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14/15

エミちゃんと夏を満喫し隊

 夏休み中盤に入った。この夏休みが終わって学園祭を終えれば、私はこの街から去る事となる。

 この事は未だに友実にも森羅にも言えずにいる。どう切り出そうか、ずっと悩んではいるが、答えは出ないままだ。なので、私は答えを無理やりひねり出すために期限を設ける事にした。

 来週の土曜日、友実達と旅行へ行く予定だ。そしてその旅行の2日目には花火大会を見に行く。その花火大会が終わるまでに必ず友実達に打ち明けようと思う。打ち上げ花火ならぬ、打ち明け花火だ!なんて言ったら、友実達にぶっ飛ばされそうだから言わないけど、去る事だけは必ず伝えよう。

 あっ、ちなみに花火大会までを選んだ理由は花火で少しは気をそらせるかなと思ったからです。ほんとへたれだなぁ私。



X X X



「エミちゃんおはよう!絶好の旅行日和だね!!!」


「う、うん」


「エミ時が来たな…あたしは今日という日が待ち遠しいかったぞ」


「森羅もおはよう」


「エミ、私も実ははっちゃける気でいるんだ!宜しくね」


「陽子もおはよう、後こちらこそよろしくね」


「おう、ウチらもヨロシクな!」


「うん、山根さんと美鈴も宜しくね」


 という訳で、今回は総勢6名で旅行へ行く。最初は私と友実と森羅の三人で行く予定だったが、友実が大きい声で旅行の話をしていると、陽子が食いついてきて、あれよあれよという内に参加人数がどんどん増えていったのだ。私のした事が自ら転校する事を言い難くしてしもうた…でも断るのもなぁ…。


「じゃあ、皆トレインに乗って行こうぞ!目的の地まで!」


「おー!」


 私達の中で車を運転出来る人はモチのロンでいないので、皆で電車に乗っていく事した。目的地は綺麗な海が見える旅館。前に釣りに行った時に見たあんな汚い海じゃなくて、透き通ったエメラルドグリーンの海が見える所だ。


「で、盛り上げといてあれなんだけれど…」


「何よ、友実」


「財布忘れちゃったから持って来て貰っていい〜?」


「………」



X X X



「お母さんありがとう!この日の事は忘れないよ!」


「あっそ」


 結局友実の財布はおばさんが駅まで持って来てくれた。友実のせいで予定時刻から遅れてしまったが、まだ時間には余裕がある。30分程のタイムロスなんて全然問題ない。私達がの旅行は日帰りじゃないのでゆっくり行けばいいのだ。


「ではでは気を取り直して……出発だ〜!」


「オー!」


 目的地の旅館には電車とバスで乗り継ぎ約3時間程かかる。大人にとってはそれ程大した距離ではないだろうが、高校生の私にとっては結構な距離だ。しかも行き先は見知らぬ土地。正直ちょっとだけ緊張している。


