演じてもらうつもりだから、覚悟しておいてね。
──けして、逃がしやしないよ。
君は私の『物語』にとっての、唯一の『主人公』なのだから。
……さあ、とにかく今は、ゆっくりと眠るがいい。
──再び目覚める時は、君自身の記憶も、この世界そのものも、すべてがリセットされているはずだから♡」
長らくのご愛読、誠にありがとうございました。
これにて「おまえが(私の)パパになるんだよ⁉」編は、ひとまず終了となります。
ただし『なろうの女神が支配する』本編はもちろん、部長さんと赤坂君との『異世界転生SF的考証クラブ』シリーズのほうは、これ以降も作中作として続行していきますので、引き続きご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。
なお、本作のオリジナル作であり、ヤンデレ成分を控えめに抑えつつ、切なさとみずみずしさとを増幅させた『ハッピーエンド』ヴァージョンの、SFジュブナイルの超革新作『僕の可愛い娘たち』についても、現在絶賛公開中ですので、ご興味のお有りの方は、どうぞ御一読のほどを♡




