エミちゃんと釣りに行き隊
「ハァ……サバが食べたい」
「ヤッホー!サバだよ!エミ、僕を食べたいのかい?」
「食べたい!!」
「じゃあ、食べて良いよ。まずは胴体からどうだい?」
「うん、頂きます!ムシャムシャ」
「あぁ、エミ!そ、そんな大胆にされたら、ぼ、僕は!」
「ムシャムシャ」
「あぁ~もう頭の方まで!もうらめぇ!」
「ムシャムシャ」
「遂に尻尾が!あぁああああああ!エクシタシイイイイ!我がサバ人生に一片の悔いなし。ガクッ」
「あ~、美味しかった。でもまだ足りないな。何処かにサバはないかな?クンクンクンクン。あ、あっちの方からサバの匂いが……。あれ?どんどん近づいてくる。こっちへ……匂いが……」
「エミちゃんサバだよ~」
「匂いが……ムニャムニャ。匂いがぁ……サバクッッッッサ!」
「あ、起きた!エミちゃんおはよう」
「あんた何やってんの……?」
「ご覧の通りサバを仰いでます!朝5時からずっとね。勿論サバ読んでません、サバだけに~ドヤさ~」
「ハァ……クッ!」
「いった~い!」
X X X
「エミちゃん何も叩く事はないじゃな~い」
「朝からサバ嗅がされたら誰でも怒るわ」
今年度No.1の目覚めの悪さだったわ。もし嫌いな人がいるならサバを枕元に置いとくのを勧めるレベル。
「もう朝からサバサバしてるなぁ、わざわざ私が誘いに来てあげたというのに」
「来なくて良いし、釣りにも行かないから」
「なっ……エミちゃん何で釣りに行くって分かったの?もしかしてエスパーなの?ユンゲラーなの?」
いや、もう見るからに釣りに行きます!ってな格好してんじゃん。あぁ、朝からツッコミのが面倒臭い面倒臭い面倒臭い面倒臭い面倒臭い。
「で、今日は森羅はどうしたの?まさか誘ってないの?」
「まさかぁ~、誘ったよ。ほらあの子朝早いの苦手だから、ギリギリまで寝て来るって」
そういえばそうだった。たまに朝全然起きてない時とかあるもんね。寝ボケてスリッパ履いて来た時はビックリしたわ。嘘だけど。
「じゃあ、森羅と二人で行くんだ。楽しんで来てね、私はこれからもう一度寝るわ」
「エミちゃんも行くんだよ~」
「嫌よ。魚は釣るもんじゃない、食べるか、鑑賞するものよ」
飲み込んだ針取るのとか嫌だし。後、ゴカイも触りたくない。私はあんな得体の知れない生物を触れる様には出来ていない。
「もしかしたら大物釣れるかも知れないよ!ネッシーとかさ」
「この辺でネッシーなんか釣れる訳ないでしょ。そもそも私はネッシー嫌いなの」
「何で?」
「キリンは高い所にある葉っぱを食べる為に首を伸ばした。でもあいつは首伸ばす必要ないじゃん?むしろ邪魔じゃん?機能的に間違ってるのがモヤモヤするのよ」
「首を長くして魚待ってるかと思うと可愛いじゃん」
うっ、確かに。昔ドライえもんに出てた奴は可愛かったしなぁ。まぁ存在を許してやらない事もないわ。
「まっとにかく!私は釣りなんかに行きたくないの!じゃ、寝るからおやすみ!」
「分かった!じゃあ、私もしょうがないから一緒に寝る!」
「嫌よ!あんたが一緒にいたら五月蝿くて寝れないでしょ!」
「だったら釣り行こ!」
「だから嫌だっての!」
「行こうよおおおおお!」
「いやだ~~~~~~!」
「あんた達何時だと思ってるの!朝からギャーギャー騒がないの!」
ヤバいママが起きてしまった。ママはこういう揉めてる時は大体決まって……。
「エミ、友ちゃんが折角誘ってくれてるのだから行って来なさい」
こう言うのだ。どうやらママは私の友でいてくれてる、友実にはかなり感謝してるみたい。ので、大体揉めてる時は友実の味方になるのだ。
「いや、でも釣りなんて……私やった事ないし……」
「行って来なさい」
「はい」
これ以上怒らせたら後が怖い。ここは観念して釣り行くのが無難だろう。
「やったー!エミちゃん早速用意して行こうぞ」
「ハァ……私の貴重な休日が……」
