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エミちゃんを絶対に笑わせ隊

 学園祭当日、目が覚めたと同時に部屋を見渡す。明日からこの部屋にはもう私はいない。小さい頃から過ごしてきたこの部屋はいつか違う誰かの部屋になってしまうのだろう。そう思うと寂しさが押し寄せてきた。いけないな、感傷的なってはいけない。別れの日は旅立ちの日でもあるのだから、前だけを向いて明るくしてないと、じゃないと立ち止まってしまう。

 私は現状を打破する為に急いで支度をし、もう明日から着ることのない制服を身に纏い学校へと向かった。


「エミ、おはよう」


「森羅、おはよう」


 いつもの待ち合わせ場所には森羅がいた。夏休みが明けてからもずっと変わらずに一緒に登校してくれている。しかも私に気を使ってくれているのか、いつも先に来て私を待ってくれている。前は遅れて来ることもあったのにね、本当に友達想いな子だ。


「一緒に登校するのも今日で最後だね」


「そうだね、森羅今までありがとね」


「こちらこそだよ、エミお世話になった」


 森羅が珍しく、くしゃっとした笑顔を見せる。それが私には切なく見えてしまった。いけない!また感傷的になっとる!ここは明るく明るく…。


「森羅は明日からはどうするの?」


「どうするって何が?」


「その…私がいなくなったら一人で…」


「あぁ、それは心配しないで明日からはあのアホの子と一緒に行くから」


「そう、あのアホの子と一緒なら安心だわ」


 少なくとも湿っぽくなる事はないだろう。しかし、二人だけで登校している姿はあまりしっくりこないな、ツッコミが不在だからかしら。


「で、あのアホの子は今どうしてるの?」


「うん、先に行って準備しとくって」


「あの子個人でやる気なの?学園祭ってクラスごとか、部活ごとに部屋割りされるんじゃないの?」


「えーと、笑わせ隊は一応同好会に登録されてるんだよ。学園祭は教室を使わせて貰えるしね。それに今回は色んな部にも協力して貰えるんだってさ」


「へー、そうなんだ」


 知らなかった。まさかたった二人だけの同好会で、しかも笑わせたい人間が一人だけの集まりが認められるんだ。ウチの生徒会どうなってんだ。


「ほいで、忘れないで欲しいんだけど、一応あたしも笑わせ隊の一員だから学校に着いたら敵だからね、エミ!」


「分かってるって」


 出来れば解散していて欲しかった…。だってもし友実と遭遇して二人っきりになったら気まずいんだもん。



X X X



「着いたか…じゃ、エミ、あたしは友実と合流するから」


 森羅とベラベラ喋ってるとあっという間に学校に到達した。楽しい時間はほんとすぐに終わるなぁ。いつもは学校に着くとちょっと憂鬱になるけど、今日はその反対だ。


「うん、私は合流しないから森羅さようなら」


「エミ…どうしてそう言うこと言うの?泣くよ?」


「うそうそ!冗談よ、絶対会いに行くから」


「そう…待ってるから来てね」


 森羅は何度か振り返り、私が本当に来るのか心配そうにして去って行った。そうか、私達はもう冗談が通じない関係になってしまったのか、エミちゃんちょっとショック。


「はぁ…」


 溜息をつきながら靴箱に手を入れ上履きを取る、すると手紙らしき物が落ちて来た!こ、れはましゃか!!!


