エミちゃんと料理を作り隊
・エミちゃんと料理を作り隊
「ん~~~~~~~」
「エ~ミちゃん!何悩んでんの?皆もう帰っちゃってるよ~、私達も帰ろうよん」
「エミ、帰りにアイス買って帰ろう。コンビニで季節限定チョコミントが出てるって」
「ん~~~~~~~~」
「エミちゃんってば!……エミちゃん?」
「友実ここはあたしに任せろ。はぁああああああ!!」
「ヤ、ヤバい……森羅が何か技を出そうとしている!これはとんでもない事になるでぇ!エミちゃん早く気づいて!」
「ん~~~~~~~~」
「はあああああああああ」
「ん~~~~~~~~」
「エミちゃん!!!!」
「はあああああああああ!」
「ん~~~~~~~~~」
「……エミ、早く帰ろう」
「オチ浮かばへんかったんかい」
X X X
「で、エミちゃんさっきは何悩んでたの?」
帰り道、友実が先陣を切って口を開いた。ちなみにさっき私に二人の存在を気付かせたのも友実だ。脇腹ツンツンされて気が付きました。あれやられたらひゃっ!ってなるのよね。
「うん?ああ、実はね、明後日陽子の誕生日なのよ。それで陽子へのプレゼントを何にするか考えてたの」
誕生日一ヶ月前から何にするのか考えてはいるが、全然良いのが浮かばない。だって敬愛する陽子へ相応しいプレゼントなんて、ダイヤ100カラットか、油田か、イケメンタレント待てんYOUに会わせる位しか思い浮かばないんだもん。私には到底手が届かないヤツばっかりだ。
「へ~、みなっち明後日誕生日なんだ~。私も何かプレゼントしようかなぁ」
「あたしもあたしも」
「あんた達、プレゼントするのは良いけど、変な物あげないでよね」
割とガチで要りもしない生き物とかあげそうだから怖い。私は良い……良くないけど、陽子はあんた達への耐性がないんだから、とっても気を使ってあげて欲しい。
「そんなのあげないよ~。でも、みなっちが喜びそうな物って何だろ?」
「そこなのよね、問題は……」
今更陽子に好きな物は聞けない。誕生日前に好きな物聞くと、何プレゼントするかバレしまうかも知れないもん。出来れば陽子にはすっごく喜んで欲しいので、サプライズは失いたくない。
「手づくりで何かプレゼントを作るのはどう?」
「手づくりかぁ……」
ソノハッソウハアッタワ。高価な物に唯一対抗出来る物と言えば、心が篭っている手づくりだ。そんな事は分かっていた。でも、私には手づくり出来る物がない。陽子を喜ばせる物なんて作れない。だから手づくりは選択から除外していた。
「真心が篭ったプレゼン良いだわさね~」
「そうね……はぁ……手づくりプレゼントを作れるスキルがあればなぁ」
「エミ、スキルがなくても作れば良いじゃん。あたし手伝うよ」
「えっ!」
ソノハッソウハナカッタワ。そうか、友実と森羅がいればなんとかなるかもね。森羅はお菓子作りが得意だったりするし。
「じゃ、じゃあお願いしようかしら……。森羅が手伝ってくれるし、お菓子作りなんてどうかしら?」
「お菓子作りなら任せんしゃい!」
「森羅が作るお菓子は美味しいもんなぁ。私も手伝うよ。ではでは~、早速材料を買って、エミちゃんの家にレッツゴーなのです!」
「ゴーなのです!」
「ほら、エミちゃんも!」
「ゴー……なので……す」
「照れちゃってエミちゃんかわい~」
「う、うるさい!」
X X X
「はい、じゃあこれからあたくしの料理教室を開催致します。皆さんよろしくお願いします」
「森羅先生よろしくお願いしま~す」
「よろしく頼むわ」
森羅の料理教室なのに何故私の家でなのか。おかげでママに見られてしまったではないか。ママがニヤニヤして、彼氏でも出来たの?なんてベタな事を聞かれてしまったではないか。まぁでも、今回の発端は私だからしょうがないか。
「では、エミ今日は何作るか発表して下さい」
「ええ、陽子へのプレゼントは手作りクッキーを渡す事にしたわ。料理初心者の私でも作れそうだしね」
「手作りクッキーかぁ~、私は饅頭の方が好きだなぁ」
「友実シャラップ!クッキーの材料はこちらの方で用意しました。早速作ってみましょう」
森羅が用意したのはクッキーを作る為の基本的な材料だった。ボケでネギでも混ぜてくるかと思えば、そんな事しないのね。もしかしてこの子料理はガチなの……?
