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【エミちゃんとソフトボールやり隊】

「突然だけど、エミちゃん夏と言えば何?」


  日差しが私達を狙っているかの様な午後の帰り道。友実がいつもの様私に質問を投げかけてきた。


「アイス」


「いや、森羅には聞いてないし、てか森羅は冬でもアイス食べるでしょ!黙ってなさいわよ!」


「バレてたか」


「エミちゃん何?」


「んー、何だろう?お祭りとか…」


 他にも2万個ぐらい浮かんでるけど、まぁ1番無難な答えはこれだろう。多分街角アンケートでも1位にあがる程の無難さ加減だわ。しっかし、つまんない答えだなぁ、ここはボケとけば良かったかも。


「他には?ほら、他にもあるでしょ?やのつく言葉でさ!TVでよくやってるヤツ!」


「や?…や…や…森羅分かる?」


「分かんない」


 私も分からない。もしかして屋台かと思ったけんど、TVでよくやってはいないしなぁ。もういいや、飽きてきたから奥の手を使おう。


「友実降参してあげるわ、何を答えて欲しいか教えてちょうだい」


「もうしょうがないなぁ、答えは野球!てな訳でエミちゃん&森羅野球やろうぜ!厳密に言うとソフトボールなんだけどね」


「野球とソフトボール結構違うと思うけど…で、何で私達がソフトボールをやらなくちゃいけないのよ」


 何でバリバリの帰宅部の私達が…どうせ誘うのであれば陽子の様なスポーツ系女子を誘った方が盛り上がるであろうに。


「いや、先日ソフトボール部の子に部員足りないから助っ人に来てって頼まれてさ。他にも後3人必要だからって言うんで、エミちゃんと森羅を勧誘してるのさ」


「友実も入れたら4人も足りないって事じゃない…」


 よく廃部になってなかったわね。バレー部といい、どうやらウチの学校は割と部活存続には寛大な様だ。


「うん、そういう事になるね。だから、エミちゃん&森羅お願い!!」


「断る!!!」


「じゃああたしも断る!!!!」


森羅が私に続いた。


「え〜、何で〜」


「ソフトボールなんて体育の時間でしかやった事ないし、私では戦力にはならないわ。それにあんたこの前のバレー部での事忘れてないよね?」


 あの地獄絵図を…。あれ以降私は絶対に助っ人は引き受けないと誓ったんだ。あんな想いをするぐらいなら誘いを断って、ガッカリされた方がマシよ。


「あれはあれ、それはそれだよ、エミちゃん。それにソフトボール部の人達もあの件の事はちゃんと知ってるから」


「知ってて誘ってきたの?」


 もはや誰でも良いのではないかと思えてきた。でも、それだけ部員数に困ってるって事よね…。うーん、力になってあげたいけどこればっかりはなぁ。


「エミ、あたしは協力してあげる事にしたよ」


「森羅マジで?」


「うん、あたしなんかでも役に立てるならお安い御用さ!」


「森羅ありがと〜!やっぱり持つべきものは友だね!後はエミちゃんが頷けば完璧や!」


「私は…」


 森羅がやるとなれば断りづらい…。森羅は来たのに私はスルーしたなんてバレたら私の評判ガタ落ちするしね。それに陽子に嫌われてしまうかもしれない…それだけは死んでも嫌!


「分かったわ、私も参加してあげる」


「やったああああ!エミちゃん大しゅきいいいいい!」


「あたしもエミ好きいいいいいいい!」


「ちょっとあんた達離れなさいよ!暑苦しいわ!」


 まぁ良いでしょ。もうちょっとで転校するわけだし、ここで出来るだけ多くの思い出を作っといても損はしないでしょうよ。


「じゃあ、エミちゃん今週の日曜日の9時に学校のグランドに集合ね!ユニフォームとかはお下がりかあるみたいだから心配しないで!ではでは〜また放課後に〜」


「今週!?ちょっと友実練習は!?」


「無しだけど適当に自主練しといて!」


「行っちゃった…」


 適当にって…。1人ではバッティングセンターに行くか、壁当てぐらいしか出来ないわよ。そんなんで良いの?ソフトボールも連携が大事だろうに。こりゃもしかしたらソフトボール部勝つ気全くないのかも知れないわね。参加するのはただの思い出作りなのかも。