「ラ、ラブレター…」


 まさか私が転校すると知って遂に本気を出して来た子がッッッッ!ってそんな訳ないか、そもそもこの学校は女子校だし。


「果たし状か…」


 手紙らしき物に書いてあったのは果たし状の文字。これを靴箱に突っ込んで来る奴なんてあいつしかいない。私はものっすごい雑に開封をした。


「親愛なるライバルちゃんエミへ」


 いきなり気持ち悪い文書が出てきた。あいつ今までちゃんエミなんて呼んだ事ないでしょうに。


「あたいは今日という日を待ち侘びてただわさ」


「何で不良っぽい文書なんだろう?」


 読みにくいんですけど…。今日が最後出なければもう既に読むのを諦めてるレベル。


「今まで散々やられてたけど、今日こそは絶対におまんを笑わせてやるっちゃね」


 もう既に実感スベってる気がするけど、大丈夫なのかしら…。敵なのに心配になってきた。


「とりあえずこれを読んだら視聴覚室に来な。なんなら首をボディソープで洗ってきても良いんだゼェ p.s 借りパクしていた漫画をロッカーに入れときました」


「なっ…」


 p.sの方が重要じゃない!そう言えば2年前ぐらいに貸した漫画まだ返して貰ってなかった。あいつ貸してあげたんだから、直接返しに来なさいよね…。とりあえず教室のロッカー見に行ってから行くか。はぁめんどくさ。



X X X



「お邪魔しまーす」


「遂に来たな!エミちゃん!」


「待ちくたびれたよ、エミ!」


 漫画を取りに行った後に、視聴覚室に行ったら友実と森羅が待ち構えていた。森羅はともかく友実のテンションには正直戸惑った。だって、私達はあの日以来一度も口を聞いてはいなかったから。


「え、う、うん、お待たせ」


「早速だけとエミちゃん。今日は笑ってはいけない学園祭ツアーに参加してもらうよ!はい、森羅説明!」


「あいよ!別に大して難しくはないよ、エミにはあたし達と一緒に学園祭を回って、いくつかある関門を突破して貰うだけ」


「それだけでいいの?」


「うん」


 なんだか拍子抜けだな。もっとこう壮大な何かを期待してたから気が抜けたわ。視聴覚室には何も仕掛けられてなさそうだしね。


「じゃ、エミちゃんこっちから行くよ。ふふっ」


「???」


 いま何かおかしい事でもあったかな?ただ誘導されて振り向いただけなんだけど…。


「先ずは茶道部に行くから」


「茶道部…」


 茶道部と聞いてちょっと嫌な予感がした。茶道は笑いとは対極的な関係だ、もし茶道中に笑ってしまえばお茶をぶっかけられても文句は言えない。それぐらい笑いには厳しい。だが、人間は笑ってはいけない状況程、笑ってしまいそうになるのだ。笑ってはいけないと思えば思う程に笑いの事を考えてしまい、結果的に笑ってしまう。茶道部…友実のくせに良いチョイスをしてきたわね。


「ここだよ」


「近っ!隣の教室だったのね」


 よく考えたら茶道部が何処でやってるのか知らなかった。もっと言うとウチの学校に茶道部がある事すら知らなかった。ちゃんエミマジ無知。


「茶道部の皆さん来たよッ!」


「おう、友実来たか」


 茶道部の面々の中に見慣れた顔が混じっていた。ヤンキー娘の山根さんと聡美だ、どうしてこんな所に…まさか実は茶道部だったの!?


「貴方達まさか…」


「ちげーよ、友実達に刺客として来てくれと頼まれただけ」


「そうなんだ、似合わない事してなくて安心した」


「なぁ、そういう失礼な言葉は胸に留めといてくれませんかね」


 しかし友実が送り込んだとすれば、何かしらはやってくるはずであろう。ここは警戒しとかねば。


「まぁまぁ落ち着いて山根さん、せっかく来てくれたんだし、この方にも茶道をやっていってもらいましょうよ」


「そっスね」


 着物姿でヤンキー娘をなだめてくれたのは、どうやら本物の茶道部の様で、本当にJKなのかと思うぐらい大人っぽく、気品にあふれている。しかもかなりの美人だ、私が男なら一瞬見とれていたかも知れない、だがしかし…。


「友実、ちょっとちょっと」


「何よ〜、エミちゃん。もう降参?」


「んなわけないでしょ、あの茶道部の人の事よ」


「あぁ、部長さんの事?部長さんがどうしたの?」


「その…言い難いんだけど、めっちゃ鼻毛出てるんだけど。もうマジで信じられないぐらいに。着け鼻毛かって思うぐらい」


 美人だから余計に際立つのかも知れない。こういう時に美人って損をするのか、成る程成る程。


「ほんとに〜?ちょっと言って来てあげるよ」


「あんた待ちなさいよ!デリカシーなさ過ぎるわ、鼻毛出てますよなんて言ったら部長さんが傷つくかもしれないでしょ!しかも今日は学園祭よ!大勢の前で鼻毛晒しまくってたなんて知ったら…私ならもう立ち直れないわ」


