第一話 秘密結社ザンザス
都農・帝人は、テレビ画面に映るパズルのブロックを消しながら、近くのベッドに寝転びながらパソコンを弄る兄の皇人にふと、訊いた。
「……なあ、兄貴」
「うーん、何だい?かわいい弟よ」
帝人の言葉を聞きながら、皇人はパソコンのキーボードを叩いて答えた。
「……一応、俺達って世界征服を企む悪の秘密結社なんだよね?」
「そうだよ、弟よ。そして君は、その中でも戦闘部門の大幹部だ。世界最強の超能力者にして霊能力者として、ありとあらゆる強敵と戦う職務を背負っている」
さりげなくとんでもないことを言いながら、やる気なく答える皇人に、帝人もやる気なく質問を重ねる。
「極秘裏に兇悪兵器を開発して、改造人間や人造人間を作ることも厭わない、人道に反した組織なんだよね?」
「そうだよ、弟よ。そして、俺様はその中でも開発部門の大幹部だ。世界最高の天才科学者として、ありとあらゆる兵器を開発する職務を背負っている」
キーボードを叩きながら、何でもないことの様にとんでもないことを答える皇人。
そんな兄に、帝人は一番気になっていたことを聞く。
「それじゃあさ、こんなことをしていていいの?」
「うーん?こんなことって?」
「豪華客船に乗りながら、ゲームしてダラダラと過ごすことだよ。……つーか、今まで一度として世界征服的な活動したこと無いんだけど、良いの?」
そう言って帝人が外に目を移すと、そこには太陽の燦々と照り付ける青空と海が広がり、巨大な豪華客船のデッキを行き交うのは、執事服やメイド服に身を包んだ使用人であり、時おり実銃を手にした警備員らしき人間が混じっている。
その中で、私服に身を包んだ格好をしているのは帝人と皇人を含む数人だけであり、二人がいかに特殊な立場にある人間であるのかが理解できる状況であった。
そんな人々を一度軽く見下ろした帝人に、皇人はパソコンの電源を切って本格的にベッドに寝転びながら答える。
「べつにいいんじゃないの?てかさ、そもそもの話しそう言う事って、僕等のボスに言いなよ」
皇人は、ベッドの傍にくり貫かれた窓の外を顎でしゃくりながら、そこで繰り広げられている光景を示した。
そんな皇人の反応に、帝人は小さく溜息をつく。
「いやあ、だってなあ。今そんなことを言っても、絶対にボスが聞くわけないじゃん。だってさ、あれだよ?」
そう言うと帝人は、窓の外に見える空中に浮かぶ無人島を眺めながら、今度は大きなため息を吐いた。
「今、ボスは宇宙人と一緒に遊んでるんだぜ?世界征服よりも、絶対にそっちの方が面白いに決まってるだろ?もう、とっくの昔に元の目的なんて忘れてるよ?」