「エミ、試合は敗北を覚悟しといた方が良いもね」


「そうね…」



X X X



「おはよう!エミちゃん&森羅&さとみんよく来てくれたね〜」


「約束は守るわよ」


「友実、お疲れ様後のお菓子はちゃんと用意してるんだろうな」


「ったく、たりぃなぁ。何で日曜の朝にソフトボールなんか…」


 遂に日曜日が来た。私は何もせず来るのも気が引けたので、一応やれるだけの事はやって来た(といってもバッティングセンターに2回行ったのと、森羅と休み時間にキャッチボールしただけだが)。少しでも役に立てれば良いが、果たしてどうなる事やら。


「おっ、友実!その子達が例の助っ人さん達?」


「ああ、はい!ちゃんと4人とも来てくれました」


「そっか、わざわざありがとね」


「いえいえ」


 ユニフォーム姿で現れたのは友実に助っ人依頼を出した先輩だった。先輩が優しそうな人でちょっぴり安心した。ザ・体育会系みたいな人ならどうしようかと思ってたけど、この人なら怒られる心配はしなくて良さそう。これは当たりかな。


「じゃあ早速で悪いんだけど、ユニフォームに着替えてきてくれるかな?私達の試合1試合目だからなるべく急ぎ目で」


「分かりました」


 もう試合が始まるのか、ヤバイ心の準備が…。いや、でもいつかは始まるんだ。嫌な事は早めに済ましといた方が良いに決まってる。ここは1試合目でラッキーだったと思わなくちゃ。


「しかし、このユニフォーム入るかしら…ちょっと小さい様な…」



X X X



「エミ、ユニフォームパッツンパッツンだね…」


「森羅それには触れないで欲しい…」


 やっぱりユニフォーム小さかった。そう言えばここ最近食っちゃねばっかりしてたからなぁ、そろそろ痩せねば。


「エミちゃん着替え終わった?あ、終わってる。エミちゃんまたまた早速なんだけど先輩がもうスタメン決めたから発表するね!」


「えっ!?スタメン?」


「うん、打つ順番と守るポジションね〜」


 そういうのは皆集まってウェイ!みたいな事やるんじゃないの?草野球チーム並に適当にスタメン決めるのね。まぁでも寄せ集めメンバーが多いから適当になるのも仕方ない事なのかな。


「発表します…………ドンドコドンドコドコドコドコ」


「いや、変にもったいぶらなくて良いから」


「エミちゃんは……7番ライトです!」


「いや、ライトって何処?」


「えー、ホームベースから見て右ら辺。サンローがいそうな所」


「何となく分かったわ」


 とりあえず空いてるところへ行けば良いだろう。間違ってたら先輩達が教えてくれるだろうしね。やだ、私びっくりするぐらいやる気ない。どうしよう。


「因みに森羅は8番レフトね。レフトはエミちゃんが居る所の真逆の場所」


「分かった」


「で、さとみんは6番だよ。さっきから一言も発してないけど、さとみん大丈夫?」


「ああ、集中してるだけだから気にすんな。いわゆるセブンティーンってヤツだ」


「それを言うならルーティーンでしょ」


「………ちょっとボケただけさ」


「ならしょうがねぇ」


「よし、じゃあそろそろエミちゃん&森羅&さとみん気合い入れて行くよ!せーの!オー!」


「こうなったらやってやろうじゃない」


「コテンパン不可避」


「ぶっ飛ばしてやる」


「三人ともオーぐらい言ってよぉ!一人で盛り上がった私が恥ずかしいじゃん!」



XXX



「よーし、みんな整列するよ!!!」


「エミちゃん並んで、今から試合前の挨拶するから。高校野球でやってるの見たことあるでしょ?」


「ああ、球児が並んで帽子取るヤツね。あれ割と礼儀正しくて好き」


「じゃあ、両校整列!!!!」


 審判が大きい声で言い放った。


「あっ、きた!エミちゃん行くよ!」


「うん」


 いよいよ試合が始まるのか。やっぱりドキドキしてきたな、ソフトボールの神様出来るだけ私の方にボールを飛ばさない様にお願いします。私その試合は空気で良いので。


「お願いしまーす!」


 両校挨拶が終わって私も無事にポジションにつけた。あの迷いのないポジションのつきっぷりは自画自賛しても良い程だっただろう。正にファインプレイである。


「しまっていこー!」


「オー!ってピッチャー友実じゃん!」


 いや、友実は運動神経良い方だけど助っ人がピッチャーって…エースおらんかったんかい。それとも友実の方が良かったからこうなったのか、いずれにせよソフトボール部が凄くダメなのはよく分かったわ。