「エミちゃん大袈裟過ぎない?まぁでもエミちゃんの言い分も一理ありますな。分かった、ここは黙っといてあげるよ、フフフ」


 何だその何か企んでそうな笑い顔は。部長の鼻毛を利用しようとしてるのなら私許さないからね、ノーモア鼻毛デリカシー。時には見て見ぬ振りも大事なのだ。


「それでは茶道を始めます」


「はい、よろしくお願いします」


 部長さんが礼儀正しく会釈し、いよいよお茶会が始まる。無論部長の鼻毛は飛び出したままだ。


「こちらがお茶になります。そしてこれが茶道具になります、主に使うのはこの…」


 部長さんが丁寧に道具について説明してくれている。しかし、鼻毛のせいで一切頭に入ってこない。茶道具に鼻毛を切れるものはないのかしらね。


「以上で茶道具の説明は終わりとなります。次はお茶を混ぜていきましょう」


 茶道と言えばそれですわな、お茶をネーミング不明のやつでかき混ぜる。あれをみるとお茶が美味しそうに見える摩訶不思議。


「お茶はこういう風にかき混ぜます」


「おー」


 一同から歓声が上がった。それぐらいに部長さんのかき混ぜ方は凄くて、感心させられるテクニックであった。鼻毛が出てなければマシでパーフェクトだったと思う。


「では、こちらを飲んで頂きたいのですが、誰か立候補して頂けますか?」


「ハイハイ、やります!やりたいです!」


 手を挙げたのは山根さんだった。その瞬間に私は危機感を覚えた。彼女にやらしてはいけないと、デリカシーのない彼女に部長さんを近づけたらえらいことになると。


「私もやりたいです!」


「なに〜!ちょっとエミ邪魔すんじゃねぇよ!」


「私もやりたいんだからしょうがないないじゃない。てか、部員寄りの貴方なら、ここは部の発展の為に客人に譲るべきではないかしら」


「ぐぬぬ…分かったよ。そこまで言うのなら譲ってやる」


「そう、ありがとう」


 思いの外あっさりと諦めたな。もしかして何か企みが…?いや、そんな筈ない。山根さんがそんな器用な事が出来る筈がない。


「では貴方、前にいらして頂けますか?」


 部長さんが私を呼ぶ。私は指示通り前に出た。


「よろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします。気を楽にして下さいね、あくまで今日は体験なのですから」


「はい」


 凄く優しくしてくれてはいるが、直視は出来ない。今の部長さんの顔はとてもデンジャラスだ、何かの拍子で笑ってしまうかもしれない。


「これがさっきのお茶になります。飲んでみて」


「確かお茶碗を回して飲めば良いんですよね?」


「ええ、本来はそうだけど好きに飲んで構いませんよ。先ずは味を知って」


 そうか、そう言うのであれば作法ガン無視で飲んでやろうじゃないか。


「じゃ、頂きます」


「エミちゃん羨ましいね〜」


 お茶を口に含んだ瞬間に友実が急に喋り出した、さっきまでだんまりだったのに急にどうした?気になったので私はチラッとだけ友実を見た。


「美味しい?」


「ん……」


 振り返った瞬間に私は少しやられそうになった。よく見ると友実の顔にマジックペンで鼻毛が書かれていたのだ。こ、これは一体どう言う事だ…?はっ!まさか!?


「気づかれてしまったか」


 友実がこちらを見て笑う。やはりそうか、こやつら私を笑わせる為に顔に鼻毛を書いて来て嫌がる。よく見たら山根さんと聡美も同様に鼻毛を書いて来ている。そして勿論部長さんも…。


「フフフ」


 部長さんと目が合う、彼女は友実同様に私を見て笑った。そうか…部長さんもグルだったのか…ってあれ?


