エミちゃんとバレーがやり隊
夕日が照らす放課後の教室。ノスタルジックとは正にこの光景の為にある言葉なのだろうと、まだ現役女子高生にもかかわらず私は思った。そして、もしかしたら隣にいる彼女も同じ事を考えているかも知れない。
私は今彼女と二人で教室にいる。何故二人でいるのかと言うと、答えは単純に残ってと言われたからだ。一体彼女は私に何の用があるのだろうか。期待と不安か入り混じる中、彼女は口を開いた。
「ゴメンね、わざわざ待ってもらって」
「ううん、良いの。帰っても暇でやる事ないし」
「そう……。それなら良かったわ」
「うん」
実際帰宅部の私は家に帰ってやる事と言えば、勉強するか本を読んでるかのどっちかだ。ハァ、貴重な青春時代に何やってんだ、私。
「エミ……唐突で悪いのだけれど、私、実はずっと貴方事をね……」
「えっ?」
「出会った時からずっとずっと思ってたんだ!」
「ええっ?」
そんなバカな。まさか陽子が私の事を?いやでも、入学当初から凄くフレンドリーに接してくれてたし、よく目が合うし、ボディタッチも多い。よって、可能性は0じゃない。
「エミお願い!バレー部に入って!」
「陽子ごめんなさい!私まだ……えっ?」
「えっ?」
「えっ?バレー部?」
「そう、エミにバレー部に入って欲しい。出会った時からずっとずっと思ってた。エミなら身長もあるし、良い選手になるんじゃないかなって」
「バレー……。そっかそっか、バレーかぁ」
あまりに期待外れなのと、思い上がった自分の恥ずかしさに泣けてきた。穴があったらダイブしたい気分。
「ほら、私達バレー部って人数少ないじゃない?正直今のメンバーだけでは試合すらまともに出来ないし、エミが入ってくれると凄く助かるのだけど」
確かにバレー部の人数は少ない。新入生への部活紹介はたった3人だけでやっていて、ひたすらトスだけを繰り返すという正直活気さ0のパフォーマンスだった。今何人いるかは知らないが、陽子が私を誘って事はまだ多くはないのだろう。
「う〜ん、バレーねぇ。陽子が困ってるなら助けてあげたいけど、私バレーには興味が……」
「興味なくてもやってみたら楽しいかもよ!とりあえずやってみない?」
「う〜ん……。ゴメン、陽子。皆真剣にやってるのに私だけ生半可な気持ちでは出来ないよ。周りに申し訳ない」
「そんな事は……。でも、無理矢理誘うのは良くないか。ゴメンねエミ、無理言って」
「ううん、こっちこそ力になれないでゴメンね」
「ちょっと待たんかああああああい!ジャ〜ンジャンジャンジャ〜ン」
友実が自作BGM付きで掃除用具入れから出てきた。一体いつからそこにいたんだ!?と、言ってあげたい所だけど、ついさっき入っていくのを私は見ていた。どうやらあの子はそれに気づいてないと思ってるみたい。ほんと爆裂にアホね。
「何よ、あんた。陽子と私の会話を邪魔しないでくれる?」
「エミちゃん!みなっちが困ってるのに助けないってどういう事!?」
「いやだから、やる気のない人間が部に入ったら士気が」
「それならエミちゃんがやる気出せば良いだけの話じゃない!」
「うっ……」
確かにそうだ。やる気がないのなら出せば良い。周囲に迷惑かけそうなら、前もって準備すれば良い。そんな簡単な事から私は逃げようしていたのか。気付かせてくれてありがとう、友実。危うく私は大事な友達を無下にする所だった。今回ばかりは感謝する。
「陽子やっぱりやるわ」
「エミほんと!」
「エミちゃんそうこなくっちゃ!」
「ただし、条件があるの。バレー部に所属するのは試合が終わるまで。流石に引退までは付き合えない」
正直部活動が続くのは耐えられないと思う。帰宅部のヘタレさ加減は自分が一番よく分かっているし、そもそも運動部に興味がなかったから私は帰宅部なのだ。部活動を続けるなんてじぇったい無理。それだけは譲れない。
「うん、分かってる。次の試合まで居てくれれば大助かりだよ」
「よ〜し、じゃあ明日から練習スタートじゃい!」
「何であんたが仕切ってるのよ」
「え?何でって、私も参加するから。後、森羅達も誘う気満々だぜ」
「ほんとに!?街村さん達も参加してくれるなら私嬉しい!」
「……友実達も参加?」
あれっ?あれれれ?それなら私が加入しなくても良かったんじゃ……。初めから友実達だけでやれば良かったんじゃ……。