「先輩行くよ!」


「おう、ビシッと来い!!!」


「うりあああああああ!懐かしのジャイロボールじゃああああい!」


「うわっ、友実!」


 友実は凄い直球を投げていた。相手バッターも驚いて全く手が出せなかった様だ。正に完璧な一球だったと言えよう。まっ、下から投げてればの話だけどね。


「皆、ごめーん間違えちゃった」


「ドンマイドンマーイ!切り替えていこう」


「友実、時代がついていけてないだけで、友実は悪くないよ」


 いやいやルール守らない奴に時代がついていかないわよ。私が審判ならもう即刻退場にしてたわ、友実とっととピッチャー代わりなさいよ。


「じゃあ、先輩気を取り直して行くよ〜!」


「今度こそビシッと来い!」


「うりぁ!!」


 友実は今度は流石に上から投げる事なく、ちゃんと下から投げた。素人の私でも分かるくらい良い直球で、バッターはおぉと言わんばかりの表情をしている。やれば出来んじゃん、ピッチャー継続を認めちゃる。


「ストライクバッターアウト!」


「よっしゃー!」


「ナイピッチ!」


「マジでか」


 まさかの無失点で抑えてるじゃない、友実のポテンシャル半端ないわ。どうしてあの能力を活かさないのかが不思議でしょうがないわ。


「1番、ピッチャー街村さん」


「よし、次はバッターじゃい!ジャキーン!」


「あ、エミあれ予告ホームランだよ。昔の漫画で見た」


「そう…」


 予告ホームランだろうが、予告三振だろうが、正直どうでも良いから恥ずかしい事はしないで欲しい。ほら、もうあっちのベンチの人達めっちゃこっち見てんじゃん…。


「くそ、舐めやがって!絶対に三振でしとめてやる」


 ほら、もう相手ピッチャーめっちゃ怒ってんじゃん…。友実後で茶菓子持って謝りに行きなさい。


「ピッチャー来い!」


「じゃ、投げてやるよっと!」


 相手ピッチャーが振りかぶる。何だあの変てこなフォームは…。


「あれっ!!!」


 友実は何故か予告していた場所に打たずに、ベースがある所にバットを超短くして球を当てた。一体何をやっているのか、分からん。


「アウト!」


一塁の近くにいる審判の腕が上がる。


「うわぁ…友実やっちまったか」


「なになに?森羅、アウトになったから駄目なの?」


「いや、それ以上に…」


 友実がベンチへ帰って来た。何故か顔を両手で隠している。何も恥じる事はないのにどうしたんだろう?胸を張ってれば良いのにね。


「予告ホームランでバント失敗…友実完全にスベったな」


「うるさいうるさい!上手くい自信あったの!ああ、また黒歴史作っちゃった」


 なるほどスベったのか。これは例えるなら、凄い面白いギャグすると言って、ベタなモノマネかましてスベるみたいな感じかな。えっ?何?違う?