「ま、まさか…」


 私は思わず息を飲んだ。部長さんの鼻毛が揺れている…!?そんな筈はない、マジックで書かれた鼻毛が揺れる筈がない!しかし、現実に鼻毛が揺れている。これはまさか、そんな馬鹿な…あり得る筈が無い。でも…認めるしかないのか、彼女がわざとリアル鼻毛を出している事を!!


「どうかしましたか?お客人。もしかして私のお顔に何か付いていますか?」


「い、いえ、何も…」


 おのれ白々しい。付いてるどころか、飛び出しとるわい!貴様のもう一つのストレートヘアがよぉ!


「どうですか?お茶をもう一杯いりませんか?」


「もう十分頂きましたので結構です」


「なら、ウチが貰って良いか?」


 山根さんがマジック鼻毛を書いた顔で言う。チクショウ腹立つけどちょっと面白いなその顔。拡散したいレベル。


「どうぞ」


「どうも」


「ふふ」


 後ろで友実が笑う声がしたが、反応せず私は後方へと下がった。


「では、部長頂きまっす」


「召し上がれ」


「ププ」


 また友実が笑う。鼻毛がツボに入っているのかどうか分からないが、さっきから下を向いてずっと笑っている。遂に壊れちゃったかな?


「ズズ」


「プフーブッハッハッハ」


「ブッ!」


 友実が急に大声で笑い出した。つられて山根さんが吹き出す。これはもしや…。


「ハッーハッハッーハッハーーーーーン」


「ブフー!!!!!」


 友実の変な笑い声のせいで山根さんがお茶を完全に吹き出す。吹き出したお茶は部長さんに直撃していた、それを見た聡美達が思わず吹き出してしまう。なんだこれ、もはや大惨事じゃねぇか!


「ハッーハッハーーーーーン」


 友実達の笑いがおさまらない。やばいな、私もつられて笑いそうになって来た…ここはもう此奴らに構わない方が良いか、次へ行こう、トウッ!


「あっ、エミちゃん待って!」


 私は友実の引き止めを無視して教室を後にした。ふぅ…流石に今回はヤバかったゼ、あと部屋に1分くらい居たらやられてたかもしれん。恐るべし、鼻毛&つられ笑い。


「エミちゃん待ってって言ったのに〜」


「待てと言われて待つ美少女がどこにいますか」


「目の前にいるじゃん」


「やだ、照れちゃう」


 そんなストレートに言われると私だってときめいちゃうわ。友実もたまには良い事言うのね、見直した。


「とりあえずエミちゃん第一関門は突破だ、おめでとう」


「全然嬉しくないけどありがとう」


「じゃ、次は第二関門に向かうよ、私について来て」


「わ、分かったわ」


X X X



「ここだよ」


「ここって…」


 着いたのは私がほぼ毎日通っている教室だった。そうか、そうきやがったか。チクショウめ、ここでもちょっとピンチになりそうな予感。


「エミちゃんもう分かるね?次はエミちゃんのクラスがやっている、笑ってはいけない教室に挑戦してもらうよ!!!」


「いやいやいやいや、友実待ってよ。私はこのクラスの人間なんだから、ネタが何なのか知ってるんですけど、それでも挑戦するの?」


「ふふ、エミちゃんよ、そんなのは百も承知。実はエミちゃん専用に特別に用意して貰ってるネタがあるから」


「ぐぬぬ」


 まぁでも、そうよね。流石にネタバレしてるのをそのままにしておく訳がないか。


「そして、ここでも協力者がいるんだよ。協力者出て来いやあああああ!」


「…まさか貴方までも友実の協力者になるとはね」


 もしかしたらと思っていた。第二関門が私のクラスの演し物と関係しているのなら、協力してくるのは彼女しかいないわな。


「陽子、貴方まで友実の協力者となったの?」


「うん、ごめんエミ。面白そうだったからつい乗っちゃた、テヘヘ」


 テヘヘじゃないわよ。でも可愛かったからめっちゃ許した。


「別に陽子がそっち側に行こうが関係ないわ。何があっても私は笑わないから」


「そっか、じゃあ本気で笑わせに行くからエミ覚悟しときなさいよ!」


「望むところよ」


 ヤバイ、陽子に宣戦布告されてしまった…ちょっと泣きそう。もうすぐお別れするのにこんな仕打ちあんまりだわ。


「では、エミは教室の中で椅子に座って待っていて。勿論口に中に水を含んでね」


「分かってるわ」


 私は言われた通りに教室に入り、たった一つしかない椅子に座って、机の上に置いてあった水を飲んだ。教室にあるのは私が座っている椅子と、机が一つ、そしてその机の上には私が飲んだ水が入ったコップが一つ。机には名前は書いてはいないが、傷や汚れで私の机だとすぐに分かった。