「エミ、頑張ろうね」
「う、うん」
陽子に今更やっぱり辞めますとは言えず、私は帰宅部らしく寄り道せずに帰宅した。その後、私は枕に15分ぐらい枕に顔を埋めていた。
X X X
「よろしくお願いします!」
「皆拍手〜」
「陽子、良い子連れて来たじゃない。あれだけ身長があればアタッカーも任せられるだろうし」
「はい、部長。頑張ってスカウトした甲斐がありました」
「うむ。褒めて使わす」
「えへへ」
「なっ……」
私の陽子がデレとる!そんなバカな……。陽子は私にしかデレのではなかったのか!?私専属ヒロインではなかったのか!?もしかして知らない間にNTRルートに入ってる?もしそうなら一度リセットせねば。
「それと部長、実はエミだけではなく後何人か参加してくれるみたいなんですよ」
「えっ?ほんとに!?遂に我がバレー部に活気が出るのか……。ヤバい泣けてきた。で、その子らはいつ来るの?」
「もうそろそろ来ると思うのですが……」
「ジャ〜ンジャンジャンジャ〜ン!みなっちお待たせ〜」
友実がまた自作BGM付きで出てきた。もう同じBGMを使ってるって事はレパートリーは一つだけなんでしょうね。この子絶対ミュージシャンにはなれないわ。
「おい、やっぱ何で私達だけブルマなんだよ」
「だって、エミちゃんがブルマの方が笑ってくれそうなんだも〜ん」
「何、あいつそんなに変態なの?」
「……」
遠くにいるから友実達が何を話してるか分からないが、視線的に何か勘違いされてる気がした。後で誤解を解かなきゃ。
「貴方達も手伝ってくれるのね」
「ウッス、貴方が部長さんですか?私、街村友実と申します。詳しくはWikipediaを見て下さい」
「いや、お前のページなんてないだろ……」
「フフ、貴方は?」
「おう、私は山根智美。運動には自信あるんだゼ。昔ソフトボールやってたしな」
「宜しくね」
「任せとけ!大風呂敷に乗ったつもりでいとけば良いから」
「いや、それ沈むどころか、乗れすらしないよね……」
「で、部長さん。あそこ寝ているのが三人目のメンバー友沢森羅です」
「マシュマロで戦う訳には……ムニャムニャ……」
「……」
「以上の三人が参加しまっス!宜しくお願いしまっス!あ、ちなみに今日4人来る予定だったのですが、1人はやっぱダルいと言って帰ってしまいました」
「そ、そう……」
部長が苦笑いをしている。まぁ、あんなメンツを紹介されてはそりゃそうなるわね。アホ二人+ヤンキーだもん、私が京都人部長なら追い返しとりますえ。ぶぶ漬け出すどころか、ぶつけてますえ。
「じゃあ、皆、早速新メンバーも混じえて練習を開始しましょう!」
「はい!!」
「エミちゃん負けないからね!」
「練習で何を張り合うのよ。後、あんたその前にブルマ着替えたら?さっきからジロジロ見られてるわよ」
「エミちゃん……人の目ばっかり気にしてたら生きにくいよ……」
「……」
確かにそうだけど、友実に言われると腹立つな。てか、あんたはもっと人の目を気にしなさいよ。
X X X
「ハイ、後10周!皆頑張って!」
「ぜぇ……はぁ……ぜぇ………はぁ……」
後10周だと……。ヤバい、バレー部完全に舐めてた。どうせ仲良くキャハハウフフ程度の練習しかやってないのだろうと高を括っていたが、これは完全にガチじゃん。どうしよう……練習開始40分にしてもう辞めたい。
「ぶ、部長さん……。ちょっとこけでティータイムでもどうでしょうか?このままでは私死んでしまいます」
「街村ちゃん頑張って!」
「しょ、しょんなぁ……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「……」
やはり友実達もきついみたいか。森羅なんてマジで死んでるんじゃないかと思う位ピクリとも動かない。まるで死体の様だ。ヤンキーは意外にも結構着いていけている。喧嘩する為に鍛えてんのかな。
友実はさっきからあれこれ言ってはいるが、アホのクセになんだかんだで着いていけてる。やはりあの子は運動神経ある方だわ。アホだけど。
「よし、皆後1周!最後は全力で行くよ!」
「ふぬ〜、私が1位を取ってみせる!ぬおおおおお!」
「負けるかあああああ!」
友実と山根さんが張り合っている。あの子らよくそんな体力が残ってたな。私なんてもう森羅みたいな倒れそうなのに……ってあれ?森羅は?