「ごめん下さ~い。友沢で~す、勝手に入ってターンしますよ~。ハイッ!くるっとな」
X X X
「着いた~!海~!」
「海~!ヤッホ~!」
「……海ね」
久しぶりの海。そんなに綺麗な海ではないけど、やはり海を見ると心が安らぐ気がする。出来ればこのまま何もせずに、ボケーッと海眺めてたい。
「うし、エミちゃん&森羅あそこの出っ張ってる所で釣りすんよ!」
「ガッテン承知!」
「防波堤ね」
友実と森羅がウキウキで防波堤へ走って行く。二人とも電車で、私に寄り掛かってぐっすり寝てたから元気一杯だ。小学生かあいつら。
「おっちゃん……今日は引き潮だな……」
「ハッ?」
「ちょ、ちょっと友実!」
お願いだから他人に迷惑はかけないで欲しい。いや、私にもかけて欲しくないけどさ。
「おっちゃん、そのジャケット決まってる」
「フン、よせやい」
「……」
何で二人ともおじさんを釣ろうとしているのか。確かにいたら色々と助けてくれそうだけど、気を使うからやめて欲しい。
「さっ、じゃあ早速セッティングしますか」
「OK!」
「そうね」
「……」
「……」
「……」
「……ねぇ、森羅どうやって用意するの?」
「知らない」
「……ハァ」
知らんかったかい。そんなんでよく釣りしに行こうと思ったな。でも、この展開なら釣りせずに帰れるかも知れない。このチャンスを活かすぞ、私。
「あ~あ、誰も用意出来ないんじゃ仕方ないわね。ここはもう海眺めて帰えりま」
「何だ、嬢ちゃんら用意の仕方分からねぇのか」
「おっちゃん!用意の仕方教えてくれてるの?」
「しゃあないから俺が教えてやるよ」
「おっちゃ~ん」
「OTTCHAN!OTTCHAN!OTTCHAN!」
「……」
作戦失敗。まさかおじさんが助けに来るとは……。まぁ無念ではあるが、誰にでもフレンドリーは悪い事ではないと学んだから許しといてあげるわ。
「これでOKだ。後はルアーを海に投げ入れるだけ」
「おっちゃんありがとう」
「ありがとう」
「じゃ、俺は行くわ。デカイのが釣れると良いな」
「ヒュー!おっちゃんかっこいいよ!」
「あれ?おかしいな、おっちゃんがマイク滝に見えてきた」
「フン、よせやい」
「……ありがとうございました」
良いおじさんだったな。ああいう人がいると釣りをするのも悪くないと思えてきちゃうわ。
「よし、エミちゃん&森羅行くよ!えいっ!!」
「わっ!友実!」
思いっきり振りかぶって飛ばしたルアーは、森羅の上着を捉えてめくり上げた。
「森羅、背中が思いっきり見えちゃってるよ!」
「えっ?……HAHAHAHA」
「いや、そこ笑う所じゃあないから!」
「森羅ご、ゴメンね。次は気をつけるから」
ほんと気を付けて欲しい。あんなの体に刺さったら洒落にならないし。ルアー投げ入れる時は10mぐらい離れといた方が良いかも。
「では、気を取り直して」
「友実頑張って~」
「勢い余って海に落ちちゃダメよ~」
「いや、危険なのは分かるけど二人とも離れ過ぎじゃないかな?まぁ、良いや。よっと」
「あっ、エミ今度は上手い事いったみたいだよ」
「そうね。近づきましょうか」
やっとこさ釣りが始まったか。後は魚が食いつけばOKなんだろうけど、多分此処からが長いんだろうなぁ。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……キタッ!フェニッシュ!森羅、エミちゃんフェニッシュだよ!」
「それを言うならフィシュオンでしょ。終わってどうすんのよ」
「友実凄い」
「ヤバい。これきっと超大物だよ、もしかしたらアトランティス大陸かも知れない」
「そんなもん釣れたら、アトランティス発見よりもあんたの方がニュースになるわ」
「友実、落ち着いて引き上げるんだよ」
「うおおおおおおおお!やぁ!」
「こ、これは……」
「やっぱり」
友実が釣り上げたのはワカメだった。何とベタな……。あんたそんなお約束を守る様な子だったっけ?