「…………………」


 やる事がない。他に人がいないのは私達の出し物のせいだ。私達の出し物の内容はこうだ、先ずは私と同様に教室に入って椅子に座って貰う。そして、水を口に含んで貰い私達の出し物が始まる。

 ルールは至ってシンプルで、私達がやる事に笑ったら負け、勝ったら飴玉が一つ貰える。入場料は700円だからかなりぼったくりではある。因みに私は道具係だったから出番はない。


「………んっ!」


「………」


 しばらくして教室に入って来たのは上半身裸の男の人だった。顔を見れば友実のクラスの担任の松尾先生だった…。何やってるんですか、先生…マジで変質者が入ってきたかと思ったんですけど…。


「………」


 先生は無言で自ら持ってきたパイプ椅子に座り、ポケットから取り出したルービックキューブをやり始めた。


「…………」


「…………」


 ものすごい勢いで先生がルービックキューブを揃えていく、私はそれを無言で見つめている。なんなんだ、この絵面は…。


「…………」


「……完成だ」


 そう言うと先生は立ち上がり、何故か胸筋をピクピクさせた後にルービックキューブをポケットに入れて去って行った。松尾先生ってあんな人だったんだ、後で通報しとこ。


「…………」


「…………」


 次に教室に入ってきたのは陽子だった。格好は…下半身は馬で、上半身は馬並みなのねと書かれたTシャツ姿。そう、ケンタウロスだ。後方にいるのはきっと友実だろう、足だけでもなんとなく分かる。


「…………」


「…………」


 陽子、いや、ケンタウロスは辺りを見渡し教室に入ろうとして来たが、ドアが狭すぎて下半身の部分がめっちゃドアに当たっていた。


「…………」


「…………」


 ケンタウロスは教室に入り、私を発見するとこっちへ向かってきた。


「あの…すいませんが、この辺でペガサスを見ませんでしたか?」


「…………」


ちょっと吹きそうになったがなんとか堪え、んーんと首を振りケンタウロスに見ていないと伝える。


「そうですか…、ユニコーンの家へ行ってるのかなぁ」


 そう言うとケンタウロスは背を向け、教室のドアの方へ向かっていった。その時急に振り向いた為、下半身役の友実が付いて行けてなかった。あの…ケンタウロスさん、友実はみ出てますよ。


「…………」


「エミちゃん!!!」


「!!!!!!!うぇぷ、ゲホゲホ」


「うおー、エミちゃん大丈夫!?」


 ケンタウロスが去って直ぐに友実が教室に入って来た。ちょっとそんな間髪入れず入って来られたらびっくりするじゃない、お陰で口の中に入っていた水一気に飲み込んじゃったわよ。


