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You Really Got Me  作者: のすけ
9/27

初雪 1

「ミキはクリスマスにコウ君と何かするの」

 学校で友達に聞かれた。

「ちょうどDarwinの対バンあって、その後クリスマスパーティなんだ」

「カッコイイね、でも二人っきりじゃないんだ」

 今年のイブは土曜日なので、彼氏のいる友達は二人でデートするって子が多い。

 イブはコウがライブ前日の最後のバンド練習。

「ギリギリまで曲を形にしたいから頑張る、ごめんね」って。

 私は気にしてない。

 ライブを楽しみに、チエちゃんやカズネ先輩やいつもバンドの応援をしてくれる子達、永井君をはじめ運営している人達と一緒にパーティーの準備をしていた。


 そして当日、Darwinの出番は五バンド中の四番目。

 アヤカさんの彼ミッちゃんのShuffle Rosesが三番目。

 Darwinの演奏後にクリスマスソングを四バンドのボーカルでやって、トリの先輩バンドを迎える段取り。

「ミキちゃんメリークリスマス、今日楽しみにしてたー」

 会場に来たアヤカが声をかけてきた。

「アヤカ、メリークリスマス、可愛いねー」

 照明を落とした会場で、彼女の金髪に白のヘアバンドと白のニットワンピースが際立って似合っていて可愛い。

 アヤカは、エレベーター横の階段でタバコを吸っていたミッちゃんを見つけて近づく。

 ミッちゃんが彼女の髪を撫でるのが見えた。

 ツリーやモールで飾った華やかな会場で、受付を準備してたらコウが来た。

 コウは赤と黒の大きなチェックのシャツに、シルバーのチェーンをつけた黒いデニムでメイクはなし。

 私も黒のハイネックのセーターに少し短めのチェック柄のスカートと黒いブーツで、コウと合わせた感じにしてる。楽屋で顔を合わせたらコウは、

「可愛い。後で誰かカメラ持って来てるやつに頼んで一緒に写真撮ってもらおうよ」と言ってくれた。

「ミキ、俺ちょっと緊張してる」

 受け付けに来たコウはカウンターの下で手を繋いできた。

 いつもより指先が少し冷たく湿った感触。

 私はコウが可愛くなってしまう。

「コウ、秘密の新曲いよいよだね、楽しみ」

「ミキを見つけて歌うからね」

「うん。見つけて」

 どちらからともなく繋いだ手をキュッと握って、コウは手をあげると目だけで笑って楽屋に入って行った。

 ライブが始まりパーティ気分が会場を包んで盛り上がり歓声もコールもすごい。

 みんな曲に合わせてヘッドバンギングして踊ったりしてる。

 ミッちゃんの演奏前に前列へ向かうアヤカの姿が見えた。

 でもその姿が急に人波の中に沈んで消えた、と思ったら立ち上がった。

 つまづいたのかな。

 立ち上がった彼女はキツイ表情で周りを見ていたけど、演奏が始まったのでその後の様子は分からなくなった。

 Shuffle Rosesは今日、ミッちゃんが『You Really Got Me』を唄った。

 夏のライブでコウが私に唄ってくれた曲。

 あの時のコウを思い出さずにいられない。

 次がコウ達の出番、ドキドキしてきた。

 Shuffle Rosesの出番が終わって前列に詰めかけてた子達が後ろに戻ってきたけど、何か揉めてるみたい。

 アヤカが数人の女の子達と言い争っている。

 相手はミッちゃんのファンの大学生の子達。

「はあ、知らないって。あんたしつこいよ」

 一人がアヤカに向かって言った。

「私が気に入らないからって、ババアのやる事汚い」

 アヤカが言い返した。

「あんたこそ、学校も行かないでミズやってんでしょ。汚いのどっちよ」

 相手が言い返し、声も高くなってる。

 他のお客さんが「あんたらちょっとうるさい。喧嘩は外出てやって」と言った。

 ちょっとまずいな。

 私は「アヤカ」と声をかけた。

「ミキちゃん、さっきこの人達足かけたり押したり、やり放題だったんだよ」

 アヤカは大学生達を睨んだ。

 PAブースから出て休んでいた永井君が様子に気づいてやって来た。

「落ち着いて、他のお客さんの迷惑になる。話し合いたいなら、一回外に出てもらえない」

 そう両方を見て淡々と言った。

 大学生達は顔を見合わせて出口に向かい出した。

「何か気分悪くなった」「帰ろ、ガキがうるさい」と口々に聞こえよがしに言いながら。

 アヤカは唇を噛むようにしてしばらく立ち尽くしていたけど、急にツカツカと出口に向かって行った。

 止めた方がいい。

 私は後を追った。

 大学生達はエレベーターを待ってたけど、混雑でなかなか来ないから階段で降りようとしていた。

 そこにアヤカが追い付いて「待ちなよ、さっきのこと謝れ」と叫んだ。

 その顔は血の気が引いて青白く見えた。

「うるさい。他人の男に手出す可愛い子ぶった汚い女、二度と来るな」

「あんたなんか、遊ばれてるだけ」

 相手側が言い返した時バシッと音がして、言い返した相手の頬をアヤカが叩いた。

 次の瞬間その場で揉み合いになった。

「やめて、危ない」私も叫んだ。

 その時アヤカの体がバランスを崩し、階段を踏み外して踊り場に落ちていった。

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