「ハァ……凄いのがキタと思ったんだけどなぁ、所詮私にはワカメがお似合いという事か。お味噌汁で十分という事か。私ってほんと安い女……シクシク」
「何ワケワカメな事言ってんのよ。竿貸して、次は森羅がやるから」
「はい、森羅。仇は頼んだ」
「ガッテン承知!」
意気揚々としてる所で悪いが、森羅。出来れば君もワカメを釣ってとっと終わってくれると助かるわ。
「森羅~もう投げて良いよ~」
「ちゃんとルアー見て投げるのよ~」
「了解。じゃ、投げ入れます!とうっ!」
上手く投げ入れたな。森羅なら自分で上着を引っ掛けるかと思ったが、流石にそんな危険なボケはしなかったか。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……キタッ!エミ、友実かかったよ!」
「うおー!マジでかかっとるん」
「右へ左へ移動してるし、今度は魚っぽいわね」
確実にワカメではないな。どうしよう、遂に魚が釣れちゃうのかな。思いっきり針が刺さった魚を見たくないんだけどな。
「エミ、友実、きっとこれは大物だよ。もしかしたら半魚人かも」
「もし半魚人なら即竿ごとリリースしなさい」
「森羅、姿が見えて来たよ。こ、これは……」
「フグだ!」
「森羅こりゃヤバいヤツを引き上げちまったな。ポイズンだよ、ポイズン。言いたい事も言えないこんな魚じゃ……ポイズンだよ」
「あんたポイズンって言いたいだけでしょ」
「ふええ、友実、エミどうしようぉ…」
「とりあえずこのままにはしとけないし、引き上げるしかないわね」
「う、うん」
そう言うと森羅はそっとフグを地べたに置いた。マジでこれどうしよう……毒どうのこうの以前にめっちゃ触りたくない。
「まず針抜いてあげないとね」
「う、うん」
「いやまぁそうだけど、毒大丈夫なの?」
多分食べなきゃ大丈夫なんだろうが、如何せん知識が乏しい私達だけでは判断出来なかった。
「さっきのおっちゃんに聞いてみようか」
「おっちゃんもう帰っちゃたよ」
「う~ん、じゃ向こうにいる人に聞いてみよう」
そういうと森羅は離れて釣りをしていたおじさん(別人)に訪ねに行った。
「別に針とっても大丈夫だって~」
「そうなんだ、よしじゃあ」
「えっ」
友実は平然とフグに刺さっていた針を外した。やだ、何この子かっこいい。
「じゃあね~、もう捕まるなよ~、達者でね~」
「キャッチ&リリースの精神。魚も喜んどるで」
「いや、魚にしてみたら迷惑なだけだから」
フグが釣られてる姿を見たら、来世は魚には絶対なりたくないと思えたわ。
「次はエミちゃんだよ」
「い、いや、私は遠慮しとく」
「エミ折角来たんだし、やっとこうよ。何事も経験だよ」
「フッ、もしかしてエミちゃん釣れる自信ないんじゃ……」
ワカメ釣ったあんたが言うな。しかし、確かに森羅の言う通りここで経験しとくのも悪くはないか。後、実はフグを釣った森羅が少し羨ましかったしね。
「やるわ」
「そうこなくっちゃ」
「エミ、頑張って」
こうなったらとんでもない大物を釣ってやる。友実のド肝抜いてやるんだから。
「エミちゃんはルアーじゃなくてゴカイで釣ってみたらどう?」
「はい?ゴカイってあんた……」
「これ」
「きゃあああああ!あんた何でそんなもん持ってきてんのよ」
「いや、使うかなって思って」
「絶対に使わないから捨てて来なさい。そもそも何なのよ、その生物。何の為に生きてるのよ」
「エミ酷い」
「知らないよ~。使わないないならいいや、閉まっとく」