「何?」


「おめでとう、第二関門もクリアだよ」


「そいつはどうも」


 ケンタウロスはちょっと危なかったけど、あの程度で終わりなのか。第一関門といい、大した事なかったわね。きっと次も大した事ないだろうし、こりゃ私勝ったわ。


「じゃ、第三関門に案内するからついて来て」


「分かったわ」


 最終関門じゃ無かった事にガッカリした。一体何処まで続くのか、あんまり長く続くようだと途中で帰るわよ。割とマジで。



X X X


「次はここだよ」


「ここって…」


 到着したのはスタート地点である視聴覚室だった。もしかして協力者達はもういないの?だとしたら笑わせ隊なんて人望のない奴等なんだ…悲し。


「エミちゃん、第三関門はここでやるよ。勝負するのは私と…」


「あたしだよ」


「森羅!?今まで何処に!?」


 何気にずっと気になってたけど、こんな所にいたのか!笑わせ隊のくせに一切笑わせに来ないなんていってぇ何をしてたんでぇ。


「ここで準備というか練習をしていたよ」


「練習?」


「うん、とりあえずこれから友実と最後の打ち合わせをするから、エミは中で待ってて」


「打ち合わせ…?まぁ何でもいいか、分かったわ、中で待ってる」


 どうせ大した打ち合わせじゃないだろうしね、気にしてもしょうがないし、何をしてこようが私はただ堪えるだけだ、そんなに難しいことじゃない。


「じゃ、エミちゃん。中で20分だけ待ってて」


「20分!?そんなに?」


「うん、そんなに」


「………分かったわ、待ってあげようじゃない」


 途中で寝ちゃうかも知れないけど。それだけ時間がかかるって事はそれなりの作品なんでしょうよ、ここは君達の情熱に免じて待ってやろうではないか。



X X X



「20分経った。いよいよ始まるのか…」


 笑わせ隊との最後の戦いが遂に始まる。長かった対決にピリオドを打とうとしている。そう考えると感慨深い気もしたけど、思い出を振り返ったらそうでも無かった。


「バンバンバンバンバンバーン」


「どうも〜」


 いきなりBGMが鳴り、友実と森羅がスーツ姿で出てきた。二人の間にはマイク、BGMと格好で私は二人がこれから何をするのかを悟った。


「いやー、今日も暑いでんなぁ。思わず長袖を着てきてもうたわ」


「何でやねん!」


「……」


「もう季節は秋になりますな、秋と言えばあれが食べたくなりますよね」


「ああ、もみじ饅頭ね」


「それ年中売っとるがな!」


「……」


 うわぁ…これはちょっと直視できないやつだ。一体どんな打ち合わせと練習をすれば、こんな事になるのか…マジで即刻解散をオススメするレベル。


X X X


 その後地獄の漫才は20分続いた。マジで笑って終わらせてやろうかとちょっと思ったゼ、まさかそれがこやつらの作戦だったのかな?だとしたら中々の策士と言えよう、ほんともう苦痛だったから…。


「エミちゃんやるね」


 何がだ。苦痛に耐えた事かな?それなら褒めて貰わなくて結構。あんなのに耐えれる人間なら世の中に5兆といる。


「第三関門も見事突破だよ、おめでとう」


「これまたどうも」


「次は最終関門だよ、覚悟は出来てる?」


「とっくの昔に出来てるわ、勿論絶対に笑わない覚悟をね」


 あの時に決めた覚悟。それをずっと守り続けている。もしかしたら他の人からすれば友実がした事は大した事ないのかも知れない。でも、私にとってはすごく嫌な事でとても傷ついた、人に笑われるのはほんとうに不愉快だってのは誰でもあれ知ってて欲しい。


「最終関門の相手は私だけだよ」


「そう、それで?あんた一人で一体何をしようってぇのよ」


「…最終関門はただ私とお話しするだけ」


「は?」


 思わず出てしまった感じの悪い言葉。出来れば使いたくはなかったけど、友実の突拍子のない言葉に思わず出してしまった。


「私と何の話をすんのよ」


「別に何でもいいけど、とりあえず最初にしなけれないけないのはあの日のお話しだよね、エミちゃんが私のせいで笑わなくなってしまったあの日の過ちを先ずは謝りたいんだ、エミちゃんほんとにごめんなさい」


「はい?何で今更そんなこと言い出すのよ!てか、謝るのならもっと早く謝りなさいよ!」


「そうだよね、ごめん…。だけど、謝るとエミちゃんがもう相手してくれなくなっちゃいそうで怖かったんだよ!エミちゃん人気あったから、どんどん私から離れて行っちゃうし…」


「離れてなんて…っ!」


 言葉に詰まる。そうだ、確かにそうだった。友実と私はよく一緒にはいたが、ずっと仲良くしてたかと言われればそうじゃない。お互い違う友達と仲良くしていた時期もあったし、あんまり遊ばない時期もあった。不安にさせちゃってたのか…でも。


