夏の涼
なななん様主催「夏の涼」企画参加作品です。
え? タイトルまんま? そうなんです。タイトルから作りました。
ストーカーとかレイプとかの話題が出てきます。血も出ます。
苦手な人は読まない方が無難です。
「んふふ、そんなに照れなくてもいいんじゃない? こうされるのが涼の夢だったんでしょう?」
俺の膝の上に座って足を組み、しなだれかかってくるこの美少女は、賀集夏先輩。うちの高校で、多分一番有名な女生徒だ。
俺より1コ上の3年生だし、部活とか重なるところもなくて、本来なら、間違っても俺みたいなその他大勢の膝の上になんているはずがない。
眉目秀麗、才色兼備、…あとなんだっけ? とにかく、女性を褒め称える四文字熟語が5つも6つも並ぶような人で、風紀委員長もやってたお堅い人で。
間違っても、俺の膝の上に座って、両手で俺の頬を挟んで笑いかけるような人でもない。
何がどうしてこうなった。
いや、わかってる。わかってるんだ。本当は。
先輩にとって、俺がどういう存在か。
「賀集先輩…」
「いやだ、あの時みたいに“夏”って呼んでくれないの? 寂しいな」
「そんなこと言ったって…」
「いいから、呼んで」
「夏…」
「よくできました♪
私はあなたのもの、涼は私だけのもの。ね? 大好きよ。涼は?」
「す、好き…です…」
夏…先輩が有名な理由。それは、もちろん美少女だってことも風紀委員長だってこともあるけど、一番の理由は、一月前に起きた事件だ。
先輩に片想いしていた下級生が、ストーカーしてたんだ。
最初は、二月くらい前。鞄からハンカチとかシャーペンとかがなくなった。何度も。
“なくなった”というより、“盗まれた”んだが。
とんでもない話だが、そういうのは先輩にとってはよくあることだったらしく、あまり気にしていなかったそうだ。“よくあること”ですませるのは、どうかと思うが。
そのうち、時々街を歩いていて視線を感じるようになった。特に、下校時に。委員会の仕事が終わると午後6時頃になる。先輩は、そこから電車を使って15分、更に駅から30分歩いて家に帰る。帰り道には、人気のない公園通りもある。そんなところで視線を感じた。元々人目を惹くひとだから視線には敏感で、誰もいないところだから妙だと思ったらしい
そんなのが何日も続いて、さすがに先輩も不安になった。なるべく人通りの多いところを歩くようにはしていたけど、公園通りだけは通らないと家に帰れない。
そして、一月前、薄暗い公園通りを歩いていた先輩は、背後から近付いてくる足音に怯え、曲がり角にいた俺に助けを求めてきた。
「助けて! 誰か追ってくるの!」
「先輩、こっち!」
これが、俺と先輩の初めての会話だった。
俺は、先輩の手を引いて走り、公園の奥に連れて行って。
そこで、先輩をレイプした。
ストーカーしていたのは、俺だったんだ。
それなのに、誰かの足音に怯えた先輩は俺に助けを求めてきて、舞い上がってしまった俺は、もう歯止めが利かなかった。
「夏」と名前を呼んで、「好きだ」と何度も言って、その体にむしゃぶりついた。
全部終わった後、先輩はぐったりしていて、怖くなった俺は逃げ出した。
翌日、学校に行くと、先輩が飛び降り自殺したというニュースで持ちきりだった。
その後だ。
先輩の幽霊が、俺の前に現れるようになった。
俺の部屋で、俺の膝に座って、信じられない色っぽさで俺を誘惑してくる。
「私の初めてを奪ったんだから、責任取ってくれなきゃ」と笑う先輩は、俺が優しく「好きだよ、夏」と言わないと、「私の命まで奪ったくせに!」と、死んだ時の姿に変わって迫ってくる。
落ちてぐしゃぐしゃになった血塗れの顔で、俺にキスをねだってくるんだ。
いくら、毎回現れる時は生きてた頃の美少女の姿だからって、一度あの顔を見ちまったら、もう忘れられない。あのインパクトは、夢に見て飛び起きるレベルだ。
先輩は、俺に対する恨みを、そういう形で晴らしてるんだろう。
もう、疲れた。
先輩みたいな無惨な姿で死にたくない。俺は、手首を切った。
これで、先輩から逃げられる。
そう思ったのに。
今も先輩は、俺の膝の上に座って、俺の頬を両手で挟んでキスしてくる。
俺の魂に取り憑いてるんだそうで、どこに逃げてもすぐに現れる。
そして、優しく笑うんだ。
「可愛いわよ、夏の涼」と言って。
俺は、魂まで先輩のものになってしまったらしい。
「夏の涼」、「の」は所有格です。
「夏のものであるところの涼」というところから発想してホラーチックにやってみました。
ホラー&スプラッタです。
苦手な方、ごめんなさい。