「ぬあおおおおおおおおお!」
「きえええええええええ!」
「ゴオオオオオオオオル!」
見えないゴールテープ切ったのは友実でもなく、山根さんでもなく、ゴールの手前で乱入してきた森羅だった。森羅のあまりの空気の読めなさに流石にウチもドン引きですわ。
「ちょっと!森羅!何で乱入してきてんのよ!ムキー!」
「なんとなく」
「そもそもお前ちゃんと走ってないだろぉ。ゴールする権利すらないのに、何ドヤ顔でゴールしてんだよ」
「ゴールする権利は誰にだってある。例え周回遅れしたヤツでもな」
何かかっこいい事を言ってるが、森羅がヘタレKYなのは変わりない。ここは友として、後で皆に謝罪させよう。
X X X
「では、今日は人数が多いので紅白戦をします。人数的に6対6は無理なので、3対3でやってみましょう」
「紅白戦だって〜。エミちゃん楽しみだね〜」
「そうね」
紅白戦か。バレーの試合は昔中学の時にやった事がある。皆仲良しこよしで楽しかったなぁ。バレーには良いイメージがあるので、紅白戦も楽しみだわ。
「チームは私、街村さん、山根さんがAチーム」
「Bチームは私とエミと友沢さんね」
陽子が私を同じチームに選んだっぽいか。こりゃ愛の告白されたのとほぼ同然よね。答えは勿論YESよ、陽子、結婚しよう。
「では、コートに分かれて」
「エミ、友沢さん。紅白戦だけど絶対に勝とうね」
「うん!」
「おうさ!」
「ゲームは1セットで先に25点取った方が勝ちね。じゃあ始めるわよ。橘、ボールちょうだい」
いよいよ始まるのか。ベタだけど、ここはあえて言わせて欲しい。絶対に負けられ。
「エミ、サーブが来るよ!」
「えっ?う、うん」
「エミちゃん達行くよ〜!ミラクルサ〜〜〜ブ!」
友実が打ったサーブは山なりサーブだった。どの辺がミラクルなのかサッパリ分からないが、よし、これなら森羅でも余裕でレシーブ出来る筈!
「森羅!」
「おう!」
森羅ナイス!上手くレシーブ出来た!後は、陽子がしっかりトスしてくれれば!!
「エミ!」
キタ!アタックするには絶好の球だ。タイミングを合わせて……。
「って、いきなり上手く出来ないわよ!」
私はアタック出来ず、ネットに突進しただけとなった。それもその筈。アタックなんて私はやった事がない。中学の時はひたすらトスを上げるだけだったし。
「エミ、大丈夫?」
「あ、ああ……うん」
「エミゴメン。やっぱいきなりアタックは難しいよね、私がやるべきだったわ」
「いや、私が断るべきだったわ。自分を過大評価し過ぎてた。二人ともゴメン」
イメージは出来てたのだけどね。実際やってみるとかなり難しいのね。やはり私にはトスを上げる方が合っている様か。
「じゃあ、気を取り直して行くよ〜!ミラクルサ〜〜〜ブ!」
「森羅!」
「はいな!」
森羅がまた良いレシーブをやってくれた。次は私だ、大丈夫。アタックではないので上手くやれる。
「陽子!」
「OK!エミナイストス!」
「山根さん来るよ!ブロック!」
「わぁってるよ。来いや!」
「ハイ!」
陽子のアタックは部長と山根さんのブロックをすり抜け見事に決まった。流石バレー部かっこええ。陽子惚れ直したよ!