「今更許すなんて出来ない」


「エミちゃん…」


 昨日今日の出来事じゃないんだ、今迄ずっと引きずってきた。ごめんなさいと言われて、はいそうですかとなるはずが…。


「じゃあ、どうすれば良いの?私、一生エミちゃんが笑った顔を見れないなんて絶対に嫌だよ!」


 友実の目から涙がこぼれ落ちた。涙目になる時はあるが、友実は意外と泣かない子だ、今までに泣いてる所なんて2回しか見た事がない。

 1回目は友実のおじいちゃんが亡くなった時、2回目は飼ってたハムスターが死んだ時、どうやら身近な人や生き物が亡くなった時ぐらいしか人に涙を見せないらしい。そんな子が今、私の目の前で泣いている。しかも原因は私だ、動揺せずにはいられなかった。


「…じゃ、ずっと友達でいてよ…」


「えっ!?」


 そりゃ、びっくりするわ。マジで何言ってんだ、私。小学生じゃあるまいし、ずっと友達でいてなんて恥ずかしい台詞よく言えたわね。流石友実もこれには呆れて…。


「エミちゃああああああん!ありがとうおおおおおおお!私達ずっと友達だよおおおおおおおお!大好きだよおおおおおおお!」


「ちょ、ちょっと友実!?」


 友実が凄い勢いで抱きついてきた。私は耐えきれず倒れてしまう、友実はそれでもおかまいなしで、私にしがみついている。顔は涙と鼻水でえらいこっちゃになっている。もしかしたら制服で顔を拭くかもしれないが、まぁ今日だけは許してあげよう。ちゃんと謝れたしね。


「エミちゃん…最終関門突破おめでとう。記念に制服で鼻かんで良い?」


「それやったら今すぐ絶交するわよ」


X X X


「じゃ、エミ…元気でね、ほんとにほんとに元気でね」


 笑わせ隊の最終関門突破後、下駄箱の近くで待っていてくれてたのは森羅達だった。私を見送る為にずっと待っていてくれたのか、ほんと持つべきものは友だと身をもって感じるわ。


「森羅…今までありがとね、森羅もずっと親友だよ」


「エミ、また会える日を楽しみに待ってるから。もし会えなかったら私から会いに行っちゃうからねー」


「陽子…貴方がいてくれてほんと助かったわ、陽子は私の救世主だよ」


「元気でな…短い間だったけど、楽しかったよ」


「美鈴…私も楽しかった。ヤンキーとつるむのも案外悪くないわね」


「うちわ会いリャにゃーうわ〜ん」


「山根さん…何言ってるか全然分からないけどありがとう」


 四人ともほんとにほんとにありがとう。貴方達がいなければ、ここでの生活は暗黒になってたかも知れない。感謝してもしきれないわ、このご恩はいつか必ず返そうと思っています、その時まで待ってて、そして友達でいてね。


「で、エミ。友実は?」


「うん、先行ってると告げて行っちゃったんだけど、ここにはいないのよね。一体何処へ行ったのかしら」


「きっと泣いてる顔が見られるのが嫌なんだよ」


 さっき泣いてるのは見られたからそれはないと思う。でも一体何をしてるんだろうか、別れの挨拶は出来ればここでしたかったのに…。


「んじゃあ、私は行くわ。皆、ほんとに元気でね」


「えっ?友実は待ってあげないのか?」


「うん、時間がね…。それにさっき二人っきりで話はしたし、もう一生会えないわけじゃないから」


 と言いつつ、行動が少しゆっくりになる。なんだ私、友実に見送って欲しいんじゃん。ほんと我ながら素直じゃないなぁ。


「エミ、必ず会いに来てね。あたし達はいつでも歓迎するから」


「地球が滅亡しない限り必ず戻ってくるから安心して。それじゃ!皆バイバイ!」


「バイバイ!!!」


 私は姿が見えなくなるまで手を振り続けた。森羅達も手を振り続けてくれた。その時、一瞬だけこの学校に残る選択を選ばなかった事をめちゃくちゃ後悔した…。



X X X



「エミ、荷物はこれだけね、忘れ物はない?」


「うん、ないよママ」


 いや、ほんとはある。だけどもあいつが会いに来ないのであれば、もうそれは仕方ないのだろう。あいつが選んだんだ、私は友としてその決定に従う!…なんてね、本当はただ自分から会いに行くのが酷く恥ずかしいだけなのだ、こんな時にまで自分のプライドを優先するなんて駄目すぎだろ…私…。