「そうしてちょうだい」
あんな得体の知れないヤツを餌にしるぐらいなら、その辺に落ちてるガムを餌にした方がマシだわ。何で魚はあんな気持ち悪いのを食べるのだろうか、全く理解出来ない。
「エミちゃん投げて良いよ~」
「エミ、自分らしく」
「よし、行くよッ!えいっ!」
うむ、良い所に行った気がする。後は待つだけか。早く食いついてね、お魚さん。
「……」
「……」
「……あっ、カニ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……釣れない」
「きっとエミちゃんの近寄り難いオーラのせいで、魚が寄って来ないじゃないかな」
「何ですって!」
「あっ、怒ったらまた魚が逃げちゃうよ」
「あんたが余計な事言うからでしょ!」
「ちょっとエミ!竿が動いてるよ!」
「えっ」
「きたああああああ!」
「うっ、案外重い~~~。友実、森羅ちょっと手伝って」
「アイアンサー!」
「ガッテン承知!」
大物って程ではないけど、この感触は中々のヤツっぽい。絶対に逃がしゃしませんよ。
「エミちゃん引いて引いて」
「くうううううう!」
「見、見えた!あ、あれは……何だ!?もの凄く見た事ある魚だけど名前が分からない」
「エミちゃん頑張れえええ!後もう一息だよ!」
「だりゃあ!」
「やった、釣れた!結構大きい」
「ハァハァ…」
どんなもんじゃい!私が本気出せばこんなもんよ!……やだ、私もの凄くテンション上がってる。
「この魚は何て魚なんだろ?ちょっとネットで調べてみよう」
「よろしく頼むわ」
「凄く美味しそうな魚だね」
「……あっ、コレだコレだ。エミちゃんこれアジだよ」
「エミ、当たりじゃん」
「へ~、これがアジなんだ」
よく食べてる魚だけど、調理前はどんなのかよく知らなかったな。アジ先輩普段からお世話なってます。
「友実、森羅」
「ん?」
「何?」
「……ハ、ハイタッチ」
「うん!」
「イェイ!」
こうして私達三人は無事初釣りは終え、満足して家路についた。帰りも友実と森羅が寄りかかってうざかったけど、穏やかな気持ちでいられたのは、きっとアジが釣れたおかげだろう。
「エミちゃん……ネッシー釣れたね……ムニャムニャ」
「……だからネッシーは嫌いだって」
X X X
「はい、これがアジのお刺身!三人とも召し上がれ」
「おおおおおお」
「美味しそう」
「綺麗」
私が釣ったアジはママが調理してくれた。ヤバイなこれ、料理番組で出てくる料理並みに見栄えが良い。
「じゃあ、おばちゃん頂きます!」
「おばさま頂きます!」
「頂きます」
これがあのアジ……。不思議と刺身がいつも食べてるのよりも、光って見える。これは間違いなく気のせいだろうが、食事でも気分って大事よね。
「美味ああああああああ」
「とても美味である」
「美味しい……」
アジの美味しさと自ら釣った魚を食べるという達成感、この二つが合わさったら素晴らしい。今なら釣りにハマる人の気持ちが良く分かるわ。
「友実、森羅」
「何?エミちゃん、言っとくけど私の刺身はあげないよ」
「あたしも」
「違うの。……釣りも悪くないわね」
「ふふふ、また行こうね」
「私も行きたい」
「今度こそネッシー釣ってやる」
「だから、ネッシーは……もういいか」
「なになに~、エミちゃん何か言いかけたけど」
「もういいって言ってるでしょ。早くアジ食べなさい」
「は~い」
エミちゃんを笑わせ隊 対戦成績 0勝5敗