「バッターアウト!スリーアウトチェンジ!」


「向こうのピッチャーも中々やるわね」


 この後友実と相手ピッチャーの好投は続き、私の出番が早々にやってきた。いや〜ん、めっちゃ緊張する〜ん。


「エミちゃん!かっ飛ばせー!!夕張まで飛ばしたれー!」


「エミ、楽しくやろうぜ。ただのボールゲームだ」


「友実…森羅…」


 そうだよね。点を取ってあげなきゃ友実は永遠に勝てないんだ。打たなきゃ、どんな球であっても…。


「ストライク!」


「なっ…」


 思ってたよりもかなり速い…。ソフトボールだから当てるのは簡単かと思ってたけど、全然そんなことなかった。怖いし、こんなの打てる気しない。なら、やる事は。


「ツーストライク!」


「見て!森羅!エミちゃんが!」


「エミ何で目をつぶってんの?」


 ここはもう目をつぶって打つしかない。感じるんだ、ボールがする音と、匂いと、奴の人生を、ボール工場での生い立ちを。


「よし、ここじゃあああああい!」


「うわぁ!!!」


「えっ!?友実?」


「エミちゃんもうとっくにアウトになってるよ。審判の声聞こえてなかったの?」


「チェンジ?」


「うん、エミちゃんがバット振った頃にはもう相手チーム皆ベンチへ戻ってたよ」


「そ、そう。まぁそんな事もあるわよね」


「いや、ないと思うよ…」


 その後もふざけてんのかと思う程両チーム打てず、友実と相手ピッチャーの投げ合いは続いた。そして遂に回は7回(最終回)となった。


「友実、ここを抑えて裏にサヨナラするよ!」


「うっす!任せて下さい!」


「びゃあああああ!」


 ほんと凄いボイスしてるな、相手チーム。でもそれだけ気合い入ってるって事か、友実こっちも気合い入れていかないとやられるわよ。


「ストライクバッターアウト!」


「まだまだいけんじゃん、私!こりゃ完封いけそう!」


 あのバカ思ってるそばから…。なぜ人は自らやられるフラグ立ててしまうのか。人類よ、浅はかなり…。


「振りかぶって〜〜投げる!!!!!」


「友実、そのコースは!!!!」


「あっ!ヤバイ!」


 友実が投げた球は明らかにど真ん中だった。バッターが待ってましたと言わんばかりにその球を振り抜く。


「いけえええええええ!フェンス超えろおおおお!」


 相手バッターが叫ぶ。中々良いハスキーボイスだった。


「アカーン!入るなあああああああ!エミちゃん飛んで!」


「いや、無理無理!」


 友実の願いも虚しくボールはフェンスを越えた。私も出来れば取ってあげたかったけど、あれは背中に羽根でも生えてない限り絶対に無理だわ。


「ガックシ…」


「友実、そんなに落ち込むな。まだ裏があるじゃないか、味方を信じてここは取り敢えず最少失点で抑えよう!」


「先輩……はい、勿論です!」


「よし、良い目になったな」


「皆しまっていくよ〜!」


「お〜!」


 友実はまだ頑張るつもりなのか…。球数も結構いってるだろうに、1点取られたし、そろそろ交代しても良いと思うんだけど…。


「ボール!ファーボール!」


「あっれぇ?おかしいな、ストライクが入らないぞ〜」


「友実…」


 友実は疲れたのか、精神的にダメージが大きかったのか分からないが、急に荒れ始めた。やっぱり交代した方が良かったわね。


「審判、タイムお願いします」


「先輩…」


「友実、お疲れ様。ピッチャー交代だ」


「……ふぅ、仕方ないですね。じゃあ、さとみん後はよろしく頼むよ」


「はっ!?私?」


「うん、さとみん昔ピッチャーやってたでしょ?私知ってるんだから」


「いや、ピッチャーなら鈴華先輩がいるじゃねぇか!何で私になるんだよ!」


「鈴華は肩壊したかもう投げられないんだよ、そもそも投げれるなら最初から投げてる、だってウチのエースなんだから」


「ゴメン、キャプテンの言う通り私はもう投げられないんだ。だから智美、頼んだわよ」


「……鈴華先輩にまで頼まれたら仕方ないっスね、一丁やってやっか!」


「そうこなくっちゃ!」


 どうやら山根さんがピッチャーをやるようね。元々はソフトボール部だったみたいだし、心配はなさそうだけど、いきなりピンチだからなぁ。山根さんのハートが強ければ良いが…。


「智美、肩は出来た?」


「ああ、バッチリですよ」


 マジで頼むわよ、山根さん。正直私達の打線では、後一点でも取られれば敗北はほぼ決定となる。ここは是が非でも無失点に抑えて欲しいわ。


「ボール!」


「ボール!」


「ボール!」


「オーケー!オーケー!智美、良い球きてるよ」


「ふん」


 うおーい、いきなりスリーボールかいな。これはもうダメかも知れない…。


「ストライク!」


「ストライク!」


 うおーい、ツーストライク取るんかいな。こりゃいけるかも知んない!