「じゃ、車に乗って。出発するわよ」


「うん」


「パパ、車出してちょうだい」


「あいよ」


 車の後方席に乗り込み後ろを振り向くが、誰の姿もない。パパがエンジンをかけ、車が動き出す、その時もずっと後ろを振り向いていたがあいつの姿はない。


「寂しくなるわね」


 後ろをやたら気にする私を見てママが呟いた。


「…バイバイ」


 もう振り向く事はない、どうせいつかまた会えるんだ、自分にそう言い聞かせてみたが、涙がこみ上げてきた。


「ん?、何か後ろから追いかけてきてるぞ」


パパがミラー越しに何かを発見した。私はさっき思った事を一瞬で取り消し、すぐに後ろを振り返った。


「エミちゃ〜〜ん、置いて行かないで〜〜」


 振り向けばウエディングドレスを着た友実がダッシュで追いかけてきていた。何やってんだ、あの子。てか、そのドレスどっから持ってきたのよ。


「エミ、友ちゃんが追いかけてきてるわよ!ほんとあの子ったら…」


「アッハッハ」


 笑いが止まらなかった。ついでに涙も。流石に馬鹿すぎでしょ、あんな格好で追いかけて来られたら誰でも笑うっちゅうに。


「エミどうする?止まるか?」


「いや、パパそのまま行って」


 ここで止まったらあいつの渾身のボケが台無しじゃない。なので、ここはそのまま行ってあげるのが最善の選択なんだと思うけど…。


「バ〜カ!」


 窓を開けて友実に伝える。上手く笑えていたかは分からないが、きっとちゃんと笑顔だったと思う。


「エミちゃ〜〜ん!大好きだよ〜〜!」


 友実も笑いながら泣いている。まったく、笑かすのか、泣かせるのか、どっちかにしなさいよね。おかげで私の顔はもうぐちゃぐちゃよ。


「バイバイ、またね!」


 窓から顔というか、半身程を出し精一杯手を振る。バイバイ友実、私の大親友。貴方に会えて良かった、本当にありがとう。


「エミちゃ〜〜〜ん!バイバ〜〜〜イ!」


 友実も精一杯手を振っている。夕焼けとウエディングドレスの少女の組み合わせは悔しいが、今まで見た光景の中で一番美しかった。



X X X



 後日談というか、後年談?あれから2年程経った。私が転校してからも友実達との関係は変わらずで、学校が長期休みに入ると友実達に会いに行っている。そして、今日は長期休み…ではないな、学校はもう卒業したのでただの休みである。で、その休みを無駄にしない為に私は本日故郷に戻り友実達に会いに来た。


「ちょっと早く着きすぎたかな…」


 時計を見ればまだ待ち合わせ時間まで後10分もある。因みに待ち合わせ場所は私と友実が通っていた学校の校門前だ。


「エミちゃん、久しぶり!」


「エミ、お久だよ」


 約7カ月ぶりに聞く声だ。予定時刻より前に来るなんてやるじゃない、どうやら二人ともちょっとは成長してるみたいね。


「久しぶり、友実、森羅」


「ふふーん」


「何?」


「いや、やっぱりエミちゃんな笑顔でいるのが一番良いなって」


「そう?ありがとう」


「来月からはまたまた三人とも同じ学校だね〜、エミちゃんはどんなサークルに入るの?」


「秘密」


「エミちゃん実はね、笑わせ…」


「嫌だ」


「まだ途中までしか言ってないよ〜」


「フフ」


「で、エミ今日はどこへ行きたい?」


「んー、何処でも良いよ。三人一緒なら、何処でも」


 何処行っても三人なら楽しめると思うし、なんなら私が楽しませてあげようじゃない!実は密かに友実&森羅を笑わせ隊(隊員現在一名)を作ったのよ。だから、これからはずっと私が貴方達を笑わせてあげるから覚悟しときなさい。












エミちゃんを笑わせ隊 対戦成績 1勝14敗


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