「エミちゃんエミちゃん見て見て〜!景色めっちゃ良いよ」


「どれどれ…いや、ただの田んぼだらけじゃん…こんなの近所にもあるでしょ」


「はぁ…エミちゃんこの田んぼの良さが分からないなんてヤバすぎるよ。今度ザ・TANBOっていう雑誌貸してあげるからそれで勉強しなよ」


「そんなもんで勉強するぐらいなら一生分からなくて良いわ」


「強がっちゃって〜良いよ、貸してあげる。ついでに捨てといても良いよ」


「あんた処分するのがめんどくさいだけでしょ」


 友実は電車に乗っても変わらず上機嫌だ。このままずっと上機嫌でいてくれれば良いが、絶対そうはならないだろう。あぁ、上機嫌から不機嫌に変わる振れ幅がもうすでに怖い。



X X X



「やっと着いた〜、長旅だったね〜」


「今日はもうずっとゴロゴロしていたい…」


「あ、私も〜」


「ウチもウチも」


 私達は電車とバスを乗り継ぎ予定時刻通り目的地に到着した。友実のせいで起きたタイムロスもやはり大した影響はなく、これなら思う存分海を楽しめそうだ。


「あんた達なにゴロゴロしてんの!これから海へ行くんだよ!」


「そうよ!夏をエンジョイしなきゃ!」


「おう…エミちゃんとさとみんやけに気合い入ってるやんけ…どうしたの?」


「智美はともかくエミまでも気合い入ってるって珍しいな」


「そ、そうかしら」


 確かにキャラじゃないかも知れない。でも、私は今は一つでも多く思い出が欲しいのだ。思い出増やす為ならキャラなんか守ってられない。それに、先ずは友実と森羅を連れ出して伝えなきゃいけないしね。


「そうだね、エミちゃん!せっかく来たんだからエンジョイしなくちゃね!エミちゃんの言う通りだ!よーし、今すぐ水着に着替えて海で遊びまくるぞ!」


「友実…」


 友実が単純バカでほんと良かった。森羅達も触発されてせっせと着替えてるし、とりあえず皆で海に行けそうで安心したわ。


「ところでエミちゃん、その鞄からはみ出てる紺色の水着はまさか!?」


「えっ?ああ、中学の授業で使ってたやつだよ」


「えぇ…入るの?」


「た、多分…」



X X X



「うう、ビキニなんて恥ずかしい…」


 結局スクール水着は入らなかった。約一年前までは使えていたのに…まぁ成長期だからここはセーフにしといてやるか!!って言うかしといて下さい。


「エミちゃん良かったね。近くに水着が売ってる店があって」


「う、うん」


 スクール水着が入らなくとも私は特に焦らなかった。何故ならば海の近くなら何処かしらに水着が売っているだろうと思っていたから。そして、案の定近くのサーフショップに水着が売っていたが、ここで私は焦った。イケイケ系のショップだからか、結構セクシーなビキニしか売ってなかったのだ。私はしぶしぶサイズ確認をし、その水着を購入した。