「決め球は…これだ!!!!」


「智美!!!!!!!!!」


「…………………………」


 場内にいる全ての人が息を飲んだ。ボールはキャッチャーのグラブに収まり、審判は高らかに叫んだ。


「ストライクバッターアウト!」


「おっしゃああああああああああ!」


「さとみんやるうううううううう!」


「ナイピー!」


 山根さんやるじゃない。ただのヤンキーかと思えば中々根性のあるヤンキーだったわね、見直したわ。


「うし、逆転するぞ!」


「打順は2番からか、好打順だし必ず逆転しよう!」


「オー!」


 打順は2番から…やばいな、私に回ってきたらどうしよう。逆転のチャンスに回ってきて凡退したらと思うと足が震えてくる。お願い、どうか私の前で逆転して終わって!



X X X



「ボール!ファーボール!」


「エミちゃん、頼むよおおおおおおおお!」


「エミ、決めちゃえ!」


 私の願いは虚しくチャンスで回って来やがった。しかも1点差、ツーアウト満塁という最悪の状況で…。何これ、何の嫌がらせよ。神様、私なにか悪いことしましたか?


「ストライク!」


「うわ…」


 何よこれ…さっきよりも速くなってない?今まで一回も打てなかったのにこんなの打てるわけないじゃない。


「ストライク!」


「追い込まれた…エミちゃん自信を持って!何もしないで帰ってくるのは1番ダメだよ!」


「エミ自分を信じて!」


 んなこと言ったって、こんな場面でどうこう出来る程、私はソフトボール歴長くないってちゅうねん。バットに当てる事も…ハッ!そうだ!あれなら。


「これで決まりだ!」


 バットに当てるならこれしかないでしょ!!!


「あっ!エミちゃんが!!」


「ピッチ、ファーストへ!」


 私は友実が失敗したバントというのをやった。ど素人の私にはこれが一番当てやすいと思ったからだ。


「エミちゃん走れええええええええ!」


「良い所に転がっている。これはセーフだろ!」


「ハァハァハァハァ」


 もう間に合わないと思い私は柄にもなく高校球児が最後にやるヤツ(ヘッドスライディング)やった。一塁ベースに思いっきり頭から突っ込む。タイミングは…。


「アウト!ゲームセット!」


「……」


 無情にも審判が告げたコールは試合終了のお知らせだった。あーあ、何やってんだろ私。こんな事なら適当に三振しとけば良かった。何熱くなってんだろ…。


「エミちゃん!!」


「友実、ゴメン。最後のバッターになっちゃった」


「エミちゃんナイスガッツだったよ!」


「エミやるじゃん」


「ヘッドスライディングかましてダメだったらしゃーねーよなぁ」


「何よ、あんた達…」


 そんな事言われると泣けてくるじゃない。もっとこう罵ってくれた方が気が楽になるのに…まぁ罵ってきたらビンタするかもしれないけどさ。


「四人とも精一杯やってくれてありがとう。負けちゃったけど、おかけで良い試合か出来たよ」


「先輩…」


「そんな顔するな、皆満足してるよ。まぁ1点も取れなかったのは悔しがってたけどさ、それは君たちのせいじゃなくて、私達の力不足なんだからしょうがない。だから、気にしないで」


「そう言って頂けるならありがたいです」


「うん、じゃ、私達今から練習するから今日はほんとにありがとね。あっ、あと智美!」


「は、はい」


「アンタは練習に来な!今回の試合でアンタがソフトボール好きなのはよく分かったし」


「えー、いや、だるいっスよ。でもまぁたまーにだったら参加してあげても良いっスけどね」


「さとみんツンデレ」


「うるせぇ!」


「ハハ、じゃあたまにで良いから来なさい。待ってるわよ」


「うっす」


「……」


 試合には負けちゃったけど良い流れになってるので、今回は良しとしますか。少なくともあの地獄のバレー部と比べれば月とスッポンの結果でしょ?


「エミちゃん今回は参加して良かったでしょ?」


「ま、まぁね」


「また次何処かに誘われたら参加しようよ」


「そうね、良いかも知れない」


「……意外な反応だね〜。エミちゃんならてっきり嫌よ、今回だって大変だったんだからって、ツンツンしそうだと思ってたのに」


「だって…」


「だって何?」


「いや、何でもない」


「何よ〜言って〜」


「言わない」


 友実達との思い出が一つでも増えるならそれも良いかもって、言いかけたけどやっぱり辞めた。だって照れくさいんだもん。それに変なこと言うとあの事がバレそうだし…。


「エミちゃん言って〜」


「絶対に言わない」





エミちゃんを笑わせ隊 対戦成績 0勝12敗


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