「では、まず最初にボールにバターを投入します。エミやってみて」
「うん」
「エミちゃんスゲえ!ボールにバター入れれたじゃん!」
「あんたぶっ飛ばすわよ」
「で、この泡立て器でよく混ぜます。次は友実やってみて」
「ハイハイ~」
「友実凄いじゃない。まさかあんたが泡立て器のスイッチをONに出来るとは思わなかったわ。私感動した」
「そんな事ぐらい出来るわい!私はスイッチをON/OFFにさせたら、右に出る者はいないって評判なんだよ!」
「何そのマニアックな評判……もし本当に評価している人がいたらちょっと怖いのだけど」
「二人共真面目にやって」
「すみません」
「すみません」
いけないわ。森羅を怒らせてしまっては料理教室が中止になってしまうかも知れない。友実の挑発には乗らない方が良いわね。
「ほんで、その次はグラニュー糖と砂糖を入れてまた混ぜます。エミやって」
「うん」
「バターと砂糖と塩とグラニュー糖か……グラニュー特戦隊の誕生だね。ちなみにジユウーザー様は私、ほーほっほっほ」
「(無視無視)森羅、次はどうすれば良いの?」
「次は卵黄を入れてかき混ぜて。我がスプランブルエッグ人生に一片の悔いなしって言って」
「森羅……あんたまでふざけるの?」
「ゴメン、つい」
不味い事になってきた。森羅までふざけ始めたら空気がゆるくなってしまう。ちょっと気を引き締めなければ。
「二人共ちょっと良い?」
「何?」
「エミどうしたの?」
「私ね、陽子にとても感謝をしているの。だから今回渡すプレゼントは絶対に喜んで貰いたい。なので、二人には真剣に取り組んでほしゅ」
「あ、噛んだ」
「噛んだ」
「う、うるさいわね。とにかくちゃんとやりましょ!」
「は~い」
「分かった」
「で、森羅次は何をすれば良いの?」
「薄力粉を入れて頑張ってかき混ぜて。その時は切る様な感じで」
「分かった」
「うんうん。あ、クッキー作ってる!ってな感じになってきたじゃ~ん」
それどんな感じだ。でもバカな事やってた割りには、料理の方は上手い事進んでいる。これも全部私のおかげか、バターの入れ方とか1流感めっちゃ出てたもん。将来は料理人になるのも良いかも知れない。
「エミ全然ちゃんと混ざってない。友実変わってあげて」
「ガーン」
「エミちゃんその混ぜるヤツを早く貸しな。私が代わりに混ぜてやんよ、混ぜる事すら出来ないひよっこに変わってよぉ」
クッソ、腹立つな。あんなアホに見下されるなんて一生の不覚。混ぜスキル向上の為にちょっと山へ篭ろうかしら。
「やだ、これは私がやる」
「ダメだよ、エミちゃん。それは私が任されたんだから変わりなさいな」
「エミ、適材適所ってあるんだよ」
「なんと言われ様が絶対やだ。混ぜるのは私がやり遂げる。二人共ちょっと黙ってて」
「エミちゃん!」
「エミ!」
「黙っててって言ってるでしょ!それ以上私を愚弄するなら、この生地を何か得体の知れない物に変えるからね」
「まさか生地質を取るなんて……エミちゃんやめなよ、実家にいるおばちゃんも悲しむよ」
「エミはまだ若いから全然やり直せる。だから生地を解放してあげて」
「うるさい!やるって言ってんでしょ!黙って見てなさいよ!」
ここで交代なんてしない。こんなの小学生でも出来るわ、高校生の私が出来ない筈ない。
「うおおおおおおおおおお!」
「エミ、ダメ!そんなに混ぜたら……」
「エミちゃん!」
「うおおおおおおおおおお!」
「エミちゃん……」
「うおおおおおおおおおお!あっ……」
「ほら~、言わんこっちゃな~い」
「エミやっちまったな」
「ゴメン、床に落としちゃった☆」
X X X
「ここで薄力粉を入れてと……よし、さっき失敗した所まで辿り着いた」
「混ぜるのは誰にする?」
「はい!私は結構ですので友実さんか、森羅さんでお願いします!」
流石にここで私がやるとは言えない。もう認めるしかないのだ、私は小学生以下のポンコツ仏頂面女だと。って、誰が仏頂面女よ!