「じゃ、総員海に突撃だああああ!」


 友実の掛け声で陽子達が海へ突撃する。天気は快晴、そして目の前は綺麗な海。こんなのテンションが上がらない方がおかしい。


「で、エミは行かないの?」


「うん、日焼け止めって大事だって森羅も思うでしょ?」


「モチのロン」


日焼けしてピリピリするのは勘弁なのだ。あれほんと帰り車とかに乗ると背中が痛くてしょうがないのよね。



X X X



「コラ〜待て待て〜キャハハ」


「追いついてみろ〜ウフフ」


 友実と陽子がめちゃめちゃベタな事やってる。ったく、陽子め、追いかけられてる姿も笑顔もめちゃんこ眩しいぜ。


「エミ、悪いけどここ塗って」


「良いよ」


「……………」


「……………」


「エミどうして何も話さないの?」


「…森羅私さ、もうすぐ転校するんだ」


「…………………そう」


「あっさりしてるね、流石森羅だ」


「まぁね、あたしはそういう子だから」


そうだ。森羅はそう言う子だ。きっとだからこそ友達になれたんだと思う。


「そっか、ありがとう」


「礼なんていらないよ、それとエミ」


「何?」


「寂しい」


「うん…」


 寂しいと言った森羅の肩は少し震えている気がした。ちょっと何よ、そんなキャラじゃないでしょ。そんな事されると私まで泣いちゃうじゃない。


「エミ、思い出たくさん作ろうね」


「うん、たくさん作ろう」


 涙を拭ったのだろう。森羅は目をこすった後に振り向き、笑顔で私に私が言いたかった事を言った。森羅、あんた本当に最高に良い奴だわ。



「エミちゃん、森羅何やってんの!早く一緒に泳ごうよ〜」


「あ、あぁすぐ行くよ」


「森羅この事は友実には内緒にしといて」


「分かった。後、何か困った事があったり言って。協力してあげるから」


「ありがとう、森羅」


 森羅に打ち明けて少しスッキリした。こんな事ならもっと早く言っとけば良かったかも知れない。私は出そうになる笑顔を堪えて友実達の方へと向かった。



X X X



「はぁ、疲れた〜」


「流石にハードな1日だったわね」


 結局私達はクタクタになるまで海ではしゃいでいた。気が付けば辺りが少し暗くなる迄…我ながらよくあんな時間まではしゃげたなぁ、JKパワー凄いわ。


「でも、温泉にも入れたし中々充実した一日だったんじゃねぇの?」


 確かに山根さんの言う通りだ。充実感はある。海に行かなければこの充実感は無かっただろう。やはり旅行の時は行動してなんぼなんだと思いました。


「しかし、一部屋に六人寝るのは中々窮屈だな」


「そ、そうだね」


「けど、修学旅行みたいで楽しいじゃん」


「よし、じゃあその修学旅行っぽさを更に出すためにあれをしようではないか!」


 陽子が急にテンションMAXで起き上がった。さっきまで小さい子みたいにウトウトしてたのに急にどうした!?後、寝顔が見たいので出来れば早く寝て欲しいのですけど。


「あれって何?」


「この時間にするって言えばあれに決まってんじゃ〜ん。コイバナだよ、コ・イ・バ・ナ!好きな男の子の話をしましょう」


「マジか」


 コイバナかぁ、困ったな、好きな女の子は目の前にいるけど、て言うか陽子だけど、好きな男の子なんていないんですけど。


「じゃあ、先ずはエミから!ぶっちゃけ好きな男の子は誰!?」


「えっ!?…ごめんほんとにいない…」


「そう…」


「じゃあ、街村さんは!?」


「いないよ〜」


「じゃあ、友沢さんは!?」


「無」


「じゃあ、山根さんは?」


「い、いねぇよそんな奴」


「美鈴ちゃんは?」


「いないなぁ」


「…………」


「じゃ、逆にみなっちはどうなの?」


「えっ?私?…ごめん私もいないんだ…」


「……………」


 結局誰もいないんかい!私達の青春って一体…。まぁ勿論男だけが全てではないけど、私達がこのままで良いのかと聞かれれば、答えはYESではないな。ちゃんと恋もしなければ、未来の私マジで頼んだわ。


「と、とりあえず寝ましょうか」


「えー、枕投げしないの〜?」


「言うと思った…」


 中学の修学旅行の時も友実は枕投げをしようと提案していたが、私をはじめとする真面目ガチ勢に却下されて泣く泣く諦めていた。因みに却下された理由は危ないからだった。枕って投げるとマジで危ないわよね。


「おう、良いな!枕投げやろうぜ!」


「やろうやろう」


「おーし、じゃ私から行くよ〜」


「ちょ、ちょっとあんた達!」


 始まってしまった…。ここにはもう真面目ガチ勢は私だけだ。一人だけの意見など通るはずもない、ならばやるべき事は…。


「やあ!」


「エミちゃんやったなぁ」


「えい!」


 ここはもう参戦するしかないでしょ!そしてやるからには勝つのが私のモットーだった気がする、多分。私は枕を投げまくり真面目ガチ勢から枕投げガチ勢へと変貌を遂げた。



X X X



「ハァハァ…」


「もうそろそろ終わりにする?」


 気が付けば時計の針は深夜2時を指していた。明日もあると言うのに幾ら何でもやり過ぎた…。枕投げするには見回りをする先生の存在も必要不可欠やで、ホンマに…。


「じゃ、じゃあ皆おやすみ〜良い夢見んしゃいな」


「おやすみ〜」


 私が電気を消して布団に入る。さっきまで暴れていたので、息はまだ荒いが直ぐに眠れる気がした。勿論疲れているからってのもあるが、何よりも今日の充実感が私を快眠へ導いているのだろう。