「友実何やってんだよ!ちゃんと拾わないとダメだろ!」
「にゃにおー!そっちこそブルマからパンツはみ出てるからちゃんとしまいなよぉ!」
「なっ……お前いつから知ってた!」
「さとみんがブロックした時から」
「ちゃんと集中しろよ!」
「まぁまぁ、二人共落ち着いて。まだ1点取られただけだよ。試合まだまだこれからだから」
「部長さん……よし、集中して行こう!」
「いや、集中してないのお前だけだから」
何やらAチームが揉めとる。まぁ友実がいれば当然か。あの子が真面目に何かやるなんて事は滅多にありませんからね。
「エミ、友沢さん、さっきの流れはほんとに良かった。あの感じでこのままいければきっと勝てるよ」
「そうね」
「負けたくない」
「試合再開します。サーブはBチームで」
「よし、行くよ!二人共!」
「うん!」
「YES!」
「負けずに気合い入れて行くよ!お二人さん!」
「ああ!」
「は〜い!」
この後試合は一進一退の攻防となった。勿論素人が4人もいるので、ちょいちょいグダッたり、森羅が途中でお菓子食べに行ったりしたが、中々白熱した試合展開だ。
「これで次私達に点が入れば勝ちよ」
「おう」
「勝利目前だね〜」
試合は24対22でAチームがリードしている。中盤までは私達がリードしていたが、森羅が途中で抜けたせい(代わりに部員が入ったが)で士気が下がってしまい、逆転を許してしまった。クッソー、三時のおやつタイムめ。
「エミ、友沢さん、ここは絶対に死守するよ!」
「ええ、絶対に」
「集中集中!」
ここまで頑張ったんだ。この試合なんとしてでも勝ちたい。
「街村ちゃん、山根ちゃん、こっちは1本落ち着いて決めに行こう」
「ああ」
「部長さんOKだよ!サーブは私に任せて!」
「分かったわ。宜しくね、街村ちゃん」
サーブはまた友実がやるのか。あの子サーブやる度に上手くなっていってるから警戒しないとね。
「森羅レシーブ頼んだよ!」
「あたしに止められないボールなんてない!」
「じゃあ、行っくよ〜ん!ミラクルサ〜〜〜ブ!!」
「キタ!森羅!」
「友沢さん!」
「ヘックシュン!……あ……」
「あ……」
「えええぇ……」
「試合終了!Aチームの勝利です」
「やったあああああああ!勝ったああああああああ!」
「うっしゃああああああああ!」
「街村ちゃん、山根ちゃん、おめでとう。ほんとによく頑張ってくれたわ」
「いやいや、勝てたのは部長さんのおかげですよ〜。フォローしてくれてありがとうございました」
「うんうん、流石部長と認めざるを得ない動きだったぜ。やっぱりあんたすげぇよ」
「街村ちゃん、山根ちゃん……ありがとう」
「……」
向こうは感動的な感じになっているが、こっちは……。
「エミ、陽子ゴメン……」
「そんな友沢さん謝らないで。よく頑張ってくれたじゃん。それに私楽しかったよ、二人と一緒にバレー出来て。まぁ負けちゃったけど、悔しい思いよりも今は楽しかった思いの方が強い。二人共ほんとにありがとうね」
「陽子……。エミ……」
「うん、私も楽しかったよ。だから元気出して」
「二人共ありがとう」
途中で抜けちゃったけど、森羅は森羅なりによく頑張ったと思う。なので、ここはその頑張りに免じて許してあげようではないか。
「よし、じゃあ今日はこれで終わりにしようかと思ってたけど、二人共!次は負けないようにこれから特訓しよう!」
「ええ!」
「よし来た!」
「フフ、良いわね、貴方達。私もこれから猛特訓するつもりだったから、付き合わせて貰えるかしら」
「部長……」
「ふん、しょうがないから私も付き合ってやるよ」
「ったく、皆して青春しやがって……素敵じゃねぇかよ。まっ、私は帰るけどね〜」
「そっ、じゃあ友実バイバイ」
「ちょっとエミちゃん止めてよ〜」
その後、私達は試合の疲れがあるにも関わらず猛特訓を開始した。正直、あまりの辛さに涙が出ちゃった。だって私女の子だもん。
「ハァハァ……もうダメ……」
「よし、今日はここ迄にしましょう。皆ほんとによく頑張ってくれた。これなら明日の試合いけるかも知れない」
「えっ……?明日……?」
「部長さん達、伝説を作ろうぞ」
「フフ、そうね。明日の相手は競合校だけど私達ならやれるかも知れない。可能性は0じゃないわ」
「よっしゃ!皆やってやろうぜ!」
「伝説の幕開けじゃああああい!」
「では、明日の試合に向けて作戦会議をしましょうか」
「ちょ、ちょっと……皆」
「遂に私のミラクルサーブが世間へお披露目かぁ、こりゃTVデビューもそう遠くないかも」
「行っちゃった……」
そして翌日試合は行われた。私達素人組は練習の疲労で全然動けず、相手の5軍にストレート負けするという、伝説的な敗北を味わった。
エミちゃんを笑わせ隊 対戦成績 0勝6敗