「じゃあ、混ぜ混ぜするよ~ん」
「友実、切る様にして混ぜるんだよ」
「分かってるよ、任せて」
「……」
う、上手い。こやつ物凄く丁寧かつ、手際が良い。まさか友実にこんな才能があったとは……完敗だわ。友実の才能に乾杯だわ。
「うむ、友実それでOKだよ。次はその生地をラップに包んで冷蔵庫に入れます」
「俺包む、工程進む。HEYメ~ン」
「変なラップしてないで早く包みなさいよ」
「は~い。森羅こんな感じで良いの?」
「うん、それで包み終わったら冷蔵庫入れて30分ぐらい待つから、ちょっと休憩でも入れよう」
「賛成!」
「私も賛成」
同じ作業を2回も繰り返したから正直ちょっと疲れた。料理ってやっぱ作るのに体力がいるわね。毎日作ってるママに感謝せねば。
「エミ、友実、休憩時のお菓子は何が良い?ボクオとじゃじゃりこがあるけど」
「無論ボクオ」
「じゃあ私はじゃじゃりこで」
「そっ、分かった」
「ちょっと待ちなはれ森羅。おんどれぇ、何か隠してとるんやないかい?あぁん?」
「……ばれたか。実はマシュマロもある」
「あっそう。マシュマロなら別に良いや」
「友実、貴様とは一回話し合わなければいけないな」
X X X
「30分!森羅、まさかの30分経ったよ」
「落ち着け友実。全然意外でもなんでもない」
「森羅次はこの棒で生地を伸ばせば良いのよね?」
「そう。ちゃんとラップで挟んでね」
生地を伸ばすか……。綺麗に伸ばせるかな。途中で生地が切れたりしないかしら。ヤバイ、プレッシャーで手が震える……。これは日の丸背負ってるレベルと言っても過言ではあるまい。
「行くよ……二人共」
「やったれエミちゃん!ハートの全部で!」
「エミ、お前がNo.1だ」
全神経を研ぎ澄ませ。生地を殺さず、めん棒をスムーズに転がすのだ。出来る、私なら出来る。
「よし、うおおおおおおおおお!秘技めん棒コロコロ!!」
「で、出た~!エミちゃんのめん棒コロコロや!こんなもん勝ったの同然やで!」
「なんやそのめん棒転がし……。こんなもん始めて見るさかいやで。奇跡や!ワイは今奇跡を目撃しとるで!」
「うおおおおおおおお!」
「す、凄い!またスピードが上がった!って、エミちゃん練習はもう良いから早く生地伸ばしてよ」
「エミ茶番過ぎるよ」
「ご、ごめん。ちょっと練習しときたくて。生地の上でめん棒を転がせば良いんだよね、すぐやるやる」
「ったく~。エミちゃんは慎重過ぎるんだよ。こんなもザッパッサッってやれば良いんだから~」
「分かってるわよ。こんな感じで良いんでしょ?」
「そうそう。エミ良い感じだよ」
任せなさいよ。失敗を二度繰り返すエミちゃんじゃ無いんだから。って言うとフラグ立っちゃうから言わないでおこ。
「うん、こんな感じで良いんじゃないかしら」
「エミそれで良いよ。次はコップを使って型取りしていくから」
「あいよ~。森羅こうすれば良いんだよね?」
「そうそう。生地にコップを押し付けて円形にくり抜いて」
「ハート型があれば可愛いのに……」
「エミちゃん……流石にそれは重くない?」
「うん、エミ重い」
「わ、分かってるわよ!冗談よ、冗談!」
「なら良いんだけど……」
確かにハート型は流石に重いか。我ながら最近陽子への想いが強すぎる様な気がしてきた。彼女は友達なんだからちょっと控えないとね、その内引かれるわ。
「森羅、型取り終わったよ」
「こっちも終わったよ~」
「うむ、ではオーブンで焼きます。オーブン用のシートはもう敷いてあるからそこにくり抜いた生地を乗っけていって」
「はい」
「は~い、エミちゃんいよいよ完成間近だね」
「うん」
物凄く単純な作業だったけど、此処までの道のりは決して楽ではなかった。友実には邪魔されるし、友実にも邪魔されるし、友実だって邪魔してきた。ほんと苦労したのは全部友実のせいだわ。私は一つも悪くない。
「で、オーブン入れたら10分ぐらい焼きます。エミ、スイッチを入れて」
「これ?」
「うん、それ」
「スイッチオン」
「OK.これで作業は終了。後は完成を待つだけ。二人共お疲れ様でした」
