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少年と領主様

作者: 夜ノ仔

 金髪に紫の瞳、そんな珍しい出で立ちをした少年がいました。彼は街の領主様の一番のお気に入りでした。そんな彼の仕事は、とても簡単なものです。

「魔女だー! 魔女が見つかったぞー! 魔女がこれから処刑されるぞー!!」

 愛らしい声をした少年の声は、煉瓦を高く高く積み上げられた街の中でもひときわよく響き、沢山の人間を振り向かせたものでした。

「魔女だー! 魔女がさかさ吊りにされるぞー!」

「魔女だー!! 魔女が足をつぶされるぞー!!」

 楽しげな声で走り回る少年は、街の人々にも好かれておりました。奇妙な子供だと笑われることもありましたが、楽しいことが少なかった時代のことでしたし、一人の女性が目の前で叫び声をあげて踊ったりするのは、奇妙な道化師の一世一代の芸を見ているようで、とても面白いことだったのです。

 空に響くように、歌うように叫ぶ少年でした。彼が走ると、声がしなくともみんなが振り向きました。領主様がにこにこと笑いながら、「今日もがんばったね。」と言ってくれると、陽だまりのようににこにこと笑い、「ありがとうございます!」と声を張り上げてお礼をするのです。

 そんな少年は、街はずれの湖のほとりでひとりで生活をしておりました。毎日街に通うには少し遠く、それに少年はとても働き者の良い子でしたから、立派に小さな畑も持っていましたし、領主様がくださる金貨だけでも十分に必要なものが買えました。だから、なにか面白いことでもないかぎり、滅多に街には出てきません。

 ある日のことです。その日は空がとても晴れ渡っておりました。久しぶりに、少年がにこにこと笑顔で街を走りまわります。

「魔女だー!! 魔女が火炙りにされるぞー!!」

 仔兎を追いかけるかのように楽しげに走り回る子供の声は、街の人々の耳にも、領主様が朝食を召し上がっていたお部屋の窓にも届いておりました。

「今日もあの子はお元気ですねえ。」

 少年の楽しげな声に思わずうれしそうな顔をしながら、領主様の召使が言いました。それを聞いた領主様も、にこにこと頷いていらっしゃいました。

「今日は火炙りだからねえ、余計にうれしいのだろうねえ。」

 領主様がご機嫌でいらしたので、召使もにこにことしたまま興味半分に尋ねました。

「どうしてあの子は火炙りだと喜ぶのですか。」

「それはねえ、あの子の母親が火炙りで処刑されたからだよ。」

 領主様のお返事の意味がよくわからず、召使は不思議そうな顔をして首を傾げました。領主様は世間話をするかのように、もの知らずな召使に教えてあげます。

「あの子の母親は魔女だったのだよ。けれど、母親は賢かったのだね。人々の前で自分が踊っているときには『魔女が踊ってる!!』と叫ぶんだよ、と教えたみたいなんだよ。

母親が目の前で黒焦げにされながら騒いでいるときに、真面目なあの子が『魔女が踊ってる!!』と叫んだのさ。魔女はとてもきれいな顔をして微笑んでいてね。もちろん街のみんなも、自分の母親が死ぬのを見てあからさまに喜ぶ子供がいるとは思わないだろう。」

「はあ、」

「だから、あの子は今でも、魔女のことを喜んで叫べば、母親が喜んでくれると思っているんだよ。街の人たちも何にも知らないみたいだしねえ。」

 召使は朝からとんでもないことを聞いてしまいました。まさか少年の屈託ない態度にそんな理由があったなんて、これっぽっちも知らなかったのです。

 一生懸命、先ほどと同じようににこにことしている召使でした。気づいているのか気づいていないのか、領主様はおもしろいものを見るかのような目で眺めて、やはりにこにことしながら、平然と朝食を召し上がっておりました。

 魔女よりひどいものを見てしまったのではないだろうかと、どきどきしている召使と上機嫌の領主様の耳に、かわいらしい少年の声が届きます。

「領主様!! みんなが何時ぐらいからやるのかって知りたがってます!!」

 楽しげな少年を窓から見下ろす召使には、急に少年の紫の瞳が妖艶なものであるかのように見えてきました。領主様はフォークでお肉を刺しながら、「お昼下がりくらいにしようか。」と召使に言いました。

 召使がそれを伝えると、少年はふたたび小鳥がはしゃぐような声で叫んで帰っていきます。「お昼下がりに魔女が火炙りだぞー!!」

「そういえば、今日の魔女はとってもきれいな魔女なんだ。金髪に紫の目をしていてね。」



 その日のお昼下がり、火炙りにされている魔女に抱きついて、少年もまた道化師のように炎の中で踊りました。領主様はそれを見ながらにこにことしておりましたので、召使も一生懸命、にこにことした笑顔を滑稽なくらいに浮かべておりました。

 昔々、空がとても青かった日の出来事でした。

執筆 2007/12/21

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