X X X



「ふぁ〜あ〜あ、おはようエミちゃん」


「おはよう」


「今日は花火大会楽しみだね」


「そうね」


  花火大会は今日の夜始まる。出来れば早くスッキリしたいので、花火大会が始まるまでにはあの事を伝えたいが、きっとそう上手くはいかないのだろ。


「友実…私、実はね!」


「えっ!?何!?急にどうしたの!?もしかして朝食はやっぱりご飯が良かった?ごめん、エミちゃん、それだけは何があっても変えてあげられない」


「いや、別に良いけど…」


 そうこんな感じになってしまうから…。忘れている人ほどいるかも知れないが、友実はほとばしる程にバカなのだ。


「そうなんだ。じゃあ、先に朝食食べに行ってるね〜」


「う、うん」


 そう言うと友実は何故かダッシュで朝食が用意されている部屋に向かった。旅館でダッシュするなし。



X X X


「いやー、食った食った〜」


「朝からよくあんなに入るね」


 陽子が不思議そうに友実のお腹を見る。確かにあんな華奢な体でよくご飯3杯も入るな。一体どんなボディしてやがるんでぇ、正直羨ましい。


「で、今日は何処へ行くの?」


「聞いてなかったのかよ!?はぁ…そんなんだからそんなんなんだよ」


「そんなこと言ってないで教えてよ〜」


「実はウチも知らない」


「えぇ……」


 旅行行くならちょっとぐらい何処へ行くのかぐらい聞いときなさいよね。どうしてそうノープランで旅行に行けるのか不思議でしょうがないわ。


「今日は午前中は近くの水族館に行って、午後からは花火大会に行くから」


「そうなの!?エミちゃんありがと〜」


「どういたしまして」


 友実に教えたのは別に親切心からではない。少しでも恩を売っとけば、後々楽になる気が少ししたからだ。我ながら楽観的過ぎである。


「じゃ、部屋でもう一寝入りしてから行きますか!」


「あんた皆出かける気満々の服装してんのによくそんな事言えるわね…」



X X X



「エミちゃんこれが水族館だよ!!」


「見たら分かるっちゅうねん」


 水族館か…。そう言えば長らく行ってなかったな。かなり小さい頃に家族と行って以来だからもしかしたら10年ぶりぐらいかも知れない。私本当に魚に興味無いんだなぁ。


「エミちゃん入場料がなんと1500円だよ!」


「見たら分かるっちゅうねん!あと結構高っ!」


 水族館の入場料って高いのね。まぁあれだけの魚の面倒みるにはお金がかかりますわな。昔私が飼っていた金魚のエサ代も凄かったもん…嘘だけど。


「エミちゃんスゴいよこれ見て〜!サンショウウオだってさ!食べたらピリリと辛いのかな」


「知らないわよそんなの。てか、天然記念物食べちゃダメでしょ」


「サンショウウオって英語名ではサラマンダーって呼ばれてるらしいよ、かっこいいよね」


「森羅!?急にどうしたのよ」


「サンショウウオ見た来た。後、陽子達がペンギンのパレード始まるから早く来なって」


「ペンギンのパレード…だと…」


 そんなの可愛いに決まってんじゃない。これは見なければ絶対に後悔するわね、ダッシュで観に行かねば!


「友実、森羅すぐに陽子達の元へ行くわよ!」


「エミちゃん先に行っていて〜私達はサラマンダーをもう少し観察してから行くから〜」


「うんうん」


「分かった。先に行ってる」


 あやつらはペンギンよりもサンショウウオを取るのか…。一体何があそこまで彼女達を惹きつけるのか全く理解できないわ。


「あ、エミエミこっちこっち!」


「陽子、ペンギンパレードもう始まった?」


  陽子と共にペンギンパレードの場所へ駆けつける。うおおお!ペンギン早く観てぇ。


「まだ、でももう始まるみたい。あっあそこ!」


  陽子が指をさした先を見ると超可愛いペンギン達が行進していた。何だこれ、可愛すぎて心がとろけそう。


「きゃあああああ!かわいいいい!」


「智美見て見て!あの子はぐれちゃってるよ!アホっぽさがまたかわいいいい!」


 ヤンキー二人組もキャラを忘れる程の可愛さ。ペンギンパレードこれはマジで見ないとか人生の86.7割は損しているわよ。



X X X



「あ〜、楽しかった!水族館来てよかったね!」


「そうね、思いの外満足度も高かったし」


  ペンギンパレードの他にはイルカショーも観れたし、行く前は正直水族館に行くなんてベタ過ぎでしょ!なんて思ってたけど、行って大正解だったわ。


「サンショウウオには思わず40分も時間を費やしてしまったぜ」


「いや、友実さんよ。あれはしょうがねぇ、めっちゃ惹かれるもんがあったもん」


 あいつらサンショウウオを40分も鑑賞してたんかい…。そう言えばイルカショーの時も二人ともいなかったな、一体40分も何を見ていたのか…興味無いから聞かないけど。


「で、次はどうするの!?」


「とりあえず浴衣をレンタルして、その後花火大会に行く予定だよ」


「そっか、浴衣かぁ。どんなのが着れるのか楽しみだなぁ、ねっ、エミちゃん!」


「……………」


「エミちゃんどうかしたの?今、スゴい険しい顔してたよ」


「ああ、なんでも無いよ。気にしないで」


「そう…それなら良いけど」


 いよいよ友実に打ち明ける時がやってくる。時間が経つにつれて緊張が増してきて、ドキドキしている。ああ、上手く話せると良いけど…。


「エミ、頑張ってね。何とか二人っきりになれるようにするから」


 森羅が友実に聞こえないように耳打ちしてきた。ほんともうこの子はどんだけ空気読めるのよ、後で抱きしめとこ。



X X X



「エミちゃんどう?」


「ん?ああ、よく似合ってるじゃない」


 友実がドヤ顔で自身の浴衣姿がどうと聞いてきた。今の私は友実をじっと見る事は出来ないので、適当に答えるしかなかった。いや、チラッと見ただけでも似合ってたのは確かなんだけど…。


「そうかな〜でも悪くないとは思うんだ〜エヘヘ」


「………で、皆これからどうするの?先ずは屋台でも回る?」


 友実と話すのが辛いので、無理やり他の子に話を振る。臆病過ぎる…こんなんで私ちゃんと言えるのかしら…。


「賛成賛成!私はたこ焼き食べた〜い!」


「あたしは綿菓子食べたい!」


「ウチは焼きそば!」


「ちょっとちょっと落ち着いて。順番に回っていこうよ」


 森羅大丈夫かしら…。食べる事に頭いっぱいになって、友実と二人っきりにするのを忘れてんじゃないでしょうね…。


「分かった。じゃ、たこ焼きからにしよう」


「分かった。じゃ、綿菓子からにしよう」


「分かった。じゃ、焼きそばからにしよう」


 三人同時に発した言葉は自己中の固まりだった。こやつらは譲り合うっていう言葉を知らんのか。


「提案なんだけど、とりあえず別行動にしてはどうかな?あたしとエミと友実グループと陽子と智美と美鈴グループとでさ」


 森羅が珍しくまとめ役を買って出た。森羅、私は本当は信じていたよ。


「んー、良いんじゃない?後で合流すれば問題ないしね、私は賛成だよ」


「ウチもそれで良いよ」


「私も」


  陽子達が賛同してくれた。後は森羅が離れれば私と友実は二人っきりになる。そう思った瞬間に心臓のあたりがヒヤッとした。


「じゃ、後で合流しようね。花火が始まる前にはここにいるから」


「了解」


 陽子達が去って行く。味方がいなくなった様な気がして、少し心細くなる。森羅までいなくなったらどうなっちゃうのだろう…伝えなきゃいけないのに億劫になる。


「森羅、エミちゃんたこ焼き食べに行こう!」


「え、ええ」


「友実、悪いがあたしはまだ綿菓子を諦めてないよ」


「えー、たこ焼きの後に食べれば良いじゃ〜ん」


「たこ焼きの後に食べたらへんすさな味になるだい!!!!」


 森羅幾ら何でもそんなに怒らなくても…。いや、確かにたこ焼きの後に綿菓子はちょっと違う気がするけどさ、反論が変な方言みたいになってるよ。


「わ、分かったよ。そこまで言うなら止めやしないよ!綿菓子食べてくるが良いわ!作ってる途中が薄毛のおじさんみたいなあの食べ物をよぉ!」


「そうする」


「ふん!勝手にしろい!そして、後で感想教えてね」


「分かった。じゃ、あたしは行くよ」


 森羅は行こうとしたが、振り向いて私の元へ近づき再び耳打ちしてきた。


「エミ、頑張ってね」


「う、うん!」


  森羅が人混みの中に消えて行く…。私に怒るどころか、お膳立て迄してくれた森羅にはマジで感謝しかない。出来ればエターナル友でいたいわ。


「…………結局二人っきりになっちゃったね」


「そうね…」


 いつもなら二人っきりでいるのに何の苦痛もないが、もう既に辛い。友実も空気を感じとっているのか、テンションがいつもよりも低く感じる。


「じゃ、とりあえずたこ焼き食べに行こうか」


「そうね」


 ぶっちゃけたこ焼きを食べたい気分ではないが、ここは合わせた方が無難であろう。


「どの辺にあるのかな?たこ焼き売ってる店」


「たこ焼きなんてそこら辺に売ってるでしょ。あっ、ほらもう見つかった」


 思ったよりも近くにあった。たこ焼き屋を見つけた瞬間、私は会話が長引かなくて助かったと思った。近くに立ててくれててありがとう、たこ焼き屋のおじさん。


「オッチャン!たこ焼き2つ下さいな!」


「あいよ!」


  たこ焼きのおじさんが手際よくたこ焼きをパックに入れていく。私はたこ焼きの事よりもあの事をどう切り出そうかで頭がいっぱいになっていた。


「はい、エミちゃん、たこ焼き〜。熱いから気をつけてね。なんならフーフーしてあげようか?」


「えっ?ああ、お願い」


「??どうしたのエミちゃん。いつもならいらないわよって言うのに。それにさっきから全然目を合わせてくれないし、何か悩みでもあるの?」


「な、ないわよ」


 嘘です。あります。そしてその原因は貴方です。


「そっか、でも困ってる事があるならいつでも言ってね。超相談に乗るから」


「………」


 やめて欲しい。ここでそんな優しさを見せられても辛いだけだ。いや、分かっている。自己中なのは分かっている。だが、今だけは私に優しくしないで欲しいのだ。


「あっ!エミちゃん気づけばもうこんな時間だよ。待ち合わせ場所に行かなきゃ」


「うん、分かってる」


「そっ、じゃ行こう!」


「ハァー………ふぅ」


 深呼吸をする。意を決して私は伝える事にした。でも、ここでは人が多過ぎる。場所を変えなくては。


「友実、ちょっと話したい事があるから場所変えよう」


「…?話って何?大事な話〜?」


「うん、大事な大事な話」


「………分かった。行くよ」


「じゃ、あそこの人が居なさそうな神社に行こう」


 人がいなければ何処でも良かったが、私は神社を選んだ。選んだ理由は何となくなんだけど、階段に登れば人がいない場所に行くだろうと直感で思ったのだろう、多分。



X X X



「ハァハァやっと辿り着いた〜」


「思った以上に階段長かったわね」


  浴衣姿で登るような階段ではなかった。私と友実はゼーコラ言いながら階段を登り切ったが思ったより時間がかかり、森羅達とは花火を一緒に観れないのがほぼ決定した。ごめん、四人とも後でお詫びするから許して。


「ここ良い景色だね、人もそんなにいないし、もしかしたら花火も観れるかもしれないし」


「そうね…」


 人がそんなにいないのはありがたいが、花火は正直どうでも良かった。今の私には花火を気にしている余裕など無かったから。


「で、話って何?」


「…じ、実はね、私ね、学園祭が終わったら転校するんだ」


「…………」


「そ、その、すぐに伝えなくてごめんなさい。なかなか言い出せなかったの」


「…………」


 とりあえず言うべきことは言った。後は友実がどう反応するかだ、お願いだから穏便に済まして。


「知ってたよ」


「え?」


「エミちゃんが転校する事。実は知ってたんだ」


「何で…いつから?何処で知ったの?」


  誰が言ったの?まさか森羅が先に伝えてたの?いや、そんなまさか…森羅はそんな事をするような子じゃない。だとしたら一体誰が…。


「知ったのは夏休みに入るちょっと前からだよ。教えて貰ったのはお母さんから」


「おばさんが…」


 成る程そう言う事か。ならば出所は一人しかいない、ママだ。良く考えれば当然よね。昔から付き合いがあるのはママ達も一緒なんだから、引っ越しするのを伝えてない筈がなかった。


「どうして何も言わなかったのよ」


「エミちゃんの口から聞きたかったのと、もしかしたら考え直してくれるんじゃないかと思って」


「考え直す…?」


「うん、転校するのをやめてここに残るって事」


「そんな事…」


「有り得ない?」


 有り得ないなんて事はない。だかしかし、一人でここに残れる程私は人間が出来ていない。それに家族と離れて暮らすなんて嫌だ。絶対に寂しくて死んでしまう。


「エミちゃん、私はね、正直ちょっと失望したんだ。何で私達を置いて他の所へ行っちゃうんだろうって」


「………」


 友実がそう思うのも無理はない。私が逆の立場ならそう思うだろうし、言い出しにくかったのはその後ろめたさがあったからだと思う。


「でも…よく考えたら仕方ないよね。家族離れ離れで暮らすのなんて私も嫌だもん」


「友実…」


「だからわがまま言わずに、エミちゃんを笑顔で見送ろうとおもってたんだけどなぁ………」


「友実?」


「やっぱり無理!エミちゃんどうして私達を選ばなかったの!?もう残ると言う選択はないの!?嫌だよ、エミちゃんがいなくたったら!寂しいよ!」


 急に火がついたのでビックリした。友実は泣きそうな顔で私に必死に訴えかけてきた。お願いだからそんな顔しないで…。


「ごめん…もう決めた事だから」


「どうして!?あっ、もしかしてエミちゃん一人で暮らすのが嫌なの?もしそうならウチに来れば良いじゃん!お母さんとお父さんには私から頼んでおくからさ」


「友実…ありがとう。私も友実達とお別れするのは寂しいよ。出来ればずっと一緒にいたい。でもね、友実達にはすっごく悪いけど、家族と友達じゃ比べるまでもないの。それぐらい私にとって家族は大事なの。それは友実も一緒でしょ?」


「一緒じゃないよ!!!!!」


「!!!」


「もう!!エミちゃんの分からず屋!!!何処にでも行っちゃえば良いよ!!!!」


「友実!!!!!」


友実が走り去ってしまう!追いかけなきゃ!と思ったら何故か友実はUターンしてこっちに向かって走ってきた。


「ハァハァ…やっぱりこのままだと悔しいから!エミちゃんを笑わせられないまま終わるのは嫌だから!私、宣言しておく!学園祭でエミちゃんを絶対に笑わせると!だから覚悟しておいてね!」


「えっ?う、うん」


 怒っているのに笑わせてはくれるんだ。とりあえず口をきかないまま終わらなくて一安心した。


「じゃあね、エミちゃん。次こそは必ず笑わせるから」


 友実は真剣だ。ここではぐらかすのは相手に失礼だと思う。なので、私が返す言葉はこうだ。


「分かったわ。受けて立とうじゃない」


「…………」


 友実は何も言わずに立ち去った。後ろを向いた瞬間、友実が少し笑った気がしたがきっと気のせいだろう。


「友実……ごめんね」


 後ろで花火の音がしている。振り返る気もせず、私はただ自分が選んだ道が正しかったのかを自ら問いかけるが、答えなんて出るはずもなかった。








エミちゃんを笑わせ隊 対戦成績 0勝14敗




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