「お疲れ」
「お疲れ様~。ちょっと疲れた~。森羅、エミちゃん待ってる間休憩しようよ」
「そうね」
「お菓子どうする?もうマシュマロしか残って無いけど」
「え~、ならお茶だけで良いや」
「友実、来週空いてる?ちょっと巌流島で決闘したいんだけど」
X X X
「まだかまだか……」
「もうちょっとなんだから落ち着きなさい」
「後10秒.9.8.7.6.5.4.3.2.1」
「0~!完成だ~!」
「良し、エミ取り出して」
「うん」
取り出すのもちょっと緊張する。ここで落としたらほんとマジでシャレにならない。落としちゃった☆では済まないだろう。ここは慎重に……慎重に……。
「エミちゃん!」
「わっ!」
「落とさないでね」
「分かってるわよ!いきなり大声出さないで!」
一瞬終わったかと思った。こんな時に話しかけて来るなんてほんとビックバン級のアホなんだから。
「ここに置くよ」
「うん」
「到着~!エミちゃん隊員ご苦労様でした」
輸送任務完了。そして最後にやるべき事と言えば……。
「では、二人共味見をどうぞ」
「良いの~!やった!早速頂きま~す!」
「……頂きます」
クッキーの見た目は完璧だ。市販の物と比べても遜色ない程に。だが、一番大事なのは味なのだ。いくら見た目が整っていても味が悪ければ意味がない。果たしてこのクッキーは失敗か、成功か、私の舌が答えを。
「これ美味しい~。エミちゃん、森羅大成功だよ~」
「……」
先に結果を発表しやがった。まぁでも少し早く緊張から解き放たれたので、許しといてあげるわ。
「うむ、エミ美味しいね」
「うん。確かに友実の言う通り大成功だわ」
「じゃ、このクッキーをラッピングしてみなっちにプレゼントしよう」
「そうね」
「みなっち喜んでくれるといいなぁ」
「喜んでくれるわよ、絶対に……」
私一人だけで作ったのならともかく、三人で心を込めて作ったんだ。想いが届かない筈がない。誰が何と言っても私はそう信じている。
X X X
「エミ、街村さん、友沢さんおはよう!」
「お、おはよう」
「みなっちおはおは!」
「超グッドモーニング」
「どうしたのエミ、何かソワソワしてるけど……」
「いや、別に……なんでもないよ」
ヤバイプレゼント渡すのって緊張する。そういえば今までクリスマス会で、プレゼント交換とかはやった事あったけど、面と向かってプレゼント渡した事はなかったな。初プレゼント渡し照れ臭い!けど、勇気を出さなくちゃ。折角クッキー作ったんだから。
「あの陽子これ……誕生日プレゼント。クッキー焼いてみたの」
「えっ!?私の誕生日覚えててくれたの!?嬉しい」
「うん、陽子誕生日おめでとう」
「美味しいそうなクッキー。これエミ一人で作ったの?」
「えっ」
「エミちゃん良いよ、一人で作ったって言っても」
友実がボソっと耳元で囁く。珍しく気を利かせてくれてる。森羅は横でうんうんと頷いている。ったく、そんな事されたらこう言うしかないじゃない。
「ううん、友実と森羅と三人で作ったんだ」
「そうなんだ。街村さんと友沢さんもありがとうね」
「どう致しまして~」
「気にするな。ちなみにあたしが好きな食べ物はマシュマロだからな」
「フフ、分かった。覚えとく」
「じゃ、エミちゃん私達はこっちだから」
「アディオス」
「うん」
「エミこれ食べて良い?」
「えっ!今?別に構わないけど……」
陽子のお口に合うのか心配だ。まぁ陽子なら不味いとは絶対に言わないだろうけど、そういうのは顔に思いっきり出るからね。
「では、頂きま~す」
「ど、どう?」
「美味しい!今まで食べたクッキーの中で一番美味しいよ!」
「また大袈裟な……」
「ほんとだって!嘘じゃない!エミ、こんな美味しいクッキー作ってくれてほんとにありがとう」
そう言うと陽子はとびっきりの笑顔を見せてくれた。その笑顔を見た瞬間私は全てが報われた気がした。そして、それと同時にあの子に笑顔を見せない私にほんのちょっとだけ罪悪感を感じた。
エミちゃんを笑わせ隊 対戦成